統合歴330年3月1日
霧坂が守屋に想いを伝えて半月。守屋は霧坂の3月14日までは二人では会わないという宣言に従い
未だに独りで登下校する日々を継続していた。とは言え、霧坂が居なかった時の様な喪失感は無い。
未だに独りで登下校する日々を継続していた。とは言え、霧坂が居なかった時の様な喪失感は無い。
あくまで二人きりで居る事が無くなっただけであって、学校や部活では以前と変わらず接しており
相変わらず、霧坂は守屋に変な悪戯を仕掛けたり、守屋の留守を見計らっては料理の作り置きをして行く。
以前、霧坂はこの一ヶ月間を燃え盛る恋などと言っていたが、守屋にとっては妙な疲労感が積もるだけだった。
相変わらず、霧坂は守屋に変な悪戯を仕掛けたり、守屋の留守を見計らっては料理の作り置きをして行く。
以前、霧坂はこの一ヶ月間を燃え盛る恋などと言っていたが、守屋にとっては妙な疲労感が積もるだけだった。
尤も、霧坂との関係を如何するのかという自問自答に対する答えは、未だに出せていないでいた。
この際、この長く重苦しく、寝ても覚めても、霧坂の事ばかりを考える日々から抜け出す事が出来れば
もう何でも良いという思いや、面倒臭いという思いも少なからず芽生えていた。
この際、この長く重苦しく、寝ても覚めても、霧坂の事ばかりを考える日々から抜け出す事が出来れば
もう何でも良いという思いや、面倒臭いという思いも少なからず芽生えていた。
(本当に面倒臭い女だ……)
守屋も普通の女が相手ならば、深く考え込んだり、思い悩んだりする事も無かっただろう。
この意味不明な行事に対する不満を口に出せばキリが無いが、其処で思考を停止させても良い相手では無い。
この意味不明な行事に対する不満を口に出せばキリが無いが、其処で思考を停止させても良い相手では無い。
(愛情は兎も角、友情としての好意だけは絶対に否定出来ないからな……)
守屋は今日も霧坂の事を考えながら、一日を終えなければならないのかと辟易しながら
自宅の門をくぐると半月ぶりに守屋一刀不在の守屋家の扉が開け放たれていた。
自宅の門をくぐると半月ぶりに守屋一刀不在の守屋家の扉が開け放たれていた。
(参ったな。霧坂来ていたのか……今は顔を合わせたくないんだがな……)
だが、その人物はキッチンでは無くリビングで寛いでおり、そもそも、客では無く家主だった。
「父さんか……おかえり」
守屋は霧坂が居なかった事に安堵しつつ、悔やみながら霧坂の事を一旦、思考の片隅に追いやった。
聖誕祭での出来事を切欠に、守屋を取り巻く環境の中に妙な気配を感じるようになっていた事もあって
また何か、妙な出来事が起きる前触れなのでは無いかと、守屋の第六感が警告を発していた。
聖誕祭での出来事を切欠に、守屋を取り巻く環境の中に妙な気配を感じるようになっていた事もあって
また何か、妙な出来事が起きる前触れなのでは無いかと、守屋の第六感が警告を発していた。
「今更な気もするが新しい生活はどうだ?」
「本当に今更だな……まあ、色々あったけど、今はギア部で楽しくやっている
再来週は全国大会で八坂の代表選手として出場する事になってな」
再来週は全国大会で八坂の代表選手として出場する事になってな」
「……そうか」
「父さん、何かあったのか?」
守屋の予想に反して、普通の父親のような質問を投げかけられ、守屋は半ば呆れながら
普通の子供の様に言葉を返すが、父らしからぬ態度に守屋は違和感を感じていた。
普通の子供の様に言葉を返すが、父らしからぬ態度に守屋は違和感を感じていた。
「俺はお前に今まで通り、普通の子供としての人生を歩んで欲しいと思っている。
そして、お前が望むのであれば普通の大人になるのも良いとさえ思っている。」
そして、お前が望むのであれば普通の大人になるのも良いとさえ思っている。」
「俺が軍人になってから苦労しないようにって戦闘訓練を付けて、課題を出したのは父さんだろ?
別の道が見えれば、そっちに行く事も考えるかも知れないけど、俺は軍人になる事に抵抗は無いぞ?」
別の道が見えれば、そっちに行く事も考えるかも知れないけど、俺は軍人になる事に抵抗は無いぞ?」
ショートスリーパーという体質故に3時間の睡眠で健康を害する事無く日々を営む事が出来る守屋は
1日21時間という活動時間の中で学業、部活、戦闘訓練の3つを同時にこなして来たのだ。
何よりも、これまでに積み上げてきた努力を無駄にするのは忍びないとさえ思っていた。
1日21時間という活動時間の中で学業、部活、戦闘訓練の3つを同時にこなして来たのだ。
何よりも、これまでに積み上げてきた努力を無駄にするのは忍びないとさえ思っていた。
「砕牙州で内紛が起きてな……今は政府が情報操作を行っている。公式には事故という事で処理されるだろうがな」
「国家の垣根を無くして価値観、文化、正義を一つに纏め上げたところで、人間は闘争が無ければ生きいけない
人間は理性を持って他者を傷付け、殺す生き物だという事を否定しても、何時か決壊するのは目に見えている」
人間は理性を持って他者を傷付け、殺す生き物だという事を否定しても、何時か決壊するのは目に見えている」
守屋は戦争を肯定しないが否定もしない。だが、人間が刻んできた地球の歴史に闘争が存在しない歴史など無い。
地球人類が一つになって時を刻む事を願って付けられた統合歴という暦。だが、表面上だけでも平和になったのは
此処数十年の話であって、つい最近まで地球人達はその闘争本能を存分に開放していた。
地球人類が一つになって時を刻む事を願って付けられた統合歴という暦。だが、表面上だけでも平和になったのは
此処数十年の話であって、つい最近まで地球人達はその闘争本能を存分に開放していた。
だからと言って、全ての人間が闘争本能に従順になれるだけの意思や他人を蹂躙出来るだけの力を
持っているわけでも無く、理不尽な暴力の前に嘆き悲しむ者も数多く存在していた。
持っているわけでも無く、理不尽な暴力の前に嘆き悲しむ者も数多く存在していた。
「だから、守屋のような守る事を生業とする一族が居た……今となっては守屋も統合軍の狗だがな」
かつて倭国に存在したとされる人間だけを守り、人間だけのために存在していた防人の一族―
閼伽王、君嶋、因幡、月代―そして、守屋。今となっては歴史の表に守屋、裏に君嶋が居るだけで
片や統合軍の走狗、片や地下に引き篭もり、不干渉と成り下がってしまっている。
閼伽王、君嶋、因幡、月代―そして、守屋。今となっては歴史の表に守屋、裏に君嶋が居るだけで
片や統合軍の走狗、片や地下に引き篭もり、不干渉と成り下がってしまっている。
「お前は守る為に殺される覚悟はあるな?」
「でなければ何の為の守屋だ」
守屋は物怖じする事無く吐き捨てた。
地球統合軍に入隊し地球の治安維持のために戦う以上、自分が殺される危険性は充分に承知していた。
これまでの違法ギアとの戦い一つを取っても、一歩間違えれば死んでいた可能性だってあった。
命を脅かされている者を守るという事は、差し向けられた殺意と死を肩代わりした上で跳ね除けるという事だ。
場合によっては死ぬ事もある。死を恐れていないわけでは無いが、その危険性が理解出来ていないわけでも無い。
地球統合軍に入隊し地球の治安維持のために戦う以上、自分が殺される危険性は充分に承知していた。
これまでの違法ギアとの戦い一つを取っても、一歩間違えれば死んでいた可能性だってあった。
命を脅かされている者を守るという事は、差し向けられた殺意と死を肩代わりした上で跳ね除けるという事だ。
場合によっては死ぬ事もある。死を恐れていないわけでは無いが、その危険性が理解出来ていないわけでも無い。
「ならば、守る為に殺す覚悟も出来ているのだな?」
「それは……」
守屋はこの一年間の間に多くの違法ギアと激戦を繰り広げ、自覚症状の無いテロリストとも戦った。
自身の命を狙う者や他者の財産を狙う者。度を越した悪意を目に付いた順に全て、薙ぎ払ってきた。
だが、守屋はどんな悪党が相手でも命を奪うまでに到った事は一度も無い。
自身の命を狙う者や他者の財産を狙う者。度を越した悪意を目に付いた順に全て、薙ぎ払ってきた。
だが、守屋はどんな悪党が相手でも命を奪うまでに到った事は一度も無い。
守屋とて人間だ。差し向けられた悪意に対し、一度や二度くらい殺意を抱いた事くらいはある。
殺さなかった理由は二つ。一つは愛機、アイリス・ジョーカーが競技用ロボットという事もあり
ギアの頑強なコクピットを破壊出来るだけのパワーが無い。
殺さなかった理由は二つ。一つは愛機、アイリス・ジョーカーが競技用ロボットという事もあり
ギアの頑強なコクピットを破壊出来るだけのパワーが無い。
もう一つは父の言葉に対する反応の通りだ。他者の命を奪うという事は、他者の全てを奪う事に他ならない。
どんな悪党にも家族や友人が居る。守るという名目で他者の全てを奪い、遺された人間には悲しみを与える。
今の守屋には、そういった物を背負う覚悟も無ければ、踏み躙るだけの力も無い。
どんな悪党にも家族や友人が居る。守るという名目で他者の全てを奪い、遺された人間には悲しみを与える。
今の守屋には、そういった物を背負う覚悟も無ければ、踏み躙るだけの力も無い。
尤も、守屋がこれまでに戦ってきた敵の殆どが、大きな力に酔って暴走していただけに過ぎず
命を以って償わせなければならないような外道の類は極一部だけで、殺す必要性が無かっただけだが。
命を以って償わせなければならないような外道の類は極一部だけで、殺す必要性が無かっただけだが。
「俺は世界に仇名す者を全てくびり殺して来た。何人殺したかなど数えるのも馬鹿馬鹿しい程にな
秩序の名の下、大を生かす為に小を殺す。地球統合軍に入隊するという事は絶対正義の名の下に
全地球人類に対し生殺与奪の権利を持つ事になる。我々の役割は弱者や正しき者を守る事では無い
世界の秩序を構築する大多数を脅かす、道から外れた者を一人残らず抹殺する事だ」
秩序の名の下、大を生かす為に小を殺す。地球統合軍に入隊するという事は絶対正義の名の下に
全地球人類に対し生殺与奪の権利を持つ事になる。我々の役割は弱者や正しき者を守る事では無い
世界の秩序を構築する大多数を脅かす、道から外れた者を一人残らず抹殺する事だ」
彼等にとっての平和の定義は地球人が日々の暮らしを営む50の州内で戦争が行われていない事。
確かに地球で最後に起こった戦争が終戦を迎えてから、半世紀が過ぎ、再戦の兆しは見えない。
確かに地球で最後に起こった戦争が終戦を迎えてから、半世紀が過ぎ、再戦の兆しは見えない。
凄惨な戦争から、平和と命の尊さを学んだからでは無い。
戦闘員、非戦闘員、女子供老人に到るまで一人残らず等しく抹殺したからだ。
未来に遺恨を残さずに終戦を迎える手段として地球統合軍は敵対する全てを根絶やしにする事を選んだ。
戦う相手がいなければ戦争にはならない。戦争にならなければ平和なのだと。
戦闘員、非戦闘員、女子供老人に到るまで一人残らず等しく抹殺したからだ。
未来に遺恨を残さずに終戦を迎える手段として地球統合軍は敵対する全てを根絶やしにする事を選んだ。
戦う相手がいなければ戦争にはならない。戦争にならなければ平和なのだと。
この事実を知る者は極僅か。そして、事実を知る者は過去の出来事として肯定もせず、否定もせず閉口している。
余計な事を口走って自ら世界の敵になりたがる馬鹿者は滅多に居るものでは無い。
この社会で大多数を脅かす個人、または団体が善意であろうと、悪意だろうと関係は無い。
余計な事を口走って自ら世界の敵になりたがる馬鹿者は滅多に居るものでは無い。
この社会で大多数を脅かす個人、または団体が善意であろうと、悪意だろうと関係は無い。
大多数を脅かす。またはその可能性があるという事実があれば、自らが掲げる正義の名の下に
無慈悲なまでの殺戮を振り翳す。そして、守屋一刀もまた、その尖兵になろうとしている。
無慈悲なまでの殺戮を振り翳す。そして、守屋一刀もまた、その尖兵になろうとしている。
この社会に思想や言論の自由は無い。だが、大多数の地球人はその事すら知らない。
地球統合軍が独自に定めた判断基準を越えない範囲であれば、大々的な政府や軍に対する批判すら
許され、その判断基準を越えたとしても大多数の地球人は粛清の事実すら知らないのだから。
地球統合軍が独自に定めた判断基準を越えない範囲であれば、大々的な政府や軍に対する批判すら
許され、その判断基準を越えたとしても大多数の地球人は粛清の事実すら知らないのだから。
粛清された本人さえも自らが分不相応な思想を持ったがために地球統合軍に命を奪われた事すら知らない。
社会の裏側で地球統合軍が理想とする社会を乱す存在を根絶する無慈悲な虐殺者になる覚悟は……
社会の裏側で地球統合軍が理想とする社会を乱す存在を根絶する無慈悲な虐殺者になる覚悟は……
「…堅苦しい話は此処までだ。進路を決める時期になったら改めて、考えてみろ
大体、お前はガキのクセに物事を難しく考え過ぎだ。ガキならガキらしく、感情のみで突っ走ってみせろ」
大体、お前はガキのクセに物事を難しく考え過ぎだ。ガキならガキらしく、感情のみで突っ走ってみせろ」
先に挙げた地球統合軍の粛清の対象は最悪中の最悪のケースの話でしか無く、今の所、前例は無い。
秩序を乱す者全てに対し、無慈悲に抹殺する組織である事に変わり無いが……
誰の目から見ても絶対的な悪だと断定出来る存在に対し秘密裏に、その矛先を振り落とす事が大半だ。
秩序を乱す者全てに対し、無慈悲に抹殺する組織である事に変わり無いが……
誰の目から見ても絶対的な悪だと断定出来る存在に対し秘密裏に、その矛先を振り落とす事が大半だ。
殺す覚悟と聞いて守屋一刀は最悪の事態ばかりを想定し返答を躊躇っていたが
求めている答えを出せそうにないと判断すると父、守屋剣は―
求めている答えを出せそうにないと判断すると父、守屋剣は―
「生涯の内、ガキでいられる事を許される期間は極僅かだ
ガキの時分はガキらしくしておかなければ、ヒネた大人になるぞ」
ガキの時分はガキらしくしておかなければ、ヒネた大人になるぞ」
―と閉めた。彼も殺す覚悟と、殺される覚悟はあれど、我が子に殺せと命ずる覚悟は出来ていないのだから。
「だったら……ガキらしい事を聞いても良いか?」
一刀は何と無く居心地の悪そうな顔をして剣に伺いを立てる。
我が子らしからぬ態度に剣は一つの推論を打ち立てる事刹那。すぐさま、ある結論に辿り着いた。
この年頃の子供が言い辛そうに伺いを立てる事など一つしか存在しない。
この年頃の子供が言い辛そうに伺いを立てる事など一つしか存在しない。
「……小遣いか。幾ら欲しいんだ?」
「別に……部活が忙しくて、金を使う暇も無いしな」
高校生は金が好き。剣が一瞬で出した結論は我が子の冷たい一言で一蹴されてしまった。
金じゃ無いとしたら……剣はまたも考えるが、一秒も経たない内に面倒になり、続きを促す事にした。
金じゃ無いとしたら……剣はまたも考えるが、一秒も経たない内に面倒になり、続きを促す事にした。
「では、何が聞きたいんだ?地球統合軍の初任給か?」
守屋は未だに金の話から離れようとしない父の言葉を無視を決め込み話を進める事にした。
「父さんと、母さんって恋愛結婚?」
「は?」
有難いパパのアドバイスを無視するたぁ何事だと思うと同時に思考が一瞬停止した。
「どうなんだよ?」
守屋一刀の母、ユカリ。地球で圧倒的なシェアを誇る美容化粧品メーカー勤務のキャリアウーマン
地球統合軍と化粧品メーカー、一見すると何の繋がりも無い職業の二人が何故、結ばれたのか?
別に守屋は其処に興味を持っているわけでは無い
地球統合軍と化粧品メーカー、一見すると何の繋がりも無い職業の二人が何故、結ばれたのか?
別に守屋は其処に興味を持っているわけでは無い
「恋愛結婚だが……」
これは親子の会話なのか?と、守屋の父は何とも言えない様な表情で返事をしながら
どうやって誤魔化したら良い物やらと押し黙る。
どうやって誤魔化したら良い物やらと押し黙る。
「どういう切欠で付き合うようになったんだ?」
「なんだ、お前? 好きな女でも出来たのか? お前……もう十六だろう。まさか、まだ童……」
「わ、悪かったな! 去年の秋に初めてエロ動画見たばっかで、女の事なんざ何も知らねーガキだよ!!」
剣の半ば呆れ気味の呟きを掻き消すかのように早口で怒鳴り散らかした。
つまる所、人生の先輩とも言うべき父に恋愛相談をしたかったのだ。
そもそも、こんな相談が出来そうな相手がいないのだ。
つまる所、人生の先輩とも言うべき父に恋愛相談をしたかったのだ。
そもそも、こんな相談が出来そうな相手がいないのだ。
例えば、クラスメイトの西行や夕凪はただのAVマニアで恋愛経験が無く、相談相手としては論外だ。
ギア部の先輩、三笠や阿部は其々、内田、歳方と交際中だが、彼等の恋人は霧坂と仲が良く
回り回って相手がバレそうで聞くに聞けない。尤も、バレている事に気付いていないのは守屋一人だが。
ギア部の先輩、三笠や阿部は其々、内田、歳方と交際中だが、彼等の恋人は霧坂と仲が良く
回り回って相手がバレそうで聞くに聞けない。尤も、バレている事に気付いていないのは守屋一人だが。
夏季限定とは言え変態の加賀谷は論外だし、恋愛小説中毒の小野寺ではまともな回答は期待出来ない。
では、親友でもあり宿敵でもある矢神玲ならばどうだろうか?女性関係の相談相手には申し分無しだ。
では、親友でもあり宿敵でもある矢神玲ならばどうだろうか?女性関係の相談相手には申し分無しだ。
だが、共に州代表メンバーとして、全国大会へ挑む事になっており、気合を入れ直さなければならない時期に
恋愛相談などと浮ついた話を持ちかけて良い物なのだろうか?と守屋は考え、聞くに聞けないでいる。
恋愛相談などと浮ついた話を持ちかけて良い物なのだろうか?と守屋は考え、聞くに聞けないでいる。
何よりも嘲笑される可能性もあるし、彼に軽蔑されたとしても文句は言えない。
結果、守屋は周囲の人間の中で、我が父しか頼れる相手はいないと判断した。
尤も、相談を持ちかけられた父親の方はというと、どうやって話をはぐらかそうかと考えつつ
呆れるべきか盛大に爆笑するべきなのか悩んでいる最中で、相談相手に相応しいかどうかで言えば
尤も、相談を持ちかけられた父親の方はというと、どうやって話をはぐらかそうかと考えつつ
呆れるべきか盛大に爆笑するべきなのか悩んでいる最中で、相談相手に相応しいかどうかで言えば
―残念な選択だったと言わざるを得ない。
「その辺も…いや、男として、その辺を重点的に鍛えておくべきだったかも知れないな?」
「別に鍛えなくて良い」
「だったら、夜のお供に秘蔵のエロ動画を持ってきてやろうか?」
やや不機嫌になり出した一人息子のご機嫌取りに高校生が金の次に好きであろうモノを餌にする。
「いらん!! それより、どんな感じだったんだよ?」
「エロ動画か?」
「其処から離れろッ!! 父さんと母さんの馴れ初めとか、そんな感じのだよ!!」
目論見はまたも外れ、金にもエロにも興味を示さないとは珍しいガキだと守屋の父は内心で首を捻るが
思い通りに話が進まず、地団駄を踏む我が子を見て、可愛らしいところもあるじゃないかとニヤ付いた。
思い通りに話が進まず、地団駄を踏む我が子を見て、可愛らしいところもあるじゃないかとニヤ付いた。
「答えても構わんが、俺みたいな古い人間の話を聞いたって何の参考にもならんぞ?」
尤も、自身の過去の話を聞かせる気など更々無い。適当に揺さぶりをかけ、誘導して誤魔化す事に決めた。
「少し興味が沸いただけだ。参考とかってのも……そういうつもりじゃない」
「そう言えば、先月末はヴァレンタインだったな……気になっている女に告白でもされたのか?」
「違う……いや、違わないけど」
守屋は即座に否定の言葉を吐き捨てるが、異性として意識しているから思い悩んでいるのだと改める。
「それで、どんな娘だ?」
(息子の恋愛事情とは中々、面白くなってきたな。親子の会話では無いかも知れんが信頼出来て頼れる
模範的な父親である俺だからこそ楽しめる特権だな……後でユカリにも教えてやるか)
模範的な父親である俺だからこそ楽しめる特権だな……後でユカリにも教えてやるか)
「どんなって……ギアオタクの厚かましい変な女」
守屋の父が内心で自画自賛していると、我が子の身も蓋も無い口振りに苦笑いをした。
聞きようによっては脈の無い言い方だが、それが分かっていて悩める相手ならば……と考えた。
聞きようによっては脈の無い言い方だが、それが分かっていて悩める相手ならば……と考えた。
「それで、その娘を如何したいんだ?」
「如何したいって…俺は親友みたいな奴って思っていたし、告白されて驚いたってのが正直な感想」
守屋一刀の中で霧坂茜華の立ち位置は親友だったのだ。そして、告白に対する感想も驚きだったのだ。
いつか、互いに恋人を作ったり結婚をして子を成して、いい歳をした大人になってから再会して
過去を懐かしみ合うような関係になるとさえ思っていた。
過去を懐かしみ合うような関係になるとさえ思っていた。
「そうか。その娘が居なくなったら、お前は如何思う?」
「……二度とご免だ。」
聖誕祭の事故を思い出し、一刀は苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てた。
「要は一緒に居たいと?」
「そう……だな。うん、一緒に居たいと思う」
常に霧坂が隣に居る生活。鬱陶しくもあったが、その鬱陶しさも心地が良くもあり、楽しくもあった。
「だったら答えは出ているだろう?」
「それが友情なのか愛情なのか、よく分からない」
照れ隠しや、誤魔化しでは無く自分の中でLikeなのかLoveなのか判断が付かないから悩んでもいる。
霧坂に対し、黙れと思う事もある。一人にさせろと思う事もある。だが、自分自身を出せる相手も霧坂だけだ。
霧坂に対し、黙れと思う事もある。一人にさせろと思う事もある。だが、自分自身を出せる相手も霧坂だけだ。
「同性なら友情、異性なら愛情。分かり易いだろう?」
「そんな適当な……」
―その上、身も蓋も無い。
「男と女なんてのは最初は勢いで、後は惰性と愛着みたいなもんだ。大体、今生の相手とは限らんのだぞ?」
「それは凹む話だ」
適当な上に身も蓋も無い意見を並べておきながら、最後の最後でシビアな言葉が守屋の胸を突き刺した。
「第一、お前、ヴァレンタインで無かったら即OK出していたんだろう?」
「それは……」
図星だった。ヴァレンタインなどと訳の分からない日に告白されていないのであれば、迷う事無く付き合い始めていた。
「お前に必要な事は14日に感情と勢いの赴くままに行動する事だ。もう一度言うが、ガキでいられるのは今だけだ」
「……分かった」
「ああ。勢いで行動するのは構わんが避妊はしろよ?」
「ひ、ひに……はぁ!?」
「良いか? 軍人になるなら配属先と配属期間がはっきりするまでは絶対、出来ないようにしろ」
ふざけるなと怒鳴り声を張り上げようとするが、父親の有無を言わさぬ真面目な顔に一刀は押し黙る。
「適当に孕ませて、産まれるのを待っていたら、任務のせいで出産の場に立ち会えなかったり
まともな休暇が取れたからと戻ってみれば、目出度い第一子が既に歩けるようになっていて
自分の事を中々、父親と認識してくれなかったり……全部、俺の事なわけだが」
まともな休暇が取れたからと戻ってみれば、目出度い第一子が既に歩けるようになっていて
自分の事を中々、父親と認識してくれなかったり……全部、俺の事なわけだが」
当時を思い出したのか、守屋の父はやや落ち込んだ様子で呟いた。
「何をどう言えば良いのか分からないよ」
守屋にとっては身に覚えの無い話だが、父親の悲壮感に満ちた表情を見ていると怒鳴る気にもなれず
寧ろ、申し訳無い様な、言いがかりを付けられたような複雑な気分になったのは確かだ。
寧ろ、申し訳無い様な、言いがかりを付けられたような複雑な気分になったのは確かだ。
因みに守屋夫妻の仲が良いのにも関わらず、守屋に弟や妹が出来る気配が無いのは
出産のタイミングを見計らって、計画的に休暇を取る事が出来ないからである。
尤も、この調子では守屋に兄弟が増える事は無さそうだ、
出産のタイミングを見計らって、計画的に休暇を取る事が出来ないからである。
尤も、この調子では守屋に兄弟が増える事は無さそうだ、
「いっその事、笑え」
そして、守屋親子の乾いた笑いが木霊した。
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