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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

GEARS 最終話前編

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統合歴330年3月12日

荒れ果てた無人のギアスタジアムの中央で二体の鉄巨人が火花を散らしながら幾度と無く激しくぶつかり合う。
その名が示す通り全身を真紅に染め上げた流線型の高機動スポーツギア、スカーレット。
それを迎え撃つは太古の悪魔の名を冠し、深緑と黒の鋭角な形状のスポーツギア、ティアマット。

本来ならば出場種目が異なるため、決して同じフィールドに立つ事の無い二体の鉄巨人。
二振りの銃剣で肉迫する真紅に対し、悪魔は一振りのハルバードを構え真紅を睥睨した。

スポーツギアの競技用兵装として使用される長槍や大剣、大鎌などの長物は様々な仕掛けが施されており、爆発的な斬撃速度を持つブースト付きを始めとする見た目とは全く性質の異なる武装が多く存在している。
寧ろ、矢神玲の愛機リヴァーツの専用斬馬刀の様に重量を増やし、純粋な破壊力を高めた武器の方が珍しいと言える。

ティアマットが装備しているハルバードも多分に漏れず、多彩な仕掛けが施されている。
それはブースト付きの様に扱い易く、手軽に攻撃力と手数の向上が可能な実用的な仕掛けでは無く、扱い辛い上に実用性は皆無でどちらかと言えば、演出としての意味合いの方が強い。

だが、製造メーカーであるティアマット社はそんな事など微塵にも思っていない。
実用的且つ、効率的に対戦相手を撃滅し、どんな武器よりも観客を魅了する事が出来る最高の逸品であると考えている。
勿論、使いこなす事が出来ればの話だ。では、ティアマットを従える戦士、月島静丸はどうなのか?

加賀谷はスカーレットのブースターを巧みに操り急速接近したかと思えば、急制動をかけ緩慢な動きで宙を舞いながら正確な射撃をティアマットに浴びせ、距離を離す。
放物線の頂点に到達したかと思えば、目にも止まらぬ速さで地に降り立ち更に砲弾を放つ。

急加速で大地に降り立ち、衝撃を押し殺している今が接近のチャンスだと接近すれば、重量も重力も無いと言わんばかりに、風に流される羽毛の様にひらひらと後退していく。

だが、月島には焦りも無ければ、苛立ちも無い。
推進装置を持つスカーレット、それを持たないティアマットでは機動力の差で翻弄される事など戦う前から分かり切っていた事だ。
それに相手は団体戦において最強無敵無敗を誇る選手だ。容易く打倒出来ると思っていない。

(矢張り、手強い……な)

緩慢かと思えば鋭敏。近付いたと思えば遠退き、距離を離したかと思えば距離を詰められ斬撃が来たかと思えば射撃。
牽制射撃のタイミングで精密射撃。常に表裏一体の行動で裏を斯いたと思えばセオリー通りの行動に出る。

完全に加賀谷のペースに呑まれた月島は集中力を掻き乱され、攻めに転じるタイミングを挫かれ防戦一方に追い込まれている。
とは言え、加賀谷の術中に嵌っている事を自覚出来るだけの思考力、素直に感嘆の溜息を吐く程度の余裕が残されており、冷静に攻撃の機を伺う。

一見して流れは完全に加賀谷の方へと傾いているが、加賀谷もまた完全には攻め切れずにいた。
一貫性もリズムも無い機動でティアマットを引っ掻き回し、月島の集中力を乱してはいるものの、守屋や矢神を始めとする多くの選手達に辛酸を舐めさせたハルバードの正体を掴めず、深く切り込む事が出来ないでいた。
加賀谷が攻めあぐねていると、ティアマットは両手で構えていたハルバードを片手で構え直し、スカーレットに、その矛先を突き付けた。

「そろそろ、仕掛けるぞ……ウェポンスプレッド」

月島の音声を認識しハルバードが斧、剣、矢、槍、鎚等の九つの武器に分離し放射線状に飛び散り、スカーレットの死角を突くかのように頭上や背後から襲い掛かる。

「ッ……守屋を殺った攻撃か!!」

守屋の勝手に殺さないで下さいという突っ込みが外から聞こえるが、既に外部の声など意識の外だ。
螺旋を描きながら左右から飛来する二振りの斧に砲弾を叩き込んで軌道を逸らし、背後を狙う飛刃を振り向き様の斬撃で弾き飛ばすが、散弾の様に放たれた武装の数々は意思を持っているかの様に執拗に加賀谷を攻め立てる。

だが、一対一の戦いに慣れ過ぎている個人戦の選手と違い、団体戦の選手である加賀谷にとって四方八方から攻撃を受ける事など日常茶飯事で、それらの攻撃の対応など難しいものでは無い。
舞うように飛翔し上下から飛来する二本の短槍を切り払うと、ティアマットが短刀を逆手に持って無数の剣閃を放つが、加賀谷は斬撃の始点を右腕の銃剣で貫き、左腕に握った銃剣で短刀を握るティアマットの右手を撃ち抜く。

加賀谷はティアマットに対し格闘戦仕様ギアのアキレス腱とも言うべきマニピュレーターを、一つ奪い取った事に満足しながらも油断無く距離を取り銃剣を構え直した。
その直後、背後から鋭利な物で撫で斬りにされた様な微細な振動がコクピットに響き、加賀谷が反射的に機体を前進させると、モニターにダメージレポートが表示される。

背部メインブースターに中程度の損傷。推力30%低下――
加賀谷はこれまでの経験から愛機を削り取った攻撃の正体を一瞬で看破する。

「この感覚と威力は……鋼線か!」

本来、正面から撃ち出された武器が上下左右から愛機に襲い掛かった時点で疑いを持つべきだったのだが、多方向からの一斉攻撃に慣れ過ぎていた事が逆に足かせとなり判断力を鈍らせてしまっていたのだ。
その結果、音も無く愛機を斬られて初めて、ティアマットの左腕に握られたハルバードの柄から九本の鋼線が蜘蛛の糸の様にフィールド上に張り巡らされていたことに気付いたのである。

「気付くのが早いな……大抵の相手ならば"糸"を使うまでも無く刃の弾頭に倒れ伏すのだがな」

ティアマットが左腕に持っている柄を振り回すと、スカーレットに弾き飛ばされた武装の数々が空中で、その軌道を変え再びスカーレットに襲い掛かる。

「団体戦では全周囲に気を配り、攻撃の気配を探らねばならんからな」

この程度の芸当は造作も無いとでも言いたげな声色で返すものの、攻撃を弾けば弾くほど鋼線は複雑に結び付き、結界は密度を増しスカーレットの動きを封じ込め、流石の加賀谷も焦燥の色を強める。

「打つ手無し……か」

「加賀谷、確かにお前は強い。だが、お前には守屋や矢神の様な我武者羅さ足りない」

だから勝てないんだと付け足し、月島は鋼線に繋がれた武器を猛スピードでティアマットの左腕に手繰り寄せ、その勢いに煽られた鋼線が無軌道な斬撃の嵐となり暴れ出す。
そして、スカーレットを中心に三つの砂柱が巻き上がり、地中で結界の支柱の役割を果たしていた小槌がスカーレットの脛から下を打ち飛ばし斬撃の嵐の中に叩き入れる。

「足掻きに足掻いて抜け出して見せろ。お前を慕う選手達なら此処で諦めたりはしないぞ」

「気軽に言ってくれる……!」

だが、後輩達の手前もある。全神経を集中し、鋼線による斬撃の軌道を頭の中に思い描く。
この嵐も全ての武器と鋼線がハルバードの元に戻る一瞬を凌ぎ切れば良いだけの事だ。
避け切れない攻撃を両脚やスラスター、肩の装甲等の次の攻撃に必要の無い部位を犠牲にして、嵐が止むのを必死に耐えようとするが、勢いも数も尋常では無い。
斬撃を受け流し続けるのにも限界があり、摩擦熱で刀身を斬り落とされ発射機構が爆発し、肩口から左腕が弾け飛び錐揉みしながら大地に落下する。

「これではまるで守屋だな……まあ良い。偶には頑張ってみるか」

右腕に残された銃剣を宙に放り投げ、大地に右腕を突き、残った衝撃緩和剤を噴射し、墜落と右腕の損壊を防ぐ。
ブースターを点火。急上昇し、弧を描きながら宙を舞う銃剣を握り締め、急降下しながらティアマットに猛追する。

「…捨て身のつもりか? 流石にそれは愚かでは無いのか?」

ティアマットは再び、ハルバードを片手で構えスカーレットを絡め取ろうと武器を炸裂させする。

「頭が良いんでな。これでも理詰めさ」

加賀谷の皮肉に月島の目が釣り上がる。

(この状況で……何か仕掛けるつもりか)

加賀谷は対戦中に虚勢を張る事も無ければ謙遜する事も無い。出来ると言えば出来るし、出来ないと言えば出来ない。そんな選手だった。
それを薄々と感じ取った月島は加賀谷の様子に強い警戒心を覚え、満身創痍の加賀谷に油断する事無く意識を集中し、迫り来るスカーレットを力強く見据える。

「余計な物は全て、削ぎ落とした……後は!!」

加賀谷はブーストレバーを一気に最大値に引き上げ、スカーレットの背中から装甲と同じ色の巨大な焔の翼を生やし、閃光と見紛う程のスピードでティアマットに突進する。
攻撃に不要な部位を全て切り落とし、低下した推力を補い、高高度からの落下速度を上乗せして、本来の能力を遥かに上回る機動力を右腕に乗せ
我が身が砕け散るのもお構いなしの一撃必殺の一閃に月島は舌を巻きつつ、大地を蹴り抜き正面からスカーレットを迎え撃つ。
だが、加賀谷はティアマットが振り落としたハルバードなど在って無いような物と言わんばかりに粉砕する。
それでも、月島は容易く首を渡して堪るかと、マニュピュレーターが欠損した右腕を盾にスカーレットの突撃を食い止める。

拮抗は一瞬。ティアマットの機体性能自体がそれ程、高くない事もありその勢いを押し留めるには遠く及ばず、加賀谷はティアマットの右腕ごと、その首を貫かんと力を込める。

「チッ……矢張り手強い……だが!!」

月島はティアマットの右腕が爆散すると同時に身を捩りながら、足元に転がったハルバードの残骸を蹴り上げ、左腕で握り締め、弧を描くようにスカーレットの頭部を跳ね飛ばし、大地へと叩き落す。

「紙一重……か」

加賀谷の繰り出した最後の一撃は紙一重の所でティアマットの頭部から逸れ、右肩を深々と貫いており、流石の月島も加賀谷の技量に慄きを隠せず呟いた。

一方の加賀谷はというと、月島との対戦で得心がいったらしく満足気な表情で汗を拭い、コクピットの開閉スイッチを押し、コクピットを模したシミュレーターマシンのハッチを開いて、外に出た。
浅黒い肌に猛禽類の様な鋭い瞳に守屋よりも青みがかった銀髪の長身痩躯の男……今し方、対戦していた岸田学園の月島静丸が加賀谷を出迎えた。

「個人戦の勘は取り戻せたか?」

「お陰様でな。助かったぞ、月島」

遂に訪れた高校スポーツギア全国大会。八坂州の代表メンバー達は、開催地の砕牙州へ向かう道中の暇潰しに移動車輌に備え付けられたシミュレーターで各自、思い思いの練習を行っていた。
全国大会での種目は全て個人戦となっているため、加賀谷は個人戦の勘を取り戻そうと月島との手合わせを頼んだというのが事の次第である。

「加賀谷、お前は八坂州の柱だ……練習とは言え、簡単に敗北する姿を晒すな。士気に関わる」

満足気な表情をしている加賀谷に対し、月島の表情は芳しくなく加賀谷に苦言を吐いた。

加賀谷が振り返ると守屋や、矢神を始めとする八坂州の代表選手が呆気に取られた顔をしている。
団体戦から選ばれた代表選手達4名は公式大会で加賀谷に嫌という程、捻じ伏せられた経験があり、守屋も練習の度に地に叩き落された。
矢神も年末に善戦空しく敗退しており、小野寺にしても直接、拳を交わした事は無いが、その力は何度も目の当たりにしてきている。
代表メンバーの実に過半数が加賀谷の力をよく知っているだけに、そのショックは隠せない様子だった。

「団体戦なら兎も角、俺と月島が一対一で戦って、俺が勝ったらお前の立つ瀬が無いと思うが?」

高校卒業を目前に控えている加賀谷は、この大会が終われば守屋達の面倒を見る事も無くなる。
何より、外の世界にはまだ見ぬ猛者が多く待ち構えており、加賀谷は自身の事を一挑戦者としか思っていない。
誰が勝っただの負けただので心を乱されているようでは、まだまだだなと肩を竦めた。

「いい加減に親離れして貰わねばならんのだがな」

「自らが慕う者が敗れる姿を見て良い気になれる筈もあるまい……察してやれ」

加賀谷がやれやれと肩を竦めている内に一行を乗せた車輌は州境を越え、砕牙州へと到着する。

(内紛があったって言ってだけど八坂と同じで平和その物じゃないか……ま、砕牙も広いしな)

「何を呆けている?」

半月ほど前、父から砕牙州の動乱を聞かされていた守屋は砕牙の変わらぬ姿に安堵しつつも、拍子抜けしたような表情で倭国の面影を色濃く残す砕牙の景色を眺めていると、背後から凛とした少女の声が投げかけられた。

「小野寺先輩に矢神サン……この面子の中で俺一人、浮いているなと思って」

守屋が振り向くとコーチ役の小野寺織、親友兼ライバルの矢神玲が相も変わらず、二人連れ立っていた。
二人の身長差は優に40cmを越え、並んで話しかけられると、あからさまな視点移動をせねばならず、非常に気まずい思いを強いられ辟易する思いで返事をした。

砕牙で内乱があったなどと言って、大会前のテンションに水を差すのも馬鹿らしいので、誤魔化し半分の言葉を洩らした。
三年連覇の月島静丸に加賀谷望を始め、剣戟戦闘最強と名高い矢神玲に個人戦重装備部門で砕牙州と八坂州の二州を制覇した小野寺織。
団体戦から選ばれた4人の選手達もいずれも劣らぬ実力と実績を兼ね備えた猛者達。
自分が酷く場違いな場所に居るのでは無いかと、少しばかり居心地の悪い思いをしていた。

「阿呆が! だから、この大会で立ち塞がる奴等を全員、薙ぎ倒しに来たんだろうがよ!」

そして、矢神は気合を注入してやると言わんばかりに守屋の背中を思いっきり引っ叩いた。

「まあ、私の名の影に隠れんよう精々、気張る事だな」

何かと対照的な二人組が、これまた対照的な物言いと態度で守屋を激励した。
程無くしてから、2万㎡の広大なバトルフィールドをカバーする球状ドームを12棟も備える地球50州の中でも最大の規模を誇る砕牙州立スポーツギアスタジムに到着した。

「いつもの事とは言え、仰々しい警備だな……」

スタジアムの周辺を取り囲む様に警察のパトロールギア、エイテンが警備に当たっており月島と加賀谷は同じような事を口にし、微動だにしないエイテンを流し見ている。
守屋もエイテンが要塞を取り囲む鉄の騎兵に見えてしまい、何処と無く物々しさを感じていた。

「人が多く集る場所ってのはテロリストみたいな武装犯罪者にとって格好の餌食ですからね」

現に守屋達は去年の八坂州野宮地区大会の決勝戦で50機のスポーツギアに襲われており、決して非現実的な話では無かった。

「だけど、精鋭揃いの大会でテロなんてやるかなぁ? 返り討ちに遭うだけって分かんないかな?」

守屋の意見に反論したのは守屋と同様、全国大会初出場の選手、片桐セイナだった。

「向こうはそう思っていない。アームドギアを使っている連中の中でも軍人崩れの奴なら尚更な」

「全国の精鋭による大会とは言え、スポーツ目的のギアでは遊び同然というわけか……」

守屋の反論に加賀谷もやや不機嫌になり憮然とした表情で洩らす。
確かにこの大会に出場している選手ならば、最低でも単騎で五十機を殲滅出来るような猛者揃いだ。
だが、それは相手がスポーツギアで違法ギアに身をやつす様な操縦技術の低い搭乗者であればの話だ。
アームドギアと、スポーツギアではスペック差が10倍も20倍もあり、交戦するなど無謀以外の何物でも無い。

「だから、守る側もああやって高性能なギアを大量に配置しているんでしょうね」

「暇そうに突っ立ってるだけのオッサン達よりも下に見られていると思うと何だかなァ……」

「好きな様に思わせておけば良いでは無い。どうせ、性能が同じなら逆立ちしても私達には勝てんよ。
逆立ちしても勝てんから、寝てても勝てる様な高性能なギアを使って守っているのだからな」

あからさまに不満気な矢神に対し、小野寺が宥める様に声をかけるが矢張り、不機嫌そうだ。

(……大会の規模が大きくなる程、人も物も金も動く、開催地になりたがるわけだな)

選手専用の連絡路の窓から客席を覗くと途方も無い数の観客が試合を観戦している姿が守屋の目に映った。

(情報規制を行うわけだ。内紛があった州を開催地に選ぶわけにはいかんだろうからな……)

「ま……鎮圧したって言ってたし、俺には関係無いか」

八坂州代表選手用のパドックで愛機に乗り込みギア専用地下通路を通り、競技場へと歩を進める。
薄暗い通路を通り抜けると守屋とその愛機、アイリス・ジョーカーを出迎えるのは観客達の大歓声。

そして……

「あの機体は……機体照合開始」

守屋は対戦相手のギアを見て息を呑み、落ち着かない様子で敵機の情報を確認する。
本来なら、やる必要の無い行為だ。何故ならば――

≪機体照合完了――サンメードマテリアル社製スポーツギア、アイリス・ジョーカーです≫

その後も守屋のアイリスに搭載されたAIが対戦相手のギアの詳細スペックを淡々と語っているが既に守屋の耳には届いておらず、その表情は興奮と期待に満ちている。
アイリスタイプと言えば八坂州では守屋一刀の愛機というイメージが強いが、アイリスタイプの生産台数が多いという事もあり、決して珍しい機体では無い。
だが、守屋にとっては初のアイリスタイプとの対戦で、矢神との試合とは違った興奮を覚えていた。

「装備はナックルシールドの完全打撃特化型か……潔い選手だ」

拳を交わして測るまでも無い。この場に立っているという事こそが手練の証だ。
守屋は楽しくて仕方が無いという表情を浮かべ、拳を握り絞めるとアイリスも熱気に当てられたのか、己の写し身との初めての戦いに勇み立つかの様に身体を奮い立たせた。

試合開始のサイレンが鳴り、二体のアイリス・ジョーカーの全周囲モニタにGOサインが表示されると両者は、ほぼ同じタイミングで補整されたフィールドを蹴り抜く。
脚部よりも一回りも二周りも大きな穴を穿ち、甲乙付けがたい程の砂塵と爆風を巻き上げ、弾丸の如く一直線に鋭く肉迫する。
黒のアイリスが上半身を弓の弦の様に引き絞り、必殺の間合いに踏み込むなり、荷重の全てを右足へと移し、全てのギアを撃ち砕く剛拳を白のアイリスに叩き込む。

黒のアイリスにとっての必殺の間合い。それは同型機である白のアイリスにとっても等しく、必殺の間合いであるという事を意味している。
互いにアイリス・ジョーカーの性能と特性を熟知しているが故に、相手の攻撃のタイミングを読むのは非常に容易い。
その上、黒のアイリスの搭乗者は守屋と同様、スマートに勝ちを拾いに行く様なタイプでは無いらしく、最後まで立っていれば良いと考え、守る事を一切考えない鋭い攻撃を繰り出した。

互いの間合いに踏み込む白と黒。その刹那、守屋は思考を張り巡らせる。

(ナックルシールド……威力は奴の拳の方が遥かに上だ)

思考と言うには、あまりにも大袈裟、大雑把、短絡的。寧ろ、何も考えていないと言っても何の差し支えも無い。

守屋が出した結論。それは―

(だが、俺の拳の方が疾い……奴の拳が最高速に達する前に押し潰せる。いや……)

何の躊躇も無い愚直なまでの最高最速、超高速の閃拳を黒の拳に叩き付ける。
黒の搭乗者は何ら驚いた様子も無い。寧ろ、そう来るであろう事は予想していた。
いや、予想以上の思い切りの良さに堪え切れず口の端を釣り上げた。

(威力はこっちが上。力で捻じ伏せる。いや……)

『その拳を叩き壊す!!』

愛機も同じなら、搭乗者の物の考え方も似たり寄ったり。
似た者同士が放つ最速の拳と、最強の拳が真正面からぶつかり合う。

だが、白の拳が如何に瞬速を誇ろうとも純粋な力の前では相手を制するには到らない。
とは言え、黒の拳が全てを砕く剛拳であろうと圧倒的な瞬拳の前では、その剛力を完全に生かす事も出来ず、白の瞬拳と黒の剛拳は鏡合わせの様に、その身を硬直させていた。

「チッ……」

守屋は仕留め切れなかった事に苛立ち舌打ちするが、それとは裏腹に満足気な表情をしている。
並大抵の相手ならば、今の一撃で拳ごと頭部を叩き潰せていた程の一撃だ。
それを力押しで阻まれた事に守屋はアイリスの格闘戦能力と、相手の技量と度胸に舌を巻きながら歓喜した。

守屋はチャクラムを起動させ、バックラーブレードを展開し、気化した衝撃緩和剤を振り払うかの様に切裂き、呼吸と共に白のアイリスは疾風迅雷の一閃を斬り放つ。
黒のアイリスがシールドナックルで、バックラーブレードを受け止めると、その激しい衝撃が火の粉となって周囲に降り注ぎ、鉄巨人達を幻想的に染め上げた。
守屋は円を描く様に身を翻し、ナックルシールドを撫で斬りにして、高速回転しながら火花を散らすチャクラムシールドナックルの切れ目を狙い撃つ。

内側から破壊されたナックルシールドは小さな爆発を伴い、破片の雨となって二輪の菖蒲を叩いた。
黒のアイリスは慌てた素振一つ無く、無手となった右腕を後ろ手に白のアイリスへと間合いを詰め、守屋もあらゆる奇手奇策に対応出来る様にブレードを構え直し、剣閃を切り結ぶ。
間断無く放たれる無数の剣閃を黒のアイリスはナックルシールドで受け流し、後ろ手に隠した右腕を振り上げ、黒光りする鉄塊で五月雨の様に放たれる剣閃を食い止める。

「戦斧かッ!」

守屋の斬撃を受け止めた黒い鉄塊、それは反り返った片刃を持ち一枚板の合金で鋳造した刀身と、柄が一体となったトマホークだった。
出力と機体重量は全く同じ。単純な力の押し合いでは拮抗するのは自明の理。無意味と言っても良い。
黒のアイリスは守屋の力を受け流しながら身を翻し、一瞬にして守屋の背後を取り、その後頭部に目掛けてトマホークを力任せに振り落とす。

守屋が背後を振り返る事無く、背中から黒のアイリスの懐に飛び込み間合いを詰めると、黒のアイリスが振り落としたトマホークは白のアイリスの頭部よりも遥か前方。
漸く訪れた勝機に守屋はニヤリと笑い、何も無い空間に黒の残影を残した右腕を受け止め、黒のアイリスの軸足を蹴り払い重心を崩し、背負い投げで地面に叩き落す。
流石の黒のアイリスも投げ飛ばされた経験は無いらしく満足に受身も取れず、背中から派手な音を立てながら地面に叩き付けられる。
だが、アイリス乗りの性か搭乗者もしぶとく地面に叩き付けられ、機体がバウンドすると共に機体を一回転させ、再び両の脚でしっかりと大地を踏みしめる。

守屋も別段、驚きもしない。一年満たずとは言え、このアイリス・ジョーカーで多くの強敵達との激戦を潜り抜けて来たのだ。
如何なる時、如何なる場所、如何なる相手であっても最後の最後まで倒れる事を知らない鉄巨人。
アイリス・ジョーカーが鋼の身体に不屈の魂を宿すスポーツギアだという事を身をもって知っているからだ。

守屋は黒のアイリスが斧を構え直したのを確認して、攻撃を再開しようと身を沈めると試合中断のサイレンが鳴り、アイリス・ジョーカーのモニタには試合中断のサインが表示される。
怪訝な表情をしていると大会本部からマップデータが転送されてきた。そのタブに記載されている文字は――

――脱出経路

十二に分かれたスタジアムで激しい激闘を繰り広げ、それに熱狂していた観客達が静まり返る。
スタジアムが静寂に支配されるのも一瞬。スタジアムの外で鋼が断ち切られる様な轟音が轟いた。
そして、徐々に近付いて来る爆音と、航空機の排気音によく似た耳をつんざく高音がバトルフィールドに響き渡った。

「避けろ!! 黒のパイロット!!」

守屋が外部スピーカーのスイッチを入れ、叫びながら駆け出すと同時に空から光の粒子が撃ち放たれ、大地を蹂躙しながら黒のアイリス・ジョーカーの背後に迫り寄る。
黒のアイリスの搭乗者が試合とは全く別次元の絡み付くような殺気を感じ背後を振り返ると、吐き気を催す程のドス黒い殺気を内包する光の粒子が眼前にまで差し迫っていた。
そして、それが恐ろしい物だと直感的には理解していても、粒子の奔流に神秘的な物を感じ、見惚れたまま動きを止めてしまった。

「クソッ……逃げろって……」

守屋は大地を蹴る脚に力を込め、黒のアイリスの腕を引っ手繰る様に掴み上げると同時に黒のアイリスの半身が光の粒子に飲み込まれ始めた。

「……言ってるんだ!! 死にたいのか!!」

守屋は苛立ち一つ隠さず、黒のアイリスを光の粒子から引っ張り上げ、安全圏へと蹴り飛ばすと黒のアイリスはよろめきながら、転倒しないように何とか踏みとどまる。

「ビーム兵器だ! スポーツギアの装甲なんか一瞬で蒸発するぞ!」

それまで呆けていた黒のアイリスの搭乗者は守屋に怒鳴りつけられステータスパネルを見て息を呑んだ。
光の粒子に飲み込まれていたのは半身のみ。それも一瞬だけだったのにも関わらず、堅牢を誇るアイリス・ジョーカーの強靭な右腕が消滅しており、全身に深刻なダメージを受けている。
更にコクピット内にはビーム兵器特有の異臭が入り込んでおり、黒のアイリスの搭乗者はこの悪臭がまるで自分を死に誘う死神の気配の様にも感じて酷く狼狽した。

ビーム兵器の威力はスポーツギアの装甲程度なら一瞬で溶かし尽くし、紙一重で避けたとしてもエネルギーの余波で内部機構に深刻なダメージを与える。

「ジョーカーならまだ動ける! 今、動けば死にはしない! さっさと逃げろ!」

黒のアイリスの搭乗者は守屋の檄を受け、這う様にして連絡通路へ向かって走り出す。
本来のアイリス・ジョーカーにとっては瞬く間に駆け抜ける事の出来る程の距離にも関わらず、全身を灼かれたせいで上手く走れない。
だが、懸命に足を動かしどうにか連絡通路の入り口まで後一歩の所まで辿り着く。

これで一安心だと安心した所で黒のアイリスの搭乗者はある事に気付いた。

――響く、足音は己の足音のみ

あの恐ろしい粒子の渦から、自分を救い出してくれた白のアイリスの搭乗者が後から着いて来る気配を感じ取る事が出来ない。

「……まさか」

黒のアイリスの搭乗者は総毛立つ思いをしながら、背後を振り返ると白のアイリスが連絡通路に背を向け、空を見上げていた。

「何をしてるの! 君も早く!!」

搭乗者は外部スピーカーのスイッチを入れ鬼気迫る声で叫ぶが、白のアイリスは背を向けたまま、身動き一つしない。

「この会場には霧坂が居る……露払いもせず我先に逃げるわけにはいかん」

そして、守屋とアイリス・ジョーカーは空を――いや、黒のアイリスに光の粒子を放ったギアを二体のアームドギアを睨みつけた。

「じゃ、じゃあ……私も……」

黒のアイリスの搭乗者はあまりにも無謀過ぎる戦いに挑もうとしている守屋に助勢しようと渋々、身を翻した。

「相手はアームドギアだ。スポーツギアで太刀打ち出来る相手じゃない。その損傷状況なら尚更な」

「だ、だけど君だって……」

「問題無い。コイツはあの手合いとも戦える特別製だ。ジョーカー……フルドライブだ」

守屋は尚も食い下がる黒のアイリスの搭乗者の制止を無視して、競技用では無く戦闘用のシステムを起動する。
プラズマジェネレーターが紫電を放ち異音を立てながら、アイリス・ジョーカーに更なる力を与える。
全身に回るエネルギーの渦は過負荷状態となり、膨大な熱にアイリスは湯気を浮かべ、陽炎を揺らめかせると背面部のカバーが開きマント状の放熱シートが広がる。

「八坂高校一年、守屋一刀だ。またいつか、決着をつけよう」

守屋はスタジアム内に降り立つ二体のアームドギアに向かって駆け出し、外部スピーカーの音量をMAXにして叫ぶ。

「逃げろ、霧坂! この場は俺が抑える!!」

守屋の叫びが霧坂に届く。しかし、それはアームドギアのパイロット達にも届いている……いや、聞かせてやった。

一人は侮蔑の笑みを浮かべた。アームドギアを相手にスポーツギアで勝負を仕掛ける? 正気か――と。

もう一人は苛立ちの表情を浮かべた。ガキのスポーツ用品如きで俺達を抑える? ヒーロー気取りのクソガキが――と。

案の定、安い挑発に引っ掛かった二体のアームドギアはバトルフィールドに降り立ち、アイリス・ジョーカーを攻撃目標に定める。
地球統合軍主力量産アームドギア、ストライカー。本来ならば違法組織の手に渡る事など絶対に有り得てはならない程の超高性能機だ。
固定武装は二種、腰部に収容された二振りのビームセイバーに、肩部のメガビームキャノンとシンプルながら、去年の秋に攻め込んできたバリエントとは比べるべくも無い程の性能を持つ。

本来ならば泣いて謝ってでも逃げ出したくなる様な相手だが、身体の各所に真新しい損傷をこしらえた二体のストライカーの状況を察するに絶体絶命には程遠い事が見受けられた。
守屋を嘲っている方は左半身にキャノン砲を失う程の大きな損傷を受けており、守屋に苛立っている方は両腕を欠落しておりセイバーを振るう事が出来ないでいる。

彼等に対し、手傷を負わせた相手は警備に当たっていた警察のパトロールギア、エイテンである事は間違い無い。
だが、エイテンは一世代前のアームドギアをベースに改修を受けた機体で、武装も周囲に影響の及び難い低出力のビーム兵器を装備しており、数の利があるとは言え、ストライカーに太刀打ち出来るような性能では無い。

装甲強度、出力、耐久性、耐ビーム防御、稼動時間、機動力、追従性、環境適応能力。
それらの全てがエイテンより遥か上を行き、特にビームに対するバリア機構は余程の大出力ビーム兵器で無ければ無力化は非常に困難を極める。
エイテンの装備では損傷を与えるのは不可能と言っても良い……それにも関わらず、彼等の損傷は酷く激しく、ストライカーの能力を持て余しているのは明らかだった。

(コイツ等は軍人崩れの類じゃない……あまりにも稚拙過ぎる)

尤も、それはギアの操縦技術に限った話であって、彼等の放つ殺気は少しの陰りも無く、違法ギアの様な度を越した悪ふざけをしている連中とは違い、明らかに暴を生業とする者達である事は紛れも無い事実だ。
何より、守屋とアイリスに勝機があるのかと問われると限り無くゼロに近く無謀な戦いである事に違いは無い。だが、この戦いにおける守屋の勝利条件とは敵を撃破する事では無い。
今、こうしている間にもスタジアムの外では敵と警察が凄まじい激戦を繰り広げている最中で、援軍の到着も時間の問題だ。ただ、それまでの時間を稼ぎ切りさえすれば良いのだ。

「毎回毎回、良い所で邪魔しやがって……いい加減にうんざりんだよッ!!」

霧坂達が避難するまでの間、敵の目を自分に引き付るだけで良いのは分かっている。
その為だけに、この場に留まっているのだから。しかし、それを理性で理解していても感情は別だ。
事実、守屋は辟易し苛立っていた。毎回だ。毎回、こうなのだ。

初めての襲撃では、アイリスを工場送りにされ、ビーム兵器恐怖症を患い、二度目の襲撃では試験勉強の邪魔をされ、三度目の襲撃では矢神との決着を邪魔された。

四度目は霧坂が捕らわれた。そして、五度目の襲撃でこの有様だ。何故、こうも自分が心の底から楽しんでいる時に横から沸いて出て来るのか?

「本当にうんざりだ……失せろ!!」

ストライカーが右腕から反り返った光の刃を形成し、巨大な砲口に粒子を集束させるが、守屋は恐れる事無く、二体のストライカーに肉迫する。
ビーム兵器に対する恐怖に打ち勝ったわけでは無く、ただ恐怖よりも怒りの方が遥かに上回っているだけだ。

血反吐が出るまで殴ってやらなきゃ気が済まない――ただ、その一心で一直線に間合いを詰める。
ビームの威力を目の当たりにしながら、恐れる事無く猛進する守屋の姿に驚きに目を剥くのも一瞬――

「ヘッ……いい度胸だ。自分が死なないとでも思ってやがんのか?」

左上半身を煤けさせたストライカーがブースターを吹かし、彼我の距離を一瞬にしてゼロにする。

「テメェ等は頭を潰しゃあ何も出来ねぇんだろうが!!」

ストライカーの搭乗者が言い終わるよりも早く、ビームセイバーがアイリスの頭部を跳ね飛ばす。
頭部を失ったアイリスは断続的に大地を蹴りつける両脚の動きを止め、力を失ったかの様にストライカーにもたれ掛かった。

「ハーハッハッハッハッハ!! 映画のヒーローみたいになれなくて残念だったなぁ!!」

ストライカーの搭乗者の哄笑がスタジアムに響き渡った。

アイリスのコクピット内では光が失われ、モニタには敗北の二つ文字が表示されているが、守屋の表情に寸分の衰えも無い。

「悔しくて、何も言えないかぁ? なぁ! おい!!」

嘲りの言葉を何度浴びせてもアイリスからは何の返答も無い事に気を良くしたストライカーの搭乗者はセイバーを逆手に持ち変え、コクピットに狙いを定める。

「エマージェンシーモード……再起動」

スポーツギアの事を勘違いしている者は非常に多い。例えば、頭部が弱点であるという事。
頭部を失う事により行動の全てが停止するというのは、ただの敗北演出に過ぎない。

そして、エマージェンシーモード。主に違法ギアの襲撃や災害発生時の避難時に使用する機能だ。
想定外の脅威から脱出する際、頭部を失ったからと言って一々、機能を停止していては話にならない。
試合のルールや損傷に関係無く迅速に避難する事に特化しており出力も引き上げられる。

一瞬にして力を取り戻したアイリスは上体を逸らし振り落とされるビームセイバーの柄目掛けて掌底を叩き付ける。
斬撃軌道が内側に抉りこむように弧を描き、自らのプラズマジェネレーターを貫き大爆発を巻き起こす。

「馬鹿野郎が! ガキなんぞに良い様にされやがって!!」

ビームキャノンのエネルギーをチャージしていたストライカーの搭乗者が悪態を吐き捨てながら、荒々しくトリガーを引いた。
燃え盛る爆炎のせいでアイリスの姿が見えないが、撃破された味方を撃てば外れたとしても余波で消し飛ばせる。
脱出出来ているか如何か分からないが精々、運を味方に付けるんだなと考えながら躊躇う事無く、仲間のギア目掛けてビーム砲を撃ち込むと見当違いの方向からチャクラムが飛来する。

「ガキの玩具が通用するか!!」

ストライカーの搭乗者は上半身を捩り、キャノン砲の砲身でチャクラムを叩き落すと、爆炎を切裂き刀身が剥き出しになったバックラーブレードが投擲される。
今度は無防備を晒し、装甲だけで弾き飛ばす。アームドギアにはスポーツギアの武装では傷を付けるのは困難……いや、不可能だ。

「効かねぇって言ってんだろうが、クソガキが!!」

それでも守屋は爆炎に紛れて三度目の投擲を繰り出すが、爆炎の目暗ましも長くは続かない。
爆炎が晴れ、ストライカーのモニターが片膝を付くアイリス・ジョーカーの姿を映し出す。

搭乗者は残虐な笑みを浮かべ、ビームキャノンのターゲットをアイリスに合わせトリガーを引くとビームキャノンの砲身が閃光を放ち、光の粒子は猛り狂ってストライカー自身を呑み込んだ。
表情を一片させ機体状況を確認するとキャノンの砲身に守屋が三度目の投擲に使ったストライカーのビームセイバーが深々と突き刺さり、砲身にスパークを走らせていた。

「クソガキ……ッ!!」

悪態を吐き終わるよりも早く火球に飲み込まれ、球状のコクピットブロックが吐き出される。

「クソはお前等の方だろうが……霧坂、聞こえるか? 此処はもう大丈夫だ。早く避難するんだ」

守屋は一人ごちながら機体を立ち上がらせ、霧坂の元へ向かおうとすると背後から凄まじい爆音が鳴り響く。
新手の登場に苛立ちながら背後を振り返ると砕かれた壁の破片を弾き飛ばしながらベースキャリアが内部へと侵入し、中から無傷のストライカーが現れた。

「新手……これ以上、好き勝手にやらせるかッ!!」

アイリスが勢い良く駆け出すと、ストライカーは慌てた様子も無く掌から光の剣を形成し縦横斜めに三つほど剣閃を紡ぎ上げ、アイリスを弾き飛ばす。
蹈鞴を踏んで再度、前進しようとすると間の悪い事にフルドライブの長期使用の影響でオーバーロードが発生し、四肢から黒煙が吐き出される。

「ッ……限界か!?」

新手のストライカーは好機とばかりに左右から剣閃を繰り出し、その剣閃が一つ、二つと数を増していく度にアイリスの動きが鈍化していき、四肢の爆発と共に動きが完全に停止する。
アイリスが膝から崩れ落ちようとしているのも構わず、肩口から腰にかけて袈裟懸に斬り裂かれ背中から倒れ込むと、その衝撃で切断面から守屋が外に放り出される。
全身を叩き付けられた守屋が目を見開き立ち上がろうとすると、その視界に右腕を天に伸ばしたまま地に倒れ伏し炎上する愛機が守屋の目に映った。

完膚なきまでの完全なる敗北。せめて主の命だけでも救われた事に満足したのかアイリス・ジョーカーは燃え盛る炎の中へと消え、守屋は失意のまま意識を失った。


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