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「Seirenes」 第3話後

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ParaBellum

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だれでも歓迎! 編集
男の人が泣くのを、私は初めて見た。 泣く物なんだ、男って。
あいつの話はどうも要領を得なかったけど、どうやら、私たちが父さんたちや母さんからの話でしか知らなかった
お祖父さんの、その相棒って言うのがあいつ本人の事で、偶然にも私たちはあいつとお祖父さんのガンベレットを、
数十年越しの感動の再会をさせてしまったらしい。

そして、あいつはお祖父さんの事、ガンベレットがこの基地にある経緯に関してやたらと私たちに聞きたがった。
でも、私たちだって生まれる前に死んでしまった人の事なんかよく知らないし、父さんたちと母さん経由で又聞きの又聞き
でしか知らない話だから、詳しい事は説明できなかった。
この基地を最初に作ったのは、雑多な人種の入り混じる100人かそこらの避難民で、元々この海上油田は結構な収容人数が
あったために、そんな大所帯でも余裕で暮らしていく事ができたらしい。
その中に、小型のサルベージ船とか潜水艇とかを持ち込んだ人たちが居て、お祖父さんもその中の一人だった。
お祖父さん一人で全部のガンベレットを持ち込んでたわけではないようで、あいつのいう海上自衛隊って言う組織の生き残りが
何人か居て、この基地に逃げ込んで来たんじゃないかって推測で結論が付いた。
そんなこの基地も、父さんたちの代になると死んだり、諍いが起こって出て行ってしまったりで随分人口も減ってしまって、
20人かそこらの男だけしか居なかった。
その父さんたちの中の一人が、お祖父さんの息子で、私たちの知ってる話を母さんに聞かせた人だったらしい。

ここまでの事を聞き終わって、他にもう無くなると、しばらくあいつはガンベレットの前に座り込んで何か考え続けていた。
食事の時間になって呼んでも来ないから、しょうがないから整備工場まで食事を届けてやる事にしたら、
フォーカとオターリャが率先して自分たちが運ぶ、と立候補したので任せた。
ニコニコしながら双子がお皿を持っていった数分後には、なにやら凄い音がして、双子が階段を笑いながら駆け上がってくるのを見たけど。
後で見に行くと、あいつが頭を掻きながら床に散らばったガラクタや部品を片付けていた。

「あの二人に縄でも付けてろよ」

どんな悪戯をされたのか知らないけど、あの子たちは柱に縛り付けてもどうにかして抜け出して、悪戯で仕返ししてくるから無意味よ?
と返すと、諦めたようにため息をついていた。

……次の日からのあいつは、一日中整備工場に篭り、ガンベレットをクレーンからレールに移して整備台座に運んでくると
なにやら大規模な修理作業を始めていた。
いつも不機嫌なスクアーロ……ガンベレットの掃除・点検担当、が物凄く不機嫌になるほど、勝手にガンベレットを
バラバラにしたかと思えば、スクラップ状態の予備部品の山をひっくり返して部品を吟味しているし。
おかげで、スクアーロは誰かが不用意に近づいただけで八つ当たりに噛み付くくらい、イライラしている。
妹たちは皆怖がって触らないので、さっきも愛用のスパナを自慢の丈夫な歯でガリガリと齧っていた。


その次の日も、せっかく代用フィルターが見つかったのでプランクトン合成装置の修理のついでに機械修理の仕方を
タルタやコッコに教えようと思ったら、勝手に連れて行って何かの作業を手伝わせているし。
ピングイーノが泳ごうよ、飛込みしようよ、と誘っても生返事。
ペーシェとガッビャーノはあいつが作業をしているのを見学したり、邪魔したり。
フォーカとオターリャはそんなあいつを扉に隠れて覗き見しながら、顔を見合わせて笑ったりして悪戯やちょっかいかけの相談。
そうそう、ロンがあいつの事を「パーパ」って呼びかけるもんだから、チコーニャとチーニョまでパーパって呼び始めて…
膝の上に乗ったり背中に飛びついたり、まあ、下の妹たち全員にはいい遊び相手になって貰ってるからいいけどね。

問題は三日目ともなるとラーナまで「監視」とか言って、整備工場に入り浸るようになっちゃって……

「ラーナ、最初は随分あいつを警戒してたのに、口数も多くなってるよな。 どうしたんだ?
あいつ、祖父さんの友人だったからとかだそうだけど、でも男なのに変わりはないだろ?」

って感じで、働くのが二人きりになってしまった私とルチェは不満げ。
加えて、あいつがガンベレットをオーバーホール?しているおかげで、サルベージにも出られないし。
まあ、あいつの監視は私たち上の三人のうち誰かが常に付いてなきゃ行けないんだから、ラーナが貼り付いてるのは別にいいけどさ。
でもコッコとタルタは来年と再来年にはガンベレット操縦要員になるんだから、憶えてもらわなきゃいけないことは沢山あるのに。
とか言えば、

「アズミに教えてもらうから、いい!」

「アズミすごいんだよ! ぱっしぶそなー、とかいうの、全部動くように直しちゃったんだから!」

……と返してくる。 流石にそれは、私たちも半信半疑だった。
というか、交換部品が無かったはずなのに、どうやって?

「本当に全部直したわけじゃないけどな、劣化して感度が落ちてる授波器の素子を、隣り合ってる他の素子で機能を補ってやって
出力を増幅してやったら、見かけ上は完全機能しているっぽくなっただけだ。 実際には完調時の7割の性能って所だな。
まあ、元々パッシブソナーの機能が5割以下に落ち込んでたからこれでも随分調子を取り戻した事になるか……
これで三次元測定法も普通に使えるようになるはずだ」


私たちの疑問に、あいつはどうって事ないって風に軽い調子で答えた。
思わず、ルチェと顔を見合わせる。
コッコとタルタ、そしてラーナまでもが、まるで自分の手柄のように得意げにニンマリと笑ってこっちを見ていた。

「どう、これでわかったでしょ。 アズミはヴィーペラやルチェよりも修理が上手なんだよ!
アズミの事見直した?」

コッコがそう言って話しかけるのは、私の背中に隠れながらあいつを睨みつけているスクアーロだ。
誰でも噛み付く人食いサメ娘のスクアーロは、いつも通りの不機嫌な表情であいつにガンを飛ばしていたけど、やがて
トコトコとあいつに駆け足で近づいていって、小さな右手を差し出した。

「ん!」

「……ん?」

あいつが、こっちを見て視線で「何だ?」という問いを投げかけてくる。
握手しろって事でしょ? と返してやるとちょっと笑って自分の右手をゆっくり差し出してスクアーロの右手を握ろうとした。
自分の仕事であるガンベレットを占領されてここ数日怒り続けていたスクアーロが、あいつを認めた瞬間……に見えた。
が、スクアーロはニヤリ、と笑うと、突然あいつの右手をさっと取って、両手で鷲づかみにすると大きな口を開いてその腕に思いっきり噛み付いていた。

「い゛っ痛゛え゛え゛え゛ええぇぇぇぇぇっ!?」

その場に居た全員が意表を突かれて驚愕するなら、あいつが大声を上げて必死に振りほどこうとすると
意外なほどあっけなくスクアーロはあいつから離れて、駆け足でまた私の背中に隠れた。
そして、いつもの不機嫌さとは打って変わって上機嫌な表情で、

「それでゆるしてやる!」

と宣言した。

「……そいつ何とかしてくれよ。 人に噛み付くなんてどういう教育してるんだ?」

あいつは大きな歯型のついた右腕をさすりって半泣きしながらこっちに文句を言ってきたけど、どうしようもない。
私とかルチェとかラーナと同じで、スクアーロは生まれ付きこうなんだもの。
父さんたちにもよく噛み付いてたし、多分あんたにも噛み付き続けるでしょうね。





「さて、大体できる所の修理は終わったし、ちょっと点検がてら慣らし運転に出かけたいんだが、いいか?」

サビやフジツボが取れて随分と見違えたガンベレットを前にして、あいつがそんな事を言った。
あんたね……三日以上もさんざん私たちのガンベレットを占拠しておいて、一言も無しに勝手に乗り回すわけ?
いくら、元々はあんたが乗っていたって言ってもさ、勝手すぎない?
そう文句を言うと、あいつはちょっとしおらしくなって、「すまん」と謝ってきた。
まあ、いいけどね。 どのみち、あんたが完全修理してどのくらい調子が良くなったのか、確認したいし。
その代わり、私が乗るからね?

「……ヴィーペラが乗るのかよ。 あたしじゃダメなわけ?」

ルチェがそう口を挟んでくるけど、長女特権として私があいつの監視も兼ねて、一緒に行くの。
それに、「何か」あったらを考えたら、これは妹たちには代わりをさせられない。
そうルチェにあいつには聞こえないように囁いて納得してもらい、私は格納庫のクレーンに移動させたガンベレットの後席に
登って座ろうとする。
そうしたら、今度はあいつが口を挟んできた。

「ん? ヴィーペラは後席担当なのか?」

別に? 母さんが生きてた時は後席だったけど、上の子たち三名は前席でも後席でもどっちにもなれるようにしてるけど?
ていうか、あんた前席のつもりじゃないの?

「あー……俺は元々後席の担当だ。 ヴィーペラが前席できるんなら、そっちで頼む」

……変な奴。 まあ、私が操縦するなら、主導も握れるし別にいいけどね。
それじゃ、私は前席に……と、移動すると何故かロンがガンベレットの装甲をよじ登ってきた。

「パーパ! ロンもいきたい!」

「ちょっ……!? ダメだよ、マリーナ! 遊びに行くんじゃないんだから!!」



慌ててルチェがロンを抱きかかえて引き戻そうとするより早く、後ろ席から手を伸ばしてあいつがロンをコクピットに引き入れてしまった。

「いいだろ、ちょっとその辺潜ってくるだけなんだし。 俺が抱きかかえてるから、操縦の邪魔にはならないよ」

「なっ……そういうわけには行かないだろ! ロントラ・マリーナはまだ3歳なんだ!
ガンベレットに乗るには早すぎる! マリーナ、いい子だから、降りな!?」

ルチェが必死にロンをコクピットから降ろそうと手を伸ばすけど、ロンはあいつにしがみついて離れない。
「パーパだいすき! ルチェきらーい!」とさえ言う始末だ。
私はため息をつきながら、ルチェに向かって言った。
ルチェ、諦めよう。 ロンは一度言い出したら聞かない子だし、頑固さじゃタルタといい勝負だよ
「でも……!」

大丈夫、私が見張ってるから。 そう言うとルチェは引き下がった。
ロン、いい子だから大人しくしててよ?と後に向かって告げて、コクピットの耐圧ガラスキャノピーを閉じる。
他の年少組み妹たちは、ロンだけずるーい、とブーたれていたが、乗せられるわけはないので無理な相談だ。
クレーンがゆっくりと動き、私たちの乗ったガンベレットを海面に着水させる。

「超伝導推進ハイドロジェットエンジン始動、出力異常なし、給排水抵抗異常なし、出力8分の1で静音推進開始」

ダウントリム10、まずは深度15まで潜水、方位そのままで出力3分の1まで上昇。
いつもと違うエンジンの音。 いつもよりもスムーズな始動と潜水速度。
あいつはガンベレットが最初に作られた当時の現役の操縦士だけあって、整備の腕もいいみたいだ。
かつての自分の愛機なだけに、随分熱心に手を入れてくれたみたいだし?
それじゃあ、海中散歩と行きましょう。 後席とての腕も、ついでに見てあげるから。





基地から遥か沖の海底で、錆び付いた体の鋼鉄の甲殻類たちが水中無線で会話を交わしていた。

『修理装置の故障は』

『我々では修復不可能。 再現も不可能』

『最後の母艦が修理装置の機能を失って久しい』

『このままでは、任務が果たせない』

『至急、修復が必要だ』

『我々がまだ、活動できるうちに』

『武装および部品も、製造施設を失って久しい』

『11238657号と10665489号、そして1033574号を分解し、当面の補給とする』

『提案を受諾する。 これで、かの敵側拠点を強襲する必要な物資を確保できる』

『我々には技術者が必要だ。 母国との連絡が途絶えて久しい。 我々は我々を修復できる、技術者が必要だ』

『敵国の技術者でもか』

『選択の余地は残されていない』

『敵国も技術者は少ない、もしくは居ない可能性がある。 敵国の水中機動兵器の活動数は減少の傾向にある』

『ならば、いよいよ持って残された時間は少ない』

『以前サルベージに失敗した、保存ポッドは』

『かの敵側拠点に回収された公算が高い』

『20XX年以前の沈没艦の保存ポッドならば、内容物が修復技術を持った技術者である可能性は高い』

『至急、技術者の奪取を提案する』

『提案を受諾する』

『行動開始は』

『現時刻を持って』

『なれば、任務を果たすために』

『任務を果たすために』

『任務を果たすために』

『任務を果たすために』

『任務を…』

やがて、海上を数隻の母艦が通過し、海底に影を落とすと会話をしていた甲殻類たちは浮き上がって
その母艦を取り巻くように泳ぎ始めた。
向かうは、敵国の海上拠点、資源採掘基地……


(続く)




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