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GEARS外伝 Berserker第九章

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ParaBellum

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第四の来訪者、地球統合軍の訓練兵、守屋一刀の救援により窮地を脱し、魔力を回復するために結界塔の中へとシルヴァールを移動させ
機体を指輪の中に封印し、救護の間へ足を運ぶとガルーダとの戦いで傷を負った戦士達が呻き声を上げながら、床に倒れ伏し、その間を宮廷魔術師達が慌しく駆け回っていた。

「魔力の回復でしたら奥の間でお願いします!」

額に珠のような汗を浮かべた魔術師が怒鳴り声を上げた。後方は後方なりの修羅場が繰り広げられているようだ。
俺ものんびりしている暇は無い。さっさと回復を済ませ、前線に出ねば。現在、この結界塔は守屋一刀と、その愛機、安綱一機のみで防衛されている状態だ。
それだけでは無い。俺を後方に下げるため嘉穂がゴーゴンと交戦状態にある。結界塔の防衛を一刀が引き受けてくれたため、アディンは嘉穂の救援に向かってはいるが……

南方大陸の魔獣達に紛れて、魔族や人間と異なる敵の姿もあった。あのゴーゴンも、ただの異常固体では無い。
不安はあるが、一刀を先行させるわけにもいかない。とにもかくにも、魔力の回復をしなければ、俺がここにいる意味は無い。
奥の間へ入ると、ベッドの上に寝かされ、六人の宮廷魔術師が俺を取り囲むように並び、手のひらを大きく広げ、両腕を俺に突き出した。

『進撃が遅過ぎる……行軍速度を上げることは出来ませんか?』

宮廷魔術師から送り届けられる魔力の光にまどろんでいると、一刀からの通信が届いた。
俺に魔力を注入している宮廷魔術師達は気付いていないのか、それどころでは無いのか、モバイルシステムから一刀の音声が流されている事には何の反応も示さなかった。

「戦線の押し上げか……大陸を南下すればする程、陸地は狭まっていく。陣形の密度を上げ、失われた戦力の穴埋めにはそれがベターかも知れんが……」

懸念事項はお互いにカバーし難い結界塔に複数体の異常固体が現れるかも知れないということだ。
だが、前進せねば陣形の密度を上げることも出来ない……だが、アディンと嘉穂は足止めを受け、俺はこの様だ。行動を起こすには、いささか分が悪い。
答えに窮し、答えを紡げないでいると、一刀が言葉を続けた。

「先行し過ぎている。このままでは各個撃破される恐れもあります。それに奴等の狙いは俺達です。
最悪でも先行した二人を回収し、一度、魔力の回復させておくべきでは無いかと思うのですが」

奴等の狙いは俺達――普段ならば何を妙な事をと嘲笑っているところだが、あの敵は地球の存在を知っていた。
そして、地球へ帰還して終わりなのでは無く、始まりとも言った。恐らく、一刀は奴等が普通の敵でないことを知っているのだろう。
だが、何故、その中に俺が混ざっている? 俺はただの帰る場所を目指しているだけの迷い人でしか無いのだが……

「四の五の言っても仕方が無いか……魔術師、魔力の回復まで、どれくらい時間がかかる?」

「話しかけないで下さい……気が……散る……ようやく、折り返したばかりですよ……貴行の魔力は底無しですか……?」

後、二十分といったところか……しかし、六人がかりでも、この有様か。一年前はグラビトンランサー一発でガス欠になっていたのが嘘のようだ。
寧ろ、ミノタウロス如きを相手にグラビトンランサーを一発撃つ度に霊薬を使っていた頃の自分を殴り倒してやりたい。
あの時にもっと霊薬を溜め込んでいれば、今になって温存せずに済んでいたものを……!

「一刀、後二十分で魔力の回復が完了する。十分後に最大戦速で嘉穂……先行した二人の仲間と合流する。
場合によっては異常固体との戦闘になるかも知れん。そのつもりでいてくれ」

「分かりました。それまでの間、自分が時間を稼ぎます」

淡々とした口調と声色で、こちらからでは彼の表情などを見ることは出来ないがモバイルシステムから送られてくる彼の声は、出来て当然と言わんばかりに自信と満ち溢れているようにも感じた。
俺も早いところ、魔力の回復を完了させねばならん。特に根拠があるわけでは無いのだが、これ以上、彼に無様な姿を晒してはならない。そんな気がしたからだ。

暇を持て余していそうな戦士を呼びつけ、十分後にアディンと、嘉穂を回収するまでの間、最大戦速で大陸を駆け抜ける旨をアランに伝えさせると、程なくしてから了承の報が届けられた。

――一刀の言葉を信じるのならば、これで手筈は整った。

宮廷魔術師達の放つ暖かな魔力の光にうつらうつらと、まどろんでいると結界塔の中が慌しい声が飛び交い始めた。

「結界塔及び、全軍に告げる。行軍速度を上昇。大陸を駆け抜けよ!」

一際大きなアランの大号令が鐘の音を間近で聞いたかのように頭の中で反響し、目を開けると結界塔がそれまでの鈍重な動きとは打って変わって軽快なスピードで行軍していた。
少しばかり、すっきりした頭の動かしながら、魔力の回復状況を確認すると何の不足も無いどころか、先程の連戦でまた魔力量が増大している。、
一瞬、目を瞑ったつもりだったが、どうやら二十分の間、深く寝入っていたらしい。

「本当に……底無しですね……」

宮廷魔術師達が大業をやり遂げたような達成感と疲労感に満ちた表情で親指を立て、糸が切れたように地面に崩れ落ちた。

「大陸奪還の要を支えることが出来た事……死ぬまでの誇りにさせてもらいますよ……」

「では、誇り足りえる働きをせねばならんな……シルヴァール、出るぞ!」

結界塔の出窓に足をかけ、外へ飛び出しシルヴァールを展開し、安綱の隣に降り立つと一刀から通信が入った。

『涼夜さん、俺の目的はこの世界に迷い込んだ三人の地球人を無事、地球へと帰すことです。
とは言え、この世界での都合もあるでしょうし、いつ戻るかは涼夜さんの判断にお任せします。
ですが、俺の協力者の力で地球に戻るまでの期日は三日。それだけは覚えておいて下さい』

――今なら、苦しい戦いに身を投じずとも地球へ戻ることが出来る

「まるで、この世界を見捨てろと言っているようにも聞こえるから不思議なものだな」

『それが望みなら、今すぐ地球へと帰る道を用意します。この総決戦が片付くまで待てと言うのなら待ちます。手を貸せと言うのなら、力を貸しましょう』

少し前の俺なら一目散に逃げ帰っていたところだ。俺がこの世界に迷い込んでから今日まで、絶え間なく、シルヴァールと共に多くの敵と戦ってきた。
地球に帰るという、たった一つの目的を果たすために幾多もの異形を相手に何度も戦いを繰り広げてきた。辛いこともあった。死にそうな目にあった事だって一度や、二度では無い。
この世界の全てを蹴り落とし、踏みにじってでも地球へ帰る。その為だったら、何でもする。それが出来れば、何もいらない。この世界に迷い着いて、ずっとそう思ってきた。
そして、今。何をしてでも、手にしたい。手にしなければならない物が今、俺の目の前にぶら下がっている。後はそれを掴み取れば良い。それを掴み取るにはただ一言。

「地球に帰る」

たった一言。その一言を呟くだけで俺は望みを叶えることが出来る。

「だが、それはこの乱痴気騒ぎを片付けてからだ。守屋一刀、君の思惑が何か知らないが、一度、俺に加担した以上、徹底的にやってもらうぞ」

『大陸の奪還を終えるまでは地球に帰る気は無いと?』

今すぐ地球へ帰還する。それも良いだろう。しかしながら、存外、俺も現金な性格をしているようだ。
オルベリオンのような曖昧な物では無く、確実に戻ることの出来る手段が手中にあると分かった途端、この世界に残して行けるものは無いだろうかと思ってしまった。
それに、この世界で体験したことは戦いばかりの日常では無い。良き思い出となって残っている出来事も少なからずある。

「一刀、君が救援に来てくれたお陰で、多少は冷静に自分自身を見つめ直すことが出来た。
俺が地球人である以上、この世界に居座り続けるわけにはいかない。俺の居場所は地球なのだからな。
だがな、俺はこの世界が好きだ。それを踏みにじろうとする輩がいると分かっていながら、この世界を通り過ぎる事は出来ない」

『了解……心置きなく地球へ帰還出来るように、この防人の大刀。異世界を覆う暗雲を断つ剣となりましょう』

「まずは先行した二人の救援だ。俺に遅れを取るなよ!」

『ご心配には及びませんよ。こう見えても、それなりに死線を潜り抜けてきたつもりです』

一刀は自信あり気な口調で答え、光学迷彩の類で安綱の姿を消した。この世界の生命は魔力で気配を探る癖が付いている。
だが、一刀には魔力が宿っていない。それに光学迷彩が加われば、彼の姿を察知するのは至難の業だ。この世界の脅威に対する奇襲としてはこれ以上の手は無い。

シルヴァールの翼を広げ、低空飛行で荒野を駆け抜けると、ゴーゴンの異常固体や、その眷属であるサーペントの真新しい亡骸から発せられる瘴気が切り開かれており、道標となってアディン達の行き先を俺達に教えてくれた。
俺が魔力を回復するために嘉穂達と別れてから優に一時間以上が経過している。あの二人はかなり先まで進軍してしまっているようだ……

「今更、聞くのもどうかと思うが……瘴気は大丈夫なのか?」

『瘴気は感染拡大型の毒性を持つ、一種のエネルギーです。安綱の装備で無害化は可能。俺に瘴気は通用しませんよ』

俺達の救援のために態々、こんな出来損ないのファンタジックな世界に自らの意思で来た以上、それなり程度の知識はあるようで、一刀は事も無げな口ぶりで答えた。

「では、もう一つ。先程、十分に助けられた……そう言ったな? 君は霧坂の家の関係者か何かなのか?」

「ええと……どう答えたら良いものやら……そのー……」

今まで自信あり気に受け答えをしていた一刀の態度が一変し、しどろもどろになりながら答えを言いよどんでいる。何も妙なことを言った覚えは無いのだが……?

「すまん。答え難いことなら構わない。忘れてくれ」

彼は助けられたと言ったが、俺は彼を助けた覚えは無い。ならば、地球に残してきた家族の誰かと関わりがあるのだろうと、ただの興味本位で聞いてみただけだ。
それに恐らくではあるが、悪い人間では無い。信用に足る男で、悪いようにはならないであろう。そんな気がする。無理に聞き出す必要は無い。

「いえ! 黙っていても地球に戻れば、いずれ分かることだし……俺、涼夜さんの妹のクラスメイトなんですよ」

俺がこの世界に飛ばされたのは統合暦三百三十年の七月二十日。あの日から大体、一年半が経過している。当時の茜華の年齢は十二歳。

つまり――

「僅か、十四歳にして統合軍の訓練兵をやっているのか?」

「こちら側の世界と向こう側の世界とでは時間の流れが違います。現在の年号は統合暦三百三十年。涼夜さんが神隠しにあって既に五年が経過。俺達、十七歳の高校生です」

「にわかには信じられんが、君がそう言うのならば、そうなんだろうな……茜華は元気にしているのか?」

元気にしているも何も、あんなに引っ込み思案で物静か……いや、やや暗めだった茜華の姿。傍目から見たら元気かどうかなど分かりようが無いかも知れんがな。

「え、ええ……色々あって半年くらい顔を合わせていませんが……その、行動力が有り余ってて、よく引っ張りまわされていたって言うか……」

俺がこの世界に迷い込んでから地球時間では五年の時が過ぎている事以上に信じられない言葉だが、茜華は茜華なりに上手く世渡りが出来ているらしい。
それにしても、行動力があってよく引っ張り回されている……か。俺は過保護にし過ぎていたのだろうか? 俺がいなくても、しっかり出来ているなんてな。

それに、一刀の態度から察するに……

「付き合っているのか?」

「い、いや……まだ付き合ってはいないですけど……ヴァレンタインに告白されて……」

「告白!? 茜華が告白したのか!?」

驚きのあまり思わず大声が出てしまった。あれから五年も経っているのなら、それなりに人となりも変わるかも知れないが、あんなに内気だった子が告白とは……此処まで驚いたのは生まれて初めてかも知れない。

「え……ええ……引っ叩かれた直後に……」

「な……」

驚き過ぎて言葉が出てこない。俺がいない五年間の間に一体、何が起こっていた? それを確かめるためにも、是が非でも生きて地球に戻らねばならんな。

「って言うか、今は人類の存亡を賭けた戦いの最中で、涼夜さんはその中核だろう!?」

胸の内で地球へ戻るための決意を新たにすると、一刀が声を震わせながら叫び声を上げた。

「そうだったな。詳しい話は大陸を奪還した後で、ゆっくりと聞かせてもらうことにしよう」

それにしても、この取り乱しよう……この男、中々にからかい甲斐のありそうだ。だが、一刀で遊ぶのは事を済ませてからにしよう。
この世界で最後の戦いも、今や目前にまで迫りつつある。意識を切り替え、シルヴァールの全身に血液を流すイメージで魔力を浸透させる。
そして、頭の中にある武器庫をイメージする。雷光を放つ、紫紺の槍。重力波を形成する黒槍。天を穿つ輝槍。空を切り裂く刃羽。真空を纏う瞬拳。全ての音を置き去りにする駿足。戦うための心構え、覚悟、準備、全てが出来ている。後は終わらせるだけだ。

『涼夜さん、先行した刻印装甲が……交戦中か!』

一刀に言われるまでも無く、先程から人間や魔獣のそれとは異なる、ドス黒い魔力の膨張には感付いていた。
切り裂かれた瘴気の隙間から、その魔力の発生源となっている異常固体が、その姿を垣間見せた。

側頭部に鷹の様な鋭い目、口元には剣の様に鋭利な嘴が具わり、頂頭部から後頭部にかけて炎の様に赤い三枚冠が流れている。
顔全体から胴にかけて茶色の羽毛に覆われており、下半身はドラゴンさながら凹凸の激しい深緑の鱗に覆われた長く、巨大な尻尾。頑強な甲冑すらも一握りに潰してしまえそうな程の膂力と、鋭い爪を持つ二本の足を持つ魔獣。

「コカトリスの異常固体か……!」

全長は四十メートル程、その足元にはシェイサイドと、ゲルヴィナード。その二体の力によって打ち倒された、コカトリスの眷属、バジリスクの亡骸が五体不満足の体でそこいらに散らばっていた。
グロテスクな光景に思わず、胃の中内容物を逆流させそうにもなるが、四の五の言っていられる状況でも無い。コカトリスと睨み合う二体の刻印装甲の間を縫うように飛翔し、コカトリスへと肉迫する。

「一刀、コンビネーションで行く! まずは俺からだ!」

一刀の返事を聞かずに突入速度を上げ、両腕に真空を纏うイメージを魔力で具現化。

≪ハイソニックインパクトッ!≫

シェイサイドと、ゲルヴィナードに気を取られていたコカトリスの不意を突き、右の拳から奴の顔面に飛び込み、嘴を砕き、額を叩き割り、三枚冠の鶏冠を破壊し、奴の頭部に侵入する。
コカトリスの小さな脳を弾き飛ばしながら、後頭部に大穴を穿ち外部へと脱出。空を蹴り、シルヴァールを反転させ、奴の背中から左の拳を埋没させ背骨を粉砕し、心の臓目掛けて一直線に奴の体内を破壊しながら外へと躍り出る。

≪漸くのお出ましか、霧坂涼夜≫

≪お加減はいかがですか?≫

地面を滑りながら、円を描いて突撃の勢いを殺し、シェイサイドとゲルヴィナードに背を向ける形で動きを止め、腰を落として拳を構えると、アディンと嘉穂の念話が頭の中で反響した。

「二人とも面倒をかけたな。一旦、下がって魔力の回復をしろ。中央突破は俺達が引き継ぐ」

≪俺達……?≫

コカトリスが破壊された部位を再生させながら、怒りの咆哮を上げ、威嚇をするように大きく翼を広げた。

「そう。強力な助っ人だ……!」

『光学迷彩解除……』

身に纏った光学迷彩がスパークを放ちながら弾け飛び、光の中から黒紫のアームドギア、安綱が七条の閃光を背後に纏い、コカトリスの頭上へと足から急降下を始める。

『切り裂け……天狗の高下駄ァッ!』

安綱は両の足裏から金色のビーム粒子で形成された直剣を生やし、コカトリスの背中から尻尾にかけて足から滑り落ち、縦二文字に長く切り裂き、コカトリスの翼が黒い血液を撒き散らしながら宙を舞った。
今更ながら一刀の奇襲に感付いたコカトリスは背後を振り向こうと巨体を揺らすが、それでは一刀の鋭敏な動きに付いて行けるはずが無い。
安綱の背中から鋼鉄の箱――クレイモアポッドが前面にスライドし、観音開きになったカバーの中からは無数の銃口が黒光りを放った。

『再生する暇など与えん!!』

一刀の叫び声と共に玉手箱からは、まさに無限とも言うべき数の弾丸が吐き出され、コカトリスの全身を破壊し、無数に穿たれた穴からは黒煙が吹き上がり、奴の傷口を焼き尽くす。

「回収した刻印装甲の数から察するに残った異常固体はコイツが最後だ。残る敵はナグルファルだけだ」

≪あの光はビーム粒子……アームドギアか?≫

「ああ。地球統合軍のエージェントが俺達の救出に来た……そういうわけだ」

≪ゴールは正に目前というわけですか。分かりました。一旦、後退します≫

古くから多くの被害者を出し続けてきた神隠し事件の究明と解決に地球統合軍が行動を起こした。その意味を理解した二人は撤退を開始した。

瞬時に頭部と心臓、翼を再生し、コカトリスが地を蹴り、尻尾を振るい翼を広げながらシルヴァールへと飛び掛る。

≪出来損ないの英雄と、成り損ないの英雄が手を結びますか……小ざかしいですよ≫

幼さの残る少女の鈴を転がしたような声が侮蔑となって頭に鳴り響いた。……矢張り、コイツも第三の敵か。だが、認識を改めさせる必要がある。

「手を結ぶ……? 違うな」

コカトリスが振り落とした鉤爪を両腕で受け止め、落下の運動エネルギーを受け流し、シルヴァールを軸にして円を描き、遠心力と共にコカトリスを安綱目掛けて放り投げる。
一刀は待っていましたと言わんばかりに背部に背負った二門のビームキャノン――物干し竿の砲身を脇口から展開。エネルギーチャージは既に済んでいるらしく、後はトリガーを引くだけの状態になっていた。

『義兄弟だ。間違えるな』

そう言って一刀は物干し竿の砲口をコカトリスに押し付け、二条の光芒を吐き出し、コカトリスの内部を蹂躙した。
金色の粒子が幾つにも閃光へと分散し、コカトリスの皮膚を内側から引き裂き、外部へと顔を出し、天を焦がした。

≪道化のくせに……ッ!≫

コカトリスが喉を鳴らし、口惜しげに唸り声を上げると、奴の額に切れ目が入る。

「固有能力、石化の魔眼か……! 一刀! 奴の頭を潰せ!」

≪今更……手遅れですよ≫

コカトリスの額が開き、第三の目が怪しく輝き、地鳴りにもよく似た空間が軋む音が響いた。
だが、安綱は左腕の掌をコカトリスに突き出したままの姿勢で石化の魔眼に持ち堪えていた。

『八咫鏡……お前達の能力が得体の知れない物であっても、それが魔力と呼ばれるエネルギー体によって構築された攻撃なら、出力で上回る安綱の力で防ぎ切れる』

≪本当に小賢しい……でも、反撃に転じる余裕は無さそうですね。このままいたぶり殺してあげます……≫

コカトリスが翼を広げ、羽根を礫に変えて、散弾の様に撃ち出される。
大地を蹂躙しながら、雨が降り注ぐかのように安綱の防御フィールドを叩き、亀裂を走らせた。

『しゃらくさいッ! 安綱!』

<イエッサー>

安綱が左腕に担いだ巨大な板切れ。ガルーダの大群を一撃で斬り捨てた超大型ビームソード、要塞剣草薙の柄を構え、天を貫くと言わんばかりの巨大な真紅の剣を形成し
降り注がれる礫の雨をビーム粒子の余波で破裂させながら、コカトリスを一刀両断に切り伏せ、分断した巨躯を焼き払った。

≪これで二発目……良かったんですか? 私を相手に使っても?≫

<超大型熱源反応接近>

安綱のAIが警戒を発すると共におぞましい魔力が悪寒のように背筋を走った。
ハイドラの様な自らの力を誇示するかのように大陸全土を覆い尽くすように魔力を発するのでは無く、桁外れな魔力を体内に秘めている。
見る者全ての臓腑を鷲掴みにするかのような圧倒的な存在感と、異様な姿の前には魔力の有無など関係が無い。

『鋼鉄の……超巨大戦艦だと……』

一刀は呆然とした声で呟いた。ナグルファル――その姿は空を覆い隠すほどの巨大な鯨の魔獣だ。全身の至る所に鋼鉄という鋼鉄を身に纏い、その姿は戦艦その物とも言うべきか。

≪国一つを丸呑みに出来る程の巨大魔獣相手、草薙抜きでどこまで対抗出来るか見物させてもらいますよ≫

ナグルファルの全身からハリネズミのようにずらりと巨大な槍が生え、その先端から暴風雨の如く、魔力砲が大地に向かって降り注がれた。

「大陸ごと文明を滅ぼす気か……!」

特定の対象に対する敵意や殺意など無い。ただただ、一方的に大陸を蹂躙し、破壊し、巨大な口の中から多種多様の魔獣達が、その姿を現し、大地へ向かって次から次へと降り立った。

大地に降り注がれる魔力砲が大地を貫き、紅蓮の炎を巻き上げ、南方大陸を真っ赤に染め上げ、爆発の隙間を縫って、或いは爆発に飲み込まれながら、魔獣の群れが北方大陸を目指し、一斉に進軍を開始する。

「これがナグルファル……」

魔獣を体内で飼い慣らすことが出来る程の巨大な魔獣の箱舟。外から攻撃しても山火事をグラスの水で消すのと同じだ。やるなら――

『内部に侵入し、猛毒の如く……それしか手はありません』

「ああ。俺も同じことを考えていた」

シルヴァールの翼を広げると、安綱もブースターのノズルから灼熱を吐き出し、同じタイミングで地を蹴り、空へと舞い上がる。
此方の狙いに感付いたのか、それとも単純に人間の臭いを嗅ぎ取ったのか、魔獣の大群の一部が迎撃のために俺達の元へと殺到する。

「雑魚に構わず、一気に突破する……! 遅れるなよ、一刀!」

『了解ッ!』

魔獣たちの隙間を縫うように飛翔し、上下から迫り来る牙を一気に潜り抜け、振り落とされる爪を受け流し、鞭の様にうねりを上げながら迫る尻尾を避ける。
上下左右から一斉に放たれる、ブレス、魔力砲を最高速で振り切り、ナグルファルを正面に捉えると、その全身を覆う巨大な槍が魔力砲とは異なる閃光を放った。

『今更、攻撃パターンを変えたところでッ!!』

安綱が先行する形で真紅の残光を描きながら、ナグルファルの大口へと一気に猛攻を仕掛ける……いや、妖光を放つ網のような物に絡め取られ、その動きを空中で静止させた。

「爆導の術式が組み込まれた包囲結界……!? 離脱しろ!!」

網目の様に緻密に編み込まれた防御結界は物理的、魔術的な衝動を無力化し、魔力爆発という形で報復が返ってくる。
一刀に慌てて警告を発するが、言い終わるか終わらない内に起爆剤となった結界が連鎖的に大規模な爆発を巻き起こし、安綱を弾き飛ばした。

<損傷率増大――脚部にトラブル発生。反応速度三十パーセント低下。腕部稼働率二十五パーセント低下。エネルギー変換効率五十パーセント低下>

『とんだ醜態だ……だがなッ!』

黒煙を噴きながら大地へと逆さまに落下していた安綱が脚部のブースターを吹かし、体勢を整え、緩やかに着地した。
そして、安綱が天を仰ぐ様に突き上げた草薙の柄を挟み込む様にビームキャノン、クレイモアポッド、腰部のブースターがドッキングし異様な姿を晒した。

『砲身完成……システムオールグリーン! ファイアリングロック解除!』

安綱の真紅の目、各所に刻まれた黄色の刻印が力を持ったかのように強く光輝いた。

『ツインプラズマジェネレーターフルドライブ! 刀身展開!』

安綱から金色の粒子が立ち昇り、天に掲げた草薙から真紅の光芒が空高く付き抜け、雲を吹き飛ばした。

『刀身固着! ターゲットロックオン!』

揺らめきながら天空を貫く真紅の大剣が一際強く輝き、大地を血の様な赤で染め上げ、光の中から血液が凝固したような真紅の巨大剣が天高くそびえ立っていた。

『要塞剣! 草薙ィィィィィィィィィィィッ!!』

非常識なまでの超巨大剣が超ド級魔獣ナグルファルの巨躯に振り落とされるが、さしもの草薙ですらナグルファルの結界が相手では拮抗するだけで精一杯……だが!

『安綱! 全エネルギーを草薙に回せ! 奴の結界を一撃で断ち切る!』

<イエッサー! リミッター解除!>

放出される金色の粒子が色味を増し、安綱の装甲を金色に染め上げ、更なる力を得たかのようにナグルファルの結界を押し潰し、亀裂を走らせた。

『刃渡り八千メートル、横手二百メートル、重ね六十メートル……この草薙に斬れない物など無ァいッッ!!』

一刀の咆哮と共に草薙が徐々に結界の内部へと侵食を始める。流石のナグルファルも草薙……いや、一刀を最大の脅威と判断したのか巨槍が一際強い輝きを放ち、魔力の砲火を安綱に集中させる。

『いぃぃぃぃぃぃぃぃけぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!』

拮抗状態も一瞬。今更、全力で迎撃に出たところで既に手遅れ。接触点を中心に結界全体に亀裂が走り、草薙が結界を断ち切り、ナグルファルの頭部を大地諸共、縦に引き裂いた。
ナグルファルの口から大地へと飛び立とうとしていた魔獣の大軍は草薙に直接叩き潰され、或いはその余波で体液を沸騰させ次から次へと、その巨体を爆散させていく。
だが、頭部を真っ二つに裂かれたナグルファルがニヤリと笑うかのように巨大な顔を歪ませた。

ナグルファルを切り裂いた草薙の真紅の刀身には黄色に発色する結界の残滓が絡み付いている。

「草薙を解除しろ! 奴の狙いは――」

結界に刻まれた爆導の術式が発動し、爆発の渦が草薙の巨大な刀身を駆け抜け、一瞬にして安綱を飲み込んだ。

「一刀!」

『まだ……動ける! 天之加久矢ッ!』

爆発の中から黒煙の糸を引きながら、安綱が空へ飛び出した。その戦意は留まるという言葉を知らないのか、大したタフネスぶりだ。
驚いているのも束の間、刀身を失った草薙の柄がブースターノズルから焔を吐き出し、ナグルファルの内部に侵入、大爆発を起こす。
内部からの膨大な破壊エネルギーの放出に破壊の連鎖反応が巻き起こり、ハリネズミのように立ち並ぶ巨槍が次から次へと破裂していく。

「存外……滅茶苦茶だな」

『ですが、それなりの効果はあった……結果オーライって事で良しとしましょう』

「だがな……」

一刀は何食わぬ顔で安綱を大地に降り立たせるが、火器の類は今の戦闘で使い切ったというか自爆させてしまった。
その上、魔力砲の集中砲火や爆導の術式にも飲み込まれており、安綱の全身にスパークが走っている。無茶にも程がある。

『確かにこれ以上、まともな戦闘を継続するのは困難ですが、本来なら存在しない戦力です。そして、涼夜さんが力を合わせるべき仲間なら……』

安綱が首を動かす方へと視線を向けると結界塔に焔砲を構えた戦士達。装甲騎士団の刻印装甲。ラウバルト将軍のゴルトゲイザー。
イリアのレイスヴォルグ、レイヴィアザン、ガイウス。アディンのシェイサイド。嘉穂のゲルヴィナードが集結していた。

≪やれやれ……相変わらず、無茶苦茶と言うか何と言うか……三、四日かけて大陸の最南端で決戦を仕掛ける手筈だったのに出陣したその日に予定が前倒しだなんてね≫

≪それでこそ我が友。狂戦士、霧坂涼夜だ≫

ぼやくラウバルトの声に対し、アランは楽しげに答える。
本人の前なのでコメントを差し控えさせてもらうが、コカトリス戦から此処に至るまで、大暴れしていたのは俺では無く、一刀だ。
流石の俺でも、未知の脅威に対して、考えも無しに再攻撃不可能な強力な大技を使うなどという無謀な行動に出る気は無い。

≪涼夜様は狂戦士ではありませんわ! 勇者ですと何度も申し上げているではありませんか!≫

ラウバルトと、アランの口振りにイリアが不満気な様子で怒鳴り声を上げた。
勇者などと呼ばれようものなら全身に鳥肌が総毛立ちしそうだ。それなら、狂戦士呼ばわりの方がマシというものだ。

≪大体の状況は把握している……先行する≫

≪これ涼夜さんの義弟さんがやったんですか? 私たちも負けてられないですよ?≫

『涼夜さん。俺はナグルファルから出てきた魔獣の排除に回ります』

「すまんな。随分と助けられた……だが、茜華をお前にはやらん」

『……………………』

場の雰囲気が凍り付くというのは、こういう事を言うのだろうな。誰の視線かは分からんが、俺を責めるような視線も幾つか混ざっている。

「勿論、ただの冗談だ。一度で良いから言ってみたいと思っていてな……一刀、死ぬなよ」

『涼夜さんこそ! アイツを幸せにするために何がなんでも、涼夜さんには帰って来てもらわないと困るんですよ!』

≪状況を考えろ。度し難い阿呆共め……≫

アディンの痛烈な突っ込みが決戦場に響き渡り、それはいつしか笑い声となって決戦場を駆け巡った。

≪この戦いを制したとき、我々人類は魔獣によって脅かされる日々から開放される! 己が未来を掴み取れ! 我が子に! 家族に! 友に! 全ての人々に未来を!≫

笑い声で一つに結びついた戦士達の心はアランの大号令で闘志へと切り替わり、大音声となって天をも揺るがす勢いで轟いた。
叫び声に反応したのか、木々を掻き分け無数の魔獣が、土煙を巻き上げながら、けたたましい地響きを鳴らして進軍を開始した。

≪怯むな! 焔砲一斉発射! 全刻印装甲前に出ろッ! 一体残さず殲滅しろ! 突入部隊に近付けさせるな!≫

灼熱の炎の赤い熱線が大軍の戦闘に突き刺さり、たたらを踏んで悲鳴を上げ、一時的に進軍が速度が下がるが、それも一瞬。
足を止めようものなら後続の魔族に押し倒され、無数の足という足に全身を砕かれ、或いはより大きな魔獣から鷲掴みにされ盾のように扱われる。
人間への恐れは死という名の制裁が待ち構えている。魔獣達はすぐ様、気を取り直したかのように全速力での突撃を再開する。
刻印装甲の大軍団が正面から、それを迎え撃つ。安綱が先陣を切り、すぐ背後にはゴルトゲイザーが追従し、それに跨った抜き身の長剣を構えたレイスヴォルグの姿があった。

「一刀が先頭ならば何の問題もあるまい……行くぞ」

頭部を縦に切り裂かれたナグルファルは樹海へと不時着し、その切り口からはししどと鮮血を溢れさせ、再生が始まる様子も無い。
だと言うのにも関わらず、内包する膨大な魔力や殺気が衰える様子は全く無いどころか、増しているようにも感じられた。

≪一固体のみの魔獣と聞いていたが、随分と機械的な部位が多いな……そして、衰えぬ魔力と殺気……ふむ≫

「どうかしたのか?」

≪現段階では予測の域を越えん……それに私の予測如何に関わらず、やるべき事は変わらん≫

思わせぶりな言葉を言うだけ言って、アディンは口を閉ざしてしまった。最後の最後まで気障ったらしい面倒臭い奴だった。

≪まあ、ここまであからさまな殺気と、魔力を放たれたのでは、まだまだ何かがあると言っているようなものですし≫

嘉穂は弾む様な声色で言った。出会ったばかりの頃は置かれた状況に取り乱したり、投げやりなところもあったが、地球へ帰れると分かるなり
それまでの印象を嘲笑うかのような本性を剥き出しにして、良い様にされたこともあった。第一印象では何も分からない。それを体言するかのような女性だった。

「よくも此処まで個性的な連中とやってこれたものだな……」

≪一番、個性的な人が言う台詞ですか?≫

≪事も成さない内から感傷に浸るな、阿呆≫

少しでも口を開こうものなら、この仕打ちである。退屈はせんがな。

「個性的な連中と行動を共にするのも、これで最後だと思うと多少なりとも感傷に浸りたくなるさ」

樹海の中から次々に撃ち放たれる魔術砲撃を無視して、ナグルファルの内部に突入すると――

「これは……」

≪意外と綺麗ですね≫

一刀の攻撃でグロテスクな有様になっていた頭部を通り過ぎると、それまでとは打って変わって異様な光景が広がっていた。
ガラスの様に透明な床が辺り一面に広がり、壁には水色の光がイルミネーションのように走っている。
出来損ないのSF映画に出て来る未来的な空間。それが魔獣ナグルファルの内部だった。

≪矢張り、人工物の類か……では、この巨大魔船はナグルファルでは無い……≫


≪さっき、ブツブツ言っていたのはそれのことですか?≫

「これが人工物であるとすれば、何処かにこの船を操っている奴がいるはずだ。そして、それが恐らく……」

――最強の魔獣。一種族一個体の魔獣。魔獣の王、ナグルファル

≪問題は何処にナグルファルがいるか……ですね≫

「態々、探し出す必要など無い」

ゲームなどでは無い。障害のルールに従った上で、真正面から叩き潰すのも中々に気分が良いのは分かるが、この船は少しばかり広すぎる。かくれんぼの鬼を興じる趣味も無い。

「此処まで魔力と霊薬の温存は十分にやってこれた。暴れるだけ暴れてナグルファルを燻り出す」

≪それで本当におびき寄せることが出来るのでしょうか?≫

嘉穂が疑問を差し挟むが、確かに彼女の言うことも尤もだが――

「魔獣の知能など高が知れている。来るさ。確実にな……それより、お前達、魔族と遭遇はしたか?」

≪……いや、魔族よりも危険な連中はいたようだが≫

異常固体を操る妙な連中のことを言っているのだろうが、間違いなく奴らは魔族では無い。もっと人間に近い、別の何かだ。
一刀なら、もう少し詳しい話を聞けそうだが……この世界に存在する刻印装甲の数、ナグルファルが放っていると思われる魔力から察するに異常固体は存在しない。
奴らに出来ることと言えば、魔獣を生み出す程度が関の山。知性だって魔獣に毛が生えた程度で純粋な魔力は上位の魔獣にも満たない。

だが、そうなるとこの魔船も意味の分からん存在だ。頭部は魔獣の様な巨大な生命体である事に間違いは無いが、内部機構は機械などの人工物で出来ている。
数十キロ規模の巨大生命と人工物の融合船。魔族の知能ではこんな巨大な構造物の建造……いや、地球の戦史資料にすら記録されていなかった。
それを言うならシルヴァールを始めとする刻印装甲も十分に眉唾ものだ。補給や修理を必要とせず、魔力があれば理論上は永久的な活動可能で、欠損された部位も魔力で修復出来る。
その上、自意識らしきものまで持っている。ハイドラ戦以後、出て来ることは無いがヘブンランサーなどはシルヴァールから直接与えられた武装だ。

「まあ良い……今やるべきことは考察することでは無い」

両腕に雷電を纏い、思考の中にある武器庫から紫紺の槍を掴み取る。五つに分かれた穂先からプラズマが噴出し、五条の雷光が魔船の体内を走り
ガラス張りのような床や、イルミネーションと一体化したような壁、柱。目に付くもの全てを破壊し、恐らく、心臓部があるであろう方向目掛けて雷光を纏った槍を投擲する。
多分、届いていないだろうがな。

≪今まで溜まりに溜まったフラストレーションを発散するには良いかも知れませんね。こういう建造物を破壊するのって、ほら跪きなさい!みたいな感じで気持ちが良さそうですね≫

そう言って、嘉穂は指を弾き目に映る隔壁、ガラス張りのような床を瞬時に爆破破壊していく。

≪ちょっと楽しいですね。コレ。次に進みましょう!≫

何と無く、嘉穂がゲルヴィナードの玉座の中で恍惚の表情を浮かべている姿が思い浮かんだ。酒癖が悪い上に破壊魔……救いようが無い。

≪待て……アレを見ろ≫

破壊された壁の中から成人男性一人が丁度収まる程度の大きさの管が整然と並んでいる。中には粘性を持った培養液らしき液体が鮮やかな緑の光を放っていた。
そして、人の形らしき黒い影が、うっすらと見えている。

「これは……」

≪検める≫

アディンは短く一言呟いて、シェサイドの左腕を閃かせ管を切断し地面へと落とし、ガラスの破砕音にも似た甲高い音を鳴らして破片と、緑の培養液が床に飛び散った。

――中身は……!

だが、俺達に中身を見ていられるだけの猶予は無くなった。
背後から迫る獣の咆哮、全身が総毛立つ程の凝縮された魔力と殺気に俺達の勘が警鐘を鳴らした。


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