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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.8E

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irisjoker

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 まずだ。
 話を始める前に聞いておこうかね……お前さん達はギガラインについてどれぐらい知っている?

「ギガラインについて?」

 そう。
 あれがどういう経緯で生まれ、どういう経緯で用いられ始めたのか?……その顔を見るに知らないみたいだね。普段何気無く使っているものの歴史を考えてみるってのも中々楽しいもんだよ?今度から試してみるといい。

「……で、それがこの話とどう関係するのだ?」

 さっきも言った通り、この話は所謂“年寄りの戯言”さ。
 意味の無い事もあるだろうし、聞いてて眠たくなる事もあるだろうね。でも、そう急か急かせずにたまにはこう言う話を聞くのも悪くないと思うがね?どうせ駅に着くまで暇なんだろう?ちょっとぐらい付き合いなよ。

「…………」

 ……じゃあ、始めるとするかね。
ギガラインとは、大体100年ぐらい前に生まれたジャンクヤード間を繋ぐ高速鉄道……まぁこれぐらいなら誰でも知っている。ただ、これが“発掘”されたものと言う事は案外知られて無いらしいね。

「発掘!?これを?」

 そう。
 100年ぐらい前まではスチームヒルのような縦穴型のジャンクヤードの底に当たる場所でも有用なガラクタなんかが見つかっていたのさ。
 今じゃ大概の所じゃ完璧に掘り尽くされたがね。それで、その発掘の際にとあるスカベンジャーが側壁に妙に薄い箇所を見つけたんだ。
 気になって掘ってみればびっくり仰天。その先には何処までも続く巨大な空間が広がっていたと――それがギガラインの始まり。
 次いで今までジャンクヤード内で用いていたものより10倍近く巨大な機関車……まぁこいつの先頭になってる奴だね。これもその周辺で見つかった。今ギガラインの機関車として用いられている車両は全部そうやって見つかったもんなんだよ。
 人が作ったものなんて客車と駅以外には1つもない。レールだって元から敷いてあったからね。まったく手を加える必要が無かった。

「って事は、あの竪穴と同じようにギガラインも誰かが作って放って行ったという事か……」

 そう言う事になるね。それが一体何処の誰かは勿論分からんが、いいプレゼントを残してくれたものだよ。
 ギガラインの車両、レール、トンネル共に長年埋没していたとは思えないほどピカピカで、新品同様。すぐにでも使える状態だったとか。
 ただ問題もあった。折角見つけたこんな列車だが、これが一体何処に通じているのか……って事だね。
 それぞれのジャンクヤードは見つけた車両の試運転も兼ねてその暗闇に挑んで行き、で程なく気付いた。それぞれのトンネルがそれぞれのジャンクヤードと直線で繋がっている事に。
 これはとても大きな発見。今までバリードどもの跋扈する地上を命がけで旅していたキャラバン隊はあっという間に廃れ、
 代わりにギガラインと名付けられた列車達が安全な地下を大量の物資を積んで行き交い、人々の足にもなり、やがて無くてはならないものとなった……ってわけさ。

「……?“迷走列車”とやらは関係無いのか?」

 それはここから。
 そうやって運用され始めて半世紀ほど経った頃だったかね。
あの有名な“グレートマインズの悲劇”から1ヶ月……まだ全然持ち直せてない頃にそれは唐突に現れたのさ。

「少しいいか?“グレートマインズの悲劇”とは何だ?」

ああ、そこも説明が要ったかい?
スカベンジャーなんかの間じゃ、まことしやかに語られている話なんだけどね。「グレートマインズ」って言うここらじゃ最大級の規模を誇っていたジャンク山が、ある日突然一瞬の内に跡形も無く吹っ飛んだ事件があったんだ。勿論作業を行っていた大勢のスカベンジャーらも道連れにね。原因は諸説あるけど結局のところはっきりしないまま。
しかもその事件の影響で地下に溜まっていた高濃度の有毒物質が噴出したとか何とか言って、それが起きてもう半世紀以上経つってのにまだ跡地の半径数十キロは封地になっているのさ……まぁ、オカルト好きには堪らない事件だね。
それによるアタシらの損失も半端無くてね。一時期は運ぶ荷物が半分ぐらいにまで少なくなった事があったんだよ。

「…………」
「俺も聞いた事がある。一瞬で半径20キロ少々が吹き飛んだんだっけ?原因にも隕石説やら宇宙船説やら新兵器説やら色々あるらしいな。」

 ……じゃ、話を戻すよ?
 そいつは音も無く何処からとも無く現れ、車両をずたずたにした後あっという間に姿を消すという手口でいくつもの車両と貨物をパーにしてったのさ。
 ただそうやって襲撃した後に荷物を強奪した様子も無く、怪我人はいたけど死人は1人も出す事はなかった……後から思えばアタシらを追い出したいだけで殺すつもりは初めから無かったのだろうねぇ。
 まぁ開業してからそれまで事故らしい事故をほとんど起こした事のなかったギガラインとしては大打撃だったけど……俗に言う「安全神話の崩壊」って奴かね。

 それぞれのジャンクヤードを直線で結んだ隠れる場所もあるはずの無い所で、何処からともなく現れる幽霊列車――噂は尾びれが付きつつ瞬く間に広がり、
 グレートマインズの件での荷物どころか客足も遠退いていったね……ただ、そうやって黙ってやられているだけのアタシ達というわけでもない。
 調査の結果、あいつの動きと事故の発生場所には一種の規則性がある事が分かったんだ。
 それに則りアタシ達はありったけの武装列車を引き連れて、トンネル内で待ち伏せして憎っくき幽霊列車をぶち壊してやろうという計画を立て、そして実行したのさ。

 ……いやぁ、それはそれは瞳を閉じればすぐに脳裏に蘇るほどの激戦だったよ。
 無数の砲火が奴を穿ち、お返しと言わんばかりに奴もアームを振るい、武装列車や付属のマシンダムを殴り飛ばす――血沸き肉踊るとは正にこの事!もうアレ以上の戦いは楽しめないだろうねぇ。

「…………」

 ……ただ、結果は手放しで喜べるものじゃなかったのが心残りだけどねぇ。

「まさか、負けたとか?」

 いやいや、勝ったには勝ったさ。
 ただ……派手に撃ちまくったのが原因だろうね。脆くなってたらしいトンネルの内壁の一部が崩落してアタシらは生き埋めになっちゃったのさ。幸いジャンクヤードに連絡は入れられたから救助隊は来る手筈になったけど――


「けど?」

 そいつらが来る前に、アタシらは助かった……何故だと思う?

「…………」

 あいつが、幽霊列車が、自分もズタボロだというのにその身体に鞭打って、アタシらの上にあった瓦礫を取り除きつつ崩れそうだった上の壁を支えてたんだよ……勿論アタシらは一目散に逃げたさ。何より自分自身が可愛いからね。
 そして、それを見送って力尽きたように、あいつは再度崩落した壁に押し潰された。
 救助が到着したのはその後。もしあいつが助けてくれなきゃ、救助は間に合っていなかった。今ここでこうやって元気にしているのもあいつのお陰ってわけだね……

「そんな事が……」

 ……その後の内壁補修を兼ねた実地調査で分かったんだけどね。
 実はトンネルの外側には念入りに秘匿された50年以上使用されていてまるで気付かれなかった秘密の車庫が多数あって、その内部にはあいつと同型の車両が沢山眠っていたのさ。
 その内の一両が何らかの原因で目覚めてギガライン内を暴走状態で迷走していたらしい。見つかった車両達は再発防止の為に全部漏れなく処分され、以後そんな事件は起こらなくなった。
 で、その後幽霊列車は“迷走列車”と名を変え“グレートマインズの悲劇”と同じくまことしやかに語られる昔話の1つになった――というのが話の顛末。

「その車両が、今回遭遇したものと同じものだったと?」

 そういう事……ああ、もう1つ分かった事があってね。
 そいつらは形状や内部構造からして元々自律してトンネル内をパトロールし、修繕や警備を行う類の車両――いや、車両型のバリードだったらしい。あの沢山付いてたロボットアームはその為のものだった、と。
 それが何故眠りについていたかとか、良く分からない事はあるにはあるけど、その“迷走列車事件”で暴走していた車両はアタシらが戦った一両のみ……それだけははっきりしている。
 それにどうも輪郭が不自然で妙な雰囲気も纏ってはいたが、間違いない奴の姿をしていたからね、アレ。
 まぁ、まさか今更再び合間見える事になるとは、夢にも思っていなかったよ……

「……何故、そのようなモノが私達にあんな言葉を?」

 さて、ね。
 ただもうその後の改築なんかで車庫と本線を結ぶ接点は失われ、使われていない路線なんて分厚いコンクリート壁で封鎖された先にしかない。あいつが仕事を行う場所なんて何処にも無いって事だけは確かだよ。
 なんで今頃叩き起こされたのかは知らないけど、自分の存在意義もない世の中で生きていたくはなかったのだろうねぇ……ま、これはただの推測だけどさ。

(…………存在意義、か。)
「――――っと、アタシの昔話はこれでおしまい。婆ぁの長話に良く付き合ってくれたね、感謝するよ。」
「いや、私としても参考になった。礼を言う。」
「ああ、俺からも。迷走列車の話に付いてもだけどさっきは危ない所を助けてもらったからな。ありがとう。」
「いやいや、感謝する事はあってもされるような事はしていないさ。久々に色々話せたからね、楽しかったよ。」

そう言い、席を立つペーネ。
 つられるように次いで立つ俺とアリス。

「あー、そうだ。その帽子は返してもらうよ。見た所ウチの車掌(ボス)の物みたいだからね。」
「何でそんなもんをあいつが……」
「さぁ?ボスが迷走列車の姿に面食らって落としでもしたのかねぇ?」

 まぁ何にしろこれは俺が持ってた所で意味が無い物。本来の持ち主がいるなら返すべきだろう。そう考え、色落ち草臥れた車掌帽をペーネに手渡す。

「はいよ。」
「ああ、ありがとよ――じゃ、アタシは作業に戻るけど、お前さんらはどうする?」
「うーん……何か色々疲れたし部屋で休んどくよ。アリスは?」
「私も付いて行こう。」
「……じゃ、そういう事だからこれで失礼するよ。ああそうだ、あのマッチョメンに伝えておいてくれ。茶、旨かったって。」
「そうかい。ちゃんと伝えておくよ。」

 下へと通じる扉の前。
 見送るペーネと相対する俺とアリス。

「色々大変だろうけど、くじけず頑張りなよ?特に嬢ちゃんの方が妙に危なっかしく見えてねぇ……」
「そうか?」
「俺のほうが万倍危なっかしそうだけどな……ともかく、元気でな。」
「ふふ、元気なのだけが取り柄だよ。まだまだひよっこ共に教える事もあるしあと50年は生きないとねぇ?ふぇっふぇっふぇ!」
(俺なんかよりよっぽど元気そうだな……)

 その後口々に別れの挨拶を述べると背を向け分かれる2人と1人。
 遠ざかって行く2人を見送り、1人扉の前に残るペーネ。

「……あの子らを見てると、お前さんの小さかった頃を思い出すよ。」

 胸元にぶら下がった金色のロケットペンダント。
 それをおもむろに開けつつそう呟く。

「今頃何処で何やってんのかねぇ……レェン…………」

 しわくちゃの掌に握られたのは、あどけなく明るい笑みを浮かべる少年を写したモノクロの写真。
 普段の快活ぶりは鳴りを潜め、彼女はただただ酷く寂しげにそれを眺めるのだった……


 部屋に戻った俺達を待っていたのは、イグザゼンやバケモノが屋根の上でアレだけ暴れたと言うのに、幸せそうにぐっすり熟睡中のリョウとミッチーの姿だった。
 ちょっとぐらい気にしたらどうかと思うが、気にしたら気にしたでこいつ等らしくないと言えるかもしれない。
 そしてそんな幸せそうな寝顔を見ていると、こっちまで眠たくなってくるのが人の性。
 というわけで色々と疲れていたのも相まって、俺は夢の世界へレッツゴーする事となった……




「…………」

 ……どれだけ眠っていたのだろうか。
 列車は変わらず走り続けており、リョウとミッチーも変わらず熟睡中。
 アリスはというと、さっきと同じように姿を消していた。また食堂にでも行ったのだろうか?

「…………」

 枕元に置いておいた時計を眺める。
 針は3時とちょっと過ぎを指していた……外の静かさからして午前3時だろう。
 眠り始めた時間は覚えていないが、結構な時間眠っていたらしい。寝すぎて却って眠たいぐらいだ。

「ふぁあ……」

 だらしない欠伸を1つ。
 まだ到着にはかなり時間があるし、もう一眠りしようかとも思ったが、また姿を消したあの子の事が妙に気になっていた。さっきもそうだが一体1人で何をしているんだか……
 余計なお世話なのもよーく分かっているが、生憎一旦気になりだしたらどうしようもない性分。
 興味と好奇心に背を押された結果、部屋をそろりと抜け出し、またあの子の姿を深夜の列車内にて探す事と相成った。


 深夜の食堂。そこにいるのは窓際に座るただ1人。

「――――」

 隙間風が何処からとも無く吹き込み、私の肌を冷たく撫でる。
 破損した箇所を持ち寄った板で埋めたようだが、修繕が十分ではないのだろう。それに伴いガタガタと不自然な振動も小さく響き続けていた。

 耳に深く沈む静寂。
 光源は非常灯と極僅か。横切る者も誰1人として居らず、私はただ携えた白き書を眺むのみ。

(……何故、またここにいるのか?)

 同じ事を繰り返す私。自身でも理解は出来ない。
 彼の近くにいる必要は無いのか?と言われると無いわけが無いというのが答え。
 必要の無い事を繰り返し、無意味な思考を巡らし続け、その結果ここにいるのは私に不具合があるからだろうか?

「…………」

 分からない。
 ただ――彼と面と向かう事が、彼の近くにいる事が、何故か避けたいと感じる。
 勿論不快だからではない。だが確固たる意味があるからでもない。
 言うなれば感情的な――――

「……よっ。こんなとこで何してんだ?」

 ハッとして声のした方向を見据える。
 そこには彼――ディーの姿。

「大した意味は無い。お前こそこんな時間にどうした?」
「別に。ただ変に目が冴えちゃってな。」
「そうか。」
「…………隣、いいか?」
「ああ。」

 互いに意味も無く、ただ忘として椅子に身を委ねる。
 正面にある暗い窓にはそんな私達の姿が薄く映されていた。

「………………」
「………………」

 それきり言葉は続かない。2人の間に流れる沈黙。
 5分か、10分か……ただこういう時に限って時間と言うモノは酷く長く感じるもの。
 体感では1時間以上経過したかのようにも思えてくる――なんて考えている時だった。

「!」

 探知。状況確認。動体反応2。
 ただこのパターンは……

「そんな所で何をしている?」

 食堂の外へ通じる通路に視線のみ移し、それだけ言葉を投げかける。
 答えはすぐに返ってきた。

「うん?バレていたか。」
<ソンナ気ハシテタケドナー>

 壁の死角より現れた、食えない微笑を眼鏡の奥に浮かべる白髪の男とそのお供の一輪車。

「……なぁにしてんだ、お前ら?」
「何、早く寝すぎたせいかこんな時間に目が冴えてしまってね。折角だから外の空気を吸おうかと思ってウロウロしていたら君達の姿を見かけて、興味本位で覗いていただけさ。」
「覗いてないで話しかけろと。」
<イイ雰囲気?イイ雰囲気?>
「うるせぇ。」
<ウヴォアー>

 私達を見て楽しげにそういうリョウと、ディーに脳天より拳骨を見舞われたミッチー。
 そんな様子をまじまじと見ていると

「で、君達も寝付けないのかい?」

 なんて言ってくる。
 私にとってはそもそも睡眠など必要ですら無いのだが……

「ん~、まぁそんな感じだ。」
「なるほど。ただ明日の事もある。僕が言うのも何だが、夜更かしは程々に…………ん?」
<ドシター?>
「ディー、これは一体どうしたんだい?天井が応急処置の継ぎ接ぎだらけじゃないか。この様子だと何者かの攻撃に晒されたようだが、トンネル内でバリードの襲撃など……」
「ああ、その事なんだけどな。実は――」

 折角だから言っておこうかと、身振り手振り交えて一通り昨日の昼起きた出来事を説明するディー。
 そして頷き、感嘆の声を上げるリョウ。見た限り、こういう不可思議な事を彼は好んでいるようだ。

<イージャンイージャンスゲージャン?>
「……ふむ。現代に蘇った“迷走列車”か。実に興味深い。是非実物を見てみたかったね。」
「よくあの騒ぎで起きなかったと、こちとら感心しているけどな。」
「『常に己を貫く』というのが僕のポリシー。有象無象の騒音程度で僕を動かせると思ったら大間違いだよ?」
「へいへい……」
「――で、アリス君。君は今回の事をどう思うんだい?やっぱり君の背後に付き纏い、バール達を浚った何者か達の仕業と考えた方がいいのかな?」
「それは……」

 不意に私に話を振るリョウ。ただ彼がそう推理するのも無理は無い。
 あまりにも不自然な襲撃、励起獣の存在、そして奴の胸に組み込まれていた銀色の箱……これらの事実から推測するに

「ほぼ間違いないだろう。私やディーが奴の胸元に見止めた銀色の箱は、限定的にセカイの歪みを生じさせ励起獣を人工的に産み出し、
 大まかにだが制御する事を可能にする装置。あのようなモノを作り出せるのは、ありとあらゆるセカイを探したとしても彼らしかいまい。」
「そんなモノがピンポイントに僕らの前に現れたということはつまり、僕らの行動は彼らに筒抜けと?」
「そうなるな……」

 しかしこれは予想していた事。
 私がいた場所を難無く見つけ出した彼らだ。どのような手を用いているのかはさておき、私達に常時監視の目を向けるのも苦は無いのだろう。

「――って事は今後もあいつらは襲ってくるかもしれないんだな?」
「ああ・・・…ただ解せない事もある。」
「解せない事?」
「私達を本気で捕らえるつもり――もしくは亡き者にするつもりがあるのか、無いのか……もしあるのならばあの時シュバイゼンにトドメを刺され、
 私達はここにはいないのだろうが……とにかく、彼らの考えが読めん。まるで何かを試しているような、遊んでいるかのようにも思えるのだ。何の為にこのような事を……」
「考えすぎ――じゃなさそうだな。俺よりもアリスの方がそいつらとの付き合いは遥かに長いし。」
「―――――」

 “彼ら”。
 「誓い」を胸にセカイを跳び、“歪み”を正していた私に常に付き纏っていたどす黒い“影”。
 だがそうでありながら私はその全貌も、実態も、目的すら一切分からない。

「……まぁ、何にしろ俺達がやる事は変わらないんだろ?」
「そうだね。僕もあの屋敷にならきっと何かがあるという確信がある。こちらから何も出来ないのならかえってどっしりと構えたほうが精神衛生上実に健やか。火の粉が降りかかるのなら払えばいい、ぐらいの心意気でいいだろう。」
<ドンナ奴デモ指先1ツデダウンサ~>

 そのような得体の知れないものを相手にしているというのに、彼らはそんな事を言ってくれる。精神論でどうこうなるものではないが、しかし……

「…………」

 何故だろうか。そんな彼らの姿が酷く頼もしく見える。
 片やただの一般人、方や私無しではイグザゼンの力の断片すら用いられない者。
 セカイ外の怪異である励起獣や、それを束ねる“彼ら”相手にはあまりにも脆弱すぎるというのに。不思議なものだ。

「まぁ、無理はしないけどね……彼らを助ける為にとは言え死んでしまえば元も子もない。最大限に努力、工夫し、そして立ち向かえば、例え暗闇の中で右も左も分からないような状態からでもきっと光――チャンスは掴めるさ。このように、ね?」

 列車の窓を指しつつそう言う彼の言葉と同時に、闇――トンネルの内の闇が失せ、そして目に入ってきたのは……

「これは……」

 天に広がるはスチームヒルではまず見られない満天の星空。地に広がるのは地平線の先まで続く鉛色の荒野。前を向けばジャンクヤードの建造物だろうか、
 レールの先に小さな長方形の城壁らしきものが見止められ、後ろを向けば巨大な山肌に穿たれたトンネルより列車が高速で抜け出ていた。

「こいつは――すげぇ…………」
「スチームヒルが台地の上にある事を知らなかったのかい?」

 窓の外に身を乗り出し食い入るように見つめるディーに対し、からかう様に微笑を浮かべそう問うリョウ。

「いや、それは知ってるけど……でも、実際にこうして出てみると……」
「僕も始めて見た時は感動したよ。今は別の意味で感動してるけどね。」
<スゲーナー!ピッタリダッタジャンカ!リョーチャンガトンネルカラ出シタカト思ッタゼ!!>
「丁度いい時間だったからね。中々だったろう?」

 満足げにそういうリョウとディーと共に外を楽しげに見つめるミッチー。
 3人の背後よりその姿を見つめる私。

「…………」

 彼が言ったように、例え私でも逃れられぬ闇より抜け出す事は出来るのだろうか?そして光は掴めるのだろうか?

「…………」

 遠く、視線を移す。
 掴めるのならば。もしそうならば、もしそうならば……

(そうならば……!)

 もしそうならば。――――続く言葉は、私の口から出る事は無かった。


 列車は走る。彼らを乗せて。
 目指すはジャンクヤード「アクアリング」。
 新天地にて彼らは何を見、何を思い、そして何より、何を知る……?

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