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「少女機甲録・イナバが大陸奥地に送られるようです・1

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戦略爆撃機B-52による第121次大陸焦土作戦の最中、それが観測されたのは偶然によるものが大きい。
Stratofortress…成層圏の要塞と名づけられたこの超大型戦略爆撃機は、ユニオン空軍が大陸における
ワームの進行を食い止めるため、また大陸奥地に存在するワームの繁殖拠点を攻撃するために
約16,000kmもの長大な航続距離と最大31.5tもの爆弾搭載能力を要求・開発された、現時点世界最大の航空機である。
その名前が指すとおり、超高高度からの爆撃を行うために、ワームの航空戦力は
迎撃に上がってくる事は出来ないし、地上からの対空射撃も絶対に届く事は不可能。
まさに、無敵の要塞である。

この爆撃機の登場以来、人類はワームに対する焦土作戦…ワームが餌としている共生植物を焼き払い、
忌まわしいタコの怪物どもを飢え死にさせるという、唯一ワームとの戦いで大きな効果のあった戦術を
それまでの陸上での焼夷榴弾・ロケット砲撃から航空作戦へと完全に切り替えた。
700機近く生産されたB-52はその殆どが大陸戦に投入され、大陸撤退後も在日本ユニオン軍基地より
定期的に大陸奥地への爆撃は継続され、そして一定の効果を確認しつつある。
ワームは爆撃によって土地が焼き払われると、その回復のためにリソースを消費する。
大陸でのワームの領土に傷を与えれば与えるほど、その傷を治すために日本や欧州圏への侵攻の手は緩くなる。
それらは確実に、日本での水際防衛や東欧絶対防衛線で死闘を繰り広げるNATO軍への支援となった。

だが、大陸におけるワームの損害の中に、明らかに爆撃作戦とは異なる、理由のつかないワームの勢力減少が観測されていた。
焦土化した土地での共生植物の激減による、ワーム同士の共食い減少ではない。
共生植物を失って飢えたワームがお互いに喰らい合う事は、珍しくない。
日本国内や欧州の戦線でも、自分たちの領土から突出しすぎたワームの兵団が、「補給切れ」で共食いに走る事は観測されている。
焦土作戦の影響による小~中規模な共食い減少はこれまでも高高度偵察機によって確認済みだ。

だが、その日、第121大陸焦土作戦に参加した第71戦略爆撃飛行隊の操縦士や爆撃手たちが地上に発見したものは、
自分たちがこれから爆撃を開始する予定だった地域一帯に置いて、高高度からでも観測できるくらいの広範囲にわたって
夥しい数のワームの死骸、戦闘の痕跡であった。

第122大陸焦土作戦…正式名称「第1次大陸降下・強襲偵察作戦」

第74戦略爆撃飛行隊「スクイドバスターズ」の所属機体、「ラビットエクスプレス」の爆弾倉に格納されているのは
今回に限っては特殊化学焼夷弾でもなければ、BLU-82/B爆弾、通称デイジーカッターでもない。
ユニオン軍海兵隊に所属する重装甲強化歩兵、パワードスーツ、「機士」である。
海兵隊に配備されているのは第三世代型機士「M1エイブラムス」の派生・改良機である「M1A1」。
陸軍に配備されているM1A2とは装備の火力面でやや劣るものの、電子装備や駆動系では遜色ない。
そのM1A1が3機も、B-52の巨大な腹の中に納まって高高度を飛行している。
パイロットは既に機士の操縦室の中だ。

ユニオン海兵隊に軍籍を置いている、WAVEであるティアーナ・稲葉少尉(日米ハーフ)はM1A1の操縦室の中で
グリップに付いているカーソルキーをぐりぐりと親指で上下左右にこねくり回し、カメラの作動確認を行っている。
身長150センチに満たない小柄な彼女は、狭く息苦しい機士の操縦士にはかなり適性があると言われていたが、
その彼女自身、M1A1の操縦室は狭い、と思う。
操縦室内では動く場所は殆ど無い。 目の前にあるのは、HMD越しにある操縦室の内壁だ。
背中側にあるのは、シートだ。 その隙間、数十センチしかないスペースにティアーナの小さい身体が収まっている。
まあ、パワードスーツというものは、本来「着るもの」であるからして、それが4mの巨人サイズに
なった所で中に納まる人間にはやはり、狭い事には変わり無い。
むしろ、完全マスタースレイブ式の等身大スーツタイプの方が、自由に手足を動かせる。
加えて、ティアーナの操縦室内での姿勢はの姿勢は、やや腰を屈めた状態で、本の少し前傾姿勢になった
「空気椅子」をやらされている状態で固定されており、何時間も機士の中に入っていると気分が悪くなり、頭痛がしてくる。

普段、機士に長時間乗っている事はあまり無い。
機士の連続稼働時間はバッテリーの容量の関係で、最大出力で1時間だ。
もちろんバッテリー切れになりそうになったら外付けバッテリーパックを交換すれば、幾らでも延長は可能である。
が、生身の人間の歩兵がそうであるように、10数時間以上も不眠不休で戦い続けるなんて事は、特殊な任務の例を除いて無い。
兵士の体力や精神が持たないからだ。 あと、腹も減るしトイレにも行きたい。
小休止のための交代ぐらい入れるものである。
だが、ティアーナは機士の操縦室に乗り込んで、爆撃機で快適とはいえない空のたびを続ける事、既に8時間である。
降りたいと思うし、爆撃機のキャビンでいいから休憩したいとおもうのだが、それは出来ない。
爆弾倉内に機士が格納された時点で、機士は降下準備態勢のまま固定され、背中のハッチは開ける事が出来なくなっているからだ。
いや、開ける事は出来る。 だが、爆弾倉内の壁と干渉して、半分しかハッチが開かない。
そして、その狭い隙間から、いくら小柄と言ってもティアーナが外に出る事は不可能である。

そんなわけで、ティアーナにできることと言ったら、操縦室内でM1A1の頭部メインカメラをぐりぐり回して
爆弾倉内の様子を延々と観察するか、マニュピレーターを操作して「一人ジャンケン」をするしか無いのである。
一人ジャンケンが通算14683戦0勝0敗14683引き分けに到達し、それらにも飽きた頃、ついにティアーナは爆発した。
燃料気化爆弾的な意味で。

「うっがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
いったい何時までこんなカンオケ状態で閉じ込められなきゃいけないのよ!!!?
馬鹿なの!? 死ぬの!? どこのどいつよこんな非人道的な輸送方法を考え付いた奴は!!!
喉はカラカラだし体のアチコチは痛いしで散々よ!! もう死ぬ!! 投下地点に到着する前にあたし死ぬ!!」

『少尉、喉が渇いたら飲料水パックからチューブで水が飲めるはずだろう』

操縦室内で大声で喚き散らすティアーナにB-52の操縦室から無線が入る。
中年の機長の落ち着いた声はAWACSスカイアイやサンダーヘッドにも劣らない渋い美声というもっぱらの評判だが、
今のティアーナにはそういう事はどうでも良かった。 あと、個人的にオッサンには興味ないらしい。


「水飲んだらオシッコしたくなるでしょうが!! トイレにも行けないし!! 漏らせってか!?
年頃の乙女に操縦室内で漏らせってか!! そりゃ、オムツパックはしっかり装着してますよ!!
空軍用のだけど!! でもこんなんで用を足せるのはあんたらイカレ空軍のパイロット達だけじゃ!!」

長距離・長時間を飛行する空軍のパイロットは飛行服の下にオムツを装着している。
無論、ティアーナも出撃前に装着した。 だがこのオムツ、下半身が妙にもっさりして履き心地が悪い。

『なあに、慣れれば平気なもんさ。 たまにはクソミソまみれで雲の上の旅をするのも、いいもんかもしれない』

「おいやめろ、この作戦は早くも中止ですね」

『そういうな、私はこのあいだ、スティーブと賭けをしてな。 どちらがキングベヒんもス級のブツを…』

「恥知らずな機長がいた!! あたしは下ネタ大嫌いなんだが相手が残念な事にウンコの話をしてくるので
お前ハイスラでボコるわ・・!!」

その機長(43歳、妻と3人の子持ち 故郷はミネソタ州)がティアーナに対してナメタ言葉を使うことでティアーナの怒りが有頂天になった。
この怒りはしばらくおさまる事を知らないかと思われたが、副機長が割り込んで口を挟み、機長に報告をする。
別にブロント語をアッピルなどしていないが、この副機長は本能的に長寿タイプ。

『…機長、少尉、もうそろそろ降下地点ですので』

『了解した。 少尉、降下の手順と、回収方法の再確認を。
少尉とM1A1はこのまま爆弾倉を開き、装備および任務に必要な機材を格納したコンテナとともに地上に投下される。
高度1000まで自由落下、以後、パラシュートを開く。 ワームの飛行タイプや対空タイプの放火が無いよう、
先行する爆撃隊が事前に絨毯爆撃を行っている手はずだが、討ち漏らしがあるかもしれないので注意してくれ。
少尉はこれから1週間、ワーム占領地域における単独の観測活動に従事する事になるが、任務達成後は
予定回収ポイントにてAC-130、MC-130の4機によるフルトン回収システムで強行回収を行う』
フルトン回収システムとは、簡単に言うと紐付きの風船を飛ばして、それを航空機に引っ掛けて、
兵員を吊り下げて回収する脱出方式である。 詳しくはMGS3かグーグル先生を参照。
ちなみに、今回はそれを機士で行う。 機士の平均重量は6~8tもあるので、回収機も複数がかりである。

「…それはいいけどさ、本当に来るの? 回収。
送るだけ送って、後知りません、帰ってこれませんじゃゴメンよ?
ジャップのカミカゼスーサイドじゃあるまいし。 あたしはクレイジーでもテンノーヘーカバンザーイでもないんだから」

『少尉は半分ジャパニーズだろう。 そして、少尉が忠誠を誓うのは星条旗だ。
我らユニオンの自由主義のため、そして人類の平和と繁栄のため、我々軍人は命を捧げる義務がある』

「はいはいわかってますよ。

Other nations may deem their flags the best
And cheer them with fervid elation
But the flag of the North and South and West
Is the flag of flags, the flag of Freedom's nation.

星条旗よ永遠なれってね」

ティアーナが少々投槍気味に歌の歌詞を引用すると、機長もその美声を発揮して歌った。

『どちらかというと国歌の方を歌うべきだな。 そちらは明るすぎる。

O! say can you see by the dawn's early light,
What so proudly we hailed at the twilight's last gleaming,
Whose broad stripes and bright stars through the perilous fight,
O'er the ramparts we watch'd, were so gallantly streaming?
And the Rockets' red glare, the Bombs bursting in air,
Gave proof through the night that our Flag was still there

身が引き締まる思いがしないか?』

が、ティアーナはさほど同意する気にはれなかったようだった。

「あたしは今だけ半分の日本人の方になりたい気分よ。
こんなクソ任務を命令してきた国防総省(ペンタゴン)にクソッタレって言ってやれるから」

『…腐るな、少尉。 これは君にしか出来ない任務だ。 だから君が選ばれた。
君の活躍いかんに、我がユニオンの、ひいては人類の未来がかかっているかもしれないのだ。

…さて、投下予定地点、時刻もぴったりだ。 これよりラビット1を地上に投下する。
幸運を祈る、少尉』

ガクン、と音、ついで振動がM1A1の機体に伝わり、真下の爆弾投下扉が左右に開いてゆく。
高度数千メートル、HMD越しの眼下には雲、そしてそのさらに下のミニチュアの様な地面が見える。
完全に開ききった所で、ティーアーナの乗るM1A1の固定具が解除され、地上に向けて自由落下が開始された。
フワっ…という無重力感に、ティアーナはちょっと気持ち悪さを覚えた。

「…なにが、活躍いかんよ。 大陸のワームの支配地域で、よくわかんない事が起こってるから、
実際に行って見て来いってだけの話でしょうが。
何があるのか現地に行かなきゃわからないんだし、何か起こってたからって、それをどうしろってのよ。
『記録観察』だけすればいいなら、無人のUAVでも送れば良いじゃない。
なんで、生身の人間が、よりによってあたしが行かされなきゃならんのだ」

はるか先の地上に向かって高速で落下しながら、ティアーナはだれにも聞こえない愚痴を吐いていた。
投下された時点で無線通信は切れている。
つくづく自分の家系は運が無い、と思った。
ティアーナの家には先祖の頃から災難にばかり見舞われているというジンクスがある。
聞けば、日本に住んでいるという従姉妹も、まだ学生だというのに半ば強制的な徴兵に近い形で「志願兵」にさせられたと言う。
在日本ユニオン軍の士官だった父が、日本人の母に一目ぼれし、母の実家の反対を押切って結婚。
連れ帰った先のユニオンで、ティアーナは生まれた。

母の祖国である日本の土地を初めて踏んだのは、数時間前。
B-52に機士ごと押し込まれる前の、数十分しか滞在する事は無かった。 感傷に浸る暇も無い。
そして今は、見知らぬ異郷、それもワームに占領され、人類が住んでいた頃の形跡など30年も前に破壊されつくした
大陸の奥地へと、命令によって送り込まれている。

「……なんで軍隊なんか入っちゃったかなー。 よりによって、海兵隊」

今更悔やんでも後の祭りだ。
考える間にも降下は続き、みるみるミニチュアの地上が接近してくる。 手を伸ばせば届きそうな錯覚すらある。
高度が1000mに到達して自動的に、事前に取り付けられていたパラシュートが開く。
機士の重量を支える、空挺特殊作戦用のパラシュートだ。
本来は、空挺用機士「M551シェリダン」の装備であるが、M1系統にも流用できる。
なお、M551は空挺用として主に緊急展開部隊に配備されたが、軽量さが災いし着地の衝撃で繊細な内装電子装備や
外部取り付け機器が破損するという事故が多発し、信頼性が低かったために早々に退役してしまっている。

装備コンテナの方を確認すると、そちらも無事、パラシュートが開かれたとの信号を送ってきた。

「味方も無く、支援もなく、敵地のど真ん中にただ独り、立つ、か…
しかも最悪な事に、迎撃が上がってきてるじゃないのよコンチクショウ!!
なにが事前に絨毯爆撃よ!? 討ち漏らしどころかしっかり生き残ってんじゃない!!」

M1A1のセンサーに反応を示したのは、飛行型のワーム・タイプG。
なお、タイプ○(アルファベット)というのはユニオンや日本での呼称で、NATO軍のコードではタイプGを「タゲス」と呼んでいる。
タイプG、タゲスは欧州戦線ではよく見られる種類で、胴体に2基の生体ロケット噴射口を持ち、さらに4本の足の先からも
ロケット噴射を行い、それらの推進力と姿勢制御で短時間ながら飛行を行うワームである。
攻撃は、残り4本の足のうち2本の先端にある鋭い爪と、さらに残りの2本の先端から高速で射出する涙滴状の硬質化した弾丸である。
空を飛ぶものに対して熱心な反応を見せて襲い掛かってくるタイプGは、航空戦力の薄いかつての大陸極東戦線や
日本本土では見られなかったし、燃料持続時間の関係でB-52の飛行する高度までは上がってこれない。
ティアーナが降下するまでは、遭遇するはずも無かった敵である。

ジーザスと国防総省にたっぷり10万回はファックと罵ってからティアーナはグリップを操作し、
M1A1の右腕に装備された30ミリ機関砲を上がってくるタイプGに向ける。

「こっちはパラシュート開いて身動きが取れないってゆーのに!!
なんでこう、一番間の悪いときに来んのよこいつらは!?」

叫びながらトリガーを押し込むと、30ミリ機関砲が炎を吹き、HVAP(高速徹甲弾)が襲い来る数匹のタイプGたちに吸い込まれて行った。

「…パラシュート撃ちぬかれるとは思って無かったわ」

数分後、ティアーナの乗ったM1A1は奇跡的に「着地」に成功していた。
高度600mでタイプGの撃った弾丸によってパラシュートに穴が開き、急速に地面に落下したと言ったほうが正確であるが。
ティアーナの墜落した地点は、ワームの共生植物が他の原生植物を押しのけて繁殖し群生している地域であった。
既存生態系を破壊しまくり、地面の養分を吸い上げまくって成長した巨大なキノコ…マイタケか何かに似ている…に
激突するような形でめり込んだM1A1は、ちょうど共生植物が衝撃緩衝材になる形でどうにか破損は免れ、
内部のティアーナもほぼ無傷であった。
その代わり、M1A1の装甲が共生植物の奇妙な汁でベトベトになって居たが。


「あーもう!! M1系の装甲が頑丈だから良かったものの、コンテナはどこに落ちて行ったのかわかんないし、
センサー類の幾つかが被弾してオシャカだし、機関砲は取れてどこかに行っちゃうし、さんざんよ!!
てゆーかタイプGがアジアにいるなんて聞いてないわよ!!」




M1A1をめり込んだ共生植物から抜け出させるのに四苦八苦しながらティアーナは八つ当たり気味に喚いた。
これに関しては情報部の怠慢を責めてはいけない。
ユニオンや日本を含めた各国とも、タイプGはアジア方面には生息して無いか、居てもごく少数だと思われていたのである。
それだけ、活動確認数は少ない。
そのタイプGたちはティアーナというか、共生植物の森の上空を、見失った獲物を求めて旋回している。
だが、彼らの飛行持続時間は短いので、補給のためにすぐどこかに行ってしまうだろう。

「・・・とりあえず、コンテナ探さなきゃ、装備も無いし食料も無い。 機士から降りる事もできやしない。
一週間もトイレ我慢とか無理。 無理ったら絶対無理。 あーもう、センサー壊れてなきゃせめてどこに落ちたのか信号でわかるのに!!」

現状、同じようにパラシュートを撃たれて落っこちたと思われるコンテナは、M1A1のセンサー系が一部故障したために不明だ。
本当はコンテナは居場所を示すビーコンを発信しているため、着地後に迅速にコンテナ着地地点に向かう事が出来たはずだが、今は無理だ。
コンテナに格納されているのは、M1A1用の装備と弾薬、活動に必要な交換バッテリー、ティアーナがワームだらけの敵地で
一週間を過ごすために必要な食料や、生活用品、簡易のキャンプシェルター、他、観測記録機材などである。
これらが無ければ、ティアーナはワームに襲われても戦う事も出来ないし、機士を降りて休憩する事も出来ない。
いやそれ以前に、機士は前述の通りバッテリーで動いている。
最大出力モード、全力稼動で1時間。 省電力モードで延ばしに延ばして6時間が機士の活動限界だ。
バッテリーがなくなると、ティアーナは本当に生身だけでワームと対峙するハメになる。
一応、機士に乗る前に操縦士服として軽量のパワードスーツも着ている。 これは対衝撃防護服の役割を果たす。
しかし、所詮これはインナーである。
人間同士での取っ組み合いでは多少の筋力補助をしてくれるため、小柄なティアーナでもマッチョメンの海兵隊員と
互角に戦う事が出来るが、ワームの触手の筋力の前では玩具同然だ。

(まあ生身も充分鍛えてるけどね、あたしは。 一応海兵隊員だし)


ジャングルでのサバイバル技術なんかは一通り訓練を受けているため、苛酷な環境でも生き残る自身はある、いや、あった。
だが、ティアーナは周囲の、共生植物で覆われ、大陸本来の動植物が殆ど見られなくなっている状態のこの異形の森を
見る内に、その自身もだんだんなくなって来る気がする。
大木サイズから草サイズまで、大小の生い茂る共生植物を掻き分けども掻き分けども、共生植物以外の
地面から生えているものが全く見当たらない。
なんとなく、異世界というか、地球ではない別の惑星に来てしまったかのような錯覚すら覚える。
土地も、山も、空も、全てティアーナの母国であるユニオンや、半分血の流れる母の祖国である日本がある地球であるというのに。
ここは、あまりにも異質すぎる。 見た事の無い奇妙なキノコばかり生えている世界だ。

「…もし、コンテナが見つからなかったら、あたしはこのキノコのお化けを食料にしなきゃいけないのかしら。
わーい、ワームの仲間入り。 ほーら同じもの食べてますよー僕らはわかりあえる仲間なんだー。
食べたら確実にヤバい幻覚見そうなキノコばっかしだけどね!!」

つまり、これを主食にしているワームは幻覚を見ている事になるんだろうか。
くだらない事を考えながら当ても無く共生植物の森をウロウロしていると、ふと、M1A1の能力低下したセンサーに
何かの反応があるのにティアーナは気付いた。

「…ん、動体センサーに感。 大きさは…1m? 動物?」

反応のある方向にカメラを向けて、ズームで拡大して見る。
HMDに表示されるそこには一見、何も無い、ただの地面があるように思える。

「おかしいな…? 映像を熱源センサーに切り替え」

音声命令で、センサーのモードを切り替える。
動体センサーは動くものに対して反応を示すが、動かないでじっとしている物には感度が鈍い。
そこに何か動いているものが居て、体温を持つ動物なら、熱・赤外線を放出しているはずだ。
そして確かに、反応はあった。

体温は低くやはり反応が鈍かったが、明らかに周囲の温度とは異なる熱を持つ生物。
地面の色と保護色で同化している、約1mの大きさの8本足の生物が。

「……っ!! タイプF!! カルキノス!! ヤバいヤバいヤバいっ!!」

M1A1の左腕に装着されていた近接兵装、Mk-20超電磁パイルが起動、杭状の先端部を展開し、そして全力でタイプFにダッシュ。
保護色を解除したタイプFもM1A1に突進してくるが、その反応よりも速くティアーナは電磁パイルの先端を
タイプFの丸い甲羅上の背中に付きこみ、そしてトリガーを押した。
瞬間的に放電される、数千万ボルトの高圧電流がタイプFの内部を焼き焦がし、周囲に肉の焼ける匂いが漂う。
パイルを引き抜くと、そこには内側から焼かれ、「焼きタコ」となった小型ワームの死骸が鎮座していた。

「バッテリーの20%使っちゃたわ…。 でも危なかった。 あいつは自爆特攻してくるから厄介…」

ほっと一息つこうとしたティアーナは、センサーにさらに複数の反応があるのに気が付いた。
見れば、十数匹のタイプFが保護色を解除し、8本の足を踏みしめてこちらに突撃体勢を取っている。
それを見たティアーナは、M1A1を今度は逆に、タイプFらの群れとは反対方向に向かってダッシュさせた。

「だああああああああ!! もう!! あんなに相手してられないわよおおおおおおおお!!!」

タイプF、NATOコード名ではカルキノス。 偵察型。 1mサイズと小型だが、体内に化学反応榴弾を抱え込み自爆攻撃を行う。
一体一体は大した事が無いが、集団で襲い掛かられると脅威となる敵である。
ただし、通常は偵察に徹するため、攻撃されなければ積極的に攻撃はしてこない。
保護色(ステルス)モードでの被発見率の低さは特筆に価し、浸透して戦線後方にまで入り込まれているケースはよくある。

ティアーナはタイプFが保護色モードを解除したので特攻される前に先手を取って潰したつもりだったが、
逆に集団同行していた他のタイプFを刺激する結果となり、やぶ蛇となったのであった。


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