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守護機兵Xガードナー 月奪還作戦(オペレーション・ムーンテイカー)編 第6話

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irisjoker

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   第六章【シャット・アウト・コミュニケーション】

 首筋にまた、ドクン、と安定剤が流れ込む。荒れた心が落ち着く、いや、落ち着かせられた。
 眼下に広がる残骸、自分が破壊した物にぶつかりながら目標の要塞へ突き進む、甲虫型の機体《ブラックメイル》だ。
 そのパイロット、ミア・キャイリーは酷くやつれ虚ろな表情だ。明るく元気な少女の姿は見る影もない。
 また一機、こちらに向かう侵攻軍のマシン《ギルガ》が攻撃を仕掛けてきた。
 連続する弾丸が装甲を傷付けるも、ダメージには至らない。攻撃が効かないとなると、ギルガは腰の剣を抜き接近戦を仕掛ける。
「…」
 《ブラックメイル》の背の装甲が開く。発射口がほのかに光る。
 バシュン!
 電気を帯びたニードルが《ギルガ》を貫き、真っ二つに分断、四散した。
「…」
 作業的に、何の感情も無く、ただ前の塵を排除するだけだった。
『後方カラ高速で接近スル機体アリ。識別、味方機…通信回線ヲ開キマス』
 光の軌跡を描きながら、深い青色の戦闘機がこちらに向かってきた。
『ミア?!聞こえるか!ミア!』
 戦闘機が人型に変形する。
 ガードナーX-02、サイバ・ドールの専用機だ。
『返事をしろミア!お前、こんな事をする為に宇宙に上がって来たんじゃないだろ?』
 サイバは叫ぶ。
『確かに今は戦争だ、現に今、俺達は勝っている…お前のお陰でな。だが、こんな一方的な戦いはヒーロー的じゃない!それはお前も感じてるはずだ!悪役の様な活躍で満足なのかよ、ミア!』
 さらに続く。
『約束したよな?一緒にヴァンゼルガーのアニメの続き見ようって!いいのか?准将の所に帰るのか?一生あの男の奴隷だぞ?振り出しに戻って日陰暮らしでも良いのかよ!…返事をしろ!』
 サイバが感情的になる事は、あの日以来、滅多にない。常に冷静でいる事が自分のキャラだと思って、思い込む事にした。それが今、決壊しかけていた。
『ミア!』
「…避けて」
 レーダーに熱源反応。射線軸から即座に離れる。二条の太い光が二機の間を通り過ぎる。後方で艦艇の反応が幾つか消えた。


「十…いや二十かなぁ?フフフ、スコアが増える増える。でも目の前の二機、仕損じたなぁ…クソがぁ」
 リヴァ・ティニーは中指を立てた。
「あのゴキブリもどき、得点高そう!次はイタダキィ…」
 そう言って親指を下にグッとする。
「にしても、この機体すごいよ!気分爽快!最高にハイ!って奴ぅ?」
 狂う様に嬉しがるリヴァ。
『リヴァの嬢ちゃん、あの青い奴は俺にヤラせてくれよ?アレ、知り合いクサイいんだ』
 舌ナメずりをしながら髪をかき揚げるジェイミー・グリンガー。
「いいよぉ?カトンボは任せたよジェイミ…ジェイル・オーバー。あのゴキブリ絶対ブッコロシちゃうからぁ?フフ…フフフフヘフフ」
(良い感じに壊れちゃってるなぁ。まぁシラネ。俺は、人形野郎をしとめるだけだ)


「なんだあれは?蟹か?」
 赤い蟹の様な巨大な機体が接近してくる。
「ミア、気を付けろ。何があるか分からんからな!警戒しろ」
『…う、ぐぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!』
ミアの《ブラックメイル》が急に加速し、蟹型メカへと向かっていく。
「ちぃ、言ってるそばから…接近する機体?正面だと!?早い…懐に入られるッ!?」
 X-02の二刀のレーザーブレードと、敵機の巨大な斧の様な武器が鍔迫り合う。
 接触通信。
「久しぶりだなぁ、ドール!」
「その声は、ジェイミー?ジェイミーか?!…貴様」
「“人形風情”がァ女の様な名前で俺を呼ぶなァッ!ドゥォォォールゥゥ!」

「ひ、被害状況をっ!」
 ルーナ・ルージュが叫ぶ。艦が大きく揺れ、艦長帽が床に落ちる。
「損傷は軽微、何の問題もありません…ですが」
 眼鏡のオペレーター、マーク・リンク伍長。スクリーンに映し出される3Dの戦場マップ。
 味方を示す青いマーカーが敵機の放つ一直線状の攻撃で消える。
「後続の艦隊の36パーセントが撃沈。旗艦は無事のようです」
「…艦長、前に出ますか」
 そう言ったのは副長のグラン・バール。ブリッジ内が騒然とする。
「あえて前へ」
「で、でも私達には旗艦の護衛の任務が」
 ルーナは焦る。
「今の見たでしょう?あれだけの距離からの射撃、大型アーマー兵器の威力じゃありません。ここは我々が奴を叩く他ありません。この艦には他にはないバリアフィールドがありますし、幸い、今、敵の数も手薄です。やるなら今です」
「けど…でも、ガードナー隊は…」
 グランの平手が飛ぶ。よろめいた所で胸ぐらを掴む。
「ルーナ・ルージュ、今何をやっているか解りますか?戦争をしているんですよ。一刻一秒無駄に出来ない状況なんですよ。なのに貴方は…」
 二発目が、しかし。
「そのくらいしたどうスか?副長」
 振り上げる手を掴むのは操舵手のアレキサン。
「決めるのはアンタじゃない艦長だ!」
「私は実戦経験の乏しい艦長が正しい判断が出来ない場合、代わりに艦を指揮する権限が与えられている」
「だからって殴る必要は無いだろ!」
「本当なら撃ってる」
 一触即発のブリッジ。それを止めたのは、
「やめて!…ごめんなさい、私の…私が全部悪いの」
 ルーナだ。
「副長は正しい。私のワガママで混乱させるわけにはいかないもの」
 涙の跡を袖で拭く。
「艦を前進させてください」
 ルーナの言葉にアレキサンはグランを睨みつつ自分の座席へ。
「…それで副長、使うんですか?」
「えぇ、アレを使います」
「やっぱり」
「今まで貴方が使わなかったんです。戦艦なのに使わない方がそもそもおかしいんですよ」
「…」
「手を汚さないで戦争だなんて…甘いですよ、艦長。ヒーローごっこじゃないんですから」


 真っ直ぐ突き進む光が幾つもの艦を墜とす様をシュートも確認した。
 一体、どれだけ敵機と戦ってきたか解らない。残りの弾も少なくなってきている。
 一旦、艦に戻って補給をしたい所だが敵はまだ来る。
「うっとうしい奴だ!そんなに戦うのが好きなのかよ!」

 アドレナリンが大量に分泌され“ハイ”になっていた。
「…一、二、三ッ、四ィッ!遅い、ノロマ共が!」
 リズムよく確実に撃墜していく。
 正確にコクピットへ射撃し、粒子の剣で分断。鬼の形相で次々と撃墜する。
「次々、来い!どいつだ!」

 静寂。

 荒い息遣いがコクピットに響く。グルグルと見回すが気配は無い。
「終わり…もう終わり?」
 額に汗が垂れ、体が凄く暑かった。少し目眩がした。
「まだ向こうに敵がいそうだ」
 機体を反転させる。その時、レーダーに警告音。
『熱源反応高速デ接近スル機体アリ』
「速い、今までの奴とは違う」
 レーダーに敵を示す赤い光点がこちらに向かう。
「速すぎる!もう来るか!」

 それは黒い影だった。こちらには攻撃せず、通り過ぎるだけだった。

「俺は見たことある…あれを」

 アルターアイが視せるビジョンが過去と現実を繋げる。

「あれは…兄さんの…ガードナーだ…」

 ビークはまだ出撃してはいなかった。基地の中、ドライドのコクピットで未だ待機中。

『アタシの事、心配してくれるんだ?ビークも丸くなったもんだね。大丈夫だよ、アタシは負けない。ちょちょいっと行ってやっつけてやるんだから!』

 先に出撃したリヴァが残した言葉。
(だが、妙に気にはなる。あの大型アーマー《カニバル》は明らかに我が軍のマシンと技術や系統が異なる。異質、何かおかしい)
 イラつくと貧乏揺すりが止まらない。
「辛抱ならん!俺は出る!」
『待て大尉、出撃命令は出ていない!』
「そろそろ加勢も必要だろう!出撃する」
 司令官を無視してビークの《ドライド》は発進した。


 戦況はビークが思っていたより酷かった。
 敵味方の残骸が所狭しと浮遊している。正に、宇宙の墓場。
「こいつは…どういうことだ?」
 機内に激しいアラーム音。遙か後方、高出力のエネルギーの反応。
「なんだ?!」
 また、高エネルギー反応。次は別の所からの発射だ。
「二つの反応…一つはリヴァか?…もう一つは何か?」
 機体を反転、二機の反応がする空域へブースターを吹かす。


「イイよイイよぉ凄いイイ!ボス戦って興奮するぅー!」

 リヴァは鼻息を荒くした。
「カニバルのカニバサミッ!」
 二つのクローが高速回転しながら《ブラックメイル》へ飛ぶ。両端の装甲を削った。
「チッ、当たらんなぁ」
 ワイヤーで繋がったクローを巻き取りながら、
「なら…必殺のアレを使うしかー…通信?」

「リヴァ!聞いているか?」
『ビークゥ?!何よ今イイ所なんだから邪魔をしないでよ!折角の楽しみが台無しじゃない』
「リヴァ?お前、大丈夫か?何か変だぞ?」
『オカシイ?アタシは正常よ?アドレナリンが分泌され最高にハイッ!って感じだけど?ハハ』
 様子がおかしい、冷静さを失っている様だ。
「…一端下がったほうが良い。あまり急ぎすぎると死ぬぞリヴァ」
『イヤよ!目の前に大ボスが居るってのに引き下がれっていうの!』
 リヴァ激昂。
「やはり機体のせいなのか?リヴァ、一時退避しろ!」
『ウルサイんだよ“殺し愛”の邪魔してるじゃねぇ“狂”が醒めるだろうがぁ!』
 ネチっこい声、ジェイミー・グリンガーだ。
「ジェイミー!貴様、一体どういう事だ!説明しろ!」
『…もう一遍、言ってみろ』
「言ってやる!戦争は快楽でやるもんじゃない!」
『それの何がいけない?』
 悪びれない表情をする。
「いいか!こんなモノはただの殺戮でしかない!火星軍の魂にも反する!一戦士として言わせてもらう、恥を知れ!ジェイミー!」
 返答はすぐには返ってこなかった。
『…解った。お前は何も解っちゃあいねぇ…俺は“ジェフ・オーバー”だっつったよなぁ?』
「何?」
『散々指摘した…なのに!お前もォ俺の女みてぇな名前で呼ぶなっつったろうがよぉぉぉッ!』
 ジェイミーの機体《ラルガ》のガトリングが火を吹く。
「何だコイツ!?気でも狂ったのか?…アラーム!?」
 高速で近づく機体、青い彗星。

「ジェイミー!お前の相手は俺だッ!よそ見してるなよ!」
 サイバのガードナー02、二刀のレーザーブレードで強襲する。
『どっちも相手にしてやるから吠えるじゃあねぇよ人形(ドール)がぁ!二人とも纏めて八つ裂きにしてくれるぁ!』

 そんな交錯する戦場。さらに近づく機体が二機現れた。

『ジェフ中尉、仲間割れは止めろ。戦況を乱すな。ビーク大尉、一体どういう状況か?』

『そこの黒い機体、止まれ!止まってくれ!何故…何故“それ”に乗っているんだ?!その機体は…その機体は!』
「ガードナーが、二機…だと?黒いのが今の声、竜宮零か?もう一方、重装甲で機体を纏おうとも俺は解るぞ…あの時の奴…久しぶりだな、今度こそは隊長の仇、討たせて貰うぞッ!ガードナー!」
 ビークは、一呼吸入れ、スロットルを全開にした。

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