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守護機兵Xガードナー 月奪還作戦(オペレーション・ムーンテイカー)編 第3話

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irisjoker

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  CC112年。地球、欧州の統連軍・研究基地にて。

 運動場に二十人の少年少女達が集められていた。全員、黒の身体にフィットした戦闘スーツに身を包み、ライフル等の武装を装備していた。年齢は十歳そこらか、子供とは思えないほど冷静、いや冷酷な雰囲気を漂わせている。
「これより試験を開始する!」
 黒い軍服の男が叫ぶ。
「二人一組チームを組み、ベルトに付いている勲章を奪い合え!その際どの様な手段を用いても構わん!」
「「「サー、イェッサーッ!」」」
 一瞬の乱れもない敬礼。
「舞台は基地の裏山だ。生き残ったチームには特別な物をやる!…ん?」
 ふと端の列に男の目が止まった。
「おい、ナンバー3A。装備はどうした?」
 3Aと呼ばれた少年の様な風貌の少女はうつむいたまま黙っていた。ライフルはおろか防弾チョッキすら装備していなかった。
「…」
 口が微かに動いてはいるが声は出ていない。3Aは無言で刃の大きなナイフを差し出す。
「…」
「なんだぁ?言いたい事があるならハッキリ言え!」
「…」
 大きく口は動くが声は出ていない。
「お前、ナメるのも大概にしろよ?」
「…」
 パクパクと口は動くも声はなし。
「貴様ぁぁぁーっ!いい加減にぃっ!」
 男の苛立ちがピークに達し今にも拳を振り上げようとしたその時、
「教官殿ッ!」
 すぐ横、二人のやり取りを一部始終見ていた少女がピンと手を延ばして上げた。
「彼女は『自分ならこのナイフ一本あれば十分です。教官殿をあっと驚かせる成果を上げて見せてさしあげましょう!』と、言っております。はい」
 彼女はポニーテールを揺らしながら自信満々に言った。
「…ナンバー7C、本当だろうな?」
「はい、私は口の動きで何を喋っているかが分かります!あとナンバー3Aは『教官を凄く尊敬している』とも言っています」
「そ、そうか…そこまで言うなら見せて貰おうか、3Aの、その実力とやらを」
 男は少し照れ笑いをするが、イカンイカンと思いすぐ険しい顔に戻す。
「各自チームを組み所定位置に待機、合図がありしだいスタートだ!いいな?!」
「「「サー、イェッサー」」」

 各少年少女兵がチームを組みスタート位置に向かっている中、まだ運動場に残されている3Aと7C。
「…いやぁまいったねぇさっきはさぁ、アイツのパンチ痛いんだよぉ」
(なんで僕の事かばった?)
 声は出ていない。7Cは口の動きを読んだ。
「だってアナタをほっとけなかったし…」
(それにしても、よくあんなデタラメが言えるね。本当に言ってること分かってる?)
「もちろん!アタシ読心術ぐらいしか取り柄ないし戦闘なんてカラっきし、なんかアナタの自信タップリの言葉がなんか気に入っちゃった!」
 気恥ずかしそうに7C。
「にしても凄いわ教官目の前にしてあんな暴言吐くなんて。それにしてもマジにナイフ一本だけ?大丈夫?アタシ防弾三枚重ねだよ?よけい重いわー!なんつってーアハハ」
 端から見れば7Cの一人喋りである。
(…うるさい女)
 3Aは吐き捨てた。
「…え?」
(足手まといだ、僕の前から消え失せろ、目障りだ。まずお前から勲章をうばってやろうか?)
「…あ」
 そういって3Aは裏山へ続く門へ向かっていく。
「…決めた」
 7Cはダッシュで駆け寄る。
「アナタが私のパートナーけってぇーい!」
 後ろからギュッと抱きしめる。が、バランスを崩し前方へ倒れた。
「あだ名を付けなくちゃ!前から決めてたの、ナンバー7Cだから“ナナシィ”。アタシの事は今日からナナシィって呼んで?君はナンバー3Aだからぁ…サン…サン?…ミ…ミエ…違う…ミ…ア…ミア!そう“ミア”よ」

「ミア?」
「そうミア!いや?…って今しゃべった?」
(いや…好きに呼ぶがいい)
「本当?うれしい」
 この日、そんな名を呼ばれ、ほんの少しミアは生まれて初めて笑顔を見せた様な気がした。
「全く統連軍の無能には呆れますよ」
 エディン・マクレインは大量の資料に目を通すとため息を吐いた。
「Wガードナー?大気圏の残骸処理部隊…いつのまにガードナーはゴミ拾いになったんですか?そんな何処の馬の骨とも分からない集団がコロニー落とし阻止の任務についたんですか…そりゃ落ちるはずですよ」
 WGによりコロニーの半分は破壊に成功、しかし、もう半分は地球へ落ちた。幸い、大陸には落ちず、大西洋に墜落したが、周辺の島や海岸沿いの街に被害が出た。
「人員が減ってる今、計画を早めないといけないとは…まったく役立たずばかりだ」
 エディンは資料の山から一つファイルを取り出す。
「この前の演習の結果ですか…どれ」
 制限時間は十二時間。
 草木が生い茂る裏山で夜の零時丁度にスタートした。
 戦いは混戦すると予想された。しかし、とあるチーム、性格には一人が18人9チームをたった二時間で終わらせたのだ。
「肉体強化のCグループの三番機と超能力実験体のAグループ七番のペアですか。Cの少女の武装は、ナイフ一本…?格闘センス特Aですか。彼女は暗殺班か護衛に転属ですね。そしてCの少女は…ん?」
 7Cの身体評価欄の備考に注目する。
“アルターアイ、覚醒の兆し在り”
「ほう…やっと“二人目”ですか」
 エディンは怪しい微笑を浮かべる。

「ね、凄いでしょ?こんなに可動範囲が…」
「ナ、ナナシィ…もう僕、寝たいよ」
 かれこれ三十時間になる。
「折角の特別休暇なんだしフルに使わないとモッタイナイよ!」
「だからってずっとアニメばっか見てたら疲れちゃうよ…」
「ただのアニメじゃないよ、ロボットアニメ!」
 ポニーテールを振り乱しナナシィは超合金の人形をミアに突きつける。
「裏ルートを経由してやっと手に入れた“勇者革命ヴァンゼルガー”のディスクとフィギュア!燃えるぜぇ?超ー燃えるぜぇ?」
「…ナナシィって案外男っぽいよね」
「そう?むしろミアの方が男の子みたいだよ?初めて会ったときも思ったけど髪も短いし…顔は可愛いんだから髪延ばしなよ。ツインテとか可愛いんじゃない?金髪なんだし」
「ツ、ツインテ」
「このヴァンゼルガーに出てくる澪ちゃんみたいしようよ、うん決定!」

 それから約半年、ミアとナナシィはいつも一緒だった。
 任務をするのにも絶対ペアで挑む。そして無敗。
 いつしか姉妹の様な関係となり、暗かったミアの表情も明るく変わっていった。
 ある日。
「あと一ヶ月よ」
 ナナシィはカレンダーとにらめっこしていた。
「ついに待ちに待った日がやってくるのね」
「うれしそうね?」
 あれから少し髪が延び、両サイドを赤いリボンで結んだミアが問う。
「うれしいも何も忘れたの?来月にこの前の演習のご褒美が来るのよ!」
「なんだっけ?前の休暇がそうじゃないの?」
「…見えるのよ。二体の、機械巨人が」
「機械巨人?」
「そう、ロボットよ。色は黒。何というか敵キャラっぽいシルエット、あぁ見える!見えるわ!」
 そう言うナナシィの顔は嬉しそうに見えるが、どこかオカシイとミアは思った。
 コンコン
 ノックと共にドアが開く。
「ナンバー7C、検診の時間だ」
 黒い軍服の教官が突然入ってきた。
「なんだろ?今週はもう済んだのに…」
「早くしろ先行ってるからな」
 教官は言うだけ行って去ってしまった。
「検診って?」
「うん、超能力班は週二で身体検査があるんだ。でもおかしいな今週はもう二回とも終わったはずなのに…まぁいいや行ってくる。帰ってきたらヴァンゼルガーのCD一緒に聴こ」
 壁に掛けていた制服の上着を羽織るとナナシィは部屋を出た。

 向かうは医療室。
「失礼します。ナンバー7C、入ります」
 扉を開ける。待っていたのは医師では無かった。
「待っていましたよ。“ナナシィ”さん」
「こ、これはエディン・マクレイン司令!部屋を間違えました、失礼します」
 ナナシィは慌てて出ようとする。
「いいんですよ…ここで、いいんです」
「え?」
 ナナシィの腕を掴み止める。
「貴方に…早くプレゼントを渡したくてね」
 エディンは微笑するのだった。
『勇者革命ヴァンゼルガーのテーマ』
現在に巣くう邪悪な影 平和を乱す者を許さない
青い空を自由に飛ぶ翼で 君と一緒に行きたいよ

BRAVE EVOLTION 例え絶体絶命の瞬間でも
BRAVE REVOLTION 必ず迎えに駆けつける

君の明日を奪うのは誰だ?
NEXT COMING ヴァンゼルガー


 その日、ナナシィは部屋に戻らなかった。ミアは彼女の置いていったCDを聴きながら待っていたが、いつしか眠りについた。

 ナナシィが帰ってきたのは、それから二週間後だった。
 顔は酷くやつれ、眼光は鋭く殺気を放っていた。あの快活で天真爛漫な笑顔は見る影もない。
 ミアはいつも通り接しようと近づくも、ナナシィは避ける様に何処かへ言ってしまう。
(おかしい…あの日、絶対に何かあったんだ)

 ある日、部屋を出るナナシィを呼び止めた。
「ナナシィ!」
「…」
「どうしたの?最近のナナシィはおかしい!」
 だが、心配するミアの言葉を無視し、立ち去ろうとする。
「ねえ」
 腕を掴む。
「触らないでッ!」
 振り払う手がミアの頬を打つ。物凄い力で通路の壁に叩きつけられた。
「ハァ…ハァ…この悪魔め」
「…ナナ…シ」
「わかってるんだから…全部“視えてる”んだから!全部、ぜんぶ、ゼンブ…う、わあぁぁあぁぁっー!」
 響く叫び、怒号。意味不明な言葉を喚き散らすナナシィにミアはただ、呆然とした。

 数分後、彼女は駆けつけた職員に取り押さえられて、何処かへ連れて行かれた。

 二週間後。司令室にて、
「その後の調子はどうかねナンバー3A…いやミア君と言った方が良かったかな?」
 と、ブラインドを撫でながらエディン。
「いえ、3Aで結構です…司令。何だか視力がスッキリしてます」
「最新鋭の視力回復治療だ。これからはあまり、部屋に引き隠ってばかりいるんじゃありませんよ?」
「はい、すいませんでした」
「…それにしても惜しい人材を失ったよ。未だ昏睡状態なんだって?」
「はい、面会も謝絶で…」
「そうか…所で今日アレの演習だがシミュレーターで訓練はしましたか?」
「はい!六時間で特A全クリしました」
 刹那、爆音。格納庫の方に煙が上がっている。同時に緊急通信が入った。
『司令!試作機1号が暴走を始めました!』
「…わかった、そちらに応援を向かわせる」
 司令室からその様子が見える。
 駐留部隊が対処しているが歯が立たないようだ。
「さっそくだが“実戦”となった…行ってくれますか?」

 格納庫一帯は火の海になっていた。意を決し中へ突き進む。
「そこの嬢ちゃん!アンタがパイロットなのかい?!」
 ベテランの整備兵が叫ぶ。
「はい!そうですー!」
「こっちだ着いてこい!」
 整備兵に誘導される。こちらのハンガーはまだ被害が少なかった。
「これが…」
 無駄な装飾はなく無個性なシルエットの機体。漆黒の装甲が炎で揺らめいく。
「相手はコイツの同型機だ。無人機なのに勝手に動いちまった!どうなってんだ?」
「起動させます。どいてください!」
 機体を固定していたボルトを強制解除する。ミアの2号機は暴走する機体の元まで走った。
 頭部バルカンを乱射しながら建物を破壊する1号機。その姿、まるで野獣。
「これ以上、基地はやらせない!」
 ミア機は急加速、1号機に体当たりする。1号機ごと監視塔に突っ込んだ。
「…ぐ…ぅぶっ?!」
 初めて体感するコクピットの揺れにミアは吐しゃ物をまき散らす。
 一瞬の隙を突かれ、形勢は逆転する。
 1号機はミア機の頭部を掴む、ヘッドロックだ。必死に腕を外そうとするが、頭部を砕かれてしまった。
『頭部破損・各機能低下』
 まだ終わらない。今度は胸の装甲を引き剥がそうとする。上に多い被され馬乗り状態だが、モニターが破損して上手く状態が把握できない。
 そうこうしている内にこじ開けられコクピットが露わになった。
 外に晒されたシートに外の高温の熱気が吹き付ける。
 意識が遠のいた。

「あたしね、いつかココを出て宇宙旅行がしたい」
 宿舎の屋上で二人は天体観測をしていた。
「けど今って戦争中じゃない?戦いで宇宙になんて絶対いや!全然ロマンチックじゃない!」
「…いいな。私も行きたい」
「ちょっとある計画をしてるんだけど…誰にも言わない?」
「…うん、約束する」
「じゃ教えたげる…今度貰えるご褒美ってロボットじゃないかって気がするの」
「…ロボット?」
「そう、それに乗って宇宙へ行こうって考えてるの」
「…でも、人型機動兵器一体のパワーじゃ行けないんじゃないの?」
「そ、それは、途中でアレよ?ジャンク屋とか寄って改造してもらうのよ」
「…でも脱走だよ?捕まったら」
「うーん、でもでもウルサァーイ!デモデモ星人かッ!」
「……じゃ、例え宇宙に出られたとしても敵と遭遇したらどうするの?」
「もちろん戦うわよ!悪の火星帝国め!このナナシィ様が叩き潰してくれるわ!」
「…もう言ってる事メチャクチャ」
「あたし、歌うわ!ミアも一緒に」
「…童謡なら歌えるけど」
「何よそれ?もっと、燃える曲をだね…ったく、しょうがないなぁ、良いわそこで聞いてて、あたし十八番を披露するわ」
「…もう夜中の一時だよ」

 無意識にミアはそれを口ずさんでいた。
「そうだった、こんな所で終わる訳にはいかないんだった…」
 視界のよくなったコクピットから目の前の敵をミアは睨みつけた。

  現在に救う邪悪な影 平和を乱す者は許さない

 馬乗り状態からミア機は足で1号機の腹を蹴り上げる。
「…ナナシィごめんね。壊しちゃうから」

  青い空を自由に飛ぶ翼で 君と一緒に行きたい

「宇宙に行けなくなっちゃった…」
 1号機は尚も暴走を続ける。

  例え絶体絶命の瞬間でも

「メインカメラをやられたから何だって言うの!」
 一号機は建物を使って高く飛び上がった。上空から死角を狙うつもりだ。
「むしろ好機!」
 腰のラックからソードを取り出す。ミアは神経を集中させた。

  必ず迎えに駆けつける

 世界がゆっくりに見えた。
 極度の精神状態で時間がとまって思える事はなんどもあったが、すこし性質が違う。
 確実に正確に敵機の中心部へ刃が抉り込む様子が伺える。
(これで止めッ)
 剣の鍔の部分から粒子の光が洩れる。それが装甲を溶かし次第に広がるのを、

 広がるのを

 敵機の中心に

 装甲を溶かし

 コクピット

「あ」


  君の明日を奪うのは誰だ



「どうですか司令?開発は順調に進んでますか?」
 旧時代の日本の僧侶の恰好をした坊主の青年がお茶を啜りながら訪ねた。
「まぁぼちぼちですね。第一世代と第二世代のアルターアイ同士で戦わせたんですがね?第一世代がちょっと暴走しまして…全く、“視え”すぎるのも困りもんですね。言動が酷い」
「と、言うと?」
「木星軍の反乱とか宇宙怪獣襲来とかブラックホールが太陽系を飲み込むだとか…」
「ハッハッハッ!それは傑作ですね?木星ですか…まだコロニーすら無いのに軍ですか?いや参った!火星もピンチですね?」
「結果はギリギリで第二世代が勝利したんですが、今は精神洗浄中です」
 坊主は手元のリストを眺める。
「なかなか可愛らしい女の子じゃないですか?萌えって奴ですか?いやぁ良いですなぁ」
「はい養子にしようと思いまして」
「本当ですか?」
「私もそろそろ子供が欲しいと常々思ってまして」
「じゃあ、ミア・マクレインちゃん?」
「いえ、とある亡くなられた富豪の方から援助を頂いてまして、名字を買わせていただきました。キャイリーと言います」
 ほう、と感銘をあげる。
「いい名前じゃないですか。あの悪名高いグール・キャイリー…亡くなられたんですか?」
「亡くしました」
「あれま」
 わざとらしく驚いて見せる坊主。
「…そろそろ時間なんじゃないですか?」
 壁のデジタル時計は午後三時になる所だ。
「そうですね、今日はこの辺で失礼します」
「ではまた来て下さい。ディオルド大佐」
「来るにしても大変なんですよ?火星から地球に来るの」
「次来るときはそんな不便もなくなってます」
「期待するとしますか…じゃ」
 そういってディオルドと言う坊主はお土産の火星あられを置いて去っていった。

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