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REVELLION 第二章 再会篇

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匿名ユーザー

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護る力(再会編)

 世界は狂っている。永く続く戦火は大地だけではなく人の心までも腐敗させていた。
 己の欲を満たすために他者を傷つける者、人を殺すことに快楽を憶え唯生き血を求める者、誰もが魅了される美貌を保つために、人の幸を喰らう者。
 一年前のある日、少年は世界の狂いと理をその眼に宿した。
 地獄の中で彼は誓った。この世界の外道を一掃する。そして護ってみせる、自分の大事な人を、それがたとえ……大事な人から憎まれる道であったとしても―――。

 壁一面が吹き抜けとなっていて部屋一面を光が包む、部屋の中央を赤の絨毯が縦断し、その脇を甲冑が固める。赤い絨毯の先にあるのはこの宮殿の主が君臨する玉座となっている。
 カツカツ、足音が反響し主の帰還を告げる。主の苛立ちを現すかのように足音が大きくなっていく。
「ちぃ」
 主が玉座に腰かけると、少し離れた位置に数人が並び平伏した。
「首尾は?」
 主が簡潔に問うと、平伏していた一人が立ち上がり、申し訳なさげに答える。
「未だに手掛かりは発見できません」
「なんだと?」
「……申し訳ありません」
「もう一年だ!ゼノスも、イリッシュの末妹もどちらも見つけられない……と?」
 主の鋭い眼光が前に出た青年を射抜き、その顔が蒼白へと変わっていく。
「わたしは結果を求める……」
 ついに震えが止まらなくなりその場に尻持ちを付く青年。主は死んだ瞳で青年を見下すとその額に銃を突きつけた。
「お、お許しを……」
 泣いてすがるが、主は無情に引き金を引いた。
 パン。乾いた音が響いて、緋水が飛ぶ。
「……」
 主は醜く口を歪め、急にその場に崩れると嗚咽を漏らし泣き始めた。
「なんたる悲劇!残酷なるゼノス一派のテロ行為で、また尊い命が……」
 その手を血に染め、悲劇を演出する。その場に居る誰もが、本当にテロにあったのではないかと勘違いしかねないほどの名演技だ。
「……奪われた」
 立ち上がり死者に背中を向ける。
「わたしは許さない!卑劣な手で我が同胞を殺めたゼノス一派を!だから!」
 振り返りいまだに平伏している数人の前まで来ると、血の染まった姿で命令する。
「どうか、憎きゼノスの首をわたしの前に差し出してはくれないか?」
 父のような威厳と、母のような慈悲で主は命じる。こうなりたくなければゼノスの首を差しだせと。
「ハル……」
 赤い絨毯に新たな影。その場にいた全員が出入り口の方を見る。
 青みが掛かった黒髪。切れ長の目。上半身を着物で、下半身は袴を着ている。左腕に手甲と籠手。奇妙な出で立ちに見えるかもしれないがこれがこの国、天空都市ケルンの一般的な服装、和服だ。
「やあ、ヤマト……なんの用だい?」
 ヤマト。それが彼の名前だろうか、主が言うとヤマトと呼ばれた少年の瞳が主に向けられた。
「オルト!貴様―――」
 腰に下げた刀を鞘から荒々しく抜くと、床を蹴り上げ飛び跳ねると主に刀の切っ先を向ける。
「いいのか、わたしに危害を加えればロナ嬢がどうなるか……」
 オルト、この宮殿の主は穏やかに告げると、ヤマトはその刀を鞘に収めた。
「ハル……」
 そして無残に殺された同胞に駆け寄ると、抱き上げその顔を確認する。
 恐怖に歪んだ醜い死にざまだ。ヤマトは唇を噛み締める。
「すまない……すまない、ハル」
「茶番はもういいだろう?」
 ヤマトが見上げると死んだ瞳で自分を見下すオルトの姿があった。
「そういえば、お前はゼノスの友人であったな」
「なにが言いたい」
「この無能の後任を、お前に一任する……奴の首をわたしの前に差し出せ」
「戯言を抜かすなげ、下衆が!」
「いいのかい?ロナ嬢がどうなっても……」
「く……」
 ヤマトの唇から血の雫が流れ落ち、その口の中を鉄の味が広がる。
「オルト、貴様の首。いつか必ず我が切り落す!」
「楽しみに待っているよ、わたしはいつでも歓迎する」
 息絶えた同胞を抱えヤマトは最後にオルトを睨むとその場を後にした。
「キミたちにも期待しているよ、もう下がりたまえ」
 この場に居た者全てが退室する。去り際の憎悪に身震いするほどの快楽を憶えオルトが歓喜する。
「心地いいな、人殺しも、弱い者いじめも……くく」

「相変わらずの鬼畜さんね、安心したわ」
 カツカツ、女物の靴の音。室内に新たな来客らしい。
「何用だ。ネリー」
「いい事、教えてあげに来たのに……ずいぶんな態度ね」
 妖艶な雰囲気を醸し出し、まるでモデルのような歩みでオルトに寄るとその瞳を凝視する。
「ゼノスの情報、手に入ったのだけれど……」
「ブラフでわたしを計ろうとでも思っているのか?陪臣が、無礼と知れ」
「あら、こんな高い所に浮かぶ此処までわざわざ足を運んだ私が……そんな無駄なことすると思って?」
 オルトの顎を掴んで引き寄せる。香水の匂いが鼻に付きオルトが不快な顔をするがネリーは続けた。
「……あの人が貴方にも伝えなさいって」
「ローテンブルクの人間の貴様が……ハンブルクのキースの命で動いているとな、滑稽だな」
 ネリーの額に皺が刻まれるが、すぐにその表情に普段の妖艶さを取り戻して不敵にオルトを睨んだ。
「そうとしか見えないのなら、貴方はそこまでの男ってことよ」
「ふん、まあいい……それで情報とは?」

一方、エッセンのとある学校でゼノスは自分に割り当てられた机に突っ伏し狸寝入りをしていた。
 昼休みで皆食事という楽しみに現をぬかしている中、ゼノスは憂鬱をその背中に醸し出していた。
 理由は後ろの席。シホからの無言の視線が痛いからだ。なにがあったのかは知らないが数日前からずっとこの調子だ。
 おかげでシホのファン連中からは尋問されるし、ゼノスがシホを弄んだ挙句捨てたと変な噂が立つ始末である。
「きゃ~。リムちゃんてっば……ちょ~可愛い。すりすりして良い?」
「……ダメ、リムはゼノス専用」
 そんな憂鬱度MAXなゼノスの横で無邪気な二人が楽しげに雑談している。
「あら、偶然ね。私の名前ってユン・ゼノスって名前なのよ?」
 お前の名はユン・シラユリだと記憶しているが―――。
「というわけで、すりすり~」
「……リムはノーと言える。大人の都合に縛られない、もう子供じゃない」
 抱きつこうとするユン、それを避わすリム。ゼノスの左側には日常、後ろには痛い視線。今日も平和である。
「……ゼノス。嫁の貞操が危ういのに狸寝入りなんて許せない」
 腕を引っ張るリムの小さな手。リムは無理やりにゼノスを抱き起こすと、その背中に隠れゼノスをユン対策の盾とした。
 ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を宥めつつ、ふとシホの方を見ると―――。
「う……」
 思わず呻いてしまった。観察している、観望している、凝視している。タコヤキを頬張りながら、じっとこちらを見ている。
 女の子二人にチヤホヤされている(ように見えるだけ)ゼノスに嫉妬していますよ、と目で語る。
 それとは別に何か別の感情も垣間見えるが、今はそれどころではない。
 自分の周りで騒ぐワガママ娘と百合っ子。口元と頬に青ノリを付けて自分を凝視するシホ。その様をニヤニヤしながら傍観するイリア。
 ゼノスはしみじみと思った、自分は女に幻想を抱いていたなと。


 憂鬱な気分が晴れないまま、ゼノスは一人口うるさいリムとユンから逃げる形で廊下を歩いていた。
 清潔感を現す白い廊下、教室には机が並べられ、最新のホログラフを積んだ小型の学習装置がそれぞれに設置されている。立体的に映し出される教材を元に日夜勉学に励んでいる学び舎。
 他国の人間からすれば、数年先の未来を見ていると錯覚してしまうだろう。
「……」
 ハリボテ世界を見つめるゼノスの背中に違和感。
 再び背中に刺さる視線。正体はもちろんシホだ、タコヤキを頬張りつつゼノスを尾行するその姿は異様だがここ数日ずっとこの有様なのですれ違う人々は誰も気にする素振りを見せない。
「……シホ、俺、何かしたのか?」
「―――ッ!」 
 振り返る。シホはビクっと震えると回れ右をして近くにあった柱に隠れてしまった。
「……はぁ」
「ねぇ、聞いた転校生の話……」
 ため息をついたゼノスの横を通った女子学生達の噂話が耳に入る
 どうやら、転校生が二人も来たらしい。美少女とその弟、いま学校はその話題で持ち切りのようだ。ゼノスとシホを取り巻く違和感よりも目先の美少女とその弟。
 本当に平和だな。
 窓の向こうを見つめる。活気の溢れる町、人々の笑顔。
 この国は平和だ。

『平和を慈しんでいたのか?』
 頭に響く自分と同じ声。窓に映る自分が仮面を付け、虚ろな瞳で自分自身を見つめ返していた。
『お前は咎人だ。なんで嗤ってるんだ?なんで穏やかなんだ?』
 仮面のゼノスが口を三日月型に歪めた。
『ヒトの真似ごとは楽しいか?心が壊れてしまった哀れなゼノスくん』
 仮面の中の仮面が嗤う。
『いくら、人間らしく振舞ってもお前の心にあるのは虚無への恐怖だけだ。だからお前は自分を責め続けろ……そうすれば忘れられるだろう?』
 そうだ、逃げることは出来ない。イリッシュを救えず、ナチを殺してしまったあの日から。
「ゼノス?」
 虚空の空を見つめる現実を離れていたゼノスの心が、聞きなれたけれど懐かしい少女の声に戻される。
「……」
 ゼノスが声の方を向くのと同時に、その胸に小さな少女が飛び込んだ。
 柑橘系の香りが仄かにする紅の髪が視界に広がり、小さな嗚咽が耳を刺激する。
「逢いたかった!逢いたかったよ!バカ!バカゼノス!」
「ミナモ……か?」
 返るのは小さな泣き声だけ、少女の背中の向こうに見える見知った顔がある。
「ゼノス、本当にここに……」
「レフトもか?」
 この時、気付けていれば……ある人物がゼノスを見つめる瞳に陰りが帯びていたのを気付けていれば、止められたのかもしれない。これから起こるある悲劇を。


 放課後。夕道をゼノス、ミナモ、レフトの幼馴染三人は久しぶりの再会を喜んでいた。
 中でもミナモの喜びっぷりは尋常ではなく、再会してからというものゼノスをずっと離してくれなかった。
「……リムは機嫌が、ものすごく悪い」
 何時の間にかゼノスの左腕に絡み付いたリムが不満を漏らす。
「あれ?リムちゃん?リムちゃんだよね!すっかり大きくなっちゃって!」
 右腕に絡み付くミナモはようやくリムを認識したのか、成長したリムの姿にうんうんと頷いた。
「ねぇ、ゼノス。この光景ってさ、まるで家族のように見えない?」
 ビキリ、左腕のリムから聞いたことのないような音がした。
「……夫」
 ゼノスを差す。
「……嫁」
 自分を差す。
「……ポチ、タマ」
 ミナモとレフトを差す。ビキリと変な擬音がミナモからも発せられる。
「レフトも私も人間じゃー、どこかの国民的アニメに出てくる典型的な犬猫の名前を付けるな!」
「……先に仕掛けたのはミナモ、これは正当防衛になる」
「なによ。口まで大きくなっちゃたわけ!」
 ゼノスを間に挟んで喧嘩する二人。ミナモは変わっていない、口うるさくてお節介で涙もろい。リムはいつも無表情、無感情だったが学校に通いだして少し感情を出すようになってきている、良い傾向だとゼノスは淡く笑む。
「へぇ、ゼノスがそんな顔するところなんて初めて見たよ」
 レフトが後ろ歩きでゼノスを見ながら言うと、ゼノスは笑顔のまま。
「ここには心の通ったヒトがたくさんいるからな、真似ごとだよ。羨ましいから真似してるんだよ」
「出た、ゼノス節。久しぶりに聞いても意味が解らない」
「幼馴染だろ?理解しろ……」
「そうだね、理解が必要だな……ならそろそろ聞かせてくれないかな、一年前なにがあったのかを」
 レフトの柔らかな表情が崩れ、その問いが刃物となってゼノスの心を射抜く。
「私も、ゼノスにお聞きしたいと思っていました」
 後ろからの声。レフトがそちらを見ると、
「え……なんで貴女が」
 レフトに続いてミナモも振り返る。視界に捉えた人物が一瞬誰だか分らなかったが、その面影は確かに知っている人物だった。
「ナチ様、嘘……でしょ」
「やはり、私がハンブルク次期国主ナチ様の妹というのは本当だったのですね」
 レフトとミナモの反応を見て確信した。自分がナチの妹なのだと。
「妹?もしかして前にイリッシュ様がゼノスに捜索を頼んでいたよね?それじゃあこの子がイリッシュ様の末妹」
 ミナモの目が驚きで見開かれていく。そしてゼノスが両腕にしがみ付くリムとミナモをゆっくりとした動作で離すとシホの方に向き直った。
「パルム辺りがお前に教えたのか……過去の事件とナチの最後を」
 無言のシホにゼノスはそれを肯定と受け取り、澄みきった空を見上げた。
「キミは……誰なんだい?」
 一言ずつを噛み締めるように言うとゼノスは瞳を閉じた。
「私はシホです。そして……パルムさんの情報が確かなら常闇都市ハンブルクの次期国主ナチ様の双子の妹でもある……違いますか?」
 そうか―――。
「ならお前には知る権利があるな―――」
 その場にいる全員がゼノスの言葉を待つ。数刻の沈黙、夕日が遠くの空に消えようとしている。
「俺が、ナチを殺した。それが―――真実だ」
 ゆっくりと、しかし確実に紡がれる呪文。その呪文はシホに絶望を見せ、ミナモとレフトには虚像を見せる。
「……違う、ゼノスはナチを!」
 そしてリムには感情を、大きくな声でゼノスの言葉を否定しようとするが、ゼノスの虚無を見つめる眼は続きを言うなと語る。
「嘘です。ゼノス……貴方は嘘を言っている」
 呪文を打ち消したのは小さな希望の色、少女は少年にある色を見つけ、その言葉を否定した。
「どうして、そう思う?」
「悲しそうな顔して、人を殺したなんて言う人を……私は、真の悪人だと思いたくない。唯の綺麗ごとです」
 夕日が消え、辺りを闇が包んだ。
「そうか……キミは変わらないな」
 夜風がゼノスとシホの間を吹き抜ける、それが二人の距離感。今は分からない、でもシホは信じてみようと思った。
「冷えてきたな、みんな……そろそろ帰ろうか」
 この悲しげな少年を救いたいと願いを風に乗せた、どうかゼノスに届くようにと。

 ピ、ピ、ピ。小さな蛍火がゆらゆらと移動し機械音を立てながらレフトの耳元に寄った。小型の移動型通信機だ。
「え、ウソだろ?なんでミノタウロスが見つかった?」
 ミノタウロスとはゼノスの部隊専用の大型武装車両のことである。
「ゼノス。ミノタウロスを助けてくれるかい!」
 珍しく取り乱したレフトにゼノスは事の次第を理解し、間髪いれずに頷いた。
「当然だ。俺の部隊だ」
「じゃあ、僕はすぐに状況の把握をしてくれるから……」
 青白い顔でレフトが駆けだすと、ゼノスは三人の少女を見た。
「リム、ミナモをパルムの所に連れて行って新型AFを貰って来てくれ」
「……ん」
「腕は鈍っていないな、ミナモ」
「私を誰だと思っているの?」
「ああ、そうだったな。頼む……」

 二人の姿が消え残った二人。
「私も、戦わせてください!」
「人殺しは嫌いじゃないのか?」
「やはり、リベリオンに乗っていたのは貴方だったのですね」
「知っていたのか?」
「隠す気、ないでしょ?」
 風に靡く髪を抑えながらシホが問う。
「俺を監視する気か?」
「人殺し以外の道もあるはずです。私は……無駄な殺生を止めるために」
「俺は人を殺すことでしか戦いを終わらせることの出来ない人間だ。今更この道を捨てることなどできない」
「分かりました。なら私は……殺し合い以外の道を探します。それを貴方に分かってもらう為に」
「本当に変わらないな、キミは……」
 まだ壁はある。でも二人は近づける、取り戻すことが出来る。
 そう信じて今は進むとしよう。

 一方。エッセンの周辺では激しい攻防戦となっていた。
「くふふ、ミノタウロス。ようやく見つけた。どうやらネリーの情報は正しかったようだな」
 ミノタウロスを責めるのはオルト率いるケルン軍。その母艦フェニックスにてオルトが遠くに見える戦火を見つめ一人嗤う。
「ヤマト。お前が奴らを晒し首にしろ。よいな?」
〈……〉
 無言の返事に、途切れる通信。直後に夜闇を切り裂く蒼穹の機体。
「くふふ、楽しみだ。仲間とほざく連中が醜く戦う様は実に美しい。さあ開演してくれ、友を殺し嘆き狂う、喜劇を!」

「俺の心臓はここだ。我こそはという者は貫いて見せい!」
 最前線の中で一人の戦士がその剛腕を振るっていた。
 名はカブト。無精ひげに、頬に縦一文字の傷、威厳に満ちた強面、正に天下の兵の名を冠するに相応しい。
 灰色のミームングが専用の大型ランスを軽々と使いこなし、迫り来るケルン軍主力AFコガラスを貫いていく。
 専用スラスターを持ち、旋回能力に特化したコガラスであるがドンと地面に構えるカブトの駆るミームングに引き寄せられ、地上戦に持ち込まれているようだ。
「貫け!ランス!」
 マシンガンを乱射するコガラスに正面に捉え、カブト機が突貫する。大型のランスと重厚な装甲は銃弾を弾く。その様は正にカブトムシを思わせる
「取った!」
 カブト機が急停止し右に飛ぶ。コガラスがカブト機を再びロックオンすると同時にランスが目の前に迫っていた。
「俺を一直な男と思うな。時には曲がる柔軟さも持っている!」
 勝利を宣言するカブトだが、殺気を感じ機体を後ろに飛び退けさせる。
 ザッ。先ほどまでカブト機が居座っていた大地が青い線で両断された。
「この太刀筋。只者ではないな」
 空を見上げると、そこには蒼い影。鎧武者を思わせる外装が覆いその腰には蒼穹の剣が下げられている。名はムラマサ、空を制する武者。
〈我はヤマト。貴殿の首……貰い受ける〉
「その活きよ。こい若造!」
 カブト機がランスをくいくいっと二回上下させ挑発すると、ムラマサが天空より飛来し一線。
 刀の姿を見せることのない抜刀術がカブト機を襲うが、一撃目をランスで弾きその衝撃を利用し後ろに飛び退く。
 ムラマサは吹き荒れる風となり、カブト機の着地前に懐に飛び込む。空中で身動きの取れないカブト機の胸部を殴りつけ無理やり地面に叩きつける。粉塵が上がりカブト機をアスファルトが受け止め、ヒビが幾重にも刻まれる。
「ちぃ!」
 カブト機が負けじと倒れたままの状態でランスを上空に向かい突く。
(捉えた!)
 ランスの先に手ごたえを感じたが、粉塵が晴れて見えた光景は、無傷のムラマサと無残に砕かれたランスだった。
〈我のOFムラマサの能力は『呪い』。その刀身に一度でも触れた物の装甲を弱体化する〉
「不覚!」
 蒼穹の刀がカブト機の頭部目掛け振り下ろされるが、咄嗟の判断でカブト機が頭を突き出し頭に付いた突起で弾く。
〈ここでその判断が出来るとは、尊敬に値する。さすがはゼムスの部下〉
 脆くなりチリチリと頭の突起から破片が零れる。
「負けんぞ。俺の敗北はゼノスの無能を示すこと……故に俺は負けん!」
〈そうよ!ゼノスの築いた絆はこの程度に屈するほど軟なものじゃない!〉
 ようやく来たか、カブトが安堵する同時にムラマサが引いた。

〈闖入者……〉
 橙色の見知らぬAF。空中戦を前提としたコガラスによく似ているが、迫ってくる速さから出力はコガラスより上だろう。
〈ブルートガング。それが私の新しい力よ!〉
 背中に乗せたX型のスラスターから十字に火を噴き、嵐の如く荒々しさで拳をムラマサに叩きつけた。
〈浅い!〉
 インパクトの瞬間、ムラマサが後ろに引き攻撃を十二分に喰らわすことが出来なかった。でも今はそれどころではない、ミナモはカブト機に通信を開くと叫んだ。
〈カブトさん!釣りの時間だって!〉
「ムッ。了解した。俺はいったん引くとしよう!」
〈って、わけだから!私もカブトさんも逃げるから!〉
 宣言し、本当に背を向けエッセンの方に向かっていく。
 ヤマトが辺りを見回すとミノタウロス含め、ゼノス側の機体は全て撤退を開始していた。

 ヤマトがその様を唯見ていると、右側の壁に通信回線が開きディスプレーに憎たらしい笑顔を張り付けた男が映し出された。
〈何をしている、追撃だ。全軍で追撃しろ!〉
「……御意」
 オルトの指令に苦々しい顔をして頷くと、すぐに回線を切る。
「全軍突撃!逃亡する、ゼノス隊を殲滅せよ!」
 弱腰になった敵ほど打ち倒すのに簡単なものはない。唯このタイミングでの撤退はあまりにも不自然。だが今は乗るしかない。
「な……」
 地平線の向こう。ゼノスの部隊とエッセンの部隊が横に一列に並んだ状態で待ち構えていた。
 瞬時に状況を理解し、ヤマトが叫ぶ。
「引け!集中砲火が来るぞ!」
〈その判断は間違いだ。ヤマト!〉
 耳に残る懐かしい声。聞き覚えのある声と共に背後から黒い機体がムラマサを背後から襲う。
「ゼノスか!」
〈懐かしいな、昔話でもしに来たかヤマト!〉
 瞬時に反応し機体を反転し襲い来る漆黒の鎌を蒼穹の刀が受け止める。
 衝突するエモノから火花が散り、黒と蒼の機体を焦がしていく。
「すまぬ友よ。今は語れぬ……主ともう、笑えぬ……すまぬ」
〈……お前は俺の敵か?〉
「ああ、そうだ……我は主の……敵だ!」
 ムラマサがスラスターを吹かせリベリオンを吹き飛ばす。コガラスが数機、それに反応してリベリオンに襲いかかった。
〈……お前は実直で裏表のない奴だ〉
 コガラスからの短剣による横薙ぎを姿勢を低くし回避すると、下げた鎌を振り上げるリベリオン。右肩から斜めに刻まれた一線が時間差でコガラスを二つに裂く。
 辛うじて攻撃を逃れた胸部の脱出ポッドが射出されると、漆黒の鎌が再びコガラスを斜めに切り裂いた。クロスの烙印がコガラスに刻まれ、口を開け断末魔の声を上げた。
〈だから迷うな!俺と戦え……お前は俺の『敵』なんだろ?〉
 リベリオンが叫ぶコガラスの右足を掴むとグルングルンと回し、ジャイアントスイングの要領で投げ捨てた。
 さらに来襲したコガラスの突きを横に飛び回避するとその頭を掴んで投げ捨て、後ろに迫っていたもう一機のコガラスに当てると、二機が吹き飛び、地面を抉りながら停止した。
「まさか……」
 不意に違和感に気付いた。部隊が一点に集中しすぎではないか?
 リベリオンという餌に喰いつこうと、部隊が一点に集中している。
〈釣り野伏せだよ……ヤマト〉
「……自らを囮に!」

 今頃気づくが、もう遅い。リベリオンが漆黒の鎌を高く掲げると、それを合図に左右の大地が裂け中から奇襲部隊が飛び出した。
「し、静まれ!落ち着くのだ!」
〈無駄だよ。元々不本意な戦みたいだしな……士気の低い今のお前たちではこの奇襲を耐えることなど出来ないよ〉
 隊列は乱れ、逃げ惑うケルンの軍勢。冷汗がヤマトの額から雫となり流れた。このままでは拙い。
〈ターイムリミット!〉
 やはりか、予想はしていたが、こんなのも早いとは思っていなかった。ヤマトが唇を噛み締めると苦々しい顔でディスプレーに映し出されたオルトを睨んだ。
「待て、オルト!まだ撤退が!」
〈知っているはずだよ?わたしは結果を求めるってね!〉
 ヤマトの心を無力感が包む。攻撃前に知らされたある作戦、それはもし敗北するようなことがあれば後ろからレールガンで撃ちぬく。もちろん味方であるケルン軍も含めてだ。
〈さぁ、灯火が消える瞬間を見せてくれ!〉
 宣言と共に、空気を切り裂く電気玉が背後のフェニックスから吐き出される。
 轟音が周辺の音という音を奪い去り、地面を一刀両断しながら突き進む電気の塊、言うなれば暴れ牛だろうか。
「逃げろ、逃げてくれ!同胞よ!ゼノス!」
〈安心しろ。救世主はちゃんと用意してある〉
 狂気と化した電気の塊がケルン軍とエッセン軍の目と鼻の先に迫った時だった。
 純白の天使が舞い降りた。
「エクスカリバー……なのか?」
〈あれの能力は四枚の翼による絶対守護。何人たりとも犯すことを許さない〉
 ゼノスの説明の後、轟音が響きエクスカリバーの四枚の翼が電気玉を受け止める。
 羽根が焼かれながら舞い散り、受け止められた電気玉が悲鳴のような音を立てる。
 エクスカリバーの翼が電気玉を赤子を抱くように優しく包むと悲鳴は収まり、その狂気が翼に吸収され消えうせた。
〈今は逃げろ、ヤマト。あとで必ず、ロナを救う手助けをしてやるから……」
 やはりゼノスだ。何も変わっていない。全てを知りながら道化を演じる、故に信用に値する。
「オルト、今回は我々の負けだ。ここは撤退し、体制を立て直すのが貴様の言う結果に繋がるのではないか?」
〈ちぃ、この失態の挽回は必ずしてもらうからな!〉
 さすがのオルトもその判断が正しいと思ったのか、さらに舌打ちを残して通信を切った。
「ゼノス。主の想いに報いよう……次は本気で主と刃を交えよう」
〈ああ、期待しているよ。ヤマト……〉
 黒と蒼の機体が対峙するなか、ケルン軍とエッセン軍共に撤退を開始した。

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