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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第5話  恐怖! シロガネ四天王現る!

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だれでも歓迎! 編集
 悪のマッドサイエンティスト・悪山悪男の住まいでもある悪山研究所は、背の高い枯れ草に覆い隠されていた。
 ロボヶ丘市外れの荒れ地である。徒歩なら数分ばかり山に分け入らなければならず、わざわざ訪れようという者でもなければ目にす
る機会もそうはないはずだった。
 雑木林の中にぽっかりと開けた土地は、緑というのも憚られる色の濃い木々に囲まれ、陸の孤島といった風情であった。
 門前にはシロアリに食い荒らされた板状の木材が無造作に立て掛けてあり、墨で書かれたひどい癖字が、ここが「立入り禁止」であ
る旨を告げている。
 生えるに任せた藪に埋没するように建てられた和洋折衷の一軒屋は、持ち主の荒んだ心の表れのようでもあった。
 もっとも、柵で仕切られた敷地内は存外に手入れが行き届いており、不作法な茅の侵入も目立たない。
 玄関口に整然と並べられた陶器の鉢が、色とりどりの季節の花を咲かせていた。軒先に遠慮がちにスタンドを下ろした赤い自転車の
上品な光沢が陽光に眩しい。 
 長い歳月に渡って風雨にさらされた建物は、廃墟と呼んでも差し支えないほどくたびれている様子だったが、それらのために瑞々し
い生活感を失っていなかった。
 人里からやや離れた林間の研究施設は、いつもは寂しいほどに静かだった。強いて鳥達を騒がせるものといえば、まれにマッドサイ
エンティストの地下活動が引き起こす、爆発音や機械の唸り、謎の地響きくらいのものだ。
 だが、その日ばかりは、いつもとは少し趣きが異なっていた。
「出て行けというとろうがゃぁっ!」
 しわがれた怒鳴り声がこだまする。
 摩り硝子を張った研究所の扉がけたたましい音を立てて開かれ、若い女が勢いよく転がり出た。
 レディ・ビジョンという暗号名で呼ばれるその女は、庭先で平然と体勢を立て直す。
 黒に限りなく近い灰色のスーツの土埃を払い、癖のようにずれてもいない眼鏡に手をやると、ちょうど自分を突き飛ばした男がサン
ダルを突っ掛けて玄関から出てくるところだった。
 老爺である。
 身長は低めだが背筋はぴんと伸びて、物腰はかくしゃくとしていた。糊の利いた白衣をいかにも着慣れたようすで羽織り、長い裾を
恐竜の尾のように流してずんずんと歩く。
 やや後退した頭髪は、白髪のために遠目には薄い灰青色に見えた。顎先に同じ色の髭が茂っている。
 皺だらけの顔は、どこか風化した鉱物めいて恐ろしい。
 気難しそうに引き締められた唇ががばりと開かれる。
「ワルサシンジケートじゃとぅ? 誰が貴様らなぞに手を貸すものか! この悪山悪男を何者だと心得るか!」
 強靭な意志を窺わせる眼差しには、燃えるような怒りがあった。
「悪の天才・悪山悪男ぞ! 儂は、悪であっても外道ではない!」
 口角泡を飛ばしながら、老博士は大喝した。
 言っていることは無茶苦茶だったが、有無を言わせない年嵩の重みがある。巨大犯罪組織ワルサシンジケートの構成員として修羅場
をくぐってきたレディ・ビジョンでも、ややもすれば気圧されそうになるほどだった。
 ――ロボヶ丘に在住する在野の技術者、悪山悪男を味方に引き入れること
 それが、上司であるイッツァ・ミラクルからレディ・ビジョンに下された命令だった。
 破格の条件を揃えてじきじきに出向したのだが、交渉に入る前に破綻した。
 不用意に素性を明かすほど彼女も迂闊ではない。表向きは犯罪行為とは無縁のダミー企業を新たに創立し、そこの開発主任として迎
え入れるという手筈だった。
 しかし、悪山悪男の勘働きは衰えていなかった。二、三語言葉を交わすなり「さてはお前さんワルサじゃろ? ワルサじゃな? な
らば出て行けぇ!」とレディを追い出しに掛かったのである。実際に彼の直感は的中しているわけだが、決めつけ方はどこか偏執狂じ
みてもいる。おかげで手の掛かった計画が水泡に帰した。

 悪山悪男は、研究所の奥に向かって声を張り上げる。
「エリス! 塩じゃ! 塩! 瓶ごと持ってきてくれ!」
「だめです。またお花枯らすから」
 廊下を響いて伝わった少女の返事は、ひどく冷たかった。
 途端に、悪山悪男が硬直する。どうやら前科があり、そのときも彼女に叱られたらしい。さっきまでの激怒が嘘のような、ひどく情
けない表情を浮かべていた。
 レディ・ビジョンは鉢植えをちらと見た。資料によれば、悪山エリスは偏屈な彼が溺愛している孫娘で、足繁く研究所に通っては家
事手伝いをしているという。悪山悪男は花を愛でるような人物には見えなかったが、これらは彼女が世話をしているものらしい。
「とにかく! 儂は貴様らに協力などしないからな! 覚えておけっ!」
 削がれた気勢を繕うように裏返った嗄れ声で言い捨ててから、悪山悪男は慌てて研究所の中に引き返していった。戸締まりの仕方も
どこかバツが悪そうだった。
「あの……エリスちゃん? 違うんじゃあ、今のは……、な、ナメクジを退治しようと……」
「――嘘つき」
「ままま待って? ちょっと待って? ……わ、儂は、儂ゃあ、あー、えーとその、つまりー」
 扉越しにしどろもどろな弁解の台詞が聞こえる。それもだんだんと薄くなっていき、やがて玄関先に静寂が戻った。
「…………」
 レディ・ビジョンは、呆然と立ち尽くしていた。
『やはり拒否されましたか』
 通信機能のあるピアスが震えた。わざとらしい嘆息の主は、イッツァ・ミラクルその人だった。
「恐縮ですが最上級ワルジェント、イッツァ・ミラクル。あの老人はそれほどの人物なのですか?」
 懐柔するにせよ脅迫するにせよ、いかにも骨が折れそうな手合いだった。只者でないことは明らかだったが、そこまでするだけの価
値があるのかというと疑わしいものがある。
『そうですよ』
 男性にしては高めの声には、どこか楽しむような響きがあった。
『彼のティラノザウルスのロボット、連敗こそしていますが、技術じたいは我々やE自警団より遥かに上、何世代先をいっているのか
分からないほどです。ネクソニウムなどという宇宙のミラクルも使わず、ネクソンタイプとほとんど互角に戦える巨大ロボットとは、
まさにイッツァミラクル!(それは有り得ないほど素晴らしい!)』
 最大級の感嘆を籠めて、口癖を繰り出す。
『世界最狂から数えて九番目の男、悪山悪男。先代のドン・ワルザックが各界の重鎮に根回ししてでも手に入れたがった、一種の巨人
ですね。あなたにとって分かりやすいところでは、ドクトルポイズンが私淑していた人でもあります』
「あの悪の巨大頭脳・ドクトルポイズンがですか?」
 唯我独尊を地でいく横柄さを思い出し、レディ・ビジョンは驚きを隠せない。
『発表以来、字が汚すぎて誰にも理解できなかったという伝説の悪山ノートの解読にミラクル的に成功したのが、当時からシンジケー
トにいた彼らのチームなのです』
 イッツァ・ミラクルはしみじみと過去を語る。時に大仰な語り口となるのも彼の特徴のひとつだった。
『何を隠そう、ワタクシも十年ほど昔、まだ暗号名もイッツァ・ミラクルではなかった幹部候補の頃です、孫娘のエリスちゃんを拐か
してご協力いただこうとしたことがありました』
 そこで事実を誇張するように抑揚をつけた。
『……今生きていられるのがミラクルですよ。ええ、まさかあの可愛らしいリボンにあんなド外道な仕掛けがあろうとは。それ以降、
リボンの女の子はワタクシ大嫌いです』
 レディ・ビジョンの手は、無意識に髪に伸びていた。リボンは、ついていない。
 そのことに安堵しつつ、悪に身を捧げた女は大きく深呼吸した。
(田所カッコマンの件での失敗の分、必ず挽回してみせる……! 必ず!)
 レディ・ビジョンの灰色の瞳は、来る者を拒むように聳え立つ研究所を睨み据えた。







 ※

「ボクの名前はカッコマンエビル。分かりやすくいうなら、悪のカッコマン……さ」
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ張りの登場をした悪の神速飛翔ロボ・シロガネソニック。嘲りを含んだ声が告げたそのパイロット
の名を聞いて、セイギベース4に戦慄が走る。
 恐るべき悪の総本山・ワルサシンジケートからの刺客。シロガネ四天王いちのスピード、カッコマンエビル!
 セイギベース3司令室の大型モニタは、神速飛翔ロボ・シロガネソニックを様々な角度から捉えた映像に埋め尽くされていた。
 銀翼と化した両腕で虚空を抉る、機械仕掛けの鳥人。美しい機体だったが、不気味な悪意のような気を全身から発している。
「黙れッ! 今のお前に、カッコマンを名乗る資格はない!」
 はぐれ研究員・龍聖寺院光は手にメガホンを握り締め、怒りを露わに叫んだ。正確にはそれじたいは拡声器ではなく、屋外のスピー
カー設備に音声を入力する装置である。
 カッコマン。もしくはカッコウーマン。
 武闘派市民団体・E自警団が、擁する巨大ロボットの専属パイロットとなった者に託す呼び名である。それは、伊達や酔狂でという
以上に、正義のヒーローとしての自覚を彼らに促すものでもあった。
 悪がカッコマンを騙るなど、許されることではない。
「ほう」
 研究所外にこだまする龍聖寺院光の怒鳴り声を聞いて、カッコマンエビルはことの奇遇さを笑った。
「ここの責任者はあなただったんだね。武御雷光華琉(たけみかづち ひかる)姐さん」
「それは昔の偽名だ馬鹿め!」
「博士落ち着いてください」
 大型モニタに跳び蹴りをかましそうな剣幕の龍聖寺院光を、田所正男は必死に止めた。さりげなくはぐれ研究員の若気の至りが暴露
されていたが、現在とさほど変わるものでもない。
「それより博士! あなたは彼のことをご存じなのですか?」
 田所正男は尋ねる。口振りから二人が旧知の間柄らしいことは明らかだった。
「ああ、間違いない。悪のカッコマン……カッコマンエビル! 昔の名を森本カッコマン! かつてネクソンタイプを手土産にE自警
団を裏切った、裏切り者だ!」
 龍聖寺院光は、憤怒のあまり自らの表現の重複にも気づいていないようだった。メガホンがみしみしと軋んでいる。
「フッ。その名前はとうに捨てましたよ」
「カッコマンは捨てられなかったようだがな」
「これはおかしなことを。ボクは今でもこんなにカッコイイというのに」
 冗談めかしたカッコマンエビルの声には、正義の代名詞とされるカッコマンへの皮肉の響きがあった。
 はぐれ研究員・龍聖寺院光と、元森本カッコマン・カッコマンエビル。話題は彼らにしか分からない貶し合いへと発展していく。
 映像を介さない音声だけの応酬には、しかし互いの呼吸を体で覚えているような軽妙さがあった。田所正男の知らない、彼らの黄金
時代の残り香なのだろう。完全に二人だけの世界が構築されていた。
(カッコマンエビルか……)
 自分以外の全てを嘲弄するような、妙に癇に障る喋り方をするこの青年も、かつては愛と勇気を胸に巨大ロボットを駆って、巨大な
悪と戦ったのだろうか。
 会話に入っていけない田所正男は、ひとり拳を握り締めた。
 取り残された孤独感、カッコマンエビルに対する悪印象、ある種の嫉妬にも近い負の感情が、このとき彼の胸の奥にわだかまってい
たことは否定できない。

 しかしそれでも。
(俺が性根を叩き直して、必ずヤツを森本カッコマンに戻してみせる!)
 田所正男の瞳には、決意の光があった。
 カッコマンエビルに引導を渡し、正義の心を甦らせる。
 それが、今のカッコマンとして自分に出来ることだと彼は信じたのだ。
「博士! 俺は最強無敵ロボ・ネクソンクロガネで出ます!」
「……っ!? ああ!」
 我に返ったような龍聖寺院光に、田所正男は微笑み掛けた。
「行ってきます。博士」
「そうか! 頼んだぞ田所カッコマン! だが気をつけろ! 敵は、ひとりじゃない!」
 警告に頷きを返し、愛の戦士は走り出す。
 セイギベース4を襲った悪の剛力無双ロボ・シロガネマッスルも、既に移動を開始していた。
(そうそうにこのカッコマンエビルをなんとかしなければ、二対一に持ち込まれてしまうことは必定……!)
 それどころか、二体の他に悪の巨大ロボットが参戦しないという保証はどこにもないのだ。
 シロガネ四天王。
 彼らの口にした不吉な名前を思い出して、田所正男の体に、恐怖からとも武者震いからとも知れぬ鳥肌が浮いた。


 ※

「待たせたな、シロガネ四天王いちのスピード・カッコマンエビル!」
 魂にも響く若者の声に遅れること数瞬、空の高みより降臨する巨大な物体。母なる大地へのいたわりのために着地はやわらかい。だ
が、人の心の幸せを壊す悪ならば容赦なく踏み砕くだけの力を持っている。
 それは、不動明王の化身とでもいうべきスーパーロボットだった。
 頑強な皮膚はどこまでも黒く、表面に星の煌めきを映しとっている。全身を駆け巡る金色の光は、夜行蝶が俯瞰した街の灯しび。
 カメラの眼には、悪の心胆を寒からしめる凄み。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ。その威風堂々たる出陣だった。
 対峙する黒と白、二体の巨大ロボット。
「ううん、今来たところさ」
 逢い引きの待ち合わせのようなふざけたことをいい、カッコマンエビルが臨戦態勢に入る。
 悪の神速飛翔ロボ・シロガネソニックの巨体が離陸。地面から数メートルの距離で静止する。まるで重力を操作しているような不可
解な空中浮遊だった。
 ワルサシンジケートの技術力に慄然としながらも、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの操縦桿を握る田所カッコマンは、果敢に先制
攻撃を仕掛ける。
 内蔵兵器を起動。
 装備箇所は左右の肩当て。金の装飾に紛れたハッチが重たげにスライドし、下の兵装に命が吹き込まれる。
(ワルレックス級の重装甲にはともかく、空を飛ぶために体重を削ぎ落とした敵にならば通用するか)
 我こそはと唸り声を上げるのは、各六門の砲身を束ねた回転式機関砲が二基。
「ネクソンクロガネバルカン!」



『ネクソンクロガネバルバルバルカン!』
 作詞・作曲・歌/ネクソンクロガネバルカンズ


 バルカンは弱い 巨大ロボ全盛期
 こめかみからバババ やられメカすら倒せない

 剣にビーム 空飛ぶ拳 突進攻撃
 ド派手な必殺武器 俺の出番はまだ来ない

 スペックシート 武装の欄の賑やかし
 だけどしっかり 役に立つんだ
 せめて今日は 敵を牽制するよ

 ババババ バル バルカン バルバル バルカン
 ババババ バル バルカン バルバル バルカン 
 いつか必殺 バルバル ネクソンクロガネバルカン

 バルカンはしょぼい いつの間にお約束
 肩口からバババ 逃げ惑うのは生身の人だけ

 ドリルにキャノン 火炎放射に パイルバンカー
 トドメは最強武器 俺は脇を固めるぜ

 全身火器の 武装の欄に花を添え
 だけどやっぱり 役に立ちたい
 せめて今日は 敵を引き立てよう

 ババババ バル バルカン バルバル バルカン
 ババババ バル バルカン バルバル バルカン
 いつもおそばに バルバル ネクソンクロガネバルカン

 ババババ バル バルカン バルバル バルカン
 ババババ バル バルカン バルバル バルカン
 愛と勇気の ネクソンクロガネ バルバル バルカン



「悪は滅びよ!」
 徳の高い僧侶のような厳めしい台詞を唱え、田所カッコマンは白銀の悪魔に機関砲の集中砲火を浴びせる。
 悪の神速飛翔ロボ・シロガネソニックは、その名から予想される高い回避性能を発揮しなかった。ふてぶてしい態度は、バルカンの
ごときは躱すまでもないと言いたげであった。
 実際に、砲弾の豪雨を銀翼に浴びながら、シロガネソニックは無傷だった。分子一個分すら削れているか怪しい。カッコマンエビル
は呆れと哀れみの入り混じった声でぽつりと呟く。
「あのさ……その武装、もう外した方がいいよ?」
「やはりダメだったか……」
 田所カッコマンはヘルメットの下で目を伏せる。考えが甘すぎたと言わざる得ない。「敵にまで同情されるネクソンクロガネバルカ
ンの活躍の場はこの先来るのだろうか」などとどうでもいいことまで心配する。

 実はネクソンクロガネバルカンは、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネにくっついているというだけで、その性能は型落ちの近代兵器
と何ら変わりない。防御力偏重の巨大ロボットを相手に、これほど頼りない武装はなかった。
「超ネクソン白鋼をふんだんに使ったボクのシロガネソニックは、軽くて強くて丈夫なのさ。しかも、美しい」
 聞いてもいないことを自慢たらしくぺらぺら喋るカッコマンエビル。しかし、彼によって明かされた事実に、田所カッコマンはネク
ソンクロガネバルカンが通用しなかったこと以上に衝撃を覚えた。
「何だって!? こいつもネクソンタイプだというのか……!?」
『ワルサシンジケート。……それほど大量のネクソニウムを確保していたとはな』
 龍聖寺院光もまた深刻そうに腕組みをした。もしシロガネ四天王の巨大ロボットが全て超ネクソン白鋼製なのだとしたら、それはも
はや最強無敵ロボ・ネクソンクロガネといえども一機でどうこうできる事態ではない。
「これならどうだ!」
 カメラアイの下、隈のように開いた砲口の深淵に、亜空間から重金属粒子群を大量転送、莫大なエネルギーを添加して野に放つ。最
強無敵ロボ・ネクソンクロガネの内蔵兵器最大の破壊力を誇る高出力金属粒子ビーム。
「ネクソンクロガネビーム!」
 全てを磨滅させる光の帯が、宙に伸長していく!
「思ったほどの射速じゃないね」
 神速飛翔ロボ・シロガネソニックが機体を上昇。鳥人ハルピュイアを思わせる翼が発生させる推力で、苦もなく射線から逃れる。
 それは恐ろしい速さであった。田所カッコマンの動体視力では追いつかず、突然に消え、突然に現れるようにしか見えない。ほとん
ど瞬間移動に近いものがある。
 その度に発生する強烈な衝撃波の煽りを受けて、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの体勢が崩れる。
「へぇ……。そこらのロボットならソニックブームだけでお釈迦だ。伊達にネクソン名乗ってないってことか」
 本来それは、掠めただけで敵を斬り裂く、神速飛翔ロボ・シロガネソニックの攻撃手段であるらしい。
 衝撃波を浴びせ掛けるために、着かず離れずの至近距離を超音速で疾駆する銀翼の巨大ロボット。他に携行武装は見られず、敵との
接触をひどく嫌っているようだった。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが目許からビームを放ちながら太い首を動かして捉えようとするが、シロガネソニックの立体機動
の前に翻弄され、虚しく空を薙ぐのみ。
「くそっ! 狙いが定まらん!」
「ボクに当てようと思ったらさあ! レーザー光線でも持ってくるべきだね!」
 田所カッコマンはネクソンクロガネビームの照射を中断し、挑発するように空中を自在に飛び回るシロガネソニックを観察した。
(まずい、状況だな)
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは、基本的には鈍重な部類の巨大ロボットである。自然、初手には比較的高速のネクソンクロガネ
ビームが選ばれていた。そしてネクソンクロガネビームは強力すぎるため、大抵は一撃で決着がついてしまう。それが通用しないとな
ると格闘戦に突入することになるが、田所カッコマンのまともな戦闘経験はさほど多くない。
 まして三次元となると全く未知の領域だった。最強無敵ロボ・ネクソンクロガネに飛行能力はない。滞空時間の長い大跳躍ならば可
能だったが、それで神速飛翔ロボ・シロガネソニックに対抗できるはずもなかった。
 救いはシロガネソニックの衝撃波攻撃が、ネクソンクロガネの重装甲を通らないことだった。このまま延々と直撃を食らい続ければ
ともかく、今のところは千日手といっていい。
(だが、まごまごしていると敵の援軍が到着する……!)
 焦る。焦る。焦る。
 頭に昇った熱い血を使って、田所カッコマンは思考する。
 これまで生きてきた経験。書物で読んだ知識。誰かから教わったこと。すべてが彼に味方する!

 思いついたことがあった。
「……教えてやろう。なぜ最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが“鋼の王”と呼ばれているのか!」
「……初めて聞くけど?」
「必殺! ネクソンクロガネビーム!」
 不敵な笑みを、はったりでは終わらせない。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの下瞼に、アルミホイルの切れ端のような金属片と、砂鉄のような金属の微粒子が発生。ただしそ
れはエネルギーを滾らせることもなく、霧のように空気中に拡散していった。
 そのままロボットの関節可動を利用して、首を360度回転。
 まるでビームの態をなしておらず、やや上空を旋回するシロガネソニックにも全く届いていない。風に煽られるままの薄片と粉塵が、
一帯で浮遊と沈殿を繰り返すのみである。
「何だそれ? まさか煙幕とかチャフのつもりなの? ばればれなんだけど」
 ともすれば沙漠の砂嵐のような量だったが、さして脅威とも思えなかった。
 カッコマンエビルは、もう幾度目になるのかも分からない衝撃波攻撃を敢行。これまで通り、手も足もビームも躱せる軌道を神速で
飛翔する。
 しかし今回に限って、神速飛翔ロボ・シロガネソニックが発火した。
「え?」
 いや、それは発火などという生易しいものではない。
 摩擦熱によって一瞬にして蒸発した金属群の膨張が生み出す、空間の爆轟だった。カッコマンエビルの視界を支配する激しい発光。
乱気流がシロガネソニックの翼を殴りつけ、操縦桿を奪う。
 それだけではない。超高水圧によって物体を切断する工業機械であるウォータージェットの水には、削る力を高めるために砂鉄が混
ぜてあるが、大気中に散布された金属粉は今、それと同じ働きをしてシロガネソニックの機体に甚大なダメージを与えるのだ!
 転移させた物質を融点や沸点を違える数種に合成することで、複数の効果を実現したネクソンクロガネビームの応用。
「命名!! ネクソンクロガネストーム!!」
 これでもまだ致命的な損傷ではない。カッコマンエビルが、火達磨となったシロガネソニックを思わず減速させる。
 だが、それこそが田所カッコマンの狙い。
 そこは衝撃波を浴びせ掛けるための、着かず離れずの至近距離。他に携行武装は見られず、接触をひどく嫌っているようで。
「ここで一度負けて」
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの豪腕が唸る。
「龍聖寺院博士に謝ってこい!」
 ネクソンクロガネパンチ。
 鋼の王の鉄拳制裁が、神速飛翔ロボ・シロガネソニックを捉えた――!!

 ネクソンクロガネパンチは、確実に神速飛翔ロボ・シロガネソニックの腹を打突する軌道に乗っていたはずだった。
 しかし直後に、田所カッコマンは瞠目することになる。
 振り抜かれた最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの腕は、拳ひとつ分ほどシロガネソニックから逸れ、空を切ったのだ。
 もっとも、田所カッコマンの驚愕の理由はそれではない。どうして打点がずれたのかは明白だった。それはカッコマンエビルの緊急回
避が間に合ったからではない。
 殴打する動作じたいに干渉があったからだ。
 超特急新幹線などよりも桁違いに重く速いネクソンクロガネパンチに横殴りに衝撃を与えて、その弾道を捻じ曲げた者がいる!
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの前腕に、凹みが生じていた。直径50センチメートルばかりのそれは、隕石が落下したクレーター
を思わせる。砲弾の痕だった。
『馬鹿な!? 最強無敵を謳われた超ネクソン黒鋼の装甲に!?』
 司令室のはぐれ研究員・龍聖寺院光の悲鳴。それほどの異常事態だった。これまでの激戦を通して、内部機構に不具合は生じたことは
あっても、装甲が損傷したことは一度たりともなかったというのに!
「こんなことができるのは……!」
 田所カッコマンは右方を向いた。これが本職の狙撃手ならば、不用意に誰かに姿を晒すような真似はすまいが。
 果たしてそこにあったのは、月からの逆光に浮かび上がる三つのシルエット。
 一夜にして新たに建造された高層ビルか。馬鹿な。
 それこそが敵影。夜空に食いこんだ銃弾にも似て禍々しき。
「ちぇっ! もう来た」
 カッコマンエビルが唇を尖らせる。台詞とは裏腹に、声調には安堵の響きがあった。
 神速飛翔ロボ・シロガネソニックが羽ばたき、大きく弧を描いて彼らに合流。
 そうして、四体の超級巨大ロボットが遂に、月夜のロボヶ丘に揃い踏みした――!!
『なんてことだ……』
 龍聖寺院光の呆然とした声が届く。気丈な彼女にも、今にも崩れ落ちそうな気配があった。
「こいつらがそうなのか……?」
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの操縦桿を握る田所カッコマンの手には、じっとりと汗が滲んでいた。内臓の機能に異常を来たし、
吐き気を催すほどのプレッシャーを感じる。
 ネクソンクロガネストームの閃光に眩んでいた瞳が暗順応。次第に彼らの正体が明らかになる。
 体型や武器の差はあっても、銀の粒を表面にまぶしたような、美麗な白色だけは違いがない。
 神速飛翔ロボ・シロガネソニックと同じ、超ネクソン白鋼の質感だった。
 彼らこそは、白銀に統一された無法の戦士。悪の総本山によって送り込まれた刺客。恐怖の巨大ロボット軍団。
 すなわち――
「忍耐とはスナイパーの美徳だ」
 四人のうちの一人、向かって左端に立つ、細長い影が口火を切った。
 長大な銃身のライフルを手にした彼は、巨大ロボットを狩る猟兵。
 猟銃をくるくるとステッキのように回し、銃把を下にして大地に突き立てる。天を指す銃口からは、白煙が靡いていた。ネクソンクロ
ガネパンチを射ち抜いたのもそれか。
「たとえ飢え死にしようとも、糞尿を垂れ流そうとも、藪蚊に刺されようとも。じっと好機を待ち、決して外さない……。それ故に我が
名はスナイパーガマン。シロガネ四天王いちのスナイパーだ」
 左目には無骨な眼帯、恐らくは照準器に類する装置を当てていた。
 全身の模様は、シロガネマッスルは赤、シロガネソニックは青だったが、この機体は黄であった。ヤドクガエルの警戒色のように鮮や
かで、白色の強い装甲にも埋没しない。眼帯のない右カメラアイを中心として爪先まで、一定の間隔を置きながら拡大していく同心円の
パターン。自分自身をターゲットと見立てたような、ひどく奇異な装いだった。
「私の愛銃を紹介しよう。百発百中ロボ・シロガネスナイパー」
 操縦席で叫ぶのは、厚手の防弾服に似たパイロットスーツを着た壮年の男。
 胡麻色の髪をオールバックに纏め、左目には巨大ロボットと同じくスコープを装着していた。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを前にしての余裕ある態度からは、豊富な経験に裏打ちされた自信が見て取れる。
 四天王いちのスナイパー・スナイパーガマン、百発百中ロボ・シロガネスナイパー。それが一人目。

「前から思っていたんだけど」
 右隣。気だるげな声で、やや蕩の立った女が続く。
 芸術的な曲面を繋ぎ合わせた西洋甲冑だ。前方に張り出した胸甲の滑らかなラインは、その巨大ロボットが女騎士の特注品であること
を如実に表していた。
 何より目を引くのは、それが携える剣か。取り回しの楽そうな適度な長さ。両刃が放つ光沢は鎧のものよりも一層強く、凄絶な切れ味
を予想させる。
「四天王いちじゃあ、凄いんだか凄くないんだか分からないんじゃないかしら。四人ぽっちの中で一番だから何なの?って思ってるわよ、
カレ、きっとね。世界いちとは言わないけど、シンジケートいちくらいは名乗りたいものだわ」
「身も蓋もないな」
 スナイパーガマンが失笑する。
 騎士鎧の優美さを損なわないよう配慮された板金の継ぎ目に、不気味な緑の光が嗤うように蠢く。ヤコウタケという茸が夜に発するも
のに似ていた。兜の頭頂から伸びた、馬の尾のような毛髪の飾りも同じく。総じて亡霊じみてもいた。
「そう言うアタシは四天王いちのテクニシャン・切り裂きジャンヌ。で、この子は一騎当千ロボ・シロガネブレード。たぶん、この一夜
限りの付き合いだけれど、よろしくね」
 地味なライダースーツで強調された豊満な胸を反らし、女は蕩かすような声を発した。白い肌に浮いた口許には妖艶な微笑み。色の濃
い紅を引いた唇が吐くのは、炎か毒か。
 四天王いちのテクニシャン・切り裂きジャンヌ、一騎当千ロボ・シロガネブレード。これで二人目。
 セイギベース4を強襲し、海老原カッコウーマンの一撃必殺ロボ・ネクソンアカガネを捻じ伏せた巨大ロボットもいる。
「ふむ。まだまだ幼いが、無限の可能性を秘めた、よい筋肉だ」
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを評しながら、次々にマッスルポージング。興奮のためか、筋繊維の入れ墨がより赤味を増している
ような気がした。
 機械仕掛けでありながら、それの特徴を端的に表すのに「筋肉質」以上に相応しい言葉は存在しないだろう。ボディビルダーを思わせ
る重厚な体躯は、距離の隔たりを越えて田所カッコマンを威圧する。
「そしてカッコマンエビル。きみはもう少し筋肉をつけた方がいい。その方がいい」
 パイロットである禿頭の巨漢は、穏やかな教師のような声で隣人に忠告する。
「だから、あそこからボクの華麗な逆転劇が始まる予定だったんだって」
 言い訳がましく返す声は、先ほど最強無敵ロボ・ネクソンクロガネと死闘を繰り広げた魔鳥の巨大ロボットからだった。吹き抜ける青
い風を象った紋様に曇りはない。
 彼らの名前ならば、田所カッコマンにも覚えがある。忘れるはずもない。
 四天王いちのマッシブ・ニック・W・キム、剛力無双ロボ・シロガネマッスル。
 四天王いちのスピード・カッコマンエビル、神速飛翔ロボ・シロガネソニック。
 彼らが三人目、四人目となり、これで全員が確認された。
「ひとついいことを教えてやろう。我々は結成以来、一度も四名揃ったことがない」
「私達は強すぎる」
「エージェントがどうしてもっていうから特別に参戦させてやるけど、残り三人はいらなかったな」
「光栄に思いなさいな、最強無敵ロボ」
 四人が好き勝手に叩く軽口は、苛烈な戦場の兵士が口にするようなユーモアとは違う。そもそも緊張感など微塵もないのだ。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネですら敵ではないというのか。国際犯罪組織ワルサシンジケートにより製造された超級の巨大ロボッ
ト、そのために選び抜かれた最高のパイロット達の前には!
「剛力無双ロボ・シロガネマッスルのニック・W・キム。四天王いちのマッシブ!」
「一騎当千ロボ・シロガネブレードの切り裂きジャンヌ。四天王いちのテクニシャン!」
「百発百中ロボ・シロガネスナイパーのスナイパーガマン。四天王いちのスナイパー!」
「神速飛翔ロボ・シロガネソニックのカッコマンエビル。四天王いちのスピード!」
 筋肉隆々たる巨漢が、妖艶な女騎士が、眼帯の狙撃手が、嗤う鳥人が、高らかに名乗りを上げる。
「四人揃ってッ!!」



『シロガネ四天王現る!』
 作詞・作曲/ドクトルポイズン
 歌/シロガネ四天王&ワルサ音楽隊


 1! 2! 3! 4(し)ロガネ! 無法の戦士
 ヤツらが通ったあとには ぺんぺん草も残らない
 根こそぎ奪うぜ お宝 スマイル 生きてく希望
 シロガネ四天王 誰か止めてくれ

 1! 2! 3! 4(し)ロガネ! 悪逆非道
 ヤツらが踏み締めた大地からは 愛と平和の歌も消え
 一切合財奪うぜ 金銀 財宝 お前の貯金
 シロガネ四天王 誰が止められる

 1! 2! 3! 4(し)ロガネ! 無銭暴食
 ヤツらが渡った海では 赤潮青潮流れる血潮
 まるごと奪うぜ 食べ物 飲み物 三時のおやつ
 シロガネ四天王 誰かが止めなくちゃ

 1! 2! 3! 4(し)ロガネ! 悪党好色
 ヤツらが現れた街では ヤツらが王様 逆らうな
 とにかく奪うぜ 恋人 花嫁 気になるあのコ
 シロガネ四天王 誰も止められない

 シロガネ四天王 シロガネ四天王 シロガネ四天王 悪さしてんのう
 シロガネ四天王 シロガネ四天王 シロガネ四天王 あしたキミのもとへ



「シロガネ四天王ッ!!」
 背後で謎の大爆発が発生。
 思い思いのポーズを決める巨大ロボット軍団は壮観だった。
「か、勝てる気がしない……ッ」
『……ッ! 呑まれるな!! しっかりしろ!! 田所カッコマン!!』
 はぐれ研究員の鼓舞もどこか遠い。田所カッコマンの頬を冷や汗が伝い落ちた。
 彼を蝕むものそれは……恐怖……!
 シロガネ四天王、ロボヶ丘に集結――!
 単独でも最強無敵ロボ・ネクソンクロガネをあれほど苦しめた神速飛翔ロボ・シロガネソニック。
 それと同等の性能を誇ること間違いなしの四天王ロボ全員を一度に相手どり、果たして田所カッコマン達はこの戦いに勝機を見出せ
るのであろうか!?
 さらにシロガネ四天王には、まだとんでもない秘密が……!?
 かつてない窮地に、みんなの熱い声援が必要だ!
 ここが正念場だ! 田所カッコマン!
 踏ん張ってみせろ! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ! 



 つづく

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