両手に持った二挺のレーザーライフルでウサギと黒騎士それぞれにピタリと狙いを付けながら、そのオートマタは言った。
<まさか、こんなに早く君が現れるとはね。リヒター……リヒター・ペネトレイター>
猫を彷彿とさせるしなやかな蒼いボディ、男とも女ともつかない中性的な声。長い尻尾が落ち着き無く揺れる。
<……誰だ、貴様は>
唸るような低い声で、黒騎士。戸惑いを隠し切れていないのか、声が少し震えている。
<へぇ、メモリーを消したのか。……あるいは、消されたか。……まあいいや。私の名前はフェーレス。以後お見知り置きを>
クスッ。小馬鹿にしたような笑いを漏らす、蒼い猫。相変わらずその長い砲身はピクリとも動かない。
<何の事だ……!>
<だから壊れかけのレディオですか、あなたは。ほら、落ち着いて深呼吸してください。ひっ、ひっ、ふー>
……ラマーズ法?
遥が首を傾げたその時だ。
「お嬢さん」
リヒトが遥を呼び止めたのは。
<まさか、こんなに早く君が現れるとはね。リヒター……リヒター・ペネトレイター>
猫を彷彿とさせるしなやかな蒼いボディ、男とも女ともつかない中性的な声。長い尻尾が落ち着き無く揺れる。
<……誰だ、貴様は>
唸るような低い声で、黒騎士。戸惑いを隠し切れていないのか、声が少し震えている。
<へぇ、メモリーを消したのか。……あるいは、消されたか。……まあいいや。私の名前はフェーレス。以後お見知り置きを>
クスッ。小馬鹿にしたような笑いを漏らす、蒼い猫。相変わらずその長い砲身はピクリとも動かない。
<何の事だ……!>
<だから壊れかけのレディオですか、あなたは。ほら、落ち着いて深呼吸してください。ひっ、ひっ、ふー>
……ラマーズ法?
遥が首を傾げたその時だ。
「お嬢さん」
リヒトが遥を呼び止めたのは。
♪ ♪ ♪
<面白い子だね、キミ。やられるかもしれないのにそういう事が言えるなんて>
<そんなに褒めないでください、惚れてしまいます>
ウサギが演技がかった動作で頬に手を当てる。
「いやお前、ありゃ馬鹿にされてんだ」
<ですよねー。……さてと、ひとつ質問してもいいですよね>
断定口調。ウサギはどうにも強引だった。
<許可しよう>
同じく余裕たっぷりのフェーレス。
<そこにいるのは、誰ですか……!>
<嘘だ! 反応なんて無かっ>
しかしその余裕はすぐに消滅した。振り返れどもそこには何も無い、誰もいない。
<しまった!?>
気付いた時には、もう遅い。
「よし、行け! ゴー!」
「は、はいっ! GO Ahead!」
すぐさま指示を飛ばす。
<イエス・マイマスター>
「ハーシェン、お前も!」
<合点承知の助!>
黒騎士と白ウサギの二機が同時に飛び掛かった。
<かかったなアホが!>
狙いは長い、その砲身。がっしとつかんで、ブン投げる。くるりくるりとレーザー砲が宙を舞った。
<やったね……!>
飛びすさり、距離を離す。その声音に、先程の余裕は無し。
<……形勢逆転だ>
<でも、まだだ、まだだよ。レーザーを取られたぐらいじゃ>
フェーレスのマニピュレーターから、五本の光刃が飛び出した。
<私に勝ったとは言えない!>
鋭い眼光、揺れる尻尾。四脚で立つその姿、それはまさに猫そのもの。
<……所謂本気モードですか。まあ、勝たなくてもいいんですけどね>
幼い声で嘲笑うウサギ。
<……まさか!>
「黒騎士さん、ウサギさん、下がって!」
<イエス、マイマスター>
<では、ごきげんよう>
遥が、大きく振りかぶって、円筒状の物体を――――
「とーんーでーけぇぇぇぇぇぇ!!」
投擲。結構な速度で弧を描いて飛んでいく、その物体は本日二つ目の白燐超高熱(中略)発煙化学爆弾。またの名を、煙幕という。
<閉所でこんな物を!?>
「駄目押しだ、こいつも持っていけ!」
ロッドを地面に突き立てて、ライフルを召喚。フェーレスがスモークグレネードに気を取られているところに特製のペイント弾を叩き込む。
<ああ! 目が! 目が!>
命中。カメラ・アイが塗料によって朱に染まる。それと同時に白燐(中略)焼夷弾頭型(後略)が破裂、部屋中に煙が広がった。
「よし、逃げるぞヘーシェン! お嬢さんも!」
ライフルを捨てながらリヒトが促す。ライフルは光の粒子となって消えた。
<言われなくても脱兎の如く。光の速さでスタコラサッサですよ>
「はい! 行こう、黒騎士さん!」
<イエス、マイマスター>
走り出す、各々マスターを背に乗せて。
フェーレスがこちらを追い掛けてくる気配はない。
<そんなに褒めないでください、惚れてしまいます>
ウサギが演技がかった動作で頬に手を当てる。
「いやお前、ありゃ馬鹿にされてんだ」
<ですよねー。……さてと、ひとつ質問してもいいですよね>
断定口調。ウサギはどうにも強引だった。
<許可しよう>
同じく余裕たっぷりのフェーレス。
<そこにいるのは、誰ですか……!>
<嘘だ! 反応なんて無かっ>
しかしその余裕はすぐに消滅した。振り返れどもそこには何も無い、誰もいない。
<しまった!?>
気付いた時には、もう遅い。
「よし、行け! ゴー!」
「は、はいっ! GO Ahead!」
すぐさま指示を飛ばす。
<イエス・マイマスター>
「ハーシェン、お前も!」
<合点承知の助!>
黒騎士と白ウサギの二機が同時に飛び掛かった。
<かかったなアホが!>
狙いは長い、その砲身。がっしとつかんで、ブン投げる。くるりくるりとレーザー砲が宙を舞った。
<やったね……!>
飛びすさり、距離を離す。その声音に、先程の余裕は無し。
<……形勢逆転だ>
<でも、まだだ、まだだよ。レーザーを取られたぐらいじゃ>
フェーレスのマニピュレーターから、五本の光刃が飛び出した。
<私に勝ったとは言えない!>
鋭い眼光、揺れる尻尾。四脚で立つその姿、それはまさに猫そのもの。
<……所謂本気モードですか。まあ、勝たなくてもいいんですけどね>
幼い声で嘲笑うウサギ。
<……まさか!>
「黒騎士さん、ウサギさん、下がって!」
<イエス、マイマスター>
<では、ごきげんよう>
遥が、大きく振りかぶって、円筒状の物体を――――
「とーんーでーけぇぇぇぇぇぇ!!」
投擲。結構な速度で弧を描いて飛んでいく、その物体は本日二つ目の白燐超高熱(中略)発煙化学爆弾。またの名を、煙幕という。
<閉所でこんな物を!?>
「駄目押しだ、こいつも持っていけ!」
ロッドを地面に突き立てて、ライフルを召喚。フェーレスがスモークグレネードに気を取られているところに特製のペイント弾を叩き込む。
<ああ! 目が! 目が!>
命中。カメラ・アイが塗料によって朱に染まる。それと同時に白燐(中略)焼夷弾頭型(後略)が破裂、部屋中に煙が広がった。
「よし、逃げるぞヘーシェン! お嬢さんも!」
ライフルを捨てながらリヒトが促す。ライフルは光の粒子となって消えた。
<言われなくても脱兎の如く。光の速さでスタコラサッサですよ>
「はい! 行こう、黒騎士さん!」
<イエス、マイマスター>
走り出す、各々マスターを背に乗せて。
フェーレスがこちらを追い掛けてくる気配はない。
ミッション、コンプリート。
♪ ♪ ♪
走り続けて数十分、流石にもう大丈夫だろうと街道に出て歩を休める。
「落ち着いたところで、改めて自己紹介タイムといこうか。俺はリヒト・エンフィールド。見ての通り、通りすがりの神子様だ」
近くにあった手頃な岩に腰掛け、腕を組みながら、リヒト。
<とんだ不良神子の穀潰しですけどね>
「お前は黙ってろ。こいつはヘーシェン、俺のパートナーだ」
<ヴァイス・ヘーシェンです。……謝って済む事ではないかもしれませんが、先程は壮大な勘違い、失礼いたしました>
ゆっくりと、丁寧に頭を下げる。
「いえ、こちらこそありがとうございました。……もし黒騎士さんとあなたがたの助けが無かったら私きっと殺されてました。あ、私 一条 遥 といいます」
「いや、当然の事をしたまでさ、遥ちゃん」
爽やかな笑みでサムズアップ。
<あ、剃り残し>
「落ち着いたところで、改めて自己紹介タイムといこうか。俺はリヒト・エンフィールド。見ての通り、通りすがりの神子様だ」
近くにあった手頃な岩に腰掛け、腕を組みながら、リヒト。
<とんだ不良神子の穀潰しですけどね>
「お前は黙ってろ。こいつはヘーシェン、俺のパートナーだ」
<ヴァイス・ヘーシェンです。……謝って済む事ではないかもしれませんが、先程は壮大な勘違い、失礼いたしました>
ゆっくりと、丁寧に頭を下げる。
「いえ、こちらこそありがとうございました。……もし黒騎士さんとあなたがたの助けが無かったら私きっと殺されてました。あ、私 一条 遥 といいます」
「いや、当然の事をしたまでさ、遥ちゃん」
爽やかな笑みでサムズアップ。
<あ、剃り残し>
ぶちっ。ヘーシェンの、見かけとは裏腹に細やかな作業を可能とするマニピュレータが、リヒトの剃り残しを根本から引っこ抜いた。
「へあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
爽やかスマイル台無し。服が汚れるのも構わず、地面をのたうちまわる。
「何すんだテメー!!」
しかし復活は早かった。無駄の無い動作で起き上がり、
「ここまでカッコ良くキメてたのに台無しじゃねーか!」
びしりとヘーシェンを指差す。
<所詮は三枚目という事ですよ>
「せめて二枚目半と言え!」
「ぷっ……ふふっ」
目の前で進行する台本の無いコントに、遥が思わず噴き出した。
「今、誰か俺を笑ったか?」
<あげゃげゃげゃげゃげゃ!!>
「笑うなぁぁぁ!!」
手近に転がっていた小石をヘーシェンに向かって全力で投擲。カチンと虚しい音を立ててそれは弾かれる。余りにも情けない光景に、遥は笑いを隠し切れない。
「ふふっ。いつもこんな感じなんですか?」
「いんや」
<ここにさらに五人加わります>
「五人も!」
遥が驚きの声を上げる。それだけの人数がいたら、どれだけ賑やかな事だろう。二人でこれなのだ、きっと毎日が楽しいに違いない。
「すっごく楽しそうですね。いいなぁ」
「君にもいるじゃないか、相棒が」
リヒトの向ける視線の先、おいてけぼりを食らっていたリヒターがぴくりと反応した。
<何かご用でしょうか、マスター>
それはまるで「待て」を命じられていた犬のようで。
「あ、今は」
<現在自己紹介タイム、あなたのターンです>
……間が悪い。
<了解いたしました。私はM-12>
「型式番号ジャネーヨ、名前聞イテンダヨ」
青筋を立ててメンチを切るリヒト。何故かひどく片言だ。
<名前はまだ>
「リヒター・ペネトレイター……だよね?」
名前はまだ無い、そう言おうとした黒騎士を遮る遥。
<……イエス・マイマスター>
黒騎士はそれを静かに肯定した。
「へあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
爽やかスマイル台無し。服が汚れるのも構わず、地面をのたうちまわる。
「何すんだテメー!!」
しかし復活は早かった。無駄の無い動作で起き上がり、
「ここまでカッコ良くキメてたのに台無しじゃねーか!」
びしりとヘーシェンを指差す。
<所詮は三枚目という事ですよ>
「せめて二枚目半と言え!」
「ぷっ……ふふっ」
目の前で進行する台本の無いコントに、遥が思わず噴き出した。
「今、誰か俺を笑ったか?」
<あげゃげゃげゃげゃげゃ!!>
「笑うなぁぁぁ!!」
手近に転がっていた小石をヘーシェンに向かって全力で投擲。カチンと虚しい音を立ててそれは弾かれる。余りにも情けない光景に、遥は笑いを隠し切れない。
「ふふっ。いつもこんな感じなんですか?」
「いんや」
<ここにさらに五人加わります>
「五人も!」
遥が驚きの声を上げる。それだけの人数がいたら、どれだけ賑やかな事だろう。二人でこれなのだ、きっと毎日が楽しいに違いない。
「すっごく楽しそうですね。いいなぁ」
「君にもいるじゃないか、相棒が」
リヒトの向ける視線の先、おいてけぼりを食らっていたリヒターがぴくりと反応した。
<何かご用でしょうか、マスター>
それはまるで「待て」を命じられていた犬のようで。
「あ、今は」
<現在自己紹介タイム、あなたのターンです>
……間が悪い。
<了解いたしました。私はM-12>
「型式番号ジャネーヨ、名前聞イテンダヨ」
青筋を立ててメンチを切るリヒト。何故かひどく片言だ。
<名前はまだ>
「リヒター・ペネトレイター……だよね?」
名前はまだ無い、そう言おうとした黒騎士を遮る遥。
<……イエス・マイマスター>
黒騎士はそれを静かに肯定した。
♪ ♪ ♪
「リヒター……ウーン、いい名前じゃないか。俺の名前と似てるところとか特に」
<あまり縁起のいい名前ではありませんね、改名を推奨します。もっとカッコイイ名前にしましょう、ネオブラックドラゴンとか>
「待てやコラ」
そんなやり取りを遠い目で見ていた黒騎士改めリヒター、指の触覚センサーに反応を確認。頭部を巡らせると、
「あの、リヒターさん」
三つ編みの少女がこちらを見上げていた。
<リヒターで構いません。……何でしょうか、マスター>
「じゃあ、リヒター。色々聞きたい事があるけれど、今はひとつだけ質問します」
<はい>
「私には神子としての素質はありません。このまま私と契約を結んでも、待っているのは穏やかな死です。……それでもいいの?」
<あまり縁起のいい名前ではありませんね、改名を推奨します。もっとカッコイイ名前にしましょう、ネオブラックドラゴンとか>
「待てやコラ」
そんなやり取りを遠い目で見ていた黒騎士改めリヒター、指の触覚センサーに反応を確認。頭部を巡らせると、
「あの、リヒターさん」
三つ編みの少女がこちらを見上げていた。
<リヒターで構いません。……何でしょうか、マスター>
「じゃあ、リヒター。色々聞きたい事があるけれど、今はひとつだけ質問します」
<はい>
「私には神子としての素質はありません。このまま私と契約を結んでも、待っているのは穏やかな死です。……それでもいいの?」
<私の目的はマスター、あなたの護衛です。それにお言葉ですが、マナの使役は不可能ではありません>
リヒターは言った。まだ芽吹く前の種子であるというだけだ、と。
「その根拠は?」
<“賢者の石”です>
「賢者の石……」
そういえば。遥は細身の襲撃者が言っていた事を思い出す。
リヒターは言った。まだ芽吹く前の種子であるというだけだ、と。
「その根拠は?」
<“賢者の石”です>
「賢者の石……」
そういえば。遥は細身の襲撃者が言っていた事を思い出す。
――――ソレサエアレバ、忌マ忌マシイ神子共ニ尻尾ヲ振ル必要モ無イ――――
<賢者の石はマナを無限に生み出し続ける永久機関だという情報があります。真偽は定かではありませんが、それが本当だとしたら>
本来、神子がマナを使役する時は各地に散らばる“管理者”の端末装置にアクセス、許可を貰ってマナを提供してもらう必要がある。しかし自分でマナを作り出せるのなら、許可を貰う必要は無い。才能だって、必要無い。
「でもそれってズルなんじゃ」
<はい。それに管理者にアクセスできない以上、本来得られる管理者からのバックアップを得られない、一度に大量のマナの供給ができない等の様々な制限が科せらせます。しかしマナの使役に慣れれば、そのうち管理者へのアクセスも可能になるでしょう>
「……そういうものなの?」
<はい、データによるとそういうものだそうです>
「……はあ、さいですか」
なーんか胡散臭い。
<ただ、いくつか問題があります。ひとつは、アクセスが可能になるまで――――つまり神子になるまで時間がかかる事。もうひとつは、インストラクターが必須だという事です>
「ははぁ、インストラクター……」
つまり誰かに弟子入りしなければならないという事だ。しかし、
「いるかなぁ、そんな人……」
<お手数をおかけします>
リヒター、謝罪。平淡だがどこか沈んだ声は、まるで叱られた犬のようだった。
「あ、いいのいいの。いつまたああいう類の奴らが“賢者の石”とかいうのを狙って襲い掛かってくるかわからないし」
――――前から欲しかった相棒もできたしね。と、胸中で付け加える。
「でも、インストラクターなんてどこに……あ」
「君達、何をコソコソしとるんだね? ウン?」
<えっちなほんですか? 先生にも見せなさい>
白ウサギとそのマスター、来襲。白ウサギはいつの間にかその姿を金属性のロッドに変えていたが。
そこで遥は気付いたのだ。
そういえば、彼……リヒトは神子じゃないか、と。
いっその事彼に弟子入りしてしまうのもアリかもしれない。が、向こうがOKを出してくれるかはわからない。……そんな事を考えていると、予想外のチャンスが舞い降りてきた。
「そういえば遥ちゃん、君はこれからどうするんだ? 少なくとも、元の生活には戻れないとは思うけれど……。リヒターの事もあるし、なんならウチに来るかい?」
今度こそ爽やかスマイル成功。もう剃り残しは抜かせない、触らせない。
<うわ、こんな可愛い娘を身ぐるみ剥いで売りに出す気ですか。最悪ですね>
<その場合は実力で排除します>
<なら安心ですね、その時は私も協力します>
<感謝します、ヴァイス・ヘーシェン>
「うっせーぞ外野。……で、どうかな。きっと俺の仲間達も歓迎してくれると思うんだよ」
遥に向かって右手を差し出す。
<今なら漏れなく不良神子の自堕落な本性も付いてきますよ。夜な夜な部屋に入って来て破廉恥な事されます>
<その場合は実力で排除します>
<なら安心ですね、その時は私も協力します>
<感謝します、ヴァイス・ヘーシェン>
「お前ら海に沈めるぞコラ。……さて、気を取り直して。どうする?」
聞かれずとも、遥の答えは決まっている。
「よろしくお願いします、リヒト・エンフィールドさん」
その手を握り、朗らかに笑う。心中で「やった」と小躍りしながら。
「ああ、こちらこそよろしく」
リヒトも同じく笑みを返した。心中で「計画通り」とニヤつきながら。
本来、神子がマナを使役する時は各地に散らばる“管理者”の端末装置にアクセス、許可を貰ってマナを提供してもらう必要がある。しかし自分でマナを作り出せるのなら、許可を貰う必要は無い。才能だって、必要無い。
「でもそれってズルなんじゃ」
<はい。それに管理者にアクセスできない以上、本来得られる管理者からのバックアップを得られない、一度に大量のマナの供給ができない等の様々な制限が科せらせます。しかしマナの使役に慣れれば、そのうち管理者へのアクセスも可能になるでしょう>
「……そういうものなの?」
<はい、データによるとそういうものだそうです>
「……はあ、さいですか」
なーんか胡散臭い。
<ただ、いくつか問題があります。ひとつは、アクセスが可能になるまで――――つまり神子になるまで時間がかかる事。もうひとつは、インストラクターが必須だという事です>
「ははぁ、インストラクター……」
つまり誰かに弟子入りしなければならないという事だ。しかし、
「いるかなぁ、そんな人……」
<お手数をおかけします>
リヒター、謝罪。平淡だがどこか沈んだ声は、まるで叱られた犬のようだった。
「あ、いいのいいの。いつまたああいう類の奴らが“賢者の石”とかいうのを狙って襲い掛かってくるかわからないし」
――――前から欲しかった相棒もできたしね。と、胸中で付け加える。
「でも、インストラクターなんてどこに……あ」
「君達、何をコソコソしとるんだね? ウン?」
<えっちなほんですか? 先生にも見せなさい>
白ウサギとそのマスター、来襲。白ウサギはいつの間にかその姿を金属性のロッドに変えていたが。
そこで遥は気付いたのだ。
そういえば、彼……リヒトは神子じゃないか、と。
いっその事彼に弟子入りしてしまうのもアリかもしれない。が、向こうがOKを出してくれるかはわからない。……そんな事を考えていると、予想外のチャンスが舞い降りてきた。
「そういえば遥ちゃん、君はこれからどうするんだ? 少なくとも、元の生活には戻れないとは思うけれど……。リヒターの事もあるし、なんならウチに来るかい?」
今度こそ爽やかスマイル成功。もう剃り残しは抜かせない、触らせない。
<うわ、こんな可愛い娘を身ぐるみ剥いで売りに出す気ですか。最悪ですね>
<その場合は実力で排除します>
<なら安心ですね、その時は私も協力します>
<感謝します、ヴァイス・ヘーシェン>
「うっせーぞ外野。……で、どうかな。きっと俺の仲間達も歓迎してくれると思うんだよ」
遥に向かって右手を差し出す。
<今なら漏れなく不良神子の自堕落な本性も付いてきますよ。夜な夜な部屋に入って来て破廉恥な事されます>
<その場合は実力で排除します>
<なら安心ですね、その時は私も協力します>
<感謝します、ヴァイス・ヘーシェン>
「お前ら海に沈めるぞコラ。……さて、気を取り直して。どうする?」
聞かれずとも、遥の答えは決まっている。
「よろしくお願いします、リヒト・エンフィールドさん」
その手を握り、朗らかに笑う。心中で「やった」と小躍りしながら。
「ああ、こちらこそよろしく」
リヒトも同じく笑みを返した。心中で「計画通り」とニヤつきながら。
♪ ♪ ♪
<ああ、くそっ!>
カメラに付着した塗料を洗浄液とワイパーが自動で洗い流す。カメラは回復したが、視界は真っ白だ。
<しかし私に勝ったと思ったら大間違いだぞ!>
――――視界が晴れたと同時に切り刻んでやる。
低く構える、視界が晴れる。
が、
<――――あれ?>
目の前には、誰もいない、何もない。という事は、つまり、
<に、逃げた! 私から! 私から逃げた! 逃げられた!>
悔しさにわなわなと震える。フェーレスはドジなくせにプライドが高いのだ。
<はっ。あんな嘘に引っ掛かるなんて、とんだおバカさんね>
頭上から響く、人を小馬鹿にしたような笑い声。その声は高くて、幼い。
<だ、黙れシュヴァルツ!>
<黙るのはそっち! これはあんたのミスでしょうが!>
<や、奴が……機械人形殺しが来たのかと思ったんだ! 機械人形殺しは貴様だって怖いだろう! 貴様だって!>
<近付かれる前に気付けるもん、あたしなら。それに、結局何もいなくて、目標には逃げられて、戦力も失ったじゃない。これをバカと言わずして何と言うのよ?>
<ぐっ……>
言い返せずに歯噛みする。
<……いつの間にここは動物園になったんだ>
また新たな声。今度の声は低く、唸るような、大型の肉食獣を彷彿とさせる声だ。
<レオンは黙ってて!>
幼い声――――シュヴァルツが低音ヴォイスのレオンに噛み付いた。
<喧嘩をしとる場合ではないだろう>
またまた新たな声響く。次の声は老獪さを感じさせる、老人の声。
<そうそう、過ぎた事でウジウジしてても仕方ないじゃない?>
続いて悪戯っぽい妙齢の女性の声。
<虎徹のじーさんとムジナちゃんの言う通りだ。喧嘩はよくない>
さらに飄々とした若人の声。
<むっ……。わかったわよ、トゥグリル>
シュヴァルツが渋々引き下がる。その声音から、むすっとふてくされているであろうという事は想像に難くない。
フェーレスがほっと溜息をついた。
<皆、いるようだな>
その時響いた、キザっぽい男の声。
<遅かったな、フラガラッハ>
<私も暇ではないのでな、レオン>
フッ、とフラガラッハがキザっぽく笑う。
<さて、フェーレス>
<あ、ああ>
緊張で、尻尾が固まった。
<貴様のドジは今に始まった事ではないので良しとしよう。そもそも今回は顔見せだ。多少ナメられた感があるのは否めないが>
<すまない……>
<それよりも、だ!>
声を張り上げる。
<“彼”が目覚め、賢者の石のありかのひとつが判明した。状況は新たな局面を迎えたと言えよう。……だが、まだ大規模な行動を起こすには戦力が足りない。よってしばらく諸君らには耐えてほしい。今までの通り、散発的なゲリラ活動を頼む。以上だ>
最後に少しの間を置いて、フラガラッハは悠然とした態度でこう締め括った
カメラに付着した塗料を洗浄液とワイパーが自動で洗い流す。カメラは回復したが、視界は真っ白だ。
<しかし私に勝ったと思ったら大間違いだぞ!>
――――視界が晴れたと同時に切り刻んでやる。
低く構える、視界が晴れる。
が、
<――――あれ?>
目の前には、誰もいない、何もない。という事は、つまり、
<に、逃げた! 私から! 私から逃げた! 逃げられた!>
悔しさにわなわなと震える。フェーレスはドジなくせにプライドが高いのだ。
<はっ。あんな嘘に引っ掛かるなんて、とんだおバカさんね>
頭上から響く、人を小馬鹿にしたような笑い声。その声は高くて、幼い。
<だ、黙れシュヴァルツ!>
<黙るのはそっち! これはあんたのミスでしょうが!>
<や、奴が……機械人形殺しが来たのかと思ったんだ! 機械人形殺しは貴様だって怖いだろう! 貴様だって!>
<近付かれる前に気付けるもん、あたしなら。それに、結局何もいなくて、目標には逃げられて、戦力も失ったじゃない。これをバカと言わずして何と言うのよ?>
<ぐっ……>
言い返せずに歯噛みする。
<……いつの間にここは動物園になったんだ>
また新たな声。今度の声は低く、唸るような、大型の肉食獣を彷彿とさせる声だ。
<レオンは黙ってて!>
幼い声――――シュヴァルツが低音ヴォイスのレオンに噛み付いた。
<喧嘩をしとる場合ではないだろう>
またまた新たな声響く。次の声は老獪さを感じさせる、老人の声。
<そうそう、過ぎた事でウジウジしてても仕方ないじゃない?>
続いて悪戯っぽい妙齢の女性の声。
<虎徹のじーさんとムジナちゃんの言う通りだ。喧嘩はよくない>
さらに飄々とした若人の声。
<むっ……。わかったわよ、トゥグリル>
シュヴァルツが渋々引き下がる。その声音から、むすっとふてくされているであろうという事は想像に難くない。
フェーレスがほっと溜息をついた。
<皆、いるようだな>
その時響いた、キザっぽい男の声。
<遅かったな、フラガラッハ>
<私も暇ではないのでな、レオン>
フッ、とフラガラッハがキザっぽく笑う。
<さて、フェーレス>
<あ、ああ>
緊張で、尻尾が固まった。
<貴様のドジは今に始まった事ではないので良しとしよう。そもそも今回は顔見せだ。多少ナメられた感があるのは否めないが>
<すまない……>
<それよりも、だ!>
声を張り上げる。
<“彼”が目覚め、賢者の石のありかのひとつが判明した。状況は新たな局面を迎えたと言えよう。……だが、まだ大規模な行動を起こすには戦力が足りない。よってしばらく諸君らには耐えてほしい。今までの通り、散発的なゲリラ活動を頼む。以上だ>
最後に少しの間を置いて、フラガラッハは悠然とした態度でこう締め括った
Episode 05:――――それでは諸君、慎ましくいこう。
地下で暗躍する、その組織の名はアンサラー。メンバーの大半が機械人形で構成された、正体不明の反動勢力である。
次回へ続くッ!
↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ | ... |