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「ヒューマン・バトロイド」 第7話

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匿名ユーザー

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スターク艦内、医務室。
リクは体中に包帯を巻かれてベットに横たわっていた。
その横にはリリが座っている。
「リク君の容体はどうですか?」
その様子を離れた所から見ていたハーミストはリクの容体を訪ねた。
「……全身に火傷、命に別条は無いけどしばらく絶対安静だって……」
リリからはいつもの覇気が感じられない。
その目には涙の跡が見られる。
「無理をさせ過ぎてしまいましたね……私のミスです」
「艦長は悪くないだろ。誰も悪い事はしてない」
俯くリリの表情は分からない。
「全快にはどれくらい掛かるんですか?」
今、グラビレイトが抜けるのは戦況的にきつい。
いまだにEU本隊の追撃を逃れてはいない。ついでに第二小隊の機体が全て損傷、戦闘が不可になっている。
特にリキの機体は撤退時に無理をし過ぎて再起不能な程に傷ついている。さらに灰被りも弾薬が少なくなっている。
このまま、金若王だけでは限界がある。
「リハビリを抜くなら―――」


[すみません、この事態は予想していませんでした]
キセノの謝罪は起こってしまった事に対して何の効果も無い。
ミキが情報過多で気を失って目を覚まさない。
脳が強制的に睡眠状態に陥っているのだと言う。
「後遺症とかは残るのか?」
ゴードンは娘の容体を把握するため少しでも情報を集める。
ギルバートは既に部隊の指示に戻っている。軍人にとって必要なのは勝利する事。家族の事は二の次だ。
戦闘指揮を任されているギルバートは自分の仕事をこなすべきだ。
[残るかどうかで言えば残る可能性は低い筈です。まだ情報過多になった患者の治療は行っていませんから]
「なぜこの事態を予想できなかった?」
キセノの情報だけが頼りになる。
[向こうのパイロットの能力が特殊すぎました。やはりこちらの手元にある時にデータを取れなかったのが一番の原因ですね]
キセノは予想外の展開に驚きを隠せない。
確かにリクならあの程度の情報は処理できるが、最大では予測の五倍以上の情報を処理している逆算になっている。
予想以上の能力にこちらの調整を誤ったのが原因だ。
(まさか、ここまでの成長をしているとはね……)
ゴードンの質問は続く。
「目を覚ますまで一体どれくらいかかる?こちらも後詰めの為にTypeβは必要だ」
キセノは苦笑しながら言った。
[本当に親バカですね、はっきりとした確証は持てませんけど復帰には―――]

奇しくも二人の運命は――
「「二週間」」
交差する。


[はぁぁぁ!!]
ハーミストの放ったレーザーが一隻の輸送機を落とす。
金若王の攻撃力は高いが、それでも同時に捌き切れる敵機はそう多くない。
道化死との戦闘を行っていてはさらに少なくなる。
[くっ……]
「まだまだ!」
性能と技量は互角、後はどれだけ力を出し切れるか。
互いの影は交差して火花を散らす。
接近した道化師の足先から発射された爆弾が爆発する。
金若王はウィングブースターを捻るように動かしてかわす。
レーザーブレードが振り下ろされるが、ミサイルで距離を稼がれる。
ハーミストは近寄ってくる敵機を撃ち落としながら、その間を詰める。
互角、こんな戦闘が三回ほど行われている。
[親父、撤退だ]
「分かった」
[まて!今度こそは!]
ハーミストを撒きつつ、撤退を開始する。
互いに決定打を失った状態での戦闘。消耗戦を余儀なくされる両軍は、しのぎを削っている。


「俺」は自分でもよく分からない闇に立っていた。
よく分からない、しかしここがどこだかは分かる。
自分の、リク・ゼノラスという個体の精神だ。
自分の中にいる感覚、何かがずれている感覚。
しかし、それは「俺」にとって必要な事だった。
「俺」が「俺」であるために、必要な事だった。
人を殺す事は自分を変える事だと理解したクーリとの戦いから、自分を保つための仮面を被った。
それは、強固に塗り固めた筈だ。だが、彼等はいとも簡単にその仮面を剥がそうとしてくる。
やめてくれ。
「俺」が出てきてしまう。
「俺」が出る必要は無いんだ。
その時、後ろに誰かいる気がした。
「僕」だった。


リリは戦闘時以外は常にリクの隣に座っていた。
全身の火傷、それは下手したら死んでもおかしくない怪我だ。
「お前は馬鹿だよな……」
そう言わずにはいられない。
イザナミの報告では、リクはこの艦を守るために無茶をしたらしい。
しかし、その判断は勘違いだった。
「何で、目を覚まさないんだよ……」
既に敵部隊は撤退を開始していた。
Typeβも撤退の為に降下したのだろう。
それを勘違いして、リクは死にかけた。
「間抜けだな、本当に……」
涙を止める気もない。
そこにいたのは、いつも明るかったリリではなく、一人の少女だった。
好きな人の無事を願う、一人のか弱い少女だった。


「ねぇ、いつまでひきこもってるつもり?」
「僕」は問う。
「キセノを討つ時まで」
「俺」は答える。
「でもさ、ホントに出来るの?」
問う。
「出来るかどうかじゃなくて、やる」
答える。
ある意味では自問自答、ある意味では他問他答。
奇妙な会話は続く。


リキはハンガーで傷ついた愛機を見つめていた。
「そろそろ、換え時だったんだよ」
「そんなに早く新しいのが出来る訳じゃないんでしょ?どうにも割り切れませんよ」
ジョージが機体の解体作業の指示を出す。
「基地に戻れば専用機の一機や二機ぐらい貰えるさ」
「そう、ですかね?俺が専用機とか……」
「君は十分な戦績を上げてますよ」
ハーミストが後ろから声をかけた。
「そうですか?」
「ええ、第三次大戦の時の私なんかよりも、ずっと強いです」
リキの戦績は悪くない。むしろいい部類に入る。
しかし、同じ艦内の仲間はけた外れに強い。
それがリキを遠慮させているのだが、Typeβに対する対応を見ればその観察眼と直感はかなりいい。
操縦技術も高いし、部隊の指揮も出来る。
実に指揮官、艦長向きの能力が十分ある。
「自信を持ちなさい、リキ君。君の強さは護る強さです。仲間の危険を感じて、助けるための策を練れる。リク君にもウィンスさんにも無い、
君だけの強さです」
ハーミストには、考えがあった。それはまだ誰にも言っていない。
「君に、託したいものがあります」
リキが、エースと呼ばれる事を願って、ハーミストはリキに託す。
それは―――


「殺す事をためらってるのに?」
「…………」
「僕」はにやりと、その場所をつつき始める。
「人を殺せないのに、戦う覚悟が出来てないのに、ホントに出来るの?」
「覚悟ならある、だから「俺」は戦って――」
「殺す事が怖いくせに」
「俺」は俯く。
「何でそんなに人を殺したくないのさ?」
「「俺」が……壊れてしまう。だから……」
「殺す事が怖い?そうじゃないよね、だって本当に君が怖いのは――」
「僕」は仮面だ。自分を隠すための仮面。
今「俺」はその仮面に心をえぐられている。
「自分でしょ?」
「それは……」
「自分が怖いから、「僕」に頼るんだ」
「それの!どこが――」
「何も悪くは無いよ?君は悪くない。悪いのはキセノ。でもさ」
「キセノが本当に悪いのか、だろ……」
「そう、キセノって本当に悪者なのかな?もしかしたら、「僕」の主観がそう言ってるだけで世間的には英雄かもしれない」
「それがどうした。「俺」にとってそんな事はどうでもいい筈だ!」
「なら、人を殺す事もどうでもいいんじゃない?」
言葉に詰まる。
「キセノが悪いかどうかじゃなくて、自分がどうか、だもんね」
刺さる。
「なら、自分の目的の為にいくら人を殺してもいいんじゃない?」
えぐられる。
「ほら、君に戦う決意が無い事が分かったね」
崩される。
「結局、君は自己中心的な我儘しか言えない子供なんだよ」
自分を守る筈の仮面に。
「子供の駄々に中途半端に理性が混じったせいで不安定なだけ」
壊される。
「だからさぁ」
やめろ。
「捨てちゃいなよ、「僕」なんてさ」
「ヤメロォォォ!!」


動いた。
リクが動いた。
目を開いた。
「り…く……?」
「ぅ……ァ……」
「リク!」
リリは意識の覚醒したリクに抱きつく。
「俺……僕は………」
「大丈夫か!?痛い所とか無いか!?」
リリはリクを揺さぶる。
「リリ………寝起きで揺さぶらないで」
「あ……悪い」
居心地悪そうに座りなおすリリ。
「僕、どれくらい寝てた?」
「二週間弱ぐらい」
リクの意識がだんだん覚醒する。
「追撃は?Typeβは!?」
「追撃は続いてるけどTypeβはいない」
リクは安堵の溜息をもらす。
死は起こっていないようだ。艦には。
「なあ、リク。大丈夫か?本当に痛いところは無いか?気持ち悪いとかそういうの平気か?」
「心配し過ぎだよ。大丈夫、少し一人で休ませてくれるかな?」
リリは安堵と共に医務室を去る。
その後ろ姿を見た時、リクの心に陰りが生まれる。
「僕」は言った。
「僕」なんて捨てろと。
だが、それは嘘がばれる事になる。化物が首を持ち上げる事になる。
怖い。
リクは今、この艦に受け入れてもらえなくなる事が、怖い。
彼らがいなくなってしまうと、「俺」は……
楽になるんじゃない?
まだ心でささやき続ける矛盾を持って、リクは眠りにつく。


「ギルバート」
「まだ目覚めないよ」
二人の父子が家族を見る。
ミキはまだ目覚めない。
「本当に、目覚めなかったらどうしようか?」
ギルバートは項垂れる。
「目覚めるさ。そんなやわな鍛え方はしていない」
ギルバートにそう言い放ったゴードン。
「ミキが目覚めたら、軍を辞めさせようと思う」
ゴードンの一言に振りかえるギルバート。
「こいつもそろそろ年頃だ。嫁入り前の娘がでかい怪我をする訳にもいかん。何より、こいつの戦いは冷や冷やしてかなわん」
ゴードンが冗談を言うとは思って無かったギルバートはポカンとしている。
「俺も娘の幸せな姿が見たいしな」
微笑をたたえるゴードンに平静を取り戻したギルバートは言った。
「でも親父絶対に、娘はやらんとか怒鳴るだろ」
「俺もいつまでそんな事が言えるかも分からん。もしかしたら死ぬかもしれんし、それにそんな体力もあるかどうか。その時は―――」
「その時は?」
「お前が怒鳴れ」
ゴードンは医務室の扉を開けながら言った。


リクが医務室で目覚めて数十分後、ハーミストがやってきた。
「大丈夫ですか、リク君!?」
ハーミストはかなり慌てていたが、リクがホロウィンドウを弄っているのを見ると肩の力を抜いた。
「あ、艦長。心配お掛けしてすみません」
「謝る必要はありませんよ。むしろ、私達が君に頼り過ぎていました」
「出来る事は出来る奴がやればいいんですよ。僕はやる力があったから戦っていたんです」
でも、その力は「僕」が欲したものじゃないだろう?
まだ、声が聞こえる。自分の中で無理をしていた所が剥がれてきた感覚がする。
ハーミストはリクに近づき、椅子に腰かける。
「なぜ、あんな無茶を?君は弱点を理解していた筈ですよね?」
「………この艦が狙われていると、思ったから……」
ハーミストは目を見開いて驚く。リクには、スタークのクルーに対して壁を作っている。そう思っていたからだ。
「君はこの艦のクルーをそんな風に思っていてくれたんですか?」
「違います。僕は……」
リクは言い淀む。その裏には、自分の行動に対する負い目があった。
「どういう事情があっても、君が仲間を救うために命を懸けた事には違いありませんよ」
「違う!!」
リクの大声が響く。ハーミストはリクの大声に驚きを隠せない。
いくら機嫌が悪くても、リクは声を荒げる事が無かった。
それにリクは今、泣きそうな顔をしている。
「違うんですよ………俺は救うために命を懸けてなんてない……」
そう、「僕」は自分の為にしか行動しないんだ。
「俺は、自分が怖いから命を懸けたんだ………」
「それは……?」
リクは決心をして、ハーミストを見据える。
「お話します。俺の過去」


「リクが目覚めたとよ!」
「本当っすか!?」
グラビレイトの修理を行っていたラウルがジョージの言葉に顔を明るくする。
「おおよ!ついさっき目覚めたらしい!」
「あー、よかったー」
ラウルはその知らせに安心すると、修理を再開する。
「見舞いに行かんのか?」
ジョージの疑問に真面目な顔をして答えるラウル。
「いくら俺が作っていないとはいえ、俺の整備した機体の所為でパイロットが傷付いたんっす。そうならない様に完璧にすることの方が先っす
よ」
ラウルの言葉に目を丸くした後、ジョージはにやりと笑った。
「お前はもう一人前だな、それだけ能書き言えりゃあもう心配はねーな」
「そ、そうっすか?照れるな……」
ラウルは成長をした。一人前の整備士と言える様な心情が彼には根付いた。
「よし、俺も手伝うぞ!」
ジョージは袖をまくり、グラビレイトに近づく。


ハーミストは医務室前の廊下で壁に寄り掛かっていた。
顔を手で覆い、先程聞いた内容を反芻する。
「まさか……ここまでとは……」
予想できていなかった訳ではない。もしかしたらこんな事もあるかと思っていた。
だが―――
「これでは、リク君は……救われないじゃないか……」

俺は化物なんです。
少なくとも人では無い。
人の心なんて持っていない。
リクの言葉は、あまりにも重く、理不尽に満ちていた。
その時、艦内に警報が鳴り響いた。


戦場に現れた機影。道化死。
そのうしろには数隻の輸送機と巡洋艦。
ここ二週間で何度も見た光景。
すぐに金若王、ハーミストが出撃する。
まだ、リクに頼るわけにはいかない。リハビリが済んでいない彼を戦場に出す訳にはいかない。
何より、彼の過去を聞いてしまえば彼に戦う事を強制する事は出来ない。
彼の心をからめ捕った鎖は恐ろしい様に見える。その鎖を解かなければ、彼に安らぎは訪れない。
[そろそろ、最後のチャンスになるな]
「でしょうね。貴方達でもこの先は連邦領。追撃は不可能でしょうね」
レーザーブレードを抜き放ち、片手のライフルを乱れ撃つ。
[だからこそ、ここで決着をつける]
「ええ、私にはやるべき事がありますから!」
接近、袈裟斬り、しかしかわされる。
仕込み剣が機体の胸部を掠る。
一撃で勝負はつかない。決定打が決まらない。
一対一では互いの力は互角。攻撃は通らない。そう、一対一なら。
黒い閃光が道化死を狙う。
[く、これは!?]
[僕もいますよ!]
白い機体は、黒い粒子を散布しながらレールガンを構えていた。
その右肩には、白い銃から放たれる銃弾のモチーフが描かれている。


[リク君!?何で戦場に!?]
ハーミストの驚愕の声が響く。
「言ったでしょう?僕の命を懸ける理由」
『機体性能は最高28%までしか出せません。無茶はしないでください』
イザナミの忠告に静かに頷き、粒子をまとめ上げて狙撃の構えを取る。
二対一。これなら勝利も可能だろう。
『エース機接近、青い知将です』
「二対二か……」
レーザーが放たれ、リクはそれをかわす。
「Typeβ、黒揚羽は?」
『確認できません。僅差でマスターの復帰が勝ったかと思われます』
[奴は任せろ]
ウィンスが一気に飛び出す。その機影は重装備の欠片も見られない。
全ての武装を取り外した素体の状態だ。
ロングブレードとショートブレードを構えて青い知将に接近する灰被り。
[くっそ!]
ブレードをかわす青い知将だがそのレーザー砲にショートブレードが投げ付けられる。
それもぎりぎりでかわされるが、そのショートブレードの動きが変わる。
灰被りの手元にあるワイヤーに繋がれたブレードが振り回される。
砲が破壊され、遠距離砲撃の危険性が無くなる。
「今だ!」
レールガンを連射する。道化死はそれをかわすが、ハーミストの攻撃と合わさり対応が難しくなる。
接近戦に持ち込むハーミスト。その死角に潜り込む道化死に、一瞬ハーミストの反応が遅れる。
一瞬の隙、道化死の膝から伸びた仕込みニードルが金若王を縦に貫く。コックピットのあたりを貫きバックパックのソーラーパネルから先端が
飛び出す。
しかし、金若王のレーザーブレードも道化師の胸部を貫き、背中へ突き抜ける。その手は胸部装甲の中に入り込んでいる。
[か、艦長!?]
カルラの声が聞こえる。
[ははは、少しへまをしました……]
ハーミストの声が聞こえる。
[この戦場の全員に告ぎます。今すぐ撤退しなさい。この機体をあと4分20秒後に爆破します]
「そんな!?」
リクは思わず叫んでいた。
[終わり、ですか]
カルラが言った。そのニュアンスには、悲しみが込められていた。
[ええ、システムの停止はコントロールパネルごと貫かれて不可。ハッチもやられてるから逃げないで機体を破壊するしかありません]
「だ、脱出は…?」
[無理です。出来ませんよ]
ハーミストの答えはリクが一番恐れていた事だった。


「カルラ君」
[はい]
ハーミストは口の端から垂れる血を拭いながら語りかける。
「長い間、お世話になりました。後の事は任せます」
[……はい]
カルラは気丈に振舞う。
「ゴース君」
[はい]
「君は艦のムードメーカーになっています。ですが悪ふざけもほどほどにしてくださいよ?」
[う、わかりましたよ……]
死ぬ寸前まで説教になるのかよというゴースの声が聞こえてくるようだった。
「リリちゃん」
[……艦長]
「君は随分と女の子らしくなりましたね。恋が叶えばいいと、私は思っていますよ」
[ぐすっ……あい]
嗚咽の混じるリリの声に苦笑いする。
「ウィンスさん」
[………]
「貴方には戦い方から何から、生き残るための全てを教えて貰いました。ありがとうございます」
[それも、貴方の実力だ。私は何も出来ていない]
ウィンスの声には涙が混じっている。
「ジョージさん」
[ああ、なんだ?]
「色々、めんどくさい機体の整備、ありがとうございます。例の件もよろしくお願いします」
[もちろんだ、必ず完璧な仕事をしてやる]
ジョージにはいつもの豪快な雰囲気が消えていた。
「リキ君」
[か、艦長……]
「慌てず、落ち着いて、そして見据えなさい。君はそれが出来る力があります」
[……分かりました。やってやります]
リキは決意を固める。
別れを告げていくハーミスト。
[まさかこんな風に最後を迎えるとはな]
ゴードンの声が聞こえる。
「相打ちなら本望ですよ」
[せめて、娘の嫁入りぐらいは見せてくれてもいいじゃないか]
「娘って……いるんですか?」
ハーミストの記憶では、息子が一人だけ、彼の妻は既に死んでいる筈だ。
[前大戦後、引き取った]
「貴方は……まさか……」
[罪滅ぼしにもならん、ただの自己満足だ]


ミキは目を覚ました。
外から聞こえる戦闘音。一気に意識を覚醒させるも、思考が上手く働かない。情報過多の弊害だ。
ふと、外の窓を見るとそこには義父の機体と、金若王が互いを貫いて止まっている姿が見えた。
「と、義父さん!?」
[ミキか、いいタイミングで目を覚ましたな]
「義父さん、大丈夫なんですか!?怪我は、脱出は!?」
ミキの声が通信越しに響く。
[少しだけ、お前に謝らなくちゃいけない事がある]
ハーミストとゴードンの二人の道を分けた事件。民間人輸送船ジャック事件。
ハーミストの仲間が乗っていたその船を、日本の工作員がジャックした事件。
その船には、戦災孤児がかなりの人数乗っていた。
解決策に、人質ごと船を沈めたゴードン。そのゴードンに怒りをぶつけたハーミスト。
二人の道が違う事件。その罪を、ゴードンは償おうとしていたのだった。
[俺は、お前を罪を償う対象として見ていた。お前自身として見てやれなかったかもしれん。すまん]
「義父さん?何で謝るんですか?それじゃあまるで……」
まるで……死んでしまうみたいじゃないか。


[リク君]
ハーミストから最後の通信が入る。
「は…い……」
声を震わせて答えるリク。その最後の言葉を受け入れるべきだろう。
[私を撃ちなさい]
しかし、それはただの命令だった。
「なんで……ですか!?」
[そうしなければ仲間が死ぬからです。安全圏から攻撃できるのも君だけですから]
金若王の予想爆発効果範囲は時間がたつにつれて広がっている。
行き場の無いエネルギーが暴走を始めている。
「いやだ……貴方は知っているでしょう!?僕が殺したくない理由も!僕の過去も!」
[甘ったれるんじゃありません]
ぴしゃりと言われて沈黙するリク。
[これから先、どこで殺さざるを得ない状況になるか分かりません。その時にも君は駄々をこねるつもりですか?]
「でも……僕は…それでも………」
[殺す事が重荷なら、背負いなさい]
ハーミストはリクを解き放とうとする。自分の命と引き換えに。
[人を殺す時に、自分が殺した人の命を想像するんです。そしてその命を背負いなさい]
「いやだ……僕は……こんな……」
[目を背けずに見据えなさい。私の命を背負いなさい。それが貴方の強さになります]
リクはトリガーに懸けた指を震わせる。目の前のディスプレイに映る三つの円は既にロックを完了している。
その指は震える。ここで殺してしまう事は……俺は……俺が作り上げたものは……
[撃ちなさい!]
『予想効果範囲、危険域まであと30秒です』
[リクさん、撃って下さい]
カルラの声が入る。
[とうの昔にこの結末は予想していました。誰も貴方を責めませんよ]
『危険域まであと20秒です』
[撃って下さい、リク君!]
[リク!撃てよ!艦長にオレ達を殺させないでくれ!]
リリの悲痛な叫びが聞こえた。
『あと10秒、9、8』
「俺は…俺は!」
『7、6、5』
[撃って下さい……]
『4,3』
[撃ちなさい……!]
『2、1』
[撃てぇ!リク・ゼノラス!!]
「うぁぁぁぁ!!!」
トリガーが引かれる、黒い光が機体を貫く、巨大な爆炎が起こる。
衝撃。
ただ衝撃。
離れていた筈の敵機体が煽られてエンジントラブルを起こして落ちていく。その中に青い知将がいた気がした。
リクのヘルメットに覆われた瞳から、滴がこぼれた気がした。
[うぐぁぁ!?]
「兄さん!?」
青いHBが衝撃に煽られて海に機体をばらばらにしながら落ちていく。
「そん……な……いや、父さん、兄さん……」
父が中心で消えた。兄も爆炎の衝撃に巻き込まれて壊れながら落ちて行った。
「いやぁぁぁ!!」
その場にしゃがみ、頭を抱え込むミキ。
彼女にとって世界とは、生きる理由とは家族だった。
それが一瞬で二人ともいなくなった。
じっとなどしていられるものか。
すぐに走り出したミキはハンガーにある自機、グラビレイトTypeβに乗り込み、許可も取らないまま飛び出した。


「撤退してください。奴は抑えます」
向こうから飛んでくる機影、Typeβ。
[ぁぁぁぁぁぁ!!!]
声にならない叫び、それが大切な人を殺された人間の正しい反応なのだろう。
小銃が放たれる。
フィールドをはるが、速過ぎる弾は潰れる前にフィールドを突き抜けた。
「ちっ!?」
レールガンを盾にして生き延びる。
ブレードを構える。やっためたらに斬りこんでくる黒揚羽に細かく対応する。
よほど怒り狂っているのか粒子の制御が甘い。だが苦戦する。
いつもなら我を失っている相手ならすぐに落とせる。
しかし、現在のグラビレイトTypeαの性能は3分の1以下。対応は困難になっている。
何度も斬りつけられる、何度も。
一瞬の間、その間に両機共に一撃の溜めをする。
打ち合い、砕ける音。
あまりに酷使し続けた対艦ブレードの刃の部分が砕けた音だった。
展開した時に峰の部分になる部位を残して海に散る対艦ブレード。
しかし、そのブレードの峰のみが黒揚羽のコックピットを強打する。
『腕関節、および左肩破損しました。さらに出力低下、推進力が足りません。墜落します』
中途半端に刺さった刀が繋がりとなって、2機が海へと沈んでいく。


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