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「第九話 夏の大会編 第一試合」

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ParaBellum

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 『Robochemist!』


 第九話「夏の大会編 第一試合」



 太陽光線が眩しい。
 とうとうやってきました夏の大会。
 HRK学園にある専用スタジアムでセンジュチームの面々は今か今かと待ちわびていた。
 夏の大会で勝ちあがり優勝すれば、今度は世界に向けて名乗りを上げる権利が渡されるわけであるため、機体に乗る前から心臓は早鐘を打ち、今にも壊れてしまいそうな勢いで脈を打つほどであった。
 ところが、彼女らの心意気とは裏腹に、会場の人出は枯山の如しだったのだから悲しくなってくる。
 それもそのはず、無名で、少人数、しかも優勝経験どころか入賞したことすらない彼女が戦うような試合を見ようという人そのものが少ないのだ。例えるなら、バスケットボール等の大会の地方予選が一番しっくりくるのではないか。
 一応インターネットで中継されるのでその場の観客だけが観客ではないが、それにしたって少なかった。
 アルメリアは、どこで販売しているのか激しく謎な、『タコの頭を持つ形容しがたきナニカ』のストラップをつけた鍵を差し込み捻った。
 オレンジ色の小型灯から、白い灯りに切り替わる。黒きを映すばかりであった正面操縦画面に一滴の光が生まれたちまち隅々まで広がり数式と記号で構築された文字列が出現すると目にもとまらぬスクロールをした。
 電子が回路を血流のように巡る。

 『キー確認』

 『主機起動 正常稼働確認』

 『全モーター起動 正常稼働確認』

 『全ローラー起動 正常稼働確認』

 『姿勢制御機構起動 正常稼働確認』

 『総合戦闘管制システム起動 正常稼働確認』

 『 〝プロトファスマ〟 起動します 』

 シュレーもキーを挿入、ノリノリで捻る。

 『キー確認』

 『主機起動 正常稼働確認』

 『全モーター起動 正常稼働確認』

 『全ローラー起動 正常稼働確認』

 『姿勢制御機構起動 正常稼働確認』

 『総合戦闘管制システム起動 正常稼働確認』

 『 〝アノフェレス〟 起動します 』

 二機の外殻機のカメラアイに光が灯るや、数回の点滅の後に主機が回転を始め、唸り声に酷似した音響を発しながら肢体をよろけるように使い、立ち上がった。
 ジャイロシステム、サーボシステムの両方が相互に協力し合い5mもある巨躯が倒れないようにする。
 競技場の一歩手前、防弾処理の成された頑丈かつ分厚いシャッターの前にて二機は各々の武器を確かめる。片や散弾銃とブレード、片や機関銃。
 モーターに不良は無いか、電圧や油圧が正常値内に収まっているか、戦闘管制システムは連動するか、モニターや機器に映る情報を頼りに確かめ、操縦桿を動かしたりして実際に確かめる。
 異常なし。
 準備は整った。
 二機のすぐ背後に、四脚式の目標機がカタカタと歩いて来て止まった。安全の為、操縦する委員長は別の場所にいる。
 実質、試合の場に出るのは二人だけ。練習に練習を重ねてきた二人は、初戦で負けるわけにはいかないと緊張状態にあったが、しかしそれは程良く張った状態だった。

 『いいですか? 敵の分析は完全に済ませてあります。そして私達は弱くない。つまり、私達は勝利を手にすることが可能なのです』

 無線から聞こえてきたのは、やや興奮したように息を使う委員長の声。
 委員長の駆る機体は攻撃など出来るわけも無いので、彼女は敵の分析やいかにすれば効率的に戦えるのかを勉強し続けてきたのだ。機体を扱えないからとほっぽりだされた彼女には、これこそ見返してやる機会なのであった。
 シュレーがシャッターをブレードで小突いて遊んでいるが、心理的に不安定で興奮気味からくる衝動を抑えきれないからに他ならない。
 ふとアルメリアは、プロトファスマの動作がいつもよりも敏感になっていることに気がついた。設定を弄っても無く、また整備不良でもない、ひょっとすると機体も戦に興奮しているのかもしれない。
 無駄な電力を使わないように予備灯のスイッチレバーを連続して落とし、頭部を保護するクッションのついた操縦席にもたれると、操縦桿を握り直して無線を繋ぐ。
 心なし、シートベルトが緩く感じた。

 『勝ちましょう!』
 『勝とう!』
 『ええ!』

 三人は勝鬨にも似た大声を張り上げると、堂々たる態度で試合に臨んだ。
 シャッターが開く。明るい。これでもかと煌々と照る照明の光がカメラに映り込み、戦場を眼前にもたらす。
 試合の審判の指示に従い、所定の位置へと三機は移動する。会話は無い。緊張感を持続させるにはこうする他無かった。彼女らには歴戦の戦士のように冗談を叩ける余裕などなかったのだ。
 公式の試合でろくに勝利をしていないのだから、気持ちは、はやるばかり。
 今回使用する競技場は上空から見て『田』の場所で、いずれも外殻機が優に通れるパイプに覆われている。すなわち、どこを陣取るか、それとも接近するか、更にはパイプを活かした三次元戦闘を行うか、非常に自由度が高い競技場なのである。
 プロトファスマのように六本の脚を持ち、重装甲、重装備の機体がパイプを使って三次元戦闘を行おうとすれば間違いなく落下して致命的な損傷を負うだろうが、アノフェレスであれば十分可能な範疇である。
 問題はそれができるかどうか。
 田の字の十字路、向かい合うようにして両陣営が対峙した。
 プロトファスマの背後に目標機を隠し、ブレードを斜めに構えたアノフェレスが先頭のセンジュチーム。
 対するは、先頭になんと機体を金色に塗装した一機、後方に真逆に地味な一機のチーム。
 全機の画面に試合開始までの秒数が表示される。
 残り十秒、双方微動だにしない。
 残り五秒、双方微動だにしない。
 残り一秒、双方微動だにしない。
 ――――――……開始。
 彼方で光が生じた。

 『シュレーいっきまーあわわわわっ』
 『シュレー!?』
 『シュレー!』
 『あーん、危ない危ない! 改めて行ってきまーす!』

 先制攻撃を仕掛けんとさっそくローラーダッシュをかけようとした刹那、高速で突っ込んできたロケット弾が頭上を抜け、壁に衝突して粉みじんに砕けたのだ。
 息を呑み、アルメリアと委員長の二人が声を上げる。
 そう、試合開始時点で既にこちらは敵の射程圏内に捉えられていたのである。
 素人にも分かるだろう、アウトレンジ戦法の恐怖が。素人では無くとも分かるだろう、アウトレンジ戦法の恐怖が。
 勝利するためにはなにもかっこつけたことは必要ないのだ。浪漫なんていらない。卑怯と呼ばれてもいい。勝った奴が勝った奴なのだと割り切れたものは強い。相手チームはそれを実践したまでだ。
 無論のことながら事前調査はしてあっただけに、三機の対応は早かった。
 アルメリア乗機プロトファスマが相手目がけて弾幕を展開、襲い来るロケット弾の脅威から味方機を防護する結界を構築するや、ただちに目標機を背に隠して後退、角を曲がり射線から逃れた。

 『シュレー! 知っての通り相手はロケット、大口径カノン砲を備えています! なんとしても懐に潜り込みなさい! アルメリア! 別通路からまわり込みをかけます!』
 『ラジャー!!』
 『分かりました! ちゃんと後ろについてきて下さいね!』

 委員長の号令一喝。シュレーはロケット弾の流星群に立ち向かうべく、散弾砲を下段に構えてブレードを振りかぶるような体勢でローラーダッシュにて距離を詰めんとする。
 アルメリアは、プロトファスマの後ろに委員長機を引き連れて、別の通路から側面を叩く為に進路を変えた。
 作戦は単純明快。距離を詰め、攻撃をして相手を落とすと見せかけて、側面をとりクロスファイアを浴びせかける。
 敵はアノフェレスが単機で突っ込んでくるのをいいカモだと判断したらしく、ロケット砲を連射し、行く手を遮るように大口径カノン砲弾を撃ちまくる。

 『ハハッ、こりゃバカだなきっと。中に乗ってる奴のツラを拝みてぇもんだぜ!』
 『……油断は禁物ですよ』

 カノン砲を構えた金色の機体の操縦者は、引き金を落としながら鼻で相手を蔑む。
 二脚式軽量機体にそぐわぬ大口径の砲が生み出す反動で、機体各部が悲鳴を上げる。モーターと地面の摩擦で反動を無理矢理抑え込むことで機体の寿命が削られ続けていることに気がついているのかは疑問である。
 ゆらゆら不規則な機動をするアノフェレスに射線を合わせて一射、薬莢が飛ぶ。発砲炎、そしてカメラアイの光が一瞬閃き暗やみ金色の装甲に照らん。
 カノン砲を持つのは、二脚式軽量機体『シューティングスター』。大威力だが重いカノン砲を主力に、近接戦を挑まれた際には武装を放棄し軽量火器とナイフで戦う機体。
 ロケット砲を撃っていたのは、二脚式重量機体『スターダスト』。いわゆるロケット砲の武器腕と、頭部に備え付けられた機関銃で遠距離近距離の両方に対応した機体。
 シューティングスターの操縦者ジェイドは勝利を確信していた。相手は長距離に対応できる武器が無く、距離を詰めてくるだけでこっちは撃ち放題。今のところ命中弾はないが、一方的に撃っていることが彼に余裕を作っている。
 そんなジェイドの口上を、スターダストに乗るイリアはたしなめつつも、真正面から突っ込んでくる外殻機にロケット砲を次々撃ちだしていた。
 自分の実力の無さを理解し、そして相棒たるジェイドの自信過剰な態度にはカノン砲の性能があることを十分承知した上でのたしなめ。もちろん全ては心の中。先輩に口答えするなんてことは、イリアには出来ない。

 『ほいほいーっと!』

 ポップ、ステップ、ジャンプ、バックステップ、横方向に跳ね、踏み込みに近い並行移動後つま先立ちで一歩前進。
 踊るような軽快な機動を見せつけロケット弾をすんでのところでかわせば、カノン砲がくるであろう射線から右足をひょいと上げてステップを踏み込み、ローラーを全開にして着地と同時に10mもの前進を一瞬で行う。
 ジェイドとイリア、特にジェイドは一方的に攻撃を加え続けていると思っていたようだが、それは大きな間違いだった。
 アノフェレスの乙女の肌級の反応速度と蚊のような機体重量の軽さが、ラテン系の熱いダンスを思わせるキ印の回避を我がものとする。
 『田』の『十』の中央通路程度なら、アノフェレスが全力を出せば十秒とかからない距離でしかないのだが、回避をしつつでは時間がかかる。
 じわじわと距離を詰めてくる細身の機体に、ジェイドは薄気味悪さを感じ、カノン砲をこれでもかと撃ちまくる。砲炎が飛び散り、硝煙が金色の機体に微かな汚れを残留させていく。だが一向に命中しない。精々、カメラアイの青き残像に掠る程度。
 時に背中を見せているのにロケット弾を躱すこともあるのだから、ジェイドの苛立ちは徐々に高まっていく。

 『アァ!? クソ、この野郎め! 沈め! 沈みやがれ!』
 『先輩……そんなに』
 『やかましい黙ってろ!』

 イリアに口も挟ませず、カノン砲を撃ちまくる。弾道が、銃身が過熱して真っ直ぐ飛ばずに右や左にそれ始めたのにも気がついていない。

 『………駄目、負けてしまう』

 イリアは、さっきから姿を見せないもう一機を警戒すると同時に、ロケット砲の発射感覚を緩めると、命中させるよりも時間を稼ぐよう行く手を遮る撃ち方に変え、じりじりとさがっていく。
 真正面から最大火力を浴びせかけて掠りもしないのに、いかにして相手を落とせると言うのか?
 戦法を変えずに愚直に突き進みやられるなんて、イリアには許せたことではなかったのだ。それに、もう一機の六脚式機体に側面から射撃を受けたらそれこそ一巻の終わりだ。
 ロケット弾を一射、一歩二歩後退すると、頭部の機関砲で牽制をして角にさっと身を隠し、様子を窺う。

 『動きが早すぎる。当たらない』

 近距離戦闘に持ち込まれては危険だとイリアは知っていた。ロケット弾は加速に時間がかかり近距離では意味が無い。また頭部の機関砲は近距離で効果を発揮するものの、相手の回避能力からして効力を発揮するかは疑問だったからである。
 側面の通路へカメラアイを瞬時に向かせて映像を得、一歩下がらん。

 『先輩、退きます』
 『ああそうかい! やってやらああッ!』

 イリアのことが完全に頭にないらしく、ジェイドはカノン砲を片手に担ぎ、腰に固定されていた大口径拳銃を握ると、連射した。
 更にカノン砲を片手で持ち上げ、間髪いれず撃ち放つ。
 シュレーの全身が総毛立つ。冷たき銃口―――今は高温―――がすぐ眼前に向き、確かに発光したのを見た。
 それは変な話であることをシュレーは知らない。発砲されてから回避を行うのは人類の規格に収まる者であれば不可能であるわけで、また外殻機程度のロボットが回避するには早すぎる。
 答えは極めて簡単、彼女が見たのは言わば脳が見た幻視―――未来予想図だったのである。
 弾丸はアノフェレスの数十cm横を貫通した。操縦席が収まっている胴体と、左腕の僅かな隙間を高速の弾丸が通り抜け、彼方に消える。

 『道がみえたっ!』

 シュレーはほとんど無意識に叫び、神技をここに実行した。
 ローラー全開、地面を蹴り、パイプを斜め横方向に滑り上がる。遠心力を利用してまさかの一周。青の光が円を描く。銃を向け、引き金を目一杯引く。
 パッ、ぱっ、パっ、パパッ。
 銃が閃光手榴弾のように煌めきながら作用した。

 『ぐおっ……そんなハズがねぇッ』

 散弾の華が、円状に咲き誇った。四方八方から弾丸の礫が牙を向く。金色のふざけた装甲が表面から削がれる。火花がシューティングスターを埋めた。
 シュレーは、パイプを一回転しつつの射撃を行ってみせたのだ。照準は決して正確ではなかったが、距離が近く、銃が散弾銃であったことが幸いした。
 ぐらり、シューティングスターの体勢が崩れん。
 突如機体に圧し掛かった衝撃に、ジェイドは言葉も無くうめき声を上げると無意識に引き金を絞っていた。
 そう、引き金を落としてしまったのだ、片手で中途半端に保持した、カノン砲を。
 カノン砲が出鱈目な方向に弾丸を射出、反動を抑えきれずに保持していた腕が関節からひん曲がり力が伝播するや転倒の手助けをし、倒れる。拳銃弾は虚しく右左に散布。パイプに穴が穿たれた。

 『う、腕が!』

 軽量で馬力も無い機体に、無理矢理大威力な不相応兵器を持たせたのが運の尽き。
 援護射撃を行うためにイリアは操縦桿に力を込め、視界の隅に敵が映っているのを視認するやバックステップを踏んだ。

 『先輩!! ……くっ』

 側面に辿り着いたプロトファスマの射撃が、散漫ながらもスターダストに浴びせられた。命中はしなくても、圧力をかけることが可能だ。

 『今ですシュレー!』
 『シュレー! とどめ!』

 好機。シュレーは委員長とアルメリアの声に従い、さっと機体を躍らせた。
 ジェイドは悲鳴に似た声を出した。
 だが、遅かった。

 『援護しやがれってんだよ!!』
 『ッ、撃てない!』
 『早くしろッ! 援護しろよ!』
 『………できません!』

 距離を取り狙いをつけていたイリアには撃つことができなかった。
 ロケット弾にしても、機関砲にしても、狙いは曖昧で、範囲制圧が得意な武器を搭載していたが故の不運だった。狙撃なんてもっての他。
 だいいち、プロトファスマの軽弾幕の回避、命中弾に装甲を抜かれないよう必死だったために援護のしようがない。

 『獲った!』

 シュレー、散弾銃を撃ち放ち、反動で半身を反すとブレード一閃、すかさず剣先を返し主機があると思われる部分へと突き立て、モーター出力を最大に発し中身を穿ち、潰した。
 電流とオイルが血しぶきのように金色の機体から噴出す。
 やらせはしない。咄嗟に全ての武装を放棄、ジェイドは本能的に漆黒のブレードを残った片腕で掴みこれ以上刺さらないように止めた。
 主機は半分死んでいる。もって数十秒が限界なのは知っている。ジェイドのプライドがそうさせた。勝利は出来なくとも、一矢報いてやろうと。
 シューティングスターのカメラアイが、慟哭するように、赤く発光した。

 『簡単にはやらせねぇぞクソヤロウ!』
 『……むっ、まだ動くの?』

 体重をかけて貫通せんとするシュレー、なんとか貫通を阻止せんとするジェイド。
 まさに肉を切らせて骨を断つ……まではいかない。精々骨を断たせて肉を切るのが精いっぱいだ。
 体重移動と、アノフェレスの重量を利用して、『ブレードでわざと抉らせる』ことでブレードの剣先を地面に導き解除してやる。主機どころか周辺の機器まで破壊が拡大するが、関係無い。

 『食らえオラッ!』
 『痛っ!?』

 瀕死の金色に命じ、蚊の顔面をむんずと掴むや頭突きを食らわせる。さしもの回避能力もここでは発揮できなかった。青い光の宿ったカメラアイにぴしり、罅が入り。
 しかしそこまでだった。

 『よくもやったなー! 奥義ぴったり射撃!』

 シュレーが、ぴったり射撃、零距離射撃を声高々と宣言、刹那、頭突きに頭突きをお返しすると銃口を腹にぴったり押し当てた。
 ひび割れたアノフェレスのカメラアイが光を増した。
 トリガー。
 零距離射撃が数度に渡り装甲を穿ち、内部を蹂躙する。シューティングスターから外殻機としての機能は失われ、鉄の人形となり地面に横たわらん。一機脱落。

 『これでもう容赦はしなくていいですね?』

 イリアは照準を合わせるや、両腕のロケット砲と頭部の機関銃を向けた。
 ジェイド機が機能停止となれば、もはや誤射などどうでもよくなったものの、一応無線へそのような文面を並べておくと、これまでぴったりくっ付いて来ていた目標機を逃がし、アノフェレス目がけてロケット弾連射、機関砲を撃つ。
 スターダストの名前に恥じない弾幕が、シューティングスターもろともアノフェレスの脆弱な装甲を消失させんと襲いかかる。

 『んっ、被弾したっ』

 頭を掴んでいた手を払いのけ、やっと姿勢を起こした直後、否もっと早い段階で機体が弾幕に晒され、ロケット弾で黒いブレードが半ばから折れ、片腕に弾丸がめり込んだ。
 咄嗟の機転で横っ跳びに転がり、伏せる。
 ルール上、破壊された機体には追撃をしかけてはならない為、さきほど容赦はしないといっても当たらないように容赦した為か、弾幕の向きはやや上向きだった。
 だが、転がったところへ冷徹な射撃が突き刺さる。またもや転がり、散弾銃を撃ち返すも、距離が遠過ぎて装甲の表面に傷をつけるだけ。
 散弾が残り少なくなってきたことが電子画面に表示されている。至近距離から何度も何度も叩きこまなければ、十分な損傷を与えられないのは明白だった。せめてブレードがあればなんとかなったが、折れているのを武器には出来まい。
 まじかに迫る銃声に背筋が凍る。

 『させませんよ!』

 その戦場に、六脚の銃士が乱入した。
 六脚がバネであるかのように跳ね、着地するや耳障りな摩擦音を吠えローラーダッシュ。
 アルメリアは、大して体も動かしていないのに心臓が痛かった。眼鏡がずり下がっているのは御愛嬌。

 『襲いよアルルぅー! 寂しかったんだから!』
 『この調子ならシュレー一人でもいけたんじゃないですか?』
 『うーん……片腕が動かなくなっちゃったし、ブレードは折れちゃったし、銃も弾がないの』
 『分かりました。あとは私がケリをつけます。シュレーだけにいいかっこはさせません』

 シュレーは、操縦席という名前のサウナの中で汗にまみれながら返事をした。

 『ういー』

 武器を損失して大幅に攻撃力のさがってしまったアノフェレスは後ろへ、プロトファスマが前に出て、目標機は後退する。
 アルメリアは、六丁の機関銃を斉射した。
 スターダストはそれなりに装甲の厚い外殻機だが、所詮二脚でしかないため、六丁の機関銃をまともに浴びて無事で済むはずがない。
 スターダスト、図体に似合わぬふわふわした回避機動を取りつつ、ロケット弾と機関砲で応戦する。ロケット、機関銃、双方を撃ち続けてきたために過熱警告がでるもこれを無視。
 イリアは、後退しつつ射撃を行う、消極的な戦法に切り変えた。単機になってしまった今、足を止めて射撃戦を行えば背後をとられることは十分承知しているが故の戦法だが、勝利が一歩一歩遠のいていく。
 どう頑張っても単機は単機。追いつめることは容易。
 遠くから見るとドラム缶にも見えなくもないスターダストを、六脚を使い姿勢を低く保ったまま、プロトファスマが六丁の銃を撃ちながら突っ込んでいく。ロケット弾を空中で撃ち落としつつ突貫する姿は、シュレーをして恐ろしく思えた。
 ローラーが火花を散らす。

 『……弾が無くなった………』
 『おい、イリア! 大口叩いておいて負けんじゃねぇぞ!』

 過熱警告表示が今度は弾数零表示に塗り替えられた。
 イリアは、ジェイドの叱咤……むしろ文句を聞き流し、唇を舐めた。
 ロケット弾をプロトファスマの胴体目がけて発射しても六丁の銃が織り成す弾幕に弾かれて軌道がそれ、みじめなロケット花火になるだけ。
 そのロケット弾の弾がとうとう無くなってしまった。残る武装は頭部機関砲のみ。お世辞にも射撃の腕が良くないイリアには負けたも同然の情報だった。
 イリアは適性からして近接戦が得意だというのに、こんな機体を宛がわれて十分な実力を発揮できなかった。機体も、そして僚機の武装選択まで全てがちぐはぐでは負けるのも不本意ながら納得してしまう。
 運が悪かったのか、腕が悪かったか、いずれにしても、もう。


 『そこっ』
 『……きゃあ!』

 プロトファスマの前方全てがマズルフラッシュに包まれんばかりに輝き、怒涛の弾幕がスターダストに牙を剥く。
 たちまち装甲はけし飛び、腕は蜂の巣、カメラアイは木っ端みじんに砕け地面に大音量を立てて転がるや小爆発、沈黙した。
 アルメリアは続いて諦めすら感じるほどに動かなくなってしまった目標機に狙いをつけると、射撃の糸をしならせ叩きつけた。
 勝負は決まった。
 ゴング代わりのサイレンが高らかと競技場に鳴り響いた。


   【終】


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