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機甲闘神Gドラスター 第三話(前)・下

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匿名ユーザー

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 照明の戻った部屋で、しばらく三人で話し合って詳細を煮詰める。一通りの意見が出揃った後、誰よりも先に立ち上がったのは、勿論ラインだった。
「作戦の手順は決まったな。今こそ雪辱を晴らす時だ!」
 ぐぐぐっ、と筋肉を盛り上げ、力いっぱい拳を握り締める。
「さぁ、張り切って準備するぞ! 先にファクトリーに行ってるからな!」
 猛り狂うテンションを抑えられんとばかりに、ラインは揚々と部屋を出ていった。
「……大丈夫かしら」
 セイナは、読みかけの雑誌に再び目を落とす。
 一方、出撃の権利を譲ったリオルフは、完全に手持ち無沙汰となる。
「基本、能力もあるし真面目ではあるんだケド。性格的にバ……熱血が空回りしがちだものね」
「言い切っちゃっていいんじゃない?」
「陰口は趣味じゃないんだ。本人の前で言わないと面白くないし」
 だが言って通じない可能性もあるのはどうしたものか。垣間見せる黒さこそ、ラインの前では空回りしがちになる。
「ま、上手くいくかお手並み拝見といきましょう」
 セイナがページを捲りながら、楽観的な姿勢を見せる。
 リオルフはそれに同意しつつも、手際の悪かった今回の件について肩をすくめた。
「即座に攻勢に出られなかった以上、現時点で既に一つの賭けだけどね」
 何度でも思う。
 どの道倒さなければならない相手とはいえ、千載一遇の好機を逃した感があるのは痛い。
「あちらが克服できてなければ十中八九勝利。そうでなければ、いつも通り正面からの戦闘になる」
「たかだか一ヶ月よ。普通なら、そう簡単にいかないとは思うけど、ね」
「普通ならね。まだ改善されてないことを祈るよ」


「フフフ、ところがどっこい心配御無用。とっくにプランは出来ている。天才様をナメんなよ」

「こんなこともあろうかと! 高レベルGEM制御用ユニットを既に開発中だっ!!」

「将来的に必要になるかもと思って構想を練ってはいたが、まさかこんなに早くお披露目するハメになろうとはな」

「ともあれ、これが完成すれば、フルパワーで戦っても心配はない。むしろ戦闘力大幅アップの優れものって寸法だ! 早速開発にとりかかるぞ。あとは完成してからのお楽しみよ!」


「――と、自信満々にのたまっていたのが、一ヶ月前のあの日だったな」
 十字の発言を思い出し、壮馬は確認するように言う。
 例によって、格納庫でそこの住人を見上げる壮馬、隆斗、そして十字の三人。
 エンドアが作戦の準備を開始した頃、超動技研は超動技研で、新たな問題に直面していた。
「ああ、突貫工事でよくやったもんだ。とくとご覧アレ。我ながら見事な出来栄えだぞ」
「確かに凄いよ。しかもお前の言った通りのモノが出来上がってきたんだろうってのは、確固たる事実として認めるべきだと思う」
「だろう? GEMの増幅・制御のみならず、機動力はさらにアップするし、やや不安があった遠距離戦にも対応できるようになるんだぞ」
 格納庫では、本日より新たな住人を迎えることになった。
 紹介するのは、生みの親である神武十字。
 産みの痛み――寝不足――に耐えた反動か、異様にテンションが高い。自慢の子を褒めてもらいたくて仕方のないようだ。
 壮馬と隆斗に向かって振り返り、新型機を背負って二人に語る。
 そこにあるのは、西洋の竜を思わせるフォルムの機体。巨大な翼と爪を抱き、その身の内には、未だ静かに燃え滾る炎を湛えた非人型機動兵器。
 真価を発揮するのは、己を従える竜騎士と出会い、絆を結びし時。
 来るべきその時を、物言わぬ竜は、今か今かと待ち焦がれる。
「これこそ、重戦闘機様GEM調整機関搭載型Gドラスター支援ユニット」
 大きく腕を振り、高らかに叫ぶ。
「その名も高きG-DASH! マッハで翔べ!」
「だから何で有人機なんだって訊いてんだよッ!」
「名高いって。出来立てホヤホヤな上に、ドラちゃん最初からマッハで飛べますよね」
 十字の胸倉を掴み、ガクガク揺らす壮馬。そして自分のポジションを見出しつつあるのか、脇から冷静なツッコミ役を買って出る隆斗。
「まあ落ち着け、壮馬。世の中には、思い立ったが吉日という諺があってだな……」
「要は、後先考えず勢い任せで仕様変更したんだろうが」
 力が抜けて、握っていた服が手の中から落ちる。自然、十字の身体も解放される。
 わかっている。わかっているとも。この状態になった十字には、いつも以上に話が通じないことは。
 コミュニケーション不全もなんのその。当の十字は、この状態になった理屈を説明する。
「だって作ってるうちに、より高度な性能が見えたんだよ」
「で、その見えたものを追求したら有人機になったと」
「その通り! 大型化しちまったから、いっそ合体メカにしたのさ」
 鼻息荒く胸を張る十字。
「ズレた方向で、その天才っぷりを遺憾なく発揮してんじゃないよ、まったく」
 頭痛が襲ってくる錯覚に、壮馬は片手で額を抑える。
 研究者として先が見えるのは素晴らしいことかもしれないが、もっと周りを見て欲しい。
「まあまあ壮馬サン。ここは逆転の発想で、装着状態で出撃すれば万事解決ってね。分離合体のメリットだけはなくなるけど」
「…………」
「壮馬サン?」


 提案自体は至極当然のものだ。だが言い知れぬ不安は拭えず、壮馬は疑いの視線を十字に向けた。
「フッ、確かにな。いい着眼点だぞ、隆斗」
 それを知ってか知らずか、隆斗の提案に対する自信の程を開発者は告げる。壮馬の胸には、嫌な予感が大挙して押し寄せてくる。
「操者が欠員してると、安定しすぎの抑制しすぎので今度はパワーが上がらなくなるが、そこはまあ努力で何とかなるだろう」
「GEMだもんなァ。知性体に反応するもんなァ。んで、具体的にどんくらいまでしか上がらないんだよ」
「ノーマルGドラスターの半分くらいかな」
「やっぱりそんなオチか、キサマ!」
「どーするんスか! パイロットいないよ!」
 青筋立てて怒鳴る壮馬と、当然手の平を返す隆斗。
 5か6で落ち着くならまだしも、まさか一人で乗ったほうがマシなレベルに落ち込むとは思わなかった。
「ああもうっ、とりあえず後で内装は確認させてもらうからな!」
「おうおう。どんと確認してこい」
 多分今の十字には、何を言っても通じない。
 というより、表面上会話の成立こそしてるが、言葉が耳に届いているかさえ怪しい。
 とりあえず十字に立会いさせつつコックピット等を覗いてみる。見るからに使い勝手が良さそうだ。十字独自のアレンジが入っているものの、壮馬の意見が反映されているクラウン、アッシャーと比べても遜色ない。おそらく慣らしが終われば、悔しいほどに馴染むのだろう。最初の時とはえらい違いだ。
 こういう一度覚えれば完璧な所も、こんなケースの時は性質が悪い。文句を言う機会が減る。
 何はともあれ、僅か一ヶ月強で再び人材不足が浮き彫りになってしまった。
 戦闘で不足したのならまだ諦めもつくが、こういった場合はどう受け止めたものか。
 壮馬が頭を悩ませていると、そういえば、と隆斗が今まで説明されていなかったことについて質問してきた。
「てか、前から思ってたんですけどね、何で俺らみたいのがパイロットに必要なんでしょ? 技術的には、もっと負荷を抑えられそうなモンだけど。そうすりゃ、普通の人でも動かせるんじゃないスかね」
「GEMの性質のせいだよ。精神に反応するって言ったろ。操縦する時、機体と妙な一体感があるのもその一部だ。で、ある程度負荷があれば一体感も増す、そうなると相乗効果でパワーも上がると」
 ある程度といっても、それは最初の被験者である壮馬が基準。その為、常人には耐えられないモノに仕上がってしまった。
「そうなるようにオレが作った!」
 無駄に爽やかに自分を親指で差す白衣。連日の徹夜でハイになってる十字は、もうきっぱりと無視してやるのが優しさだ。
「……一番効率的なのは確かなんだが、パイロットは限定されるわ、人数足りないとパワーが下がるって弊害もあるわ、揃ったら揃ったでついには効率的すぎてシステムダウンする程になるわ、といった問題が出てきたわけだ」
 また仮にコックピットごとに耐Gシステムを調整し、常人のパイロットに合わせたとした場合は精神感応性質が災いする。パイロットごとのGEMとのリンクがバラバラになり、これもまた出力低下を招く。
 GEMの反応も、初期設定が基準値として固定されてしまったのも問題に拍車をかけている。
 最初から常人を視野に入れていれば話は早かったのだが、最早後の祭りだ。
 今更設定をフォーマットし最初からやり直すわけにもいかない。常人をパイロットに選定するのも技術的に可能ではあるが、効率化を図るならば、どの道調整機関が必要になってくる為に現状は何ら変わるものではない。
「あー……で、今回の件で当面エネルギー系の問題が解決したはいいけど、今度は折角解決したパイロット問題が復活したわけか」
「俺が一人でやれりゃあいいんだろうが、それもなかなか上手くいかないみたいでな」
「なるほど」
 隆斗の十字への人物評は決定した。
「アンタ、紙一重でバカですね」
「フフンッ」
「いや、得意気に鼻を鳴らされても」
 全力で紙一重を突き破るとこうなるのだろうか。だったら天才になんかならないでもいいかもしれない。
「だから睡眠不足の十字は放っとけっての。それより今日の訓練始めるぞ」
「へーい。ところで、もちっと優しくなんないスか。いっかな俺も、壮馬サンの特訓は結構キビしいんですけど」
「なんない、諦めろ。というより、俺らが腕でカバーしなきゃヤバい。お前を鍛えるのが急務になった」
「うわ、そりゃ納得するっきゃないスね。文句の付け所がないわ」
 命がかかってくる以上、大人しく言うことを聞く以外の選択肢はない。
 試すまでもなく持ち腐れになる切り札って何なんだろう。



 超動技研が(勝手に)危機を迎えた翌日、エンドアのファクトリーでは作戦に使用する機体が仕上がることとなった。
 完成の報を実行者であるラインに告げる男は、開発顧問のウル・モラリア。
 年齢は、おそらく40代半ば程。常に作業用多機能ヘッドセットで素顔を覆っているため、露出している口元くらいからしか表情をうかがい知ることは出来ない。
 役職上は司令官を兼ね、一応はセイナたちの上司に当たるが、本人にその自覚はない。興味があるのは、自身の研究とその成果のみ。
 注文を受けたものを開発したりはするものの、彼から自発的な通達や命令がくるのは、殆どの場合が、彼が自由に開発した新たな機体――中級以上のプレネガスが完成した時くらいだ。
 だからセイナたちは、今の所は奔放に物事に当たっているし、ある程度数に自由が利くプレネガスも、独自開発した低級機となる。
 連絡を受けファクトリーに姿を見せたラインに対し、ウルは持ち前の低い声で語りかけた。
「ライン……できたぞ、例のもの」
「さすが博士。大したものだ」
「教授だ」
「細かいことを気にするんだな。あまり変わらないだろう」
「…………」
 ウルにとっては大違いだ。だがラインに説明したところで、馬の耳に念仏というオチになるのが目に見えている。
 拘りを語りたくなる思いはあったが、新型機を前に目を輝かせているのに免じて、ウルはぐっと喉まで上がってきていた言葉を飲み込んだ。
「何はともあれ、これで準備万端ということだな」
「後はお前次第になる……活かすも殺すもな」
「自分の作品を信じるといい。活かしてみせようじゃないか」
 自信をあらわに、ラインは胸を張って真っ直ぐウルを見る。
 そうしていると、ふと気になっていたことを思い出した。
「ところで博士。ワタシたちの専用機は、まだ完成しないのか」
「目処は立った。だがもう少し欲しい……データがな」
 より強く、より完璧なものを目指す。その為には、どうしても時間が必要だ。
「ならば文句は言わんが、あまりグズグズしていると敵がいなくなってしまうかもしれんぞ」
「構わんよ……それならそれで。いずれ新しい敵も出てこよう」
「気長なことだ」
 やや呆れた様子を見せるラインだが、その持続時間も一秒で終わる。
 もとより何かを長々と引っ張るタマではない。良くも悪くも、行動基準は直情的。
「まあいい。ともかく、作戦開始だ!」



 同日午後、繰り出した街中で大きく伸びをする隆斗がいた。
「っだあぁ、疲れたー」
 本日の訓練は午前で終了。シミュレーターでの対戦、格闘技、簡単な座学等。前日も含め、密度の高い内容をこなした。
 ちなみに実技に関しては、訓練というより、一般的にはシゴキや苦行と称されるもの、あるいはそれ以上になる。常人であれば、医者か葬儀屋の手配を推奨されるレベルだ。
 もっとも、力量の向上が急務とはいえ、あまり根を詰めても効率が下がるのは、常人も隆斗も変わるものではない。その為、夜までの自由時間が与えられた。
 思わぬ振って湧いた暇な時間に、隆斗は一ヶ月前まで居を構えていた町に足を運んだ。
 特に急ぐ用事もない。道行く女性をチェックしながら適当にブラブラ歩く。
 直接の被害者やそれに近しい人なら話は変わるだろうが、町全体としては既に鋼闘士による災禍も癒え、平穏を取り戻している。
 天気にも恵まれ、実に気分が良い。
 本来の匂いを取り戻した自分の町を、隆斗は堪能する。その土地にはその土地の雰囲気というものがある。傍からすれば大して見た目が変わるものではなくても、馴染みの空気は人を落ち着かせるものだ。
「お?」
 そうこうしているうちに、飛びっきりの美人を発見。ピシッとしたスーツに身を包んだ、髪の長い女性だ。
 いでたちこそ一見キャリアウーマン風だが、特有の固さの印象は薄い。むしろ適度に引き締められた服装が、かえってとっつきやすさや柔軟さの方を印象付ける。
 特に引き締められ、かつ柔らかそうな胸部や臀部は、それ以上の印象を他人に与えるものがあるが。極端に器が大きすぎないようなのがまた良し。
 ウィンドウショッピングに興じるその女性に、早速声をかける。それこそが、難波隆斗にとっての礼儀。
「ねぇねぇ、お姉さん。お暇ですか?」
「んー……これは趣味じゃないかな」
 彼女は呟いて、やや赤みを帯びた髪をかき上げる。
 思わず隆斗は見とれた。
 あらわになった横顔、言葉を紡ぎ出す艶やかな唇、風に揺られる髪。一つ一つもさることながら、それらの組み合わせが織り成す色気が絶品だった。
 これは何としてもお近づきにならねば。
「あの、お姉さん?」
「こっちなら……いや、でもなぁ」
「おーい」
 隆斗の声は気にも留めず、相変わらず店頭を見て回っている。声をかけ続けても、肩でも叩こうとしても、するりとかわされるばかりで反応が返ってこない。
 それでもめげずに何度か繰り返す。
「ねぇってば、つれないなァ」
「うるさいな。ひょっとして、私?」
 やっと返事がきた。
 意図的に無視していたのではなく、自分が対象者だと認識して無かったとでもいうのだろうか。
「そそ。クールビューティな貴女様です。一緒にお茶でもいかが?」
 女性は怪訝な顔をし、頬に指先を当てて思案する。その仕草が、どことなく子供っぽくて可愛い。
 数秒かかって、やっと答えに辿り着く。
「あぁ、ナンパ」
「身も蓋もないけど、そーゆーこと。……何かペース狂うな」
 この人、天然なのか計算なのかよくわからない。どこか捉えどころがないため、やや反応に困る。
 女性は改めて隆斗の顔を見て、何かに気付く。
「ふぅん……なるほど」
「な、なに?」
 マジマジと頭から足元まで、全身を舐め回されるように観察され、若干たじろぐ隆斗。だがここで逃げては男が廃る。
「えーっと……で、どう。ダメ?」
「いいわ、付き合ったげる」
「あー、やっぱダ――って、ホント!?」
「た・だ・し……」
「た・だ・し?」
 その条件とは?
 隆斗が女性に顔を寄せる。
「私に勝てたらね」
「へ?」
 ぐるん、と視界が回る。次の瞬間には、顔は真上を向いていた。
「な、なぬ?」
 仰向けのまま、目をぱちくりとさせる。
 手を握られたと喜ぶ間もなく、ひっくり返されていた。殆ど何の衝撃もないまま、気付けば背中に地面を感じていたことになる。
 偶然居合わせた通行人から、驚嘆の声と拍手が上がる。
「ふふ。まだちょっと鍛え方が足りないかな」
 女性は優しい微笑で、隆斗を見下ろす。
「次からは相手を選んで声をかけなさい。またね」
 彼女は颯爽とその場から去っていく。きっとまた店を変えて、何事もなかったかのように買い物の続きをするのだろう。
「…………」
 隆斗はただ呆然と、その背中を見送るしかなかった。



「自信無くすわー」
 数十分後、隆斗は元バイト先の店に顔を出していた。シラフでありながら、泥酔者のようにカウンターに突っ伏している。
 油断していたのは事実だが、それなりに場数は踏んでいる。壮馬の訓練を受けたこともあり、大抵のことならば、咄嗟に対応できる自信もあった。
 自惚れているつもりはなかったが、それでもその辺の人に負ける覚えはない。
 なのにその辺の人、ましてや女性に手も足も出ずに負けたのは、さすがにカッコ悪い。相手が美人のため、なおさらプライドが傷付く。後になってみれば、ちょっと嬉しい自分がいるのにも複雑。
「へへへへ……ダメージデカいのなんの。親父サン、何か奢って」
「来て早々それかい。勝手にバイト辞めといて厚かましいな」
 口ではそう言っても、やはり近況が心配なのだろう。
 居酒屋よりもバーが似合いそうな風貌の店の主人は、仕込みと並行して簡単な料理を作り始める。
「今、金無いんスよ」
 ヘラヘラ笑いながら弁明する。
 感謝していないわけではない。気心の知れた仲なだけであり、好意は素直に受け取っておく。
「安定した高給取りになったって喜んでたじゃないか」
「命は安定しないかもしんないケドねー。まあ、まだ初任給出てないんで」
「貯金はどうした」
「あ、あはははぁ……素寒貧って奴でして」
 痛いところを突かれて、隆斗の視線が泳ぐ。案の定な返答に、店主も呆れる。
「どうせ調子に乗って、給料日も考えずに散財したんだろう」
「いやー、まさか最初の月は給料出ないとは……」
「説明ちゃんと聞いてなかった、でいいか?」
「さすが親父サン。よくわかってますね」
「お前が単純バカなだけだ」
「あたたた」
 再び痛いところを突かれた。すると、店の奥から女の子が顔を出してきた。
「駄目ですよ。無駄遣いするなとは言いませんけど、残すものはちゃんと残さないと」
 お盆の上のグラスを、隆斗の前に置く。
 隆斗も見覚えのある顔だった。あの日、鋼闘士から助けた子だ。
「ありゃ? 何でこんなとこに? まだ駄目だよ、こんな店に入り浸っちゃ」
「人手が足りなくなったからな、バイトに雇ったんだ。安心しろ、遅い時間はまた別の人と交代させる」
 店主より、丁度完成したまかない料理が出された。
 野菜や肉の切れ端を使った丼物だ。タレの香りが鼻孔をくすぐり、唾液の分泌が促進される。材料の都合で売り物にはならないが、食欲をそそる一品に仕上がっている。
 食事の邪魔をしないよう、箸をつける前に、少女が自己紹介をする。
「浅間夏生です。改めてよろしくお願いします」
「うん。ヨロシクね、夏生ちゃん」
「は、はい」
 屈託の無い隆斗の笑顔を直視して、夏生の声が上擦った。初めて会った日のように、小さな身体で深々とおじぎをする。
 彼女がここにいる理由は、仕込み作業のみに戻った店主が説明する。
「あの後、結局合流できなかったろう。隆斗、お前を心配して、後日わざわざ訪ねてきてくれたんだぞ。肝心のお前はもういなかったとはいえ、健気なものじゃないか」
「でもって労働力として確保したんでしょ。親父サン、ちゃっかりしてるよ」
 割り箸を咥えて二つに割り、頬張り始めた。
「はァ……」
 まるで通じていない。
 夏生と店主が、同時に溜息をついた。
「駄目だコリャ」
「駄目ですね。でもちょっと燃えてきました」
「おや、意外な反応」
 見た目通り、もっと大人しいかと思っていた。ついつい意外そうな目で見てしまう。
「? 何ですか?」
「いや別に」
「それじゃ行ってきます」
「はい、頑張って」
 隆斗の元へ、人懐っこい小動物のように近づいていく。
 早くも丼を平らげ、今はのんびりグラスの茶を啜っている隆斗の顔を覗き込む。
「隆斗さん」
「どしたの、夏生ちゃん?」
「恋人欲しくないですか?」
 夏生のド直球。
「え!? 友達でも紹介してくれんの!?」
「とぅっ!」
「ぉあ、な、何さ、いきなり?」
 全く別方向に食いついた隆斗に、夏生の拳が見舞われた。
「今のはお前が悪い」
 店主も、うんうんと頷いている。この場に隆斗の味方はいない。
「親父サンまで。俺が何をしたってゆうんだ」
「だからお前はモテ……違うか。彼女ができないんだ」
「同じことじゃん」
「浅間君、もう一度殴っていいよ」
「了解しました、店長さん!」
 ピッと背筋を伸ばして敬礼し、再度制裁。
「えー、何それー?」
 隆斗一人、わけもわからないままポカポカと殴られ続けるのだった。



「――ああ。何、駄目元だ気にするな。そんじゃな」
 言って、壮馬は通信を切った。自室の据え置き端末のウィンドウが閉じられる。
「こいつも駄目、と」
 リストにチェックを入れる。
 候補として目をつけていた知り合い十人ばかり。再度声をかけてみたものの、やはり良い返事は得られなかった。
「全滅か。やっぱ条件厳しいよなァ」
 結局徒労に終わったらしい。壮馬は、椅子の背もたれに乱暴に体重を預けた。
 Gドラスターの操者には、まず戦闘機動に耐えられる肉体が要求される。操縦技術はあるに越したことはないが、それは二の次三の次。後からどうにでもなる。
 強権発動すれば誰かしら引っ張ってくるのも可能だろうが、かといって無理強いはできない。彼らにも彼らの都合がある。
 単純に生活のためでもあれば、今の壮馬たち同様、何かを守るための戦いのさなかに身を置いている者もいる。立場の問題で、広く他人を巻き込みかねない者もいる。
 そういう意味では、やはり隆斗は出物だった。民間かつ身軽で自由が利き、ここまで適正が高い者はそうはいない。さらに身近にいたのだから、シチュエーションとしては出来すぎとも言える。
 これ以上贅沢を言っては罰が当たるが、贅沢を言わなければ差し当たっての問題を解消できない。
 だが、
「……さて、どう出るやら」
 こんな時にもかかわらず、不敵な笑みが浮かんでくる。
 不謹慎ではあるが、ヤバい状況だからこそワクワクする自分を否定出来ない。
 今までもこの程度の苦難は何度も乗り越えた。その度に、こういう感覚は沸き上がってきたものだった。
「ん?」
 その折、司令室からコールが入る。
 また性懲りも無くエンドアの連中だろうか。
 回線を繋げると、早速ミツキが報告を読み上げる。
「なんだって?」
 報告に一区切りがつくと、壮馬は疑問の声を漏らした。



 居酒屋では、ようやく夏生も気が済んだらしく、今は隆斗の隣の席に陣取り、お茶を飲みつつ休憩時間を過ごしている。
 まだ少しむくれているが、それもじきに治まるだろう。罰の続きとばかりに、隆斗に背を向け、わざわざ彼の身体を背もたれ代わりに使う。
 何が何やらわかっていない隆斗は、とっても嬉しい反面、ちょっとだけ居心地が悪い。
 わざわざ蒸し返すこともあるまい。これ以上はあえて触れずに、店主はずっと聞きたかったことを隆斗に訊ねる。
「で、隆斗。具体的に今はどんな様子なんだ」
「あー、っと。機密だか守秘義務だかあるし、それはちょっと」
「それもそうか」
 淡々とした声で答えたが、内心では店主も驚いていた。
 機密。守秘義務。隆斗からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。昔から知っているだけに、時の流れを実感し、それがまた嬉しく思う。
「……まあ、もともとあまり突っ込んだ部分は教えてもらってないスけど」
「新人って、どこもそんなものなんですねぇ」
「どうだろう。隆斗個人が信用されてないだけかもしれないよ」
 感心したのを悟られまいと、夏生の言に軽く反論。
 だが実際は、夏生の見解が正しいのだろう。勤めて二ヶ月も経過していないのだから、実技以外に重要なことを教え込むはずがない。
「店長、ひどいです!」
「いやぁ、親父サンの言う事ももっともでしょ。否定しきれないのが、我ながら悲しいっちゃ悲しいけどね」
「そんなことありません!」
 ぐっと鼻先が触れるくらいまで顔を近づけ、隆斗に味方する。あまりの眼力に、隆斗も思わず仰け反る。
「お、おぉ……あ、ありがと」
「どういたしまして」
 感謝の言葉に、満面の笑みを。
 さっきは何故か怒られ、今は何故か随分買い被った評価をしてもらい、隆斗は苦笑するしかない。そう言えば以前、女に対しても未熟だと壮馬に言われたことがある。その未熟さと関係があるのだろうか。
「あの、隆斗さ――」
 不意に、小さな電子音が鳴る。
「あ、ごめん。通信入った」
 口を開こうとしていた夏生を手で遮り、隆斗が腕時計型の通信機に目を向けた。今はライトが点滅し、回線が繋がっていることを主張している。
 超動技研に勤務してから支給された、いくつかの大きめなボタンと展開式ディスプレイが特徴的な多機能通信機だ。通信のみならず、各種作業用の携帯端末も兼ねており、さらには――現状の隆斗はロックされているが――マシンの呼び出しも可能な逸品。
 他に支給された携帯電話型端末と組み合わせて使いこなせば、ちょっとした潜入工作も可能なシロモノだ。
 無骨でありながらもスタイリッシュな印象の通信機に、店主は「お、カッコイイ」などと、一時童心に返り目を輝かせていた。人の目がなければ、カウンターから身を乗り出して観察していたかもしれない。
 対して、隆斗の方は心なしか険しい表情になる。
 本日はもうオフのはずだ。それを知っていて緊急の連絡となると、物騒な理由である可能性が非常に高い。
「こちら隆斗。何か用スか」
 会話モードをONにし、連絡を受ける。

「え?」

 報告に、隆斗は思わず耳を疑った。



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