創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

「ヒューマン・バトロイド」第11話

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
スタークで様々な騒動を巻き起こした宴会が行われる少し前。
南太平洋中立国家群の軍との交渉が行われた。
「どうも、オーディル・セサリーだ、我々の領土内へようこそ。歓迎できるかどうかはこの先の交渉次第だがな」
支援を行ってくれた部隊の隊長がこちらとの交渉のテーブルに着いた。
対してこちらの交渉要員はカルラとリクとゴースの三人だ。
「それは望むところです。この国の代表は貴方で構わないんですか?」
「ふむ、君達と我々の情報に差があるのかな?」
オーディルは意味深な言葉を呟いた。
「……まさか本当に?」
ゴースが珍しく真面目に言った。
「どういう事ですか?ゴース君」
「中立国家群には国家と呼べるまとまりがない。実は他の2勢力と渡り合えるだけの戦力も、国力すらない、なんて噂がな……正直、都市伝説レ
ベルの話だと思ってたんだが……」
「ああ、真実だ」
驚きの言葉が告げられる。
「実際には国力は纏めるだけのカリスマ性を持った人間がいないのが理由。様々な国から逃げてきた多種多様な人種を纏められる程凄い奴がい
ないんだ。戦力はさっきの30機と陸地の中心部にある超大型レーザー砲が全てだ。それも貰い物だけどな」
超大型レーザーは恐らくここから見える物だ。
大陸の中心部の巨大な塔。それこそが南太平洋中立国家群の象徴でもあり、そこに住む人々を守ってきた最強の武器だ。
「貰い物、ですか?」
だがその規模の兵器が貰い物。それは随分とおかしな話だった。
「そう、いつの事だったかな?ある時、どっかの船がこのあたりを通りかかってその時に落して行った。最初はHB数機。それが運用可能になる
タイミングでまた新たな物資が落された。そんな事が何十回もあっていつの間にかこの地域を守れる最低限の設備が整った」
「随分と物好きもいたもんだな」
「まったくだな。だがそのおかげでここは平和でいられた」
その平和はスタークが逃げ込んだ事で壊れかけているが……
「だからこそ俺達はあんたらとの交渉材料を求める。この地域を守る程の物を」
「その件に関してはこちらです。連れてきてください」
カルラの言葉と同時にリクが蹴り転がしたのはガリスだ。
「これ、俺達が出てくるときに隠れ蓑に仕立て上げた中将殿。そこそこの交渉材料になるし、こっちとしても処分したかったからな」
足元のガリスは猿轡を噛まされて唸っている。
「だが、それでは君達を留めていられるほどの理由にはならない」
「だろうね」
リクは頷く。
「だから、ある予想を立ててる。これに従えばある程度は時間が稼げて、上手くいけばその後他の国はこの地域を相手取る事が出来なくなる」
リクは思わせぶりな微笑みを見せる。
「……聞かせて貰おうか?」
オーディルにリクは指を立てて言う。
「1ヶ月、カウントダウンはもう始まってる筈だ」


彼らが去った後部下の一人から聞かれた。
「彼等、どう思います?」
「縋りつくしかないだろうな。我々の限界も見えてきている」
超大型レーザー砲もそろそろガタが来ている。そもそも消費電力が大きすぎて易々と使えるものではない。
HBの予備パーツも少ない。
「ですが、あんな根拠の欠片も無い話に縋れるのですか?」
「だから見極める事に全力を尽くしていたんだが、まさか俺が呑まれるとは……」
あのメンバーの1人、1番若い男の雰囲気が尋常ではない。
こちらがどうにかしようと思う事を封じてくるほどの威圧感があった。
「あの若さで何を背負って来たんだろうな?少なくとも俺達程度の修羅場は彼にとっては日常茶飯事なんだろうな」
「そこまでですか!?貴方程の人がそんなに……」
「俺は凡俗だよ。何事も並みだ」
オーディルの言葉にはこれ以上持ち上げて欲しくないと暗に告げていた。
この地域に住む者なら誰もがオーディルを知っている。そして彼を信用している。
恐らく彼が国をまとめ上げれば簡単に纏まるだろう。
それをする度胸がないのは彼にとって踏ん切りをつける後一歩がないからだ。
「俺に出来る事なんて戦う事だけだ」


「どう思います?」
「手ごたえはあります」
リクはカルラに答える。
恐らくこの条件は向こうからしたら願っても無い状況。そして既に情報は渡してしまった。
そうなれば彼等がこちらを受け入れるかどうかは信用問題になる。
あのオーディルという男はむやみにこちらを疑う事はないだろう。
「これで平穏は訪れるんですかね?」
「無理だろ」
「………でしょうね」
カルラの淡い希望を一言でゴースは斬り伏せた。
これからも戦うしかない。問題は戦わざるを得ない状況がどれだけ続くかだ。
「だが、不可解だ」
一体誰がこの国にこれほどの兵器を?
ふと街を見て、リクはその疑問にある仮説を立てた。
「日本人?」
街で遊んでいた子供、その中に日本人の特徴を持った子供が多数いた。
「ホントだ、珍しいな。こんな所で」
もし、この街に兵器を送った人間がここに日本人が多い事を知っていたら?
もし、その人間が軍の上の方に関わっていてこの国に戦火が伸びようとしている事に気付いていたら?
もし、その人間が軍備をつかさどる機関に所属していたら?
「……まさか、な……」
そんな奴は一人しか知らない。だがそいつがこんな事をするだろうか?
そんな事は、ありえない。筈だ。


交渉から数日たったある日。
ミキは調理場を借りる事に成功していた。
事の発端はつい先ほど。
リクがリリの料理を食べていたことから始まる。
うまそうに料理をたいらげたリクにそれを微笑みながら見るリリ。
その様子に嫉妬してこう言った。
「私だって料理ぐらいでき、る?」
叫びかけて気付いた。ミキはたまにしか料理をしない。
そして料理を作った時に義父も義兄もひきつった顔をしていた。
理由は不明。だが努力すればどうにかなると思い、現在に至る。
少し緊張しているミキをリクもまた緊張の中見ていた。
ミキの腕前が未知数である事もそうだが、周りのクルーのの雰囲気に怯えている。
リクを遠巻きに見つめて(包囲して?)いるクルー。
正直、リクが囲まれる理由など嫉妬しかない。だが……

どっごぉぉん!!

今は違った。
誰もがどうしたらいいのか分かっていない。
最初は嫉妬の嵐に呑みこまれそうになったが1回目の爆音がこのこう着状態を作り出した。
「み、ミキ……?大丈夫か?赤い刺激臭のする煙が出て――痛い!?」
2回目の爆音と共に漂う赤い煙にふれた瞬間、リクが叫んだ。
リクには育ってきた環境のせいである程度薬物などに耐性がある。催涙ガス程度なら顔を覆わなくても突き抜けられる。
だが今、リクは痛みのあまり地面を転げまわっている。
この状況に恐怖を覚えない者などいない。
1人、また1人とその場を離れていくクルー。
「大丈夫だ!少し失敗しただけだ!」
そう言った傍から調理場からは電動ドリルのようなモーター音。そして金属が折れる音。
「………大丈夫!」
「んなわけあるかぁ!!」
リクは渾身の突っ込みをした瞬間にまたもや謎の煙がリクを襲う。
今度はぴくぴくしているリクにその場に残っていた誰もが憐みの目を向ける。
ちなみにリク以外はガスマスクをつけている。準備は万端だった。
「俺はなぜこんな目にあっているんだ……罪か?罪なのか?チクショウ……」
既に動く気力がもてないリク。
「気を強く持てよ、リク」
リリが励ますがガスマスクは自分の分だけ。少し酷い。
「まぁ、日ごろの行いのせいじゃない?」
シエルの言葉にリクは抗議の目を送る。
奥からは何かがショートする音と共に黄色い液体がガスを発生させながら流れ出てくる。
リクは逃げようとするが赤い煙に触れて悶絶する。
さすがに得体のしれない物質に触れさせるのはまずいと救出するが……
「おい、まずいぞ。マスクのフィルターが煙を上げてる!?」
「そ、総員対比ぃぃ!!」
遂に全員いなくなってしまった。
「で、できたぞ!!」
ミキが「何か」を持って調理場から出てくる。
リクには少なくとも、その物体が食べ物とは思えなかった。
数分後、リキは訓練の後の腹ごしらえに調理場を訪れる。
「さーて、何を食うか、ッ!?」
そこにはリクが、何か言葉にし辛い顔で倒れていた。
「リク!?泡吹いて倒れてるならまだしも、む、紫色のスライムを噴き出しながら倒れてるって何があったんだ!?」
ちなみにこの場にミキはいない。
全く自分の異常性に気付きもしないで恥ずかしさからリクに料理(ダークマター)を渡した後逃げ出したからだ。
律義に食べたリクもリクだが……
「かふっ!ぐぇっほ!?……くはっ……」
「リク?リクゥゥゥゥ!?」
滾々とリクの口から湧き出るスライムはその日、遂に止まる事は無かったと言う。


[連邦軍に対する情報操作はまだ続いているな?]
「ええ、もちろんですとも。この先、大体1ヶ月くらいは持ちます」
キセノは同盟のトップと通信している。
彼が残した隠し玉が同盟の物になったからだ。
[なぜこんな切り札を隠していた?]
「こういうやり方は人々のトラウマを再燃させます。あまりやるべきでは無かった」
キセノは胸を痛めている様な表情をする。
「ですが、戦争はいまだに続いている。これでは人に新たなトラウマを刻みつける事になりかねない……」
[ふむ、人の良心という奴か?]
「……我々JTC、いや日本人は戦争を望んでいなかった……一部の者の軽率な行動が世界を傷つけたんです……」
悲痛な表情で顔を伏せるキセノ。
「だからこそ、我等JTCは戦争の平和的かつ次世代に何も残さない決着を望みます」
今度は強い意志をもった顔で真っ直ぐに告げる。
[お前達の意思は理解した。我々も充分に努力しよう]
「お心遣い、感謝します。では」
通信を切り、キセノは息を吐く。
「あー、いらつく」
北極の「アレ」を隠していた事への返しは考えていた。
真実と嘘をかき混ぜた言葉で相手をだます準備は整っていた。
『マスター。例のエース、いい成績を出しています。正直予想以上です』
「そうか、スサノオはどうだ?」
『成長も万全、プロテクトもちゃんと作用しています』
今度のAIはどうやらシナリオを放棄しなさそうだ。
スタークが中立国家群に逃げ込んだ事、いやミキがスタークに協力した時点で、シナリオが完全に崩れている。
「多少のずれの筈だったんだがな……」
最初はあの新興宗教の教祖が死んだ事。
始めの内は生かしておいてデータを取る筈だった。
しかし、予想以上にイザナミの基準が厳しかった。
既に世間の情報に触れさせていたAIだからこそ起こったと思われる事故だった。
そしてさらにグラビレイトが早いタイミングで連邦に奪われた。
その奪った者、リク・ゼノラスの存在もイレギュラーだ。
自分が手を加えた完成孤児(パーフェクトアーミー)がここで出てくるとは思ってもみなかった。
シナリオの修正の為イザナギの初期化、そしてアマテラスの人格データの予備の開発。スサノオに対してはプロテクトの開発も行った。
そしてTypeβの引き渡し。
データが取れた所でTypeαとの戦闘データ収集。
そこでも面倒が起きた。
リクの存在が性能を大きくぶれさせた。
その結果恐ろしいほどにTypeαのデータに誤差が生まれた。基礎値すらもイザナミの急成長の所為であやふやになってしまった。
Typeβもチーム戦を仕掛けた。
これによってTypeβの戦闘データに不備が生まれて一部では理論値すらも見いだせなかった。
極めつけは裏切り。
最初の設定では「シナリオに従う可能性が見られない、または低い者」を拒絶して、情報を流し込み脳を焼く筈だった。
Typeαは連邦、Typeβが同盟でしか活動できない筈だった。そういうシナリオだった。
しかしAIはその設定を捨てた。
学習するという事はすなわち取捨選択が出来る事になる事だ。
思考の矛盾による思考停止などに陥らないように、必要ない選択肢を捨てる事がAIの成長だった。
だが奴らは最初に最重要としていた設定を、命令文を捨てた。
「この結果がどう関係してくるか、早急に準備をしてくれ」
『分かっています。既に8割が終了、すぐに完成します』
アマテラスの声を聞いた後、キセノは画像データを開く。
ついこの間も開いていたその写真、最近これを開く回数が増えている事にキセノはらしくも無く苦笑したくなる。
(ああ、俺は疲れているんだな……)
そこに映っているのは―――


 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー