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~INTERLUDE~

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~INTERLUDE~

 通信を切り、私は小さく息を吐いた。
 大凡の状況は把握している。まったく。いつもいつも面倒事に巻き込まれている男だ。
「仕方ない。世話を焼きますか」
 言って、通信機をポケットにしまう。
 どうせそのつもりで駆けつけたのだ。早いか遅いかの違いでしかない。
 そうと決まれば、行動は早いほうが良い。
 私は愛車に飛び乗り、超動技研に飛ばした。古い……旧暦時代のスポーツカー。デザインはもとより性能も良く、ライトユーザーからマニアまで、愛好者も多く存在したというモデルをリメイクしたものだと聞いている。
 かつてあの男が、私ではなくあの人に贈り、それをまた私が譲り受けたものだ。
 この車を駆るたびに、愛憎入り交じる感情が胸中を埋める。

 運転席から見る景色は、猛スピードで流れ行く。傍から見れば、あるいは暴走車両のように映ることだろう。
 だが危険なことなど何も無い。全て知覚している。慌てず焦らず、大急ぎの安全運転だ。
 町中を抜け、交通量の少ない山間の道を走り、やがて超動技研へ通じる道へ出た。
 程なく目的地に到着する。
 タイミングを図ったように正門が開かれ、警備員の敬礼に送られ、敷地内へと招かれた。


 かつてあの男は、私ではなくあの人を選んだ。私が大好きだったあの人を。
 ――今はもういないあの人を。
 壮馬が先へ先へと進むたびにあの人が見せた表情を、私は生涯忘れないだろう。
 悲しそうな、寂しそうな、困ったような、そしてちょっと嬉しそうな、あの柔和で儚げな微笑を。
 彼が戦い、傷付き、癒しを求め、やがてまた戦いに赴く。
 そして小さく手を振って送り出し、彼の背中が見えなくなった頃、あの人はそんな表情を浮かべていたものだ。
 彼らは、何度もそんなことを繰り返していた。
 まだ幼かった私は、淡い想いを胸に、そのやり取りをただ見ているだけしかできなかった。


 駐車場に停車させると、既に出迎えの女性所員が待っていた。
 見知った顔だ。かつて私がここに在籍していた頃、何度か言葉を交わしたこともある。
 その手には――いずれ私に着せるため、壮馬が用意しておいたものだろう――女性用のパイロットスーツが抱えられていた。
 挨拶もそこそこにスーツを受け取り、格納庫近くに設置されているロッカールームへと足を運んだ。
 そそくさと下着姿になり、その上から分厚い特殊繊維で作られたスーツを着込む。
 本当は下着も取り替えたいところだが、時間が惜しい。一分掛らずに着替えを済ませた。
 ファスナーを引き上げ、同時に気も引き締める。若干の窮屈さ息苦しさが、これから向かう戦場を想起させ、集中力を高める。
 片付けは同姓のよしみで所員に任せ、私は格納庫へと駆け出した。

 十三年前の大戦終結の間近、壮馬は当時の愛機と共に最後の戦いへと旅立った。
 あの頃は誰も、その後の別れなど考えていなかった。
 少しでも平和に近い世界が訪れる。そんな明るい未来だけを夢見、そしてそれは事実となった。
 世界各地で多少の混乱は残り、小さな戦いも頻発した。それでも確かに、平和に向けての一歩は踏み出せていた。
 けれどそれは、誰に対しても平等に平穏が訪れることを意味していたわけではなかった。
 無論、平穏を享受できなかった者も多い。けれどそれ以上の者が、恩恵を受けていた時代。
 ただ……そう、不幸にも平穏から弾き出された者たちも、ただ身近にそれが起こる可能性を意識していなかっただけだった。
 当事者である私たちは当然、そして発ってから二年の後、ようやく故郷の土を踏んだ三津木壮馬も、それを思い知ることになる。
 思い知って尚、彼は気丈に振舞った。
 壮馬は涙も見せず、一切の泣き言も漏らさなかった。全てを受け入れ、乗り越えた。
 その姿は、今でも忘れられない。
 泣きじゃくりながら語る私の頭を撫でた、あの手の温もりを。私に向けられたあの笑顔を。


 初めて操る機体。壮馬の駆るSTRを強化するための機体。
 シートに身を委ね、私はコックピットの仕様を確認する。――大丈夫、いける。
 コンソール上を撫でるように指を踊らせ、竜の鎧に息を吹き込む。力の高まりに呼応するように、コックピット内に次々と明かりが点ってゆく。
 出撃準備は完了し、私はコントロールレバーを握りしめた。


 あの日が私の契機。
 決意したのだ。あの人の遂げられなかったことを成す為に、三津木相馬の背を追いかけようと。
 幸か不幸か、私にはあの男について行ける資質があった。
 超動技研に押しかけ、必死で見失わないようもがいているうちに、それだけの力を得ることができた。
 いつしか壮馬と身も心も繋がったのも、彼が私を認めてくれたからだと自負している。
 一度は超動技研を離れた後も、それは変わらない。


 そして今、私はここにいる。
 彼を助ける為に。けれど、それだけではまだまだ遠い。
 いつか追い付き、彼から私にではなく、私から彼に笑顔を向ける日を目指して、私は飛ぶ。どこまでも。
 だから今は、こう叫ぶ。
 たった一歩分でも近づけたと信じて。

「星海沙彩。G-DASH、出撃します」





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