アカネイア王国第24代国王、ハーディンは、川にかかる大きな橋の上を歩いていた。
……大きな、馬に乗りながら。

「……まさか、こんなことになるとはな」

暗黒竜メディウスの復活に端を発する先の戦争。その、長く辛い戦争も、アリティアの英雄、
スターロード・マルスとその仲間たちによって終結し、世界は平和を取り戻し。

そして、ハーディンはニーナ姫と結婚し、幸せな新婚生活が始まる……筈であった。

「……全く、なんということだ……」

溜め息をつきながら、ハーディンは自らの支給品を見つめる。

一つは、馬。……しかも、見事な毛並みの白馬。これには見覚えがある。
先の戦争、グルニア攻略戦において、敵の総大将カミュが乗り回していた馬。
頑丈で、気立ては優しく、一日千里を走る、グルニア王国一の名馬である。
この狭い島の中で、疲れず素早く移動することを可能にする、当たりの品。

そして、もう一つは……。



「これでどうやって自らの身を守れというのだ……ッ!」

ハーディンは、白くて長い金属の筒を握りしめ、もう何度目かもわからぬ溜め息をついた。

アッサルト。ハーディンの手に握られたそれは、大陸からヴァレリアにもたらされた、最強の銃。
その威力は人の纏う鎧のみならず、ドラゴンのウロコすら貫くと言われる、殺人兵器である。
剣と魔法で戦う人間から見れば、無限大であるとしか思えない程の長大な射程、いかなる鎧も
紙の様に貫く火力。そして、弓やボウガンのとは比べ物にならない狙いの精密さ。
このロワイヤルで支給された武器の中で、間違いなく「当たり」の部類に入るものである。

……所有者が、その扱いを熟知してさえいれば、の話ではあるが。

「ええぃ、やたら重いわ、握りづらいわ、そのくせ刃やトゲの一つも付いておらぬわ……
 こんなものなら、壊れた槍のほうが、まだマシだな……」

あいにく、ハーディンに銃器の知識は無い。で、あるから、ハーディンにとってアッサルトは
「やたら重くて脆そうで、しかも殴るのには向いてなさそうな正真正銘の外れ武器」でしかなかった。

「これでは、迂闊に歩き回ることはできんな。……早めに、マルス王子たちを探したいのだが」

そう呟き、ハーディンは馬を走らせようとして……背後から、背筋の凍るような殺気を感じ――

振り返った。





「貴公は、この下らぬ戦に参加する意思はあるか?」

そう言って、ランスロット・ハミルトンは自らの持つ槍を突きつけながら眼前の赤い騎士に話しかけた。

茶色い髪のオールバックに、金の刺繍が施された、高い身分を思わせる赤い服。王者の風格を
備えたその男は、ハミルトンの問いにNoと、答える。

信用できない。ハミルトンは、何故だかは知らないけれど、心の奥底で、そう思った。

「そうか……、ならば良い。私の名はランスロット。ランスロット・ハミルトン」

しかし、態度には出さない。信用できないと思ったことに理由はないし、また、避けられそうな
戦いを、わざわざ自ら求めるほどに愚かでもないからだ。

「ところで、この戦には、私が良く知るものと、その名も知らぬものがいる。君も、きっと似た
ようなものだろう。……どうだ、情報交換と行かないか?」

だから、情報交換を申し出る。今後、分かれるにしても、同行するにしても、たとえ戦う事に
なったとて、彼の持つ情報は貰っておいた方がいい。そう思ってのことだ。

だが、話は意外な方へと流れていった。

「その槍……グラディウスか」

ハーディンが、そう呟いたからだ。


ハミルトンは、最初、自らの支給品に失望した。支給品の武器が、自らの、得意とする「剣」では
なかったからだ。

それは、「槍」と、何の効果を持つのかも分からぬ、ただの「球」だった。

しかし、その槍を実際に手にした瞬間、失望は瞬時に歓喜へと変わった。


             バトロワの主催者がくれた始めての支給品。

             それは宝槍グラディウスで、私は騎士でした。

       その槍は軽くてパワフルで、こんな素晴らしい支給品ををもらえる私は、

              きっと幸運な存在なのだと感じました。


宝槍グラディウス――かつて、大盗賊アドラがラーマン神殿より盗み出した、アカネイア王国の
三種の神器の一つ。素晴らしい威力を持ちながら、はがねの槍程度の重量しかない槍。

振るえば近接、投げれば遠隔と、遠近両用の武器である。英雄戦争において、「暗黒皇帝」
ハーディンが使用した武器。

――グラディウスの説明書には、そう書いてあった。

ランスロット・ハミルトンの知りうる限り、暗黒なんちゃらかんちゃらというものに、碌なものは無い。
暗黒騎士団しかり、暗黒神しかり。……暗黒皇帝とは良く知らないが、

――やはり、碌な者ではあるまいな……

そう、思ったのも無理はあるまい。


「……そうだ。この武器に付属した説明書によると、そういう名らしいな……」

王家の宝槍ともなれば、その名はともかく、その姿は世間一般に知られることは無いだろう。
そういった秘宝家宝の類は、大抵王宮の倉庫に厳重に保管されているに決まっているからだ。
触れられる者は、倉庫番やら鍛冶師やらを除けば……王族か、その側近位の者。

それなのに、眼前のこの男は、一目見ただけでその名を言い当てた。ほんの、一瞬で。
しかも、その風貌、物腰、身に着けている衣服などは、まるで本物の皇帝のようである。

「……ところで、貴行の名は、なんと言う?教えてはくれないか」

――ハミルトンは、全身で警戒しながら槍を構える。最悪の、その名を警戒して。
その胸元では、紫の球がキラリと光っていた。



――殺気……襲ってくるつもり、なのか!?

一方のハーディンも、常人ではない。草原の狼との二つ名で呼ばれ、先の戦争ではアカネイア大陸を
マルス王子達と共に縦横無尽に駆け巡った、野生の王者である。

さらに、本人は未だ気が付いては居ないが、つい先程まで闇のオーブで操られていた後遺症もあって、
殺気邪気の類に、人一倍敏感になっていたのだ。


ハーディンに悪気は無い。ただ、恋のライバルの形見の品を見て、思わず懐かしくなっただけ。
ハミルトンに悪気は無い。ただ、警戒すべきを判断した対象を、警戒しただけ。

それだけ、であった。

【C-4/橋/1日目・朝】

【ハーディン@紋章の謎】
[状態]:闇のオーブの後遺症で少々精神不安定
[装備]:アッサルト&弾薬10発分@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式 白馬@紋章の謎
[思考]1:眼前の白い騎士を警戒、出来るなら戦いは避けたい
     2:とりあえず槍か剣を調達
     3:降りかかる火の粉は振り払う。
     4:マルス王子達との合流
     5:ゲームの破壊、脱出。
[備考]:第2部20章暗黒皇帝直前よりの参戦。
      闇のオーブを奪われたので暗黒皇帝状態ではありませんが、
      オーブの後遺症で少々精神不安定な状態です。
      この状態で、惨劇に出会ったり闇のオーブに接触したりすれば、
      正気を保っていられる保障はありません。
      また、操られていた間の記憶は「長い夢を見ていたよう」におぼろげな
      ものでしかありません。但し、深く思い出そうとすれば思い出せます。

【ランスロット・ハミルトン@タクティクスオウガ】
[状態]:闇のオーブの効力で軽い人間不信&殺気ムンムン
[装備]:グラディウス@紋章の謎 闇のオーブ@紋章の謎
[道具]:支給品一式
[思考]1:眼前の赤い騎士を警戒、必要なら交戦も辞さず
     2:降りかかる火の粉は振り払う
     3:ゲームの破壊、脱出
[備考]:参戦時期、通過ルートは次回以降の書き手様に任せます。
      闇のオーブの効果は、ハミルトンの精神力によってかなり薄まっています。

024 勇者の決意 投下順 026 一寸先は闇
024 勇者の決意 時系列順 026 一寸先は闇
ハーディン 042 闇の囁き
ランスロット・ハミルトン 042 闇の囁き
最終更新:2009年04月17日 08:22