足音が近づいてくる。私は音を立てないようにゆっくりと、この部屋にある唯一の窓に近寄った。
 開いておいたところから顔を出す。下には大地があるだけだ。
 足場になりそうな出っ張りもなく、私はここから脱出することは不可能であると悟った。
「…………」
 焦りを抑えて袋の中身を見る。そこにあるのは書物と宝珠。とても武器にはなりえそうもないものだ。
 状況は絶望的だった。
「……一か八か」
 私は暗い面持ちでため息をつくと、ドアのほうに身体を向けて姿勢を正した。そのまま動かず木製の扉をじっと見つめる。
 音はもう、すぐそこだ。きっとこの部屋を開けてくるだろう。それまでに、できる限り対応を考えておく。
 果たしてドアはゆっくりと開いていく。私はその人物を睨むように目を細めた。
「…………」
 男はそのまま黙ってこちらを見つめている。表情一つ動かさない。長い髪が特徴だった。
 背中を冷や汗が伝うのを感じた。心臓が壊れそうなほど鼓動していた。あれほど覚悟していたのに、こうしていざ対峙すると足が動かなかった。
「…………」
 長髪の男はなおも無言。その目は私を射抜いたままだ。動けない。
 動いても、きっとこの男は私をたやすく捕まえることができる。そう確信できた。
 その目はふつうの人間のものじゃない。幾多の修羅場を潜り抜けてきた戦士の目。
 いったいどんな生活をしてきたらこんな目をできるんだろうか。
「どうぞ、お好きにしてください。私は抵抗する気はありませんわ」
 そこで初めて男の表情に変化が起きた。片目を細めたのだ。
「……小娘」
 一歩、男は進み出た。ただその一歩で、彼は手にしている剣で私の首を刎ねることができる範囲まで来ることができた。
 血が凍りそうになった。首筋に焼けるように熱い刃をあてがわれた私は、頭が真っ白になりかけた。
「質問がある」
「……なんですの?」
「お前は人殺しになるつもりはあるか?」
「……毛頭ありませんわ。それよりも、あなたはどうなんですの?」
 奇妙な光景に私はすこしきょとんとした。男が口元を緩め、微かだけれども笑ったのだ。それが不思議に思えた。
「安心しろ。俺は女や子供を斬りつけるつもりはない」
 男はそう言って剣を収めた。緊張から解かれて声にして安堵の息をついたが、慌てて気を引き締める。私は男の言葉を待った。
 しばらくして、思案顔をしていた男がおもむろに口を開いた。
「……まずはこの城の中を一通り捜索する。その気があるならついてこい。
 話は歩きながらでもできるだろう。さらに詳しいことは、捜索終了後にどこかの部屋でするとしよう」
 それだけさっさと言うと、男は私に背を向けてドアを開けた。あまりの展開の早さに面食らいながらも、私はなんとか声をかける。

「ま、待って……くださいっ。まだ名前も聞いていませんわ。教えてもらえませんの?」
 男が答える間に荷物を纏める。整理が終わって袋を持ち上げたところで、それを待っていたかのように男が答えた。
ナバールだ。お前は?」
ベルフラウ、ですわ」
 もう部屋の外に出てしまっているナバールを追いかけながら、私は名乗った。




【C-6/城内/一日目・朝】

【ベルフラウ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
     ヒーリングプラス
     竜玉石
[思考]1:ナバールと行動
    2:知人と合流したい
    3:ゲームから脱出したい

【ナバール@紋章の謎】
[状態]:健康
[装備]:火竜の剣
[道具]:支給品一式(アイテム不明)
[思考]1:城内の捜索、その後ベルフラウと詳しい話をする
    2:どうにかして状況を打開したい

013 作者さんタイトル入れて 投下順 015 魔王と見習い
013 作者さんタイトル入れて 時事系順 015 魔王と見習い
ベルフラウ 037 ある一室での話~子守り剣士と気高き幼女~
ナバール 037 ある一室での話~子守り剣士と気高き幼女~
最終更新:2009年04月17日 01:18