燭台の火が照らすのみの薄暗い廊下を、二人の影がゆっくりと進んでいく。
後の影は、前の影との間隔を広げたり縮めたりを繰り返しながらついていく
慌てず、油断せず、なるべく音を立てぬように……
(さすがにこうも静かだと、不気味ですわね…それにしてもナバールでしたかしら?
最初は襲われる事を覚悟して身構えまえたけど、話してみた感じ意外と良い方かもしれませんわね。
ファルゼンとウィゼルを足して二で割った感じかしら…?)
そんなことを考えていると、また間隔が空く。軽く溜め息を吐き再び縮めた。

廊下の突き当たりにあるドアの前で、ナバールは足を止めた。すぐ後ろでベルフラウも立ち止まる。
「どうし…」
声をかけようとした彼女の口に手を当て、黙ってろと小声で制す。
その事で不満そうに頬を膨らます彼女を無視して、ドアに耳を近づける。
(物音はせず、人の気配もしない…大丈夫か。)
危険がないことをわかっていても、慎重さを欠いてはいけない。ゆっくりとドアを開け、
ベルフラウに中に入るよう促しながら自身も部屋に入り、ドアを閉めた。

その部屋は書斎だった。隅の本棚にはぎっしりと本が並んでおり、入り口側の壁に沿うように
机と椅子も設置されている。小さな机の上には数冊の本が積まれていて、数本のペンとカンテラと共に机を陣取っていた。
ベルフラウを椅子に座らせると、壁に寄りかかった。彼女の顔を見るとまだ不満そうだった。
ナバールはその視線から少し居心地悪そうに目を逸らせた。
(まったく…少しは言葉で謝ってくださってもいいでしょうに…)
そう心の中で文句を言いながら、周りを見渡す。
「ここ、書斎のようですわね。どうしてこんなところに入ったんですの?」
「……この部屋にはドアと窓が一つずつで、通ってきた廊下はそれほど広くはなかった。
ここは飛び降りて脱出するのには問題ない高さだ、いざという時にはそこから出られるだろう。これから情報交換等するのに適している。」
すると突然ナバールが机に近づき、一冊立てかけてあった本とペンを手に取った。表紙には日記帳と書かれている。
ペンを走らせた後、その内容を見せる。

『もう一つの目的はこれだ。筆談でしかできない会話をする時やメモを残すにはこういった物が必要だ。
まあ紙とペンさえあればどこでもよかったが、まだお互いの事を話し合えてなく
支給品や目的を把握しきれていない状態で敵か見方かわからん奴等に立て続けに会っても行動し辛くなる。
そこで紙とペンがありそうで身を潜めやすい場所…書斎に目をつけた。』

内容を見て、少し間を置いてベルフラウが口を開いた。
「貴方がここに来た理由はわかりましたわ。とりあえず、今は情報交換と
これからの目的を固めた方が良さそうですわね。」
ペンと日記帳をしまい、「ああ」とナバールは答えた。

「つまり、あのディエルゴという名の邪神を倒し、お前達の島の平穏を取り戻したばかりのところに呼ばれ、
しかも倒したはずの邪神がこの殺し合いに関与していると…。」
邪神という呼び方に違和感を覚えるが、ベルフラウは頷く。
リィンバウムと四界の存在以外の世界の住人にはエルゴの知識はなく、話を聞くと神に近いらしい。
神と言われても自分には馴染みが深くないし、思い浮かぶのは鬼妖界シルターンの鬼神や龍神ぐらいだ。
「あの時。確かに先生と私達で倒しましたわ。核識の座も崩壊した筈ですのに…。」
俯いたまま、二人の間に沈黙が漂う。情報が少なすぎる上、自分でも信じられない事ばかりだ。
「……話が進まん以上、この事についてこれ以上考えるのは無駄だ。今は自分の身の安全と先の方針を考える
事が先決だろう…。」
そう言うと、肩に下げていた支給品の袋を下ろし、参加者名簿を取り出す。
「小娘…いやベルフラウ、この中にいる自分の知り合いと、この殺し合いに乗りそうなやつを教えろ。」
小娘呼ばわり(訂正したが)かつ命令口調…むっとくるものがあったが、今はそんなことにいちいち
腹を立てている場合ではないと思い、順々に教えていく。
「私の知っている人はこの五人ですわ。まずアティ先生は私の家庭教師で元軍人。でも性格はとても優しくて
戦いは絶対好まない、むしろ相手と話し合って解決することを考える人ですわ…」
一通り紹介した後に、一息ついてまた続ける。
「この五人の中でこんなことに乗りそうなのはビジュぐらいですわね。あいつなら人を利用して自分だけ
生き残ろうとするに決まってますわ。…まあ私の知る限りでは、彼は私達がディエルゴと戦う前に死んだ筈ですけれど…。
さ、次は貴方の番ですわよ?」
そう言ってベルフラウはナバールも話すように促す。彼はまた「ああ。」と短く応答して語りだした。
ナバールの話は簡潔であっさりしていた。知り合いの殆どが共に戦った仲間であり、こんなゲームに乗るような
人間ではないこと。そしてお人よしばかりの為、誰かと仲間を組んでいるか、最悪知らずに殺人者を連れている可能性があるということ。
(そういう事を考えると、先生ももしかしたら…?)
また不安がよぎるが、すぐに振り払う。こういうことは考えないようにしよう…。

一通り人物の情報が交換できたので、次は自分達の能力と支給品の確認に移る。
「ベルフラウ、武器は何が扱える?」
「一応弓は一通り扱えますわ。あと銃も多少は心得がありますし、召喚術も…これはサモナイト石と言う
特殊な宝石が必要ですけれど…。」
「そうか…。次は互いの支給品の確認だ。恐らくこのゲームでは支給品で勝負が決まることもあるだろう。
まずお前の方から見せてみろ。」
「また私からですの?…まあいいですわ。」
先に散策される事に不満を覚えるが、素直に自分の支給品…本と玉を取り出す。支給品が本と玉である事は
わかっていたが、説明書などを見る前にナバールが近づいてきた為、まだどういったものなのか知らない。
(この本は魔道書のようだな。……内容から察するにどうやら回復魔法だな。こっちの玉は竜玉石というのか。
…ドラゴンとの交信が可能……ん、ドラゴン?)
ふと共に戦った少女の姿が頭をよぎる。神竜王ナーガの娘チキ――竜化が可能な彼女とも交信することが可能なのだろうか…?
「どうかしましたの?」
竜玉石を手に取ったまま動かないナバールの顔を不思議そうに覗き込む。
「いや、なんでもない…。」
ちらっと壁に立てかけた火竜の剣に目を向ける。
「俺の支給品はあの剣だ。武器に剣がきたことは正直ラッキーだった。そしてもうひとつなんだが…」
顔をしかめながら自分の袋を開き、ごそごそと探っている。
はずれでも引いたのだろうか…そうベルフラウが思いながら見守る中取り出されたのは……

カラフルにラッピングされた、なんとも可愛らしい袋であった――

袋とそれを所持している人物とのギャップに暫し唖然としたが、すぐに正気に戻る。
「……なんですの?そのとっても可愛い袋は…?」
「……開けてみろ」
手渡された袋をゆっくりと開けてみると、甘い香りが辺りに広がった。
「あら、キャンディじゃありませんの。それもたくさん…色んな種類がありますわ。」
「ああ…どうやらそれが俺のもう一つの支給品らしい。……まったく菓子のどこが支給品なのやら…。」
溜め息を吐くナバールの横で、ベルフラウがまるでお菓子に喜ぶ子供のように(そのままだが)微笑みながら
キャンディを広げていく。
「そうかしら?このキャンディいくつか私見たことありますけど、魔力の供給に便利なんですのよ?
口ぶりからして、貴方の世界ではそんなことはないようですけれど…。」
おかしな世界だなと軽く流して腰を上げ、立てかけた剣を手に取る。
「その飴はお前にくれてやる。魔力回復なら俺には無縁だ、接近戦専門なんでな。その代わり…」
床に置かれた竜玉石を拾い上げ
「この玉は俺が貰う。ドラゴンに関して少し心当たりがあるんでな。後は…」
「ちょっと待ってくださいな!」
「…なんだ?」
声を張り上げるベルフラウを、額に皺を寄せながら睨む。
「さっきから一方的にお決めになって、少しは私の意見も聞いてくれたらどうなんですの?!」
顔を紅潮させて、今にも泣き出しそうな顔だ。やれやれと、何度目かわからない溜め息を吐く。
「……ああ、少し気が急いていたようだ。……悪かったな。」
言いにくそうな顔をしながらようやく口で謝った彼に少し満足して、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「……わかってくださったのなら、もういいですわ…。」

暫しの間の後、落ち着いたベルフラウが口を開く。
「その玉…竜玉石は貴方にお渡ししますわ。どの道私には役に立てる方法が見当たりませんもの。
それとこのキャンディの方も有り難く受け取らせていただきます。それから…私と一緒に、先生を探してくださらないかしら?」
先生を探して欲しい――その言葉に一番想いが込められていた。恐らく彼女にとって、アティ先生という女性の存在が
とても強く、彼女の支えにもなっているのだろう。
(…この先、自分達の見知った仲間に会えるとは限らんが、主催者に対抗しようとするやつらとは出会うだろう。
そしてそういった人間は間違いなく仲間を作る。そいつらを当たればもしかしたら…)
「…わかった。どうやら大方の目標は決まったな。まずはそのアティという女を捜すとしよう。
主催者を倒した人間なら、そう簡単に殺されてはいないだろうからな。」
そうと決まれば早速出発だ。幸い結構騒いだにも関わらず人は誰もやって来なかった。
探索もしたが、多分この城には自分達以外に誰もいないのだろう。
荷物をまとめ、二人はその部屋を後にした。

(…さっきは少し興奮しすぎてしまいましたわね、ちょっと大人気なかったかも…。
勝手に物事を決める方ですけれど、話はちゃんと聞いてくれますし、私は良い方に出会えたのかもしれませんわね。
……先生、私は絶対生き残ってみせますわ。ソノラもアズリアも、どうか死なないで…。イスラ…記憶を失っているはずですけれど、
大丈夫かしら?貴方も無事でいてほしいですけれど…。)
彼女達の行く先にあるのは希望に満ちた出会いか、それとも絶望の末の死か…
仲間への様々な想いを胸に秘めながら、少女は戦士の後を追う。


【C-6/城内/一日目・昼】

【ベルフラウ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、筆記用具
    ヒーリングプラス @タクティクスオウガ
    キャンディ詰め合わせ(袋つき)@サモンナイトシリーズ
    (イチゴキャンディ×2、メロンキャンディ×2、パインキャンディ×1
     モカキャンディ×1、ミルクキャンディ×1、カレーキャンディ×1) 
[思考]1:ナバールと共にアティの捜索
   2:知人やナバールの仲間と合流したい
   3:ゲームから脱出したい
[備考]イスラルートED後からの参戦。その為イスラの本当の願いを知っており、
   彼が記憶喪失だと思っています。

【ナバール@紋章の謎】
[状態]:健康
[装備]:火竜の剣@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式、筆記用具
    竜玉石@タクティクスオウガ
[思考]1:ベルフラウと共に対主催者を探す(アティ優先)
   2:竜玉石でチキとの交信を試みる
   3:この状況から打破したい

イチゴキャンディ@サモンナイトシリーズ
MPを15回復 イチゴ味のキャンディ
メロンキャンディ@サモンナイトシリーズ
MPを30回復 メロン味のキャンディ
パインキャンディ@サモンナイトエクステーゼ
MPを80回復 パイン味のキャンディ
モカキャンディ@サモンナイトエクステーゼ
HPを100、MPを50回復 モカ味の棒つきキャンディ
ミルクキャンディ@サモンナイトエクステーゼ
HPを50、MPを100回復 ミルク味の棒つきキャンディ
カレーキャンディ@サモンナイトエクステーゼ
HPとMPを200回復 …カレー味のキャンディ?

036 邪悪 投下順 038 進むは時間、止まるは…
036 邪悪 時系列順 039 秘密の痛み分け
014 紅の剣士 ベルフラウ 059 紅の戦い
014 紅の剣士 ナバール 059 紅の戦い
最終更新:2011年04月02日 21:49