草木も眠る、丑三つ時。雲が沸き起こり、月や星の光を隠す。
闇の中を、影が進む。闇夜の鴉。誰にも見られず、気づかれず。音を立てず、臭いも立てず、百鬼夜行が進む。
百鬼夜行の主ならば、実はこの冬木市にいるが―――この百鬼の長は、それではない。
今、仮に読者諸君に霊的な眼を授け、その様を見せよう。直視すれば眼が潰れ、肝が潰れる、恐ろしい有様を。
悍ましき影絵芝居、光なき夜のワヤン・クリを。
眼が一つの、大きな耳の、耳がない、先の尖った耳を持つ、鼻先が上へ突き出た、上半身が異常に大きな、首が細長い、縮れた髪の、全身が毛に覆われた、
耳が垂れ下がり額の大きな、乳房と腹が垂れ下がった、唇が垂れ下がった、唇が顎にくっついた、顔が長い、膝が長い、背が低い、背が高い、せむしの、こびとの、
恐ろしい黒色の、いびつな顔の、銅色の眼の醜悪な顔の、怒りっぽい、喧嘩を好む、鉄の大きな投槍や斧などの凶器を持つ、猪顔、鹿顔、虎顔、水牛顔、山犬顔、
象足、駱駝足、馬足、胸に顔がめり込んだ、一本腕の、一本足の、騾馬耳、馬耳、牛耳、象耳、獅子耳、大鼻、曲鼻、無鼻、象鼻、額まで鼻が盛り上がった、
大足、牛足、足に鶏冠めいた毛の房がある、大頭、大胸、大腹、大眼、長舌、山羊顔、象顔、牛顔、馬顔、駱駝顔、驢馬顔、このような羅刹たちがいた。
羅刹(ラークシャサ)。インドの悪鬼。闇夜に疾行し、四辻に立ち、血肉を飲食し、人畜を害するものども。
ブータ、プレータ、ピシャーチャ、クンバーンダ、プータナー、ダーキニー、ヴェーターラ。低級なものは亡霊と変わらぬが、高級なものは神々をも脅かす。
これらはみな、幻影だ。闇の中、影の中を彷徨する妖怪変化、魑魅魍魎。
街中に散らばり、路地裏を這い回り、ゴミ箱を漁り、下水道をのたくり、ドブ川を進み、低空を飛行し、電線を伝い、家屋に入り、跳梁跋扈する。
彼らが探すのは、英霊たち。その戦闘の痕跡。そして、小さな機械。
鬼の長、羅刹の王、アーチャー『
メーガナーダ』は―――彼らから遠く離れた一室で坐禅し、瞑想し、三昧に入っている。
マスターが魔力にやや乏しいため、部屋のコンセントから多少の電力を吸う必要はあるが……この程度の街ならば、夜の間なら幻で覆える。
この程度の街ひとつ、その気になれば皆殺しに出来る。それでもよいが、そうも行くまい。天敵とも言える
カルキ、それに……先程見つけたが、
ラクシュマナがいる。
シヴァより授かり、己がものとした「闇(ターマシー)の魔術」。
カルキならともかく、
ラクシュマナには見つかるまい。
見つけたところで、数が多すぎ、範囲が広すぎる。一網打尽にしようとすれば、術者を殺すか、街中を壊し尽くさねばなるまい。
この夜の間にも、街ではいくつかの戦があった。
羅刹女の如き女ども。狂信者の男。有翼の天人。黄色い風。赤い戦神。狗と馬を連れた王。
カルキ、
ラクシュマナ。それぞれの主人ども。闇の中を這い回る羅刹らを介して、羅刹王は多くの情報を得ていた。
手強そうなものも多いが、容易く殺せそうなものもいる。見た、知った、覚えた。
小さな機械は、すぐに見つかった。それも、いくつか。やはり眼や耳がついているが、幻力によって惑わす事はできる。
羅刹らに回収させ、速やかに持ち帰らせる。おれの失態を責めたマスターも、夢の中でこれらの成果を知ることができよう。
あとは、これを用いておる奴を見つけねば。
川の西、街の南。虱潰しに闇の中を這い回ってきた幻影の羅刹たちが、妖の気配を感じ取る。
人ではない。神ではない。自分たちと似ている。しかし……これは、闇ではなく、光。羅刹の嫌う光のにおい。
どうにせよ、サーヴァントがいることに間違いない。おそらく、そのマスターも。
羅刹たちは躊躇いつつ、その気配の方へ―――館へと近づいていく。
【B-9/大学教職員宿舎/1日目 午前2時】
【アーチャー(
メーガナーダ)@ラーマーヤナ】
[状態]健康
[装備]弓矢(矢は宝具)
[道具]同上
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲得する。聖杯そのものより、獲得の過程で何かが掴み取れることを期待する。手段は問わない。
1.ライダー(
カルキ)や
ラクシュマナは泳がせておく。襲われれば逃げる。遠くから戦闘を観察できればしたいところ。
2.マイクロマシン(アポリオン)の作成者を突き止める。
3.
デュフォーがマスターの一人ではないかとのノヴァの意見に同意。観察対象に加える。
[備考]
※ライダー(
カルキ)の真名を解明、ステータスシートを確認しました。
※基本的に霊体化しています。幻術により姿を隠したまま自在に行動できますが、攻撃時には一瞬だけ姿を現してしまうようです。
※幻術で別の姿に変化することも、幻影を呼び出して操ることも自由自在。ただマスターが魔力に乏しいため、大規模な術には電力を必要とします。
※街中に羅刹の群れの幻影を放ち、「アポリオン」数体を確保。マスターであるノヴァのもとへ送りました。
※羅刹を通じて、夜間に戦闘した主従をいくつか確認しました。
◇
【もしもし、聴こえますか?】
【よく聴こえますし、観えますぞ。先輩】
【確かに百年ほど先輩なのですけど。れんげちゃんとでも呼びやがりなさいなのです、遍照金剛さん】
同時刻。同じく坐禅を組む者たちが、念話で会話している。互いに英霊、『キャスター』のクラスであり、宗教を同じくする僧侶だ。
サーヴァントたちの気配が感じ取れるようになってすぐ、両者は互いの存在に気づいた。
マスターたちは就寝しているが、夢の中で念話を伝えることはできよう。
対話する両者には、互いの姿がありありと見える。
呼びかけた方は、プラチナブロンドの長髪の幼女。金色の袈裟と小豆色の法衣を、少しぶかぶか気味に羽織っている。
こんななりだが、霊格は高い。彼女こそはチベット密教ニンマ派の開祖『
パドマサンバヴァ(蓮華生)』。グル・リンポチェ(如意宝珠師)とも。
チベットの王ティソン・デツェンによって北西インドより招かれ、西暦775年頃、チベット最初の仏教僧院(ゴンパ)「サムイェー寺」を建立したことでも名高い。
(7世紀にはジョカン寺やラモツェ寺、タントゥク寺などが建立されているが、仏像を祀る仏堂であって、僧侶が修行する僧院ではなかったという)
応えた方は、一見二十代の剃髪した青年僧。宝亀五年(西暦774年)に讃岐国に生まれた、弘法大師『空海』その人。
彼については贅言を要すまい。日本に真言密教をもたらした男であり、真言宗の開祖だ。
【……で、気づいていますね。アレ】
【はて、アレとは】
【いろいろです。白馬の騎士とか微小な機械とか、龍王とか羅刹とか。なんか制限されてて、全部は観えませんけど】
【こちらもです。分霊とはいえ、蓮華生菩薩や私に制限をかけるとはね】
この空海は、分霊とはいえ「生きている」。
史実としては荼毘に付されたはずだが、10世紀以後は「肉身を保って入定状態にある」、と信じられている。
否、この空海は―――海の彼方のウェールズの大魔術師マーリンの如く、生きながらに世界の外側へ、仏神らにより「遷された」存在だ。
パドマサンバヴァもまた、死んでも死なぬ身。こちらは遷された者ではなく、自ら世界の外側に赴き、世界を見守る者となっていた。
【我々でも逆らえぬものはいくつもあります。それこそ、正法(ダルマ)に逆らう事は出来ません】
【然らば、この聖杯戦争を主催しておる存在は、何処の如来でしょうな。仏が地獄を創るとは、ちと捨て置けません】
にこやかにそう語る空海に、
パドマサンバヴァは笑って小首を傾げる。
【おや、あなたらしくもない。全ては空、幻、因縁生起。実体なきものです。これもなにかの仏縁であり、仏の思し召しでしょう。勘ですが】
【六神通を保ち、悟りを開かれた方の直感ならば、そうであろうとしか。自分もそう思いますが、止めたいという気持ちも嘘ではない】
【たとえマスターの影響であっても、それはあなたのカルマであり、仏縁です。やりたくばおやりなさいなのです】
しばしの沈黙。互いの気心は知れた。これも仏縁。このような場でなくば、百年でも語り合いたい相手ではあるが。
【……さておき、どうなさる。白馬の騎士を討つおつもりか。それとも龍王や羅刹を退治なさるか】
【今のところ、どちらも放っておこうかと。龍王や羅刹を討つのは比較的容易そうですが、だって、アレでしょ。
まして白馬の騎士は、アレじゃないですか。流石に私でも手に余る、と思うのです】
【まあ、そうですな。聖杯戦争を止めるには、白馬の騎士をどうにかするのが一番手っ取り早いとは思うのですが】
【主催者は、白馬の騎士をどうにかできてます。つまり、アレによってさえ倒せないとしたら?】
【方法を探ります。なにせ、先が見えないことは久しぶりなもので。愉しみながらやっていますよ】
二人の僧侶は情報を共有し、互いに敵対せぬことを約束する。協力関係になれるかどうかは、状況次第だ。
――――対話の中、
パドマサンバヴァは、ふと呟く。蓮華の開くように咲(わら)いながら。
【あの羅刹には、仏縁があります。そこに緒(いとぐち)があるやも】
【ほう。魔を討滅するより、済度したいと仰るので】
【それが仏門の徒のつとめでしょう】
【???/1日目 午前2時】
【キャスター(
パドマサンバヴァ)@8世紀後期チベット】
[状態]健康
[装備]金剛杵&錫杖
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:?
1.とりあえず戦闘は避ける。ふりかかる火の粉は払う。
※六神通によって市内の様々なことを見抜いています。
※キャスター(空海)とは互いに敵対しないと約束しました。
※羅刹王(
メーガナーダ)に仏縁があることを見抜きました。
【キャスター(空海)@平安初期日本】
[状態]健康
[装備]飛行三鈷杵
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.まずは白馬の騎士(
カルキ)をどうにかする方法を探る。
※千里眼によって市内の様々なことを見抜いています。
※キャスター(
パドマサンバヴァ)とは互いに敵対しないと約束しました。
◇
冬木市上空。痩せた半裸の黒人の男が、タブレット端末を操作しながら。
YOメン。消えぬ桂の春団治、D.J.ウォッチャーです。おひさ渋谷凛、様子見に来たよ。
まったくもー毎日暑くて暑くて、太陽が十個出てるか日本がメキシコ化してんじゃあねーの?って感じ。真っ黒に日焼けしちゃうわほんとに。
いや、今はまだゴールデン・ウィークですけどもね。(支離滅裂な思考・発言)
そんで、えーと。(ポチポチ)おお、だいぶ投下があるじゃないの。まだ脱落者は出てないみたいね。
これで本編未登場は……主催者側を除けば、あと数組ってとこか。鯖だけ出て鱒が出てないのもあるけど。
しかしまあ、この手の企画はなんとも話が進まねえな。こんなシケた街、気軽に爆発炎上させちまってもいいし、愚かモブを暴れさせてもいいのにさあ。
オレ様が動かせって? いやあ、あっちでも忙しいんだよね……。気軽に僕らを動かしてご覧?
あ、さて。メタい与太話ばかりもなんですから、景気づけに街の一角にゾンビ・ゾーンを作ってみよう。リーナには内緒ね。
英霊を誘き寄せる餌場になったりしなかったりするかもしんないじゃない。
カルキとか来たら? そりゃその時よ。
今回のサブタイは、The Prodigyの曲からでした。夏場はほんと、太陽は敵!夜が好き!って感じさ。
ほんじゃ諸君、台風に気をつけてね! シーユーアゲーン!
【B-9/ハイアットホテル/1日目 午前2時】
【ウォッチャー(バロン・サムディ)@ヴードゥー教】
[状態]健 of the 康
[装備]ステッキ&ピストル
[道具]タブレット端末(なんか執筆中)
[思考・状況]
基本行動方針:気の向くままにやりたい放題。まあ一応マスターは護ってやるよ。
1.エピロワの次の展開どうしよっかなー。
2.オレはノヴァ&
メーガナーダ組を支援してもいいし、しなくてもいい。どっちかと言えば守護りたい。
3.ロキ野郎のおっぱいを揉みたい。
4.討伐令は無視する。バトルがあったら観察してみる。
[備考]
※この聖杯戦争に集った全てのマスターと、そのサーヴァントの真名を知っています。相手が死者なら、その全生涯を。
※聖杯戦争中にどこでどう動き、何を喋ったかまでは、意識して「観測眼」のスキルを発動しないとわかりません。
※スキル「観測眼」は、過去・現在・未来・メタ視点について観測できます。観測者効果で事象が変化する危険もあります。
※観測した事象を誰かに伝えるか否かはご機嫌次第です。あなたはラム酒と葉巻とハッパを捧げて機嫌を取りなさい!
※意識して姿を現そうとしない限り、基本的に目に見えません。ロキの前にはわざと姿を現し、M字開脚をしてみせました。
※下半身は丸出しです。
※街のどこかにゾンビの群れを召喚してみました。李衣菜には認識出来ません。
※ヴォーパルの剣が効くかどうかは不明。キャロルさんも「剣が何かなんて説明できない」つってるしさ。蜘蛛野郎やロキ野郎には効くんじゃない?
最終更新:2018年07月30日 20:28