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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

雨の日に〜1−5

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1-5












 煙草が不味い。

 白煙を気怠そうに吐き出しながら、加藤はベンチに寝そべっていた。

 昨日捕まえ損なった男の素性を探ろうと商店街に設置されている監視カメラの映像を入手し、鑑識で男の顔の解析を依頼したのだが、なかなか作業が進まない様なのだ。

 どこだったかヨーロッパの方にとんでもなく高性能な映像解析の機械があるらしいが、日本の警察も天下りや変な宴会なんぞに税金を注ぐくらいなら、安全大国日本の威信回復の為にそれぐらい精度の良い機械を導入して欲しいものだ。

 そう思いながらぐっと煙草の煙を肺にしみ込ませ、ふうっと吐き出す。

「くそっ、不味くて堪らんっ」

 分煙ブームのこの世の中、喫煙者の肩身はだんだんと狭くなっていた。数年前までは普通に自分の机で吸えた煙草も、今では立派に建物の外のごく限られたスペースでしか吸う事が出来ない。

 最近煙草が不味いのは、自分の机でゆっくり考え事をしながら吸えない所為だと思い込んでいる加藤は、煙草を灰皿に突っ込みベンチに座り直した。

 うだうだ考えてても仕方ない、刑事は歩いて歩いて歩くしかないんだ。

「おっし!」

 気合いを入れ、勢い良くベンチから立ち上がると大股で歩き出した。

 昨日の今日だ、あの男を見かけた人が商店街にいるかも知れない。

 加藤は無意識のうちに口元が綻びていた。すれ違った婦人警官がにやけている加藤を見て驚いた事にも気付かなかった。










 一体何人に声を掛けただろう。

 声を掛けては嫌がられ変な顔をされる。挙げ句の果てには警察手帳を見せても疑いの眼差しだ。

「俺の何が悪いんだ!? 警察手帳も効果無いんじゃ私服の刑事はどうやって捜査しろってんだよ、冗談じゃない……首から『私は私服の刑事です、みなさん警戒しないでね』って札でも下げてろってのかよっ!」

 ダン!

 と水の入ったコップをカウンターに乱暴に置いた加藤は、またガブリエルで川岸夫妻に向かって不機嫌を吐き出していた。

「仕方ないわよ、最近じゃ警官だって言って制服着てても偽物、なんて事もあるし。ましてや清ちゃんの顔、怖いからねえ……」

 笑いながらコーヒーを加藤の前に置き、佐知子は言った。ここ最近加藤はここで愚痴ばかり言っている。生来明るい加藤なだけに、今回はかなり参っているのが川岸夫妻にも分かる。おかげでどう励ましていいやら計り兼ねているのだ。

 カウンターに頬をすり寄せる様に項垂れる加藤が痛ましい。

「はあ……俺、マル暴にでも部署変更届け出そうかな」

「おいおい、清ちゃんそんなに落ち込むなよ。きっとそのうち何か手掛かりが見つかるよ」

 川岸の言葉も耳に入らない様子で、加藤はコーヒーの香りを嗅ぎながらため息を吐いた。

 はあーーー

 とその時、加藤のお尻の辺りがブルブルと震えた。

 携帯が鳴ったのだ。

 慌ててお尻のポケットから大きな手で小さな携帯を取り出すと、嬉しそうな顔で通話ボタンを押した。

「もしもしーーーああ……よしっ! すぐ行く。五分で行くから待ってろっ!」

 加藤は立ち上がり電話に口づけをすると、珍しくカウンターに千円札を置き店を飛び出した。

「また来ますっ!」

 ガラン ガラン!

 と、取れそうな程の勢いでドアを開けると、加藤の姿はもう見えなくなっていた。

「勘定払う清ちゃんなんて、気味が悪いわ……」

 呆気に取られていた佐知子が呟いた。

「良く分からんが、何だか元気になったみたいだし、いいじゃないか」

 川岸は口を付けてもらえなかったコーヒーを自分で飲みながら、佐知子に微笑んだ。












 鑑識課科学捜査研究所の広渡(ひろわたり)は、加藤の暑苦しい視線を後頭部に感じながら解析の終わった画像をパソコンの画面に再生していた。

 広渡は加藤とは大学の同級生で、大学卒業後採用試験を受けて鑑識課へ採用された。専門は物理学で、画像の解析を一番得意としている。

「ほら、これだよ」

 広渡は加藤を振り返り、画面中央に映る男を指差した。中折を深く被っていはいるが、何とか顔が分かる程度には解像度が上がっていた。

「こいつだ……これなら顔も分かるな。この画像プリントしてくれ」

「ああ」

 加藤はしばらくしてプリントされて出てきた男の顔を、穴があきそうな程睨んだ。

「このおじさん取っ捕まえてどうするんだ?」

 写真とにらめっこをする加藤を見ながら、広渡は言った。

 広渡の疑問は最もだ。しかし加藤にはこの男を捕まえた後の事など何も考えていなかった。捕まえたとしても、職質した時に逃げ出しただけで別に男が痴漢する所を見た訳でも万引きする所を見た訳でも、ましてや連続殺人事件と関係があるかすら分からないのだ。

 うーんと考え込む友人の顔を見て呆れながら、広渡は違うデータを呼び出し画像を変えた。

「まあ、お前が怪しいって思うんなら俺は何も言わないが……ほら、ここにも映ってるのがあったぞ」

 加藤は広渡が出した画面を注視した。そこにはオープンカフェのテーブルで話しをする男女四名と通行人。そしてカフェの中を反対側の道路から見つめる男の姿が映っていた。

「お、おいこれは!?」

 男は明らかに昨日の男だった。ベージュ色のコートにグレーの中折を目深に被り、両手で襟元を立ててじっと店内を見ている。

「店にいた時から見てたのか……おい広渡っ、これもプリントしてくれっ!」

「もうやってるよ……ほら」

 青筋を立てる加藤に広渡はプリントした写真を渡した。

「でもこの人そんな危ない人には見えないけどな……結構紳士って感じじゃないか?」

 椅子にぐいと背をもたれ、両手を頭の後ろで組むと広渡は加藤に言った。

「犯罪者は見かけで判断出来ないさ。見かけで犯人にされるってんなら、俺はとっくに凶悪犯罪者でブタ箱行きだ」

「……それもそうだ」

「じゃあな、ありがとな」

 そう言って部屋を出て行く加藤を広渡は慌てて呼び止めた。

「あっおい! 約束の晩飯、ちゃんと奢れよ!」

「分かってるよ」

 晩飯につられて引き受けてしまう自分の人の良さにため息を吐きながら、広渡は加藤が出て行ったドアをぼんやりと眺めた。

「いや……俺が人がいいんじゃないな……」

 独り言を呟きながらぐったりとパソコンの画面を見た。

 膨大な量の映像の中から、加藤に言われた人物に該当する男を捜し、画像の解析をするのに徹夜までしたのだ。

 ーーーー?

 広渡は何か映像に違和感を感じた。もう一度じっと画面を見つめる。

「ううん……何だ?」

 しかしその違和感が何なのか広渡には分からなかった。













 今度は何故かスムーズに聞き込みが出来た。声を掛ける度に誰もが立ち止まって話しを聞いてくれる。

 先程の不発が嘘の様だ。加藤は世の不条理を心の中で嘆きながら、必死に聞き込みを続けた。

「先輩っ!」

 振り返ると、同じ刑事で後輩の津田政昭(つだ まさあき)が息を弾ませて駆け寄ってきた。

「何か分かったか!?」

「ーーーいいえ、分かりません」

 駆け寄ってきたから期待して聞いた加藤は、思わぬ返事に目眩を感じた。

 この後輩はたまに抜けてはいるが、意外としっかりしていて憎めない男だ。コンビを組んでまだ一年だが、自分では結構息が合っていると思っていた。それを裏切られた様で、加藤は肩を落として取り敢えず津田に尋ねた。

「で、お前は何で息切らせて走って来たんだ?」

「いえ、何でこの人を探しているのか聞いてなかったんで、先輩に一応聞こうと思って戻って来ました」

 なるほど、おっしゃる通りだと加藤は思った。いきなり襟首掴まれて人探しを手伝えと言って写真を渡し、有無を言わさず商店街まで引きずって来たのだ。しかし加藤は先程広渡にも聞かれて困ったのだが、何故この男なのか。それは自分にも分からない。

「分からない。でも若い女性をじっと見てたんだ、何か今度の事件と関係あると思ったんだ……」

 珍しく自分の意見に自信を持っていない加藤に津田は驚いた。今までこんなに自信の無い加藤を見た事は無かった。

「……昨日何かあったんですね?」

 こくりと頷くと、加藤は昨日の出来事を津田に語った。







 一通り語り終えた加藤は、昨日自分より明らかに年配の男を取り逃がした事を思い出し、怒りが込み上げて来た。

「あんの野郎っ、絶対に探し出してやる!」

「分かりました、俺も先輩の為に頑張ります。何かこの男を見つける事で糸口が見えて来るかも知れないですね!」

 そう言って津田は写真をじっと見つめた。

「あれ?」

「どうした?」

 急にテンションが下がった津田に、加藤も写真を見た。

「何だろう……何かこの写真、おかしくないですか?」

 津田が差し出したのはカフェで加藤達がしゃべっている方の写真だった。じっと見るが何処がおかしいのか加藤にはさっぱり分からない。

「あ? どこがおかしいんだよ」

「いえ、何処と言われても……何かおかしいんですよ、んん……何だろう?」

 何度見てもやはり分からない。

「分かんないもんは何度見ても分からんな。聞き込み再開するぞ。俺は昨日行った店の店員を当たる、お前は男が逃げた方を当たってくれ」

「はいっ!」











                                続く…












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