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鬼頭8日目・No.2

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streetpoint

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私のやんごとなき王子様














「鬼頭先生、私……先生の事――」

「ちょっと待ちなさい」


 ビクリ


 私が言われた訳ではないのに、言葉に縛られたように私は動けなくなった。

 水原さんの真摯な声とそれを制した鬼頭先生の声。その両方に何故か息が詰まりそうになる。


「待ちません! 好きなんです。本気で……」


 ――あれ、苦しいや……なんか、胸の辺りがすごく苦しい。


「……お前が本気で俺を好きだとして、俺に恋人がいるかもしれないとか、好きな女がいるかもしれないとは考えなかったのか?」


 うわ、鬼頭先生なんて酷い事言うんだろ。

 立ち聞きをしているという罪悪感が湧いて来た私が階段を昇ろうとした所でそんな台詞が聞こえて来て、思わずまた動きを止める。


「か、考えました……でも、それでも自分の気持ちをどうしても知って欲しかったんです」

「なるほど、知って欲しかった。か―――」

「自分勝手だという事は分かっています。だけどこのまま気持ちを伝えずに卒業してしまいたくなかったんです」


 卒業までまだ時間はあるのに、それでも今伝えなければいけなかったのは彼女なりの何か理由があるのだろう。

 私はそこでやっと張り付いていた足を動かし、その場を離れる事が出来た。

 階段を昇り切った廊下を進んだ所に自動販売機が設置されていて、ソファーとテーブルが並べてある。そこに座って膝を抱えた。

 水原さんの言葉は真剣だった。本当に鬼頭先生の事が好きなんだ……

 チクリと痛む胸に、私は自分も知らないうちに鬼頭先生の事を好きになっていた事に気付かされた。

 偶然とはいえ鬼頭先生が告白されているのを聞いて、自分の想いを知るなんて情けない。










「おい」

「っ!?」


 突然背後から呼ばれて私はソファーから飛び降りた。


「きっ、鬼頭先生っ!?」


 まさか今まさに考えていた意中の人物が現れるとは思っていなかった私は、かなり動揺している。

 裏返った声で辺りを見回した。


「なんだ? 動きがおかしいぞ?」

「えっ? いや、そうですか?」


 水原さんの姿はない。きっと下で別れたんだろう。


「ほら、これ」


 そう言って先生が差し出したのは私のノートだった。


「あっ、ありがとうございます……」


 受け取ったノートをじっと見たまま頭を下げる。


「医務室に忘れたままだったのを、この俺様がわざわざお前の部屋まで届けてやろうとしていたんだ。ありがたく思えよ」


 これ以上気付かれてはいけないと、私は平静を装った。


「はは~。ありがたく受け取らせて頂きます」


 恭しくノートを両手で持ち上げて再度頭を下げた。何か言われるかと思ってそのままの姿勢で待ってたけど、何も言われないからそっと顔を上げる。

 眼鏡の奥の切れ長の目がじっと私を見ていて、心臓が高鳴る。

 あれ、やっぱりおかしかったかな?


「小日向……お前――」

「はい?」


 ドキドキしている事を悟られないよう、いつもと変わらない調子で返事をすると、先生はふと私から目を逸らした。


「――いや、なんでもない。この礼はいつか必ずしてもらうからな」

「……はあい。でも高校生の小遣いで出来る範囲でお願いしますね。それじゃあおやすみなさい!」


 これ以上先生の顔を見ていると変な事口走りそうだった私は、おどけてそう言い残すとダッシュでその場を離れた。

 いつも憎まれ口ばっかり叩く鬼頭先生。でも本当は寂しがり屋だってやっと気付いた。そんな先生が私に憎まれ口を叩く事でちょっとでも寂しさを紛らせられるんならそれもいっか、なんて思ってしまう。これって惚れた弱みってやつかな?

 水原さんは私なんかより大人っぽくて素敵だけど、鬼頭先生の事を好きだって気持ちは私だって同じだ。

 胸に抱いたノートにぎゅっと力を入れると、私は心の中で叫んだ。


 私、小日向美羽は、ちょっとひねくれてる鬼頭静が好きだ!!












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