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チェンジ・ザ・ワールド☆
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鬼頭9日目・No.2

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streetpoint

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私のやんごとなき王子様














「……海?」


 連れて来られたのは海岸だった。

 数日前、窓から抜け出して先生と一緒に歩いた海。昼間とは違う顔をした夜の海辺には、私と鬼頭先生の二人きりしかいない。

 すっと握られていた手が離れ、先生の体温の変わりに海風が当たる。


「この間はゆっくり出来なかったからな」


 水原さんが医務室からいなくなった先生を探してすぐにやって来たことを言っているらしい。先生はすっと背筋を伸ばして海の向こうを見つめた。

 私も自然とそれに倣う。


「小日向。お前、学校は楽しいか?」

「はい、楽しいですよ」


 急にどうしたんだろう。鬼頭先生らしくない質問に、私は一瞬戸惑う。


「―――そうか……俺はお前に随分嫌われているからな。先生がいなければもっと楽しいとか言われるかと思ったが」

「別に嫌ってないですよ、ちょっと苦手だっただけで……」


 それに、今は先生の事が好きなんだし。


「本当に馬鹿正直だな、お前は。態度にすぐ出る」


 悪かったですね、単純で。


「……俺は家族がいない」

「え……?」


 突然の告白に私は驚いた。思わず先生の顔を凝視する。


「幼い頃に両親は離婚し、兄弟もいなかった俺は母親に引き取られたが、その母親はろくでもない女だった……酒と男に溺れ、俺の事などまるで無視。いくら寂しいと訴えようと、母親は聞く耳をもたなかった。そんな環境の中でいつしか俺は、世の中を渡る為には己の感情を押し込めた方が上手く行くのだと悟った」


 辛い話しなのに、それでも先生の声は低くて良く通って、いつもと変わりないように聞こえた。そんな悲しい過去があるから、先生はいつも冷たい言動をするんだ。私はそれに気付いて悲しくなった。


「まあ、そんな冷めたガキ、親からしてみたら余計に可愛げが無かったんだろうな。小学生に上がった頃からは暴力を受けて、それでも平気な顔をしていたら気味悪がった母親は俺を置いて男と家を出て行った」

「そんな、酷い……」

「そうだな。母親を恨んだ……いや、今でも恨んでいるかも知れない――それからだな。女という生き物が堪らなく嫌いになったのは」


 ふと辛そうに眉を寄せた先生は、さらに続けた。

「女は馬鹿で扱いやすくて、自分の思い通りに動かせると思い込んでいた俺は散々酷い事をしてきた。俺は二度と女に捨てられたりしない、俺が捨ててやるんだと。誰にも負けないで自分の足で歩いて、俺を捨てたあいつを見返してやろうと思っていた……だが、この学園でお前に出会って俺の考えが少しだけ変わった」

「私……? ですか?」

「ああ。お前は俺が今まで出会ったどの女達とも違った。人を見た目や表面的な部分で捉えたりせず、取り繕ったり偽善的な事を言ったりやったりもしない。嫌な事は嫌と言うが、その前に何故嫌なのか、どうすればそれを良い方向へ向けられるかを真剣に考え前へ進んでいる……それはきっと無意識にやっているのだろうが、俺にとっては衝撃的で、羨ましかった……」

「私はそんなすごい人間じゃありません」

「分かってる。お前は全てにおいて普通だし、特別な何かを持っている訳ではない。だけどお前のようであれたらいいとほんの少しだが思ったのは事実だ……俺は現実から目を背け、ただ女だというだけで母親を重ねて憎む事でしか前へ進めなかったからな――」

「―――それは……違うと思います」

「何?」


 私の言葉に、鬼頭先生はゆっくりと私の方へ視線を向ける。


「私だって逃げ出したくなりますし、嫌だけどうまく断れなくて落ち込む事もあります。確かに嫌だと思った時はどうして嫌なのか考えてるかもしれないけど、私と先生とは状況が違うじゃないですか……その、どんな酷い事をしてきたのか私には分かりませんけど、子どもの頃に頼って甘えたい母親に裏切られ続けたら誰だって辛いはずです! だからその、上手く言えませんけど、先生が冷めた言い方をするのとか私は慣れましたし、からかってくるのも、無いなら無いで寂しいっていうか―――あ~! だから、先生はお母さんが憎いんじゃなくて、愛情が足りてないんですよ!」


 握りこぶしを作って力を込めて言うと、鬼頭先生は呆れたように眼鏡の位置を戻した。


「――まったく、お前には本当に驚かされるな……いや、呆れると言った方がいいか」

「むっ、またそんなひねくれた事を言う!」

「まあいい。俺の性格の悪さはお前が言うには愛情不足という事なんだな?」

「そうです!」

「ならば愛情を補えば変わると言うのか?」


 少し体を屈めて私の目の前で勝ち誇ったように言う先生の迫力に、私は思わず一歩後ろに下がる。 


「たっ……多分」

「さっきは愛情不足だと力説していただろう?」


 さらに意地悪そうな顔をする先生に、私はぐっと息を吸い込む。


「じゃあっ! 試しに愛情を補給してみたらどうですか?」


 ここで引き下がったら負けだと思った私は、下げた足を前に出して逆に先生に詰め寄った。


「――なるほど、なかなかいい提案だ」


 ふとほんの一瞬笑うと、先生はくるりと踵を返して歩き出した。


「お前の忠告、ありがたく受け取ろう。そろそろ戻るぞ、風が出て来た」

「え? あ、はいっ」


 この勝負は私の勝ち……かな? 先生は水原さんの事を考えていたのだろうか? どうして私をここに誘ってくれたのだろうか? そしてどうして子どもの頃の悲しい過去を話してくれたのだろうか?

 もしかしたら単なる気まぐれかもしれないけど、前を歩く鬼頭先生の後ろ姿が少しだけ楽しそうに見えて嬉しかった。

 この口の悪い寂しがり屋の先生を、少しでも私が元気づけてあげられるならそれでいい。













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