チェンジ・ザ・ワールド☆
.5
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Session5
「なんでお前らがここにおんねん」
忍足は目の前で楽しそうにしている二人組を見下ろし、盛大なため息を吐いた。
ここは忍足の家の忍足の部屋。
跡部と屋上で話をしてすぐ、忍足は和葉の家へ向かったが、留守だったのでdigへ回りそこにもおらず仕方なく一度家に帰って夜にまたdigへ向かおうとしていたのだが、帰ると自分の部屋に芥川と跡部の二人がいてくつろいでいたのだ。
そんな二人に忍足は勝手にしろと部屋を出て行こうとドアノブに手をかけた。と、
「和葉は今日は戻ってこないぜ」
跡部の言葉に動きを止める。
「何でや?」
「それが人にものを尋ねる態度かよ、あ~ん?」
ぐっと眉間にしわを寄せ、それでも黙って再び尋ねる。
「跡部様、和葉さんがどこにおるんか、どうぞ教えて下さい」
ものすごく心のこもっていないお願いに、跡部は小さくチッと舌打ちをすると、ベッドの上でごろごろと転がる芥川に向かって手を出した。
「ああ、はい~」
芥川は跡部の手の上に携帯を置くと、またごろごろと転がりだした。
一体なんでジローまで着いて来てんねん。このままやったら絶対こいつ俺のベッドで朝まで熟睡するで。
跡部は携帯を開いて画面を見ると、読み始めた。
「景吾君、色々と心配かけてごめんなさい。侑士君にはきちんと私からお話するから大丈夫です。今日から数日泊まりででかけるので、帰って来たらまた連絡します。それでは、また」
「それ、和葉さんからのメールか?」
「そうだ」
「今日からって、いつや?」
「昨日だ」
「なんでさっき屋上で言わんかったんや」
「お前がさっさと帰るからだろ? 話す前に話す相手がいなくなったんじゃ、どうにもできないだろ、あーん?」
「あ~、そらすまんかったな。で? 泊まりででかけるってどこや? お前は心当たりがあるんやろ?」
おそらく跡部はこのことを言う為にわざわざ忍足を追いかけて家に来たのだろう。
言動が偉そうなので忘れがちだが、跡部は意外と、いや、とても面倒見がいい。
「前に話しただろ? 和葉の兄貴の話。たぶん兄貴が自殺した場所だ」
「……どこや?」
「横浜だ」
跡部から詳しい場所を教えてもらい、忍足は家を飛び出した。
駅までがこんなに長いと感じたのは初めてだった。
信号で立ち止まる度に苛々が募る。
走り抜けるビルや人ごみの中、忍足は和葉に何を言おうかずっと考えていた。
きっと和葉は忍足を見て驚くだろう。何故知っているのかと、もしかしたら怒るかも知れない。でも、それでも今会わなければいけない気がするのだ。
なんでこんなに信号ばっかりあんねん!
また赤信号に捕まり、忍足は目の前を右に左に通り過ぎる車やバイクを睨みつけた。
何も伝えられずに離れてしまうなんて我慢出来ない。
焦れば焦るほど信号を待つ時間が長く感じる。
これはもうさっきもやったで。いい加減先に進ませてくれや。
苛々がとうとうぼやきに変わった。
和葉にあの日偶然出会わなければ、きっと今ももやもやとした気持ちのまま過ごしていただろう。進学かテニスかで悩み、結局はっきりと決着をつけられずすっきりしないまま大学に進学していたに違いない。
そして信号が青に変わり、また走り出す。
駅は目の前だ。
自分の好きな道を、どんなに辛い事があっても真っすぐに進んで行く和葉。
頼りなさそうで、誰よりも強い和葉。
出会ってほんの短い時間の中で、忍足をここまで引きつけた女性は和葉が初めてだった。
まだたったの18年しか生きてはいないが、きっとこんな出会いはそうそうないと強く確信する。
飛び乗った電車の中、忍足は目をつぶって和葉の顔を思い出す。
こないに誰かを好きや思うたんは、初めてやな……宍戸に言うたら激ダサだな。とか言うんやろなあ。
ふと笑みがこぼれる。
もし、許されるなら和葉の事を思い続けさせて欲しい。例え望みがほとんどないとしても、跡部が言うように自分の事を好きになってくれなくても、それでもいいと忍足は思う。
やっぱり俺、激ダサやーーー
人は誰かを好きになると、なりふり構ってなどいられなくなるらしい。
電車を降り、跡部に教えられた場所を目指す。
そこに和葉がずっといるとは思えなかったが、取りあえず行ってみたいと思った。
駅からさほど離れていない場所にある、緑豊かな広い臨海公園の中を一人歩きながら、忍足は目的の場所へと歩を進めた。
高台になっているそこは、夕方にも関わらず閑散としていた。
ドキ……
忍足の胸が弾む。
海からの潮風に髪をなびかせながら、その人はぼんやりとそこに一人佇んでいた。
キラキラと夕日を反射する海の色を全て吸収してしまいそうな細い体は、今にも消えてしまいそうで忍足はたまらなくなった。
ゆっくりと近づき、和葉の視線の先を辿る。
夕日を見ているのか、海を見ているのか、過去を見ているのか、その表情からはなにも汲み取る事は出来なかった。
「和葉さん……」
独特のイントネーションで名前を呼ばれ、和葉はゆっくりと振り向いた。
「ーーー侑士、君?」
驚いた顔をしている。
それはそうだろう。忍足がこの場所を知るはずがないのだから。
「どうして、ここに……?」
忍足から目を逸らさない和葉は、静かに尋ねた。
「偶然や……」
「嘘」
忍足の答えに微かに笑う。
「すまん、跡部にここやないかって教えてもろうたんや」
和葉の隣りに立ち、忍足は海を見下ろした。
「綺麗な所やなあ」
「侑士君は、私をいつも驚かせるんですね」
そう言って和葉も海を見下ろした。
「そうか?」
「はい……初めて会った時も、全然知らない私を助けてくれて驚かされましたし、突然家に訪ねて来て驚かされました。そして今また驚かされています」
「そんなつもりはないねんけどな」
「ふふ……少し、私の話を聞いてくれますか?」
和葉はいつものように静かに、話し始めた。
「私には、血のつながっていない兄がいました……」
忍足はじっと和葉を見つめた。
おそらく和葉は忍足が跡部から大体の話を聞いていると知ってて話しているはずだ。
「5歳年上の兄はとてもバイオリンの上手な人で、とても尊敬していました。優しくて、格好良くて、自慢の兄でした……」
ふと視線を空に移すと、横目で忍足を見た。
黙って自分を見ている忍足を確認して、また続ける。
「ずっと一緒にいたのに、私は兄の気持ちに気付いてあげられなかった。だから、あの日ーーー兄が私の友人に怪我をさせた時、私は兄に言ってあげなければいけなかったんです。あなたの事が大好きだって……それがたとえ兄と同じ感情での好きではなくても、私には兄にその言葉を伝える責任があったんです。もし、私が兄にきちんと伝えていれば、兄は……兄は、死なずにすんだかもしれないーーーー」
「それは違うで」
苦しそうに言った和葉に、忍足はきっぱりと言った。
忍足の言葉に和葉が顔をこちらへ向ける。
「それは違う。あんたの所為やない。誰の所為でもない……」
和葉はずっと苦しんでいたのだ。
誰かに好きだと言う事で、兄を裏切る事になるのではないかと恐れていたのだ。
だから、誰も好きにならないと心に誓ったのだろう。
誰も傷つけたくないから。
「私には、人を好きになる資格はありません……」
言葉を区切ると、和葉は忍足を見上げて眉をしかめた。
その顔を見て堪らなくなり、忍足はつい力を込めて声を出した。
「人を好きになるのに、資格なんていらん! そんなんいるんやったら、誰も恋愛なんて出来んやろ? あんたが言う好きになる資格って、誰も傷つけずに幸せになるっちゅー事か? そんなん人間なんやから、無理に決まっとるやん!」
また驚いたような顔をして、和葉は次はふと笑った。
「ーーー困りました」
「は?」
一体何が困ったというのか。首を傾げると、和葉が忍足に抱きついた。
っ!?
忍足はあまりの出来事に、両手を宙に浮かせた中途半端な状態のままフリーズしてしまった。
な、なんやっ!? どうしたんやっ!?
軽いパニック状態に陥っていると、和葉のくぐもった声が聞こえた。
「侑士君は、どうしてそんなに優しいんですか?」
「俺が、優しい?」
自分の肩口で和葉が頷く。
和葉の頭がすぐ目の前にあって、甘い香りが忍足の鼻をくすぐる。
「私は男の人に好きだなんて言わないって、前にいいましたよね?」
「……ああ、言うてたな」
「私、侑士君に好きだって言いませんでしたか?」
「ーーーえ?」
忍足は再び固まった。初めて会った時の和葉との会話を思い出す。
「ーーー言うてた……俺の事、弟みたいで好きやて言うた……」
見開かれた目に、体を離した和葉の顔が飛び込んで来る。
だが、忍足はそれがどういう意味かはっきりとは分からない。
「あの時は、本当に弟みたいだなって思ったんです。でも好きだって口から出てしまった事に、侑士君と別れた後に気付いて……毎日メールしたり、私が怪我した時も本当に心配してくれたり、出会ったばかりの私に親切にしてくれて、すごく嬉しかったんです……」
ドキ……
信じられないくらい、今忍足の心臓は激しく動いている。
自分を見つめる和葉が、少し照れたように笑っている姿が幻想的で、眩しかった。
「アメリカに行くお話を頂いてて、ずっと迷っていました。別に有名になりたい訳ではないし、digが好きだから話を先延ばしにしてて……迷ってた時期に侑士君と出会って、侑士君が進路の事で悩んでる事とか聞いて、私も真剣に考えようって思ったんです。そして侑士君があの日、私がCDを出すかもしれないって言った時あんなに喜んでくれるなんて思わなくって、すごく嬉しかった……」
風でなびく髪を押さえて、和葉はまた海の方を向いた。
「ーーー嬉しかったけど、すごく寂しくもなったんです……アメリカに行ったら、今みたいにすぐ侑士君に会えなくなってしまうでしょう? そう思ったら、なんだか急に寂しくなっちゃって……ここに来て、自分の気持ちを確かめようと思ったんです」
和葉の声は、とても心地よかった。
ずっと聞いていたいと、忍足は思った。
自分に会えなくなるのを寂しいと思ってくれた事が嬉しかった。
「……それで、和葉さんの気持ち、分かったんか?」
コクリ
和葉が頷いた。
答えを聞いてもいいのだろうか?
忍足は一瞬ためらったが、すぐに言葉は口をついて出ていた。
「和葉さんの気持ち、聞かせてもろうても、ええ?」
和葉の口元がほんの少し揺らいだ。
「ーーーあなたの事を……好きになっても、いいですか?」
一瞬時が止まったのかと思った。
その場所で、和葉の声だけが忍足の耳に妙に響いて聞こえた。
ああ、なんて綺麗なんや。
海風が吹き抜ける高台で、忍足と和葉は見つめ合った。
答えなんて決まっている。
忍足は優しく微笑んだ。
「俺も、和葉さんに言わなあかんことがあんねん……俺はな、あんたの事が……大好きやーーー」
大きな瞳がぐらりと揺れると、次にその瞳から涙が一筋ぽろりと零れた。
手すりを握る和葉の手を取り、自分へと引き寄せる。
「もっと大きい男になって、絶対にあんたを追いかけるから……せやから、アメリカで待っとってくれる?」
忍足のぬくもりを感じながら、和葉は忍足の背中に回した腕に力を込めた。
小さく頷く。
「俺が、あんたを幸せにしたる。あんたの辛い思いも、悲しい過去も、全部俺が一緒に背負ったる」
再び頷く。
抱きしめる和葉の体が小刻みに震えていた。
偶然出会ったあの夜、二人は互いに引き寄せられた。
過去ではなく、未来にある幸せの為にーーー
空にはいつしか星がちらちらと輝き始め、夕日は海の向こうへと沈んで行った。
少しだけ、勇気を出してみて良かった。そう、思えた。
さあ一緒に歌おう。Moonlight Serenadeを。
END
あとがき
終わったあああああああーーーーーーー!!!!!!
初テニプリ二次小説として書き始めた忍足夢。まさかこんなに長くなるとは・・・(汗)
しかしテニプリのキャラってカッコいい子が多すぎて、困ってしまいます。。
一番最初に心臓ぶち抜かれたのがこの忍足だったんでちょっと真面目に書いてしまいましたが、さすがに中坊で真面目な恋愛小説ってのは(管理人の中では)無理なので高校生以上で…
ヒロインにこんな暗い過去を背負わせるつもりはさらさらなかったのに、書いてるうちにこんなんなってしまった。
もっと氷帝のメンバーも出してあげたかったけど、それはまた次の機会に。という事で(笑)
もっと文章上手くなりたいなあ……(切実!)
それでは、最後までお付き合い下さいました皆様、ありがとうございました!!
初テニプリ二次小説として書き始めた忍足夢。まさかこんなに長くなるとは・・・(汗)
しかしテニプリのキャラってカッコいい子が多すぎて、困ってしまいます。。
一番最初に心臓ぶち抜かれたのがこの忍足だったんでちょっと真面目に書いてしまいましたが、さすがに中坊で真面目な恋愛小説ってのは(管理人の中では)無理なので高校生以上で…
ヒロインにこんな暗い過去を背負わせるつもりはさらさらなかったのに、書いてるうちにこんなんなってしまった。
もっと氷帝のメンバーも出してあげたかったけど、それはまた次の機会に。という事で(笑)
もっと文章上手くなりたいなあ……(切実!)
それでは、最後までお付き合い下さいました皆様、ありがとうございました!!
お帰りの際は、窓を閉じてくださいv
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