チェンジ・ザ・ワールド☆
波江13日目・No.3
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私のやんごとなき王子様
すっかり誰もいなくなった劇場の舞台の上で、私は目をつぶって今日一日を思い返していた。
風名君と亜里沙様の演技は見事だった。でもそれだけじゃない――参加した全ての人間が報われる完璧な舞台だったと……掛け値なしにそう思う。
潤君も本番前はあんなに緊張していたのに、始まるとそんな事はまるで嘘だったみたいに堂々としていて、輝いていた。
まだ1年なのにやっぱり凄いな。さすが次期王子――そんな事を思ってふっと微笑んだその時――
「小日向先輩」
もう何度聞いただろう、私の胸を温かくするこの声――
ゆっくりと振り向くと、そこには私の大好きな潤君が立っていた。
「潤君……お疲れ様」
私は潤君の方へと歩みを進める。
潤君も私へと一歩一歩近付いてくる。
「先輩も……お疲れ様でした」
相手までの距離があと2歩といった所で、どちらともなく歩みを止めた。
「どうしてここに?」
「佐和山先輩に聞いたら、ここに戻ってるって教えて下さったので」
「そっか」
さなぎには忘れ物を取りに行くと言ってあった。
正直に言うと、もう少しだけ舞台の余韻に浸りたかった――それだけなんだけど。
「僕、先輩の事が好きです」
潤君が思い切ったように言葉を発した――けど、私の脳はそれを瞬時に理解する事なんて出来なかった。
「先輩は綺麗で優しくて、それでいてやっぱり凄くて……」
私の沈黙をどう受け止めているのかは分からない――けれど潤君は告白を続けている。
「最初はオデット姫の友人役で……僕は先輩にオデット姫をやってほしかったから、少し残念だったけど……でも心のどこかでホッとしていたんです。僕が王子の従者で先輩は姫の友人――少しだけ近づけたような、そんな気がしていました」
そこまで言うと潤君は一つ息を吐き、その後自嘲気味に小さく笑った。
「でも違ってました。先輩はオディール役の代役を……あんなにも急なキャスティングだったのに見事演じきって……やっぱり先輩は凄いなって、僕なんかとは違う。僕なんか相手にされるはずない――分かってるんです。でも、それでも」
潤君は私の目を真っ直ぐに見詰めると、一歩私に近付いた。
「それでも僕は先輩が好きです。僕なんか情けなくて頼りなくて、先輩の彼氏なんて到底務まらないかもしれません。でも僕――追いついてみせますから。先輩に似合う男になってみせますから! だからどうか……僕を」
もう我慢が出来なかった。停止していた脳は早まる鼓動と同じスピードでフル回転している。
「潤君!」
私は両手を広げて一歩大きく踏み出すと、潤君の胸に飛び込んで彼を強く抱きしめた。
「私も潤君の事が好き……! 好きなの……!」
両腕にグッと力を込めると、潤君も私の背中にそっと腕を回してくれた。
「せん……ぱい?」
恥ずかしくて顔なんて上げられない。でもこれだけは言わなくちゃ!
「潤君の事が好きだよ。私の方こそダメなんだよ? だって私は卒業しちゃうし、潤君は来年も再来年もこの学園にいられるし、そうなったらやっぱり私なんて」
「そんな事無いです!」
私の言葉を途中で制した潤君は、体を少し反らせて私の顔を見下ろした。
「潤君……」
「そんな事ないです。僕は先輩しか見ていません。これからだって先輩しか見えません。たとえ先輩が卒業しても、僕の目が追うのはあなただけです」
「潤君……」
潤君の顔がふいに歪んでみえた――違う、そうじゃない。私の涙で視界が滲んでるんだ。
「先輩」
そっと目を閉じた。
潤君の温かい手が私の頬を包み込む。
少しの間の後、柔らかい感触が唇に触れた。
永遠とも思えるような一瞬の接触――――
私は涙で潤んだ瞳を開くと潤君を見つめ、もう一度だけ思いを吐いた。
「大好き」
私の言葉を聞いた潤君は、もう一度――今度は潤君の方から強く私を抱きしめてくれた。
潤君、こんな私を好きになってくれて有難う。
あなたが演劇祭で私を誘ってくれなかったら、私はきっと自分の気持ちにすら気付かないままだった。
あなたと演劇祭が出来て良かった。
あなたを好きになって、本当に良かった。
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