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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

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 比奈は今、はばたき総合病院の病室にいた。

 赤城に会いに来た訳ではなく、仕事中に照明が倒れてきて下敷きになり、怪我をして運ばれてきたのだ。

 頭をぶつけた所為で気を失ったらしく、記憶が戻った時には病室のベッドの上だった。 

「はあ……よりによってこの病院なんて」

 赤城と食事をし、高校の時の誤解を謝罪する事が出来た。だが、その後志波と偶然会い、珊瑚礁で告白された。

 あれから数日経ったが、比奈はまだ答えを出せずにいた。

 志波の自分に対する想いは、比奈の想像を遥かに越えていた。

 もし、赤城に好きな人がいると知っていたら、自分ならきっと簡単に諦めているはずだ。好きだと思ってはいても、告白する勇気などない。

 どうして志波君はあんなに私の事を好きだと言ってくれるのだろう……

 比奈は昔を必死で思い出そうとしたが、思い当たる節が無い。

 コンコン

 必死で記憶を絞り出していると、ノックが聞こえた。

「はい」

 次にドアが開き、竜子と千代美が入ってきた。

「竜子さん、千代美ちゃん!?」

「比奈。大丈夫かい? チョビがあんたのお袋さんから連絡もらってね、一緒に来たんだ」

「比奈さん、心配しましたよ!」 

 竜子の顔を見た瞬間、比奈は罪悪感で胸が痛んだ。

 この竜子はずっと志波の事を好きでいる。それこそ志波が自分の事を好きでいてくれているのと同じ位。

 口では忘れたと言うが、本当はまだずっと好きなのだ。

「精密検査してもらったけど、異常はないって。だから明日には退院出来るから大丈夫だよ。わざわざ来てくれてありがと」

 比奈の母親は連絡をもらってすぐに病院に来たのだが、仕事の途中だったため会社に戻らなくてはならず、比奈の友人である千代美に代わりを頼んだらしい。

 一人では心細かった千代美が、たまたま仕事が休みだった竜子と連絡がついて二人でやってきたのだ。

「まだ顔色悪いね。他はどこか怪我してないのかい?」

「ん、腰と足を打ったみたいだけど、そっちも大丈夫。大した事無いよ」

「そうですか。良かったです……あ、何かいるものはありますか?」

「えっと、喉が渇いたから、飲み物が欲しいな」

「分かりました、買ってきますね」

 千代美は比奈の無事を確認すると、さっと病室を出て行った。

 竜子と二人きりになった部屋で、比奈は志波に告白された事を竜子に伝えるべきか悩んだ。

 すると、

「志波のヤツから電話があった」

 そう竜子が話し始め、比奈は驚く。

「あ……そう、なんだーーー」

 何と言ったら良いのか、比奈には分からなかった。

「あいつも本当、昔っから馬鹿の一つ覚えみたいに海野海野ってさ。ホント、嫌になるよ……あたしの気持ちなんて、これっぽっちも考えてくれやしないだからね」

「そんな事っ」

「分かってるよ。あいつが優しいって事くらい。一応3年彼女やってたんだ。それに、ずっとあいつを見てた……志波って男がどういうヤツかなんて、嫌って程知ってるよ」

 志波の擁護をしようとした比奈に、竜子は力なく笑った。

「あたしもいい加減女々しいね。高校の時から志波があんたの事をどれほど好きかって知ってたのに、あんたにフラれて落ち込んでる志波につけ込んで彼女を気取ってさ。別れて何年も経ってるのに、いまだに何かと理由をつけて電話を掛けたりしてさ……その度に志波を傷付けてるって分かってた。でもね、あいつ優しいし、ずっと片思いし続けてるあたしの気持ちが分かるから、突き放したりも出来ないでーーー」

 そう言って窓の外を寂しそうに見つめる。

「比奈。あんた、好きな男はいるのかい?」

「えっ?」

 一瞬赤城の顔が頭をよぎった。だが、ここで答えていいのか比奈には分からない。

 黙っていると、竜子は比奈をしっかりと正面に捉えて言った。

「頼む。もし、好きな男がいないんなら、志波と付き合ってやってくれないか?」

「竜子さん……」

「実はね、あたしの事を好きだって言ってくれる男がいるんだ。志波の事をずっと引きずってたから、返事を先延ばしにしてたんだけど、志波からあんたにこの間告白したって聞かされた時、けじめつけようって思ったんだ……比奈だったら志波を任せても安心だし、あたしも綺麗サッパリ志波の事を忘れて、自分を好きだって言ってくれる男の所へ行ける」 

 竜子は昔から豪気な女性だ。自分の信念をしっかり持ち、弱者を困らせる連中を黙って見過ごせない姉御肌で、男女問わず平等に接する。おかげで誰からも好かれていた。

 そんな竜子に、比奈は何度助けられたか分からない。

 だからこそ、竜子が一途に思い続けている志波と上手く行って欲しいと願っていた。

 自分と同じように、一人の男性を想い続け独り身を通してきた竜子が、ここに来て一歩を踏み出そうとしている。それは、他ならぬ好きな男と友人である自分のためだ。

 比奈は覚悟を決めた。

 赤城ともう一度会って、想いを伝えようと。

「遅くなりました」

 丁度千代美がジュースを買って帰ってきた所で、竜子は比奈に向かって頷いた。

 自分も一歩を踏み出さなくてはいけないのだ。どんな顔をしていたか分からないが、比奈の気持ちが伝わったらしい竜子はいつもの顔に戻った。

 こんなにも自分を思ってくれる素敵な友人がいて幸せだと、比奈は心から感謝した。













 竜子も千代美も帰った夕方に両親が顔を見にやって来た。大事に至らなかったおかげで明日には退院出来るし、両親はしばらく雑談をして帰ってしまった。

「まったくもう。心配してくれてるんだか、からかいに来たんだか……」

 二人で一方的に比奈に話しかけて去って行った嵐のような両親がいなくなり、静かになった病室をノックする音が響いた。

「どうぞ」

 看護士が就寝前に体温を測りに来ると言っていたので、それだろうと気にも止めず返事をすると、入ってきたのは心配そうな顔の赤城だった。

「海野さん、大丈夫?」

「赤城君……?」

 驚いて目を見開く。

「さっき看護士さんから、昼に救急で運ばれてきた患者さんが雑誌の取材中の事故だったらしいって聞いて、もしかしたらと思って名前を確認したら海野さんだって言うから、驚いて……」

 赤城は比奈の様子に心底ほっとしたような表情でベッドのすぐ脇までやって来た。

「あ、うん。ちょっと事故でね。心配してくれてありがとう」

「担当の先生に聞いたけど、明日には退院出来るんだって?」

「そうなの。頭を打って気を失ったけど、異常なかったみたい。今日は一応様子見で泊まる事になったの。頑丈に生んでやったんだから感謝しろって、さっきさんざんお母さんに言われちゃった」

 椅子を引き寄せて自然に座る赤城に、比奈は動悸が治まらなくなっていた。

 くだらない話しをして、その動悸を何とか抑えようとあがいてみる。

 先ほど赤城に想いを伝えようと決意したばかりだが、その機会がこんなにもすぐ訪れるとは思っていなかった。

 広い病院だし、救急患者など一日に何人もやって来る上に赤城は小児科医だ。比奈がここにいることを知る確率などかなり低いと言っていい。

 それなのに赤城は比奈の目の前にいる。

 急に赤城の手が伸びてきて、驚いて目をつぶる。

「ここ、でっかいたんこぶが出来てる」

「痛っ……」

 赤城が触れた場所がズキンと痛む。

「明日、僕が送ってあげるよ」

「えっ? でも、お仕事なんじゃ……」

 突然の申し出に比奈が目を開けて赤城を見ると、昔と変わらない笑顔で赤城が言う。

「明日は夜勤だから、昼間は空きなんだ。それに、一人で帰るつもりだったんだろ?」

「どうして知ってるの?」

「さっき君のご両親と廊下で会ってね、少し話しをしたんだ。あ、病室を出て来るのが見えたからすぐに分かったんだけどね。で、二人とも仕事だからタクシーで帰らせるって言ってたから、僕がお送りしますって伝えといたから心配ないよ」

「でもーーー」

「迷惑、かな?」

「ううんっ、迷惑なんてそんなっ! 逆に赤城君が迷惑なんじゃない?」

「迷惑だったら最初から送ります、なんて言わないだろ?」

「あ、そっか」

 心臓がうるさい。

 比奈は赤城とのこのやり取りの中で、自分の気持ちを再認識していた。

 やっぱり赤城君の事が好きだーーー好きだよ……。

「昼にここに迎えに来るから」

「うん、ありがとう」

 やっと微笑む事が出来た。

「ホントに君は危なっかしいな。高校の時もちょっとドジな子だとは思ってたけど、あんまり成長してないみたいだね」

「むっ。そんな事ないもん。そういう赤城君こそ、相変わらず一言多いじゃない。あんまり成長してないんじゃない?」

「そんな事ないさ。これでも結構期待されているんだ……あ」

 久しぶりの赤城の余計な言葉に、腹を立てながらも懐かしさを感じていると、赤城の携帯が鳴った。

「ごめん、仕事に戻らないと」

「あっ……あの」

 困ったように笑って立ち上がった赤城を引き止め、比奈は頭を下げる。

「ありがとう」

「気にする事ないよ。君の事を聞いたのは偶然だったけど、また会えて良かったーーーそれじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい。えっと、お仕事頑張ってね」

「うん」

 ドアを閉める前に、赤城はもう一度比奈を振り返って微笑むと、小さく手を振って出て行った。

 明日は赤城が送ってくれる。

 今は突然で言えなかったが、明日言おう。ずっと好きだったと、ちゃんと伝えよう。

 そっと先ほど赤城が触れたたんこぶをなで、比奈は大きく深呼吸をした。










                                続く…







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