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初春抄.8

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初春抄







第6話「初春抄」





 羽百合は今日、せっかくの休日だというのに朝から弁当まで作らされ、テニスコートへやって来ていた。

 右を見ても左を見てもテニスウェアに身を包んだ人ばかり。もちろん応援に来ている友人や家族もいるが、羽百合一人浮いているような気がしてならなかった。

 美緒はテニスクラブの初心者仲間と一緒に先ほどから忙しそうに走り回っているが、羽百合は特にする事もないのでコートの中で行なわれる試合をカメラで撮影しながらぼんやり観戦していた。

 何かの役に立つかも知れないしね。

 そう自分に言い聞かせ、カメラのメモリはかなり大きめの物をセットしている。

「おはようございます」

「あ……おは、よう」

 力なく挨拶をしたのは、相手が佐伯だったからだ。

 佐伯のおかげで作り直した案は編集長に一発OKをもらい、企画部もあっさり通す事が出来た。そしてすぐに若い奥様向けのスポーツウェアを展開している企業数社に連絡を取りそのうちの一社に色よい返事をもらい、昨日、掲載用のウェアを決める事も出来た。

 すべて佐伯の一言のおかげだ。

 だが、その内容を掲載する為には佐伯とデートをするという条件があった。

 あれからまだ日が浅かったおかげで羽百合は連絡をしておらず、今日こうして顔を会わせたら謝罪しようと思っていたのだ。が……

「やっぱり連絡くれませんでしたね」

 笑顔で厭味を言われ、ムッとする。

「忙しかったの……だから、ごめんなさい」

 だが自分が悪いという事は自覚しているのですぐに謝った。

 それを受けて佐伯は一瞬目を開いた。

「別にいいですよ。今、連絡先を教えてくれれば」

 爽やかにしたたかな事を言う佐伯に一瞬呆れたが、もう何を言われても驚かなくなってきている。すぐにバッグから携帯を取り出すと、素直に自分の連絡先を教えた。

「ありがとうございます。でもいいんですか? 俺、結構マメに連絡しちゃいますよ?」

「勝手に送って来る分はいいよ。でも、こっちが忙しい時は返事期待しないでね」

「別にいいです」

 ふと笑顔で前を向いた佐伯につられ、羽百合も前を見る。

 相変わらずコートの中では試合が行なわれていて、皆楽しそうだ。

「新部さんは、テニスしないんですか?」

「ん~。やってみたいとは思うけど……」

「忙しいから無理、ですか?」

「そうねえ。でも、美緒はちゃんと毎週来てるんでしょ?」

 こっちへ向かって手を振る美緒を見つけ、小さく手を振る。

「ええ、まあ。でも、俺に彼女が出来たりしたら、辞めるかも」

「……気付いてたんだ?」

 膝を抱え、羽百合はちょっぴりショックを受けた。だが美緒の場合態度があからさますぎるし、気付かれても不思議ではない。

「まあ、これでも結構モテる方なんで」

「知ってる……」

 そう、佐伯は人気がある。

 それはテニスクラブの取材、美緒の事、大学に行った時などで痛感させられた。

 羽百合はあまり人に対して見た目の印象を持たない。カッコいいとかどうとか、そう言った面から観察しないのだ。だが、よくよく見れば佐伯はとても整った顔立ちをしているという事が分かる。

 整った顔立ちイコールイケメンなのかと、ぼんやりと理解した。

 もう一度隣りの佐伯を見る。

 トクン……

 小さく心臓が鳴った。

「あ、次俺の番だ……」

 呟いて立ち上がる佐伯を目で追う。佐伯は羽百合を見下ろし、にっこりと笑った。

「応援してくださいね。新部さんが応援してくれたら、勝てますから」

「応援しなかったら負けるの?」

「……勝ちますよ。でも、あなたの応援が欲しいんです」

 相変わらず少し強引な言い方をする佐伯に、羽百合はクスリと笑った。

「分かった。応援するから勝ってね」

「ーーーーはい」

 一瞬佐伯の顔が赤くなった……ような気がした。

 フェンスの向こうに入って行く佐伯の姿から、羽百合は目が離せなくなっていた。

 銀色の軟らかそうな髪に、整った顔。優しい笑顔と落ち着きのある爽やかな声。でも少し強引で、計算高くてーーー

 羽百合はカメラを構えた。

 先ほど鳴った心臓が、間隔を狭めて鳴り出す。


 佐伯はとても楽しそうにテニスをしている。本当にテニスが好きなんだと、見ているこちらにも伝わる位。

 ファインダー越しに見えるその姿に、不覚にも胸がざわついた。

 もしかしたら私は、恋をしてしまったのかもしれない。

 デートはどこに行こう。一体どんなメールをくれるのだろう?

 羽百合の心に、春が舞い降りた。





                             END(2010.03.06)






※あとがき※

最後までお読み下さって、本当にありがとうございましたーー!!!!
いやあ、これまた随分と放置していたお話です。2009年の1月に書類を作成してるんで、一年以上かかってますねえ…
第一話の途中でずーっと放置プレイしてましたね。
本気でこうやって途中で投げ出している小説の多い事!!(笑)
今回初めて佐伯君を書いたんですが、彼ってものすごーーーーーーく!爽やかボーイじゃないですか。
なので、実は佐伯君のあの爽やかさは計算されたものなんだよ。という設定で書いてみました。駄目ですか? すいませんw
お題は「もうすぐ春です」でした!




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