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チェンジ・ザ・ワールド☆
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ミロ

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ミロ













 カッツの元に、ルーズからの連絡が入ったのは夜中の12時を過ぎた頃だった。

 どうやら無事男を確保し、これからドルクバ警察で尋問を始める所だと言う。シンは他の男を捜しに先に出かけてしまい、取りあえずルーズだけドルクバ警察にやって来たらしい。

「そうか、お前はトレインから情報を聞いて、IDから出来る範囲でそいつらの事を探ってくれ」

 地球へ行く事が決まってから、カッツは忙しく動いていた。

 今度はどれくらい滞在するのか分からないが、本格的に調査をするなら数週間と言った所だろう。水は地球にあるとしても、食料はある程度買い込まなくてはいけない。武器にしても、閃光弾や電流弾、催涙弾の補充も必要だ。

 シンもルーズもいない今、カッツ一人で買い出しにやって来ていた。

『ええ、尋問が一段落したらトレインから情報をもらう約束をしているから、また連絡するわ』

「頼んだぞ。で? シンのヤツはどこに行ったんだ?」

『さあ? 気になるならすぐに調べるけど……』

 カッツは色々な物が詰まった袋を担ぎ直し、シンの顔を思い浮かべる。

「いや、いい。あいつも馬鹿じゃないから一人で突っ走って無茶はしないだろ」

『ああ、そうね、誰かさんよりは冷静だもんね』

「お前……戻って来たら覚えてろよ」

 ピクリとこめかみをひく付かせ、カッツが恨めしそうに言うと、ルーズは楽しそうに笑った。

『いやねえ、すぐ怒る。初恋の少女の顔でも思い出して、落ち着きなさいよ』

「っ!? シンのやろう! あのおしゃべりがっ! いいからお前はちゃんと仕事して帰って来い!!」

 どこまで話したのか気になるが、聞いて墓穴を掘ったらそれこそお仕舞いだと無理やり通信を切った。

 どいつもこいつも人の初恋を馬鹿にしやがって!

 思い切り心の中で叫び、カッツは足もとの小石を思い切り蹴った。 














 「やっぱりーー」

 ルーズは警察署内の待合室で、トレインと並んで座っていた。

 先ほど捕まえた男はやはり元軍人で、3年程前までエンド政府軍に在籍していたらしい。残念ながらというか、やはり他の仲間に関する情報は一切漏らさない。

「取りあえずID情報はここに入れといた。でもかなり何重にもセキュリティが張られてるぞ」

 トレインからデータの入ったCDを受け取りながら、ルーズは答える。

「でしょうね。まあ、ウイルス送り込まれてやられる前に逃げるようにするわ」

「お前なら逆に大量のウイルスを向こうに送りつけそうだな」

 目を細めるトレインに笑うと、ルーズは取りあえずドルクバ警察署を出る事にした。

「そんな勿体ない事しないわよ。せっかくの情報をおじゃんにしてどうするのよ。それじゃあこれ、ありがたくもらって行くわね」

「おう、何か分かったらすぐ連絡よこせよ!」

「そっちもね!」

 互いに笑い合うと背を向けて歩き出す。ルーズは足早に街をすり抜けながら、これからやるべき事を整理していた。

 地球に向けて出発する為に必要な物を揃える。そして基地に戻りすぐにIDデータの解析を行なう。

 でもその前に……

 足を止めると、ルーズの目の前に黒塗りの高級車が行く手を塞ぎ、中から夜だというのにサングラスをはめた黒いスーツ姿の男達が数名降りて来た。

「これはまた、随分と歓迎されてるみたいね」

 逃げようかと一瞬考えたが、どうもそうは問屋が下ろしてくれないようだ。

 ルーズを囲むように男達が輪を作り、車の後部座席へと無言で促す。仕方なくルーズは車に乗り込むと、先に座っていた男に気付いて一瞬ビクリと体を萎縮させる。

「久しぶりだな、3年振りか? まさかお前が生きていたなんて、驚いたぞ」

 その男の周囲だけまるで別の空気が流れているようだった。

 暗い車内の所為ではない。男自身が持つ雰囲気がそう感じさせるのか、温度が数度下がったようにすら感じる。

 深緑の長髪はオールバックにされ、後ろで一つにまとめられていて、ルーズを見るその眼光は獲物を狙う肉食獣のように鋭く尖っていた。ブルースの店に現れたのは間違いなくこの男だろう。

 しかしルーズの記憶にはこんな男はいない。

「ーーーちょっと待って。今あなた、久しぶりって言った? 3年振りって?」

 先ほどの男の言葉を思い出したルーズが驚いて目を見開く。男は一瞬訝しそうにルーズを見ると、

「何を言っている? 組織に見つかる前に俺様がお前を見つけ出してやったんだ。まさかあの店主に渡したカードを、まだ見ていないのか?」

「見てないわ。それ以前に私、3年前以前の記憶が無いの。だから、あなたみたいな目つきの悪い男なんて知らない」

 驚いたのは男の方だった。鋭い瞳は丸くなり、急にルーズの両腕を強く掴んで詰め寄る。

「記憶が無い? 本気で言っているのか!?」

「冗談だとしたらかなり高度なジョークよね。あなたみたいないかにも人をたくさん殺してますって男を目の前に、丸腰で叩ける軽口は持ち合わせてないわ」

 閉ざされた車という狭い空間の中、しばらく沈黙が続いた。

 男は言った。

 組織に見つかる前に俺様がお前を見つけ出したとーーーもしかしたら自分は組織の人間だったのだろうか?

 ルーズはこくんと唾を呑み込み、意を決して目の前の男に尋ねる。

「ねえ、あなたは私の事を知っているの? 私は一体何者なの? そしてあなたは誰? 組織って、もしかして……plainの事?」

 ふとルーズから手を離した男は脱力してシートに背中を預けると、口元をあげた。

「俺の名は“ミロ”願いを満たす者だ」

「ミロ……満たす者」

 ルーズが男の名を小声で呟いた時だった。急に外が騒がしくなり、まるでその音に操られるようにドアを開けて外に飛び出した。

「待てっ!」

 ミロがすかさずルーズを追いかける。

 車外に飛び出したルーズの目の前に現れたのは、なんとシンだった。外で待機していたスーツ姿の男達を次々と殴り倒し、驚くルーズの手を掴んで有無を言わさず走り出す。

「シン!? 一体どうしたの!?」

 背後を振り返ると、辛うじてシンの攻撃から逃れた2名とミロが追いかけて来るのが見えた。

「どうしたのはこっちのセリフだ。トレインの所へ行ったらお前は先に帰ったって言うし、カッツに連絡したら何だか知らんが怒鳴られるし、お前に連絡しようとしたら通信がきかないし……」

 近くの脇道に素早く体を滑り込ませ、シンは行く手を阻む高い塀に素早く背を向けると中腰になって体の前で両手を組んだ。

「飛べ! 早くっ!」

 ルーズは頷き、勢いを付けてシンに向かって走ると、シンが組んだ手を踏み台に塀に向かって跳躍した。

 シンがルーズの足を空に向かって投げ出した勢いのおかげで、高い塀を楽に越える事が出来た。塀の上部にしがみつき、追っ手が迫るのを確認して声を上げる。

「急いで!」

「分かって、る!!」

 シンは助走を付けて隣りの建物の壁に向かって飛ぶと、身を翻してルーズが捕まる塀へと飛び移った。

「待てっ!!」

 塀から飛び降りる寸前、ルーズはスーツの男達の後ろからやって来るミロの姿をもう一度脳裏に焼き付けると、シンと共に再び走り出した。













 「あいつら一体何者だ? お前と一緒に車に乗っていた男。あいつは本物の殺し屋の目だった」

 無事追っ手を撒き、ベニーランドへ戻る宇宙船の中でシンはルーズに質問をしていた。ルーズはため息を吐く。

「ミロって名乗ってた。あなた達に助けられる前の私を知ってるって……」

「ーーー本当か?」

「嘘じゃないと思うわ」

 ルーズはミロがブルースに預けたICカードの事はシンに伏せておいた。誰かに話してはいけない。自分自身でその内容を確認しなくてはいけないような気がしたのだ。

 黙したルーズに、シンが口を開く。

「お前と別れた後、ちょっと隣町まで行っていた。他の仲間が近くにいるかもしれないと思って、様子を見に行ってたんだ。まあ、何の収穫もなさそうだったからすぐに戻って、警察署に顔を出したんだ。ちょうど入れ違いにお前が帰ったと聞いたら歩いていたら、どう見てもおかしな連中がいた」

「夜中なのにサングラスにスーツ姿の男達?」

「そうだ」

 先ほど囲まれたときの状況を思い出し、ルーズは肩をすくめる。

「で、車の中でよっぽどの話しをしてるんじゃないかと思って通り過ぎる瞬間に小型の盗聴器を車につけて建物の陰に入って中の会話を聞いたんだ。そしたらルーズの声で、人をたくさん殺してますって男を目の前に、丸腰で叩ける軽口は持ち合わせてないとかなんとかって聞こえて来て、これは何かヤバい事に巻き込まれたんじゃないかと思ったんだ。で、取りあえず男を殴り倒してたらお前が出て来た、という訳だ」

 いつもよりよくしゃべるシンに、ルーズは何だかおかしくなってしまった。よほどルーズの事を心配したのだろう。

「そうだったの。ありがとう、助かったわ」

「お前の過去の事、聞けたのか?」

「ううん」

「そうか……悪かったな、邪魔をして」

「別にいいの。やっぱりあのミロって男はヤバそうだったし、あの男とは、きっとまた会う事になる気がするから」

 会わなくてはいけない。そして、自分の過去を知らなくてはいけないと、ルーズは思った。

「一人では行くなよ」

 強い口調で言うシンを見上げ、ルーズは力なく笑う。

「そうね。ま、取りあえず帰りましょう。しばらく地球だし、そっちに集中しなくちゃね」

 窓の外、見慣れたベニーランドの高層ビルのきらびやかな明かりを眼下に、シンは胸の奥で嫌な予感を覚えた。

 ルーズが己の過去を知ってしまったら、MBからいなくなってしまうような気がしてならなかったのだ。

 どこにも行くな……

 などと言えるはずも無く、気付かれぬようため息を吐いて頬杖をついた。







                               続く…





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