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馬鹿だねって言って2

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馬鹿だねって言って












 周助が麗子ちゃんと一緒に帰るようになってから2週間後のこと。私は今、聖ルドルフ学園に来ていた。

 なぜなら昨日の夜、周助の弟である裕太から電話があったから。

 なんか話があるらしいのだが、居心地がすこぶる悪い。


「どうもお金持ち学校は苦手なのよねーーー」


 どこを見てもお洒落で、生徒達も皆品が良い気がする。


「悪い、待ったか?」

「ちょっとね」


 恐らく変な顔をしていたであろう私に、裕太が走って来て声をかける。

 聖ルドルフが多分一番似合わない男だと思う。

 口には出さないけど……


「帰りに担任に捕まっちまってさ」

「別にいいよ。人間観察してたから」

「人間観察? 何だよそれ」


 裕太ともとっても仲が良い。兄弟なのに性格は正反対で、見た目もどっちかって言ったら弟の裕太の方がワイルドで男らしい。

 ちょっと口は悪いがブラコンなところなんて可愛いと思ってしまう。

ついニヤケてしまう口元を手で隠しながら、私は歩き出した裕太に並んで聞いた。


「で、話ってなに?」

「あ~、いや。その……ま、移動してから話すわ」


 そんな大事な話なのだろうか?

 私は裕太の顔を見上げた。

 高校に入ってから裕太の身長は増々伸びた。周助も伸びたけど、やっぱり裕太の方が全然大きい。

 寮に入っているからそんなにしょっちゅうは会えないけど、実家に戻ってきた時は家にも顔を出してくれる。

 ぶっきらぼうな言い方だけど、周助に負けないくらい優しい裕太が私は好きだ。

 じっとぶしつけな視線を送る私に気付いた裕太が、ジロリと私を睨む。


「何ジロジロ見てんだよっ」

「いや、裕太身長伸びたな~って思って」

「あ? そうか?」

「うん、ちょっと会ってなかっただけなのに、すごく男っぽくなった」


 私の言葉に裕太は顔を赤くしてそっぽを向いた。


「馬鹿言ってんじゃねえよ」


 ははは、照れてやんの。愛い奴め。

 それから学校の話や部活の話をお互いにしながら、私たちは公園へとやって来た。

 結構広い公園は中央に大きな池があり、外周はランナーが走りやすいように整備されていた。

 緑の多いその公園の少し丘になっている場所のベンチに腰掛け、夕日を見ながら私たちは話した。

 しばらくすると、ふと裕太が口を噤んだ。

 何事かと裕太を見ると、ものすごく言いにくそうな顔で私を見た。


「どうしたの?」

「あのよ……」


 ふと裕太と視線が合わさった。私は不覚にもその顔にドキッとした。

 今まで意識した事無かったけど、やっぱり男の子なんだなあと改めて目の前の裕太を見て思う。


「お前さ……兄貴の事、好きだろ?」

「ほいっ……?」


 今、なんておっしゃいました? 裕太さんーーー


「……俺、さ。兄貴と電話してて最近仲良くなった女の話聞いて、それでお前が泣いてんじゃないかって心配になってよ……」


 目を逸らさず、私の目をしっかり捕らえてそう言う裕太に、私は頭を殴られたような衝撃がした。

 ーーーちょっと待って、今ものすごい事言ったよね?


「ゆっ、裕太っ!?」

「うわっ!?」


 突然立ち上がって裕太の襟首を掴んだ私に、裕太が驚く。


「今……今何て言った!?」

「はっ?」

「だから、私が、誰を好きだって!?」

「ええ? だから、雪緒が……兄貴の事を好きだって……」


 う、そ…………私って、周助の事が好き、なの?

 わしゃわしゃわしゃっ!!


「お、おい……」


 私は裕太の首を解放し、思いっきり自分の頭を両手でかき回すと、

 ストンーーー

 ベンチに力なく座った。

 チクリとまたお腹が痛んだ。

 頭を抱え放心状態の私に、裕太が話しかける。


「なんだよ雪緒……え? お前、もしかして……自覚なかったのか?」

「わーわーわー!!! 言わないでっ!! ものごっつ恥ずかしいからそれ以上言わないでえっ!」


 私はガバッと体を折り曲げて両耳を塞いだ。

 うるさいくらいに心臓は鳴りっぱなしで、おまけにお腹の痛みがチクチクからギリギリに変わっている。


 最悪だ。


 今頃気付くなんてーーー

 私はきっと、日本一の大馬鹿者だと思う。

 そうか、ずっと痛いと思ってたのは、お腹じゃなくて乙女心だったのか。

 ってそんなアホな事を考えながら、あの日から毎日麗子ちゃんと楽しそうに帰る周助の笑顔を思い出して苦しくなった。


「……どうしよう、裕太ーーー私……とんでもない事周助にお勧めしちゃったーーー」


 私的には麗子ちゃんなんかお勧めなんだけど、どう? 

 な~んて能天気に言った、あの日の自分に帰りたい。

 ああ、なんかそんな感じの歌が昔あったような……

 遠くに走り出しそうな意識に、私は段々と考える事が億劫になってきていた。


 はあ。


 裕太もなんかものすごく呆れてる。隣りに座ってるその気配で分かる私も凄い。エスパー? エスパーね。


「ーーー本当、雪緒って馬鹿だね」


 え?

 隣りから降ってきた声は裕太のじゃなくて、私は慌てて顔を上げた。


「ーーーしゅ……すけ……」


 そこにいたのは周助だった。


「どう、して?」


 慌てて後ろを見ると、裕太が去って行く所だった。


「あーもー馬鹿らしい。じゃあな兄貴、俺は帰るぜ?」

「ごめん。ありがとう、裕太」


 後ろ手にヒラヒラと手を振って、裕太はさっさと歩いて行ってしまった。

 その場に残された私は、混乱したままずっと裕太がいなくなった木の向こうを見続けていた。


「雪緒」

「っ!」


 ビクリと面白いくらい肩が揺れる。

 ゆっくり顔を前に向け周助を見ると、もの凄く冷めた目で、綺麗な顔で微笑んでいた。


 うーわー。恐……菊丸が見たのはこの顔だな。


 と確信し、私は俯く。

 これ以上見てたら間違いなく心臓が止まる。


「何か、僕に言う事はない?」

「ーーーえ~っと……」


 何から話せば良いのやら、私は俯いたまま視線を右に左に泳がせる。

 何故ここにいるんだろう。

 でもさっきの裕太の様子からして、きっと裕太が今日私と会う事を周助に教えていたのだろう。

 そうじゃなければこんなにタイミング良く現れるはずが無い。

 だって、今日は男子テニス部は部活あってるはずだから。

 何も言わない私に、周助がいつもより少し低い声で言った。


「あの時……加賀さんを勧められた時、僕がどんな気持ちだったか分かる?」


 そんなこと知らない。だって、周助の好きな人なんて知らないもん。

 黙っていると、周助は小さくため息を吐いた。


「僕、雪緒が好きな人いないって言った時すごいショックだった……だって、雪緒も僕と同じ気持ちだと思ってたから」

「え?」


 ピタリと視線を泳がせる事を止め、私は今周助が言った言葉の意味を解釈してみる。

 同じ気持ちーーー?


「ーーーえ? それって?」


 どういうーーー


 事? と聞こうと思ったが、怖くて聞けなかった。

 だって、またため息吐かれそうなんだもん。


「本当、雪緒って鈍いよね。僕が加賀さんと一緒に帰ってるのを見てる時の雪緒の顔、すごく傷ついた顔してたよ?」

「嘘……」


 そんなことーーー

 いや、今なら思い当たる。

 だって、毎日周助と麗子ちゃんが並んで歩いている姿を見ていると、ずっとお腹が痛かったから。

 だから、きっと痛みに顔を歪めていたはずだ。

 顔を歪めていたのは、二人の姿を見て傷ついていたからなんだ。

 馬鹿だなあ。私……ってちょっと待て。じゃあ周助は私が傷つくって分かってて麗子ちゃんと一緒に帰ってたってこと?

 酷い……麗子ちゃんに対して申し訳なさすぎる。

 でも。


「ねえ雪緒。分かってる?」


 そこで私はやっと顔を上げる事が出来た。

 もう、周助の事を好きなんだって、自分の気持ちを理解出来たから。

 すごく、すごく好きだって事。

 見上げた周助の顔はさっきと違ってすごく優しかった。

 私の大好きな周助の笑顔。


「僕が、雪緒の事好きってこと……」

「周助ーーー」


 コロンと目から何かが落ちた。

 それが涙だって気付いたのは、周助に抱きしめられてから。

 私は周助の腰に手を回して抱きついた。


「ごめっ……ごめんね、周助ーーーー私……周助の事、好きみたい……」


 そう言って涙を流す私の頭を優しく撫でながら、周助は小さく呟いた。


「ーーー本当に、雪緒は馬鹿だね……」


 そんな所も大好きだけどね。

 そう言った周助の顔には、安堵の表情が浮かんでいた。

 やっと繋がったキモチ。

 もう絶対に離すもんか。

 私の鈍さ加減は自分でも呆れるくらいだけど、それでも周助はきっと笑って許してくれるから……

 ーーーでも、あんまり待たせるとまたあの恐ろしく美しい笑顔が来るかもしれないから、一応気をつける事にしよう。

 そしてごめん……ごめんね、麗子ちゃん。

 ごめんなんて言葉じゃ償いきれないけど、それでもごめんって言葉しか出て来ない。

 嫌われても仕方ない。

 友達なのに、最低だ私……

 それでもやっぱりこの人だけは手放せないの。

 許してなんて言わない。憎んでくれても構わない。

 だから、周助だけは返してください。













 あれから半年。私たちもいよいよ大学受験を目前にラストスパートをかけていた。


「ねえ雪緒ちゃん。今日帰りにハンバーガー食べに行かない?」

「あっ! 行く行く~!」

「それじゃあ放課後玄関でね」

「了解~」


 私と麗子ちゃんはずっと友達のままだった。

 あの日、公園から帰ってすぐに麗子ちゃんの家に行って周助の事を伝えた時、あっさり満面の笑顔で言われた一言。


「うん、知ってるよ」


 泣きそうなのを我慢して言ったのに、麗子ちゃんは周助が私の事を好きなのを知っていて、あまりに気付かない私に業を煮やして周助と計画を立てたらしい。

 最初の


 不二君って好きな人いるのかな?


 ってくだりから、全部……

 いや、もう本当に知らぬは本人ばかりなり。ってやつだった。私ってば本気で鈍いってことだよね。

 情けないやら申し訳ないやら複雑だった。

 でもびっくりしたけど、すごく嬉しかった。

 麗子ちゃんはやっぱり優しくて、とっても可愛くて、私なんかよりずっと大人で、むちゃくちゃ大好き。周助と同じ位。いや、周助よりちょっと好き度は上だな。

 くるりと手に持ったシャーペンを回すと、机の中の携帯が揺れた。

 自習中で良かった。

 届いたメールは周助からで、


『放課後英二が一緒にハンバーガー食べようって言ってるんだけど、雪緒も一緒にいかない?』


 って書いてあった。

 私はすぐに返事を打った。


『こっちは麗子ちゃんに行こうって誘われたよ』


 またすぐに返事が返って来る。


『じゃあ二人で決めてたのかな?』

『私たち、もしかしてお邪魔じゃない?』


 送信を押すとまたすぐに帰って来る。


『じゃあ、二人だけ残して先に帰ろうか?』


 ふふ。いじわるめ。

 麗子ちゃんの事を好きだったらしい菊丸は、いつの間にやら見事そのハートを射止めていた。

 なんだかんだで皆幸せなんだな。と思いながら、私は周助に返事を打った。


『じゃあ先に帰ろっか。帰ったら勉強見てくれる?』


 同じ大学に行きたいから。

 中学に上がる時も、試験のある青春学園を選んだ周助を追いかけるため苦手な勉強を頑張った。

 良く考えたら私はずっと周助中心になんでも選んできた気がする。テニスも、学校も、なにもかも。


 馬鹿だね


 あの日、公園で言われた周助の声が耳に残って離れない。

 馬鹿だから。

 私はどうしようもない馬鹿だから、あなたが必要です。

 帰ってきたメールに目を通し、私は幸せを噛み締めながら携帯を仕舞った。









                            END 







※あとがき※

はい! 不二夢でした! お疲れさまでした!!
案外長くなってしまいました……(笑)
っていうか、この話のレベルの低さに書いた本人が一番びびってます(悪寒…)
でももう何回読み直しても「もういいや〜」って思ってしまうのです。
人間あきらめが肝心です。(いや、違う…)
もっと不二を黒くするか迷ったんですけどねえ…
やっぱり管理人はSの男の子よりもMの男の子が好きです☆
このお題のタイトルを見た瞬間、何故だか「不二しかいない」と思ってしまった。
ヒロインが自分の気持ちに気付かないのってどうだろうと思いますよね。そんな人いるのかな?

それでは、ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございました!





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