チェンジ・ザ・ワールド☆

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 スクワントに配属となって7ヶ月、フレンは副隊長のカイとヤドックの3人で山へ来ていた。

 カイはとても大柄で、額に大きな傷がある。年齢は30代の前半といったところだ。なんでもユウキと同郷らしく、2人はとても仲が良い。


「もう少し先に、ユウキが設置した小型のシルトブラスティアがある」


 今日は山道の数カ所に取り付けられたシルトブラスティアの調査に来ていた。フレンが赴任してきてからしばらく落ち着いていた魔物の様子が変わり、ここ一月ほど、町の外の魔物の数が増えてきている。

 海から流れて来るエアルの量も増えていて、一昨日からユウキは部下を連れてまた海へ出ている。町の警備が手薄になるが、山に設置しているシルトブラスティアに異常が無いか、カイ達が調べに来たのだった。


「隊長はブラスティアの研究もされているんですね。この間庭で何か実験をされていたみたいですが」

「コアが少ないから町を守るほど大きなものは造れないが、隊長はもっと安全に山越え出来るようこいつを作ったんだ。ブラスティアの研究は入隊する前からずっとやってたみたいだな」


 得意げに説明するヤドックに感心し、フレンはふとある事に気が付いた。


「そう言えば聞いたことがありませんでしたが、このブラスティアに使われているコアはどうやって入手したのですか?」


 貴重なコアは見つけたらすぐに帝都へ運ばれる。このような町にいくつも支給される事はない。

 カイはため息を吐く。


「ユウキのブラスティアを見た事があるか?」

「いいえ……」


 言われてみれば、ユウキがそれらしい物を持っているのを見た記憶は無い。


「あいつは自分へ支給されたブラスティアのコアを、山道のシルトブラスティアに使ってるんだ」


 そう言って山道脇の草むらをかき分け、木の根元に置かれているブラスティアを取り出した。


「そんな、それじゃあ隊長は魔術を使えないじゃないですか」

「副隊長っ!!」


 ヤドックの声に、カイとフレンはいつの間に現れたのか、周囲を魔物が取り囲んでいる事に気づいた。


「ちっ……、やっぱりエアルの影響でシルトブラスティアの効力が弱まっているのか」


 カイは魔物の数をざっと確認すると、じわりじわりと近づく魔物に剣の切っ先を向けながらヤドックに顎で魔物を示す。ヤドックは急いでブラスティアを回収すると、自分のブラスティアを発動させた。


「フレン、ヤドックの援護を頼む」

「はいっ」

「行けっ!!」


 カイのかけ声と同時に走り出し、山道を転がるように駆け下りながら魔物を倒して行く。襲いかかって来る魔物はどれも赤い目と牙をむき出しにして3人を襲う。


「はあっ、はあっ」


 下り坂を走りながら、馬のいる場所へ急いだ。


「ヤドック!!!」


 もう少しで馬に届くという手前で、ヤドックはカイに呼ばれて足を止め振り返ると、左手を地面に叩き付けて防御壁魔法を放った。防壁に守られたおかげでヤドックとフレン、馬3頭は守られ、魔物は近づく事が出来なくなった。

 カイは防壁の向こうで魔物に応戦している。


「フレン、急いで馬の手綱を外せ!」

「はいっ!」


 慌てず素早く木に縛られた馬の手綱を解くと、それを確認したカイが自分のブラスティアを発動させた。

 真っ赤な光がカイの体を包み、次の瞬間、周囲を大きな爆発が包んだ。


 ドオーーーーン!


 という地響きと土ぼこりが舞う中、ヤドックは防壁を解き、フレンを促す。


「急げ、フレン!」


 煙の向こうからカイが走って来るのを確認してほっとする。


「新しい魔物が来る前に、町へ戻るぞ!」














 急いで町へ戻ると、3人は信じられない光景を目にした。


 なんと、スクワントの町を守っていたシルトブラスティアが消えていたのだ。


「そんなーーー」

「一体どういうことだ!?」


 カイは町の門へと馬を走らせ、フレンとヤドックもそれに続く。


「副隊長!」


 門には仲間4人がいて、それぞれ武器を持って立っていた。


「何があった?」

「副隊長達が出て行ってしばらくしたら、海から大量のエアルが流れてきました。風の影響か山の方にはあまりエアルは流れず、湾で渦を描くように停滞していたんですが、突然シルトブラスティアが止まって……」


 小柄で青い髪の女性隊員が言うと、その隣りにいた若い男性隊員が汗だくで続けた。


「海からも魔物が近づいてきて、今、サイッズ達が応戦しています。我々は山側から魔物が来た時のためにこちらへ」

「ユウキは?」


 4人が首を横に振る。


「ヤドック、お前はここに残れ。フレン、港へ行くぞ!」

「はい!」













 港へ着くと、カイは馬を飛び降りた。海の上には魔物の姿があり、停泊している船の上で隊員達が応戦している。

 カイは先ほどと同じようにブラスティアを発動させながら、ゆっくりと海へ近づいた。全身を赤い光が包んだが、先ほどよりもさらに大きな光だ。


「全員伏せろーーー!!!」


 カイが叫ぶと、その声に反応して全員が地面に伏せた。


 ドオオオオーーーーーーーンン!!!!


 大きな地響きが辺り一帯を襲い、波が湾から海へ向かって高くうねると、まるで津波のように駆け抜けた。空に打ち上げられた海水が大雨のように周囲に降り、雨と土煙が収まると海の上にいた魔物の姿は相当数消え、残りの魔物もはるか遠く離れた場所へと波にさらわれ移動していた。


「次の敵襲に備えろ! 防御魔法を使う者は港の両脇へ別れて待機! 武器、攻撃魔法を使う者は俺の所へこい!」

「副隊長、船です! 隊長が戻ってきました!」


 サイッズが海の上を指差すと、防御壁に包まれた船が港へと近づいて来るのが確認できた。


「ユウキ、戻ったか……」

「副隊長、魔物が引いていきます!」


 ユウキが乗った船が近づくと、それに合わせて魔物の群れが港から離れて行った。

 到着した船からゆっくりと降りたユウキの姿に、全員がほっとする。


「カイ、状況の説明を」

「俺達が昼前に山に出た後、シルトブラスティアが止まった。それから海の魔物が大量に港へ襲いかかってきたようだ。今、ヤドック達が門を守っている」

「山から魔物は?」

「俺達が山に行った時は襲われたが、今の所は山からの襲撃は大丈夫みたいだ」

「さっきの津波はカイの所為だったわけね。取りあえずシルトブラスティアを何とかしないと。海の方は港の入り口辺りにシルトブラスティアを投げ込んだから、しばらくは持つはず。見張りはノーラ、コラン、イルミラ、ライオル。山側はそのままヤドック達に任せて、6時間後に交代。ミゲルとアシュレイは私と一緒に。カイ、山の方の報告は道すがら教えて。後の者は怪我をした町の人がいたら手当を、解散!」

「「「はいっっ!!」」」


 町の中心にある広場に、スクワントを守るシルトブラスティアは設置されている。そこを目ざして早足で歩くユウキ達。


「山の魔物も凶暴化している。シドンタリアの報告では、遺跡にあった古いブラスティアが関係していたようだが……」

「海での収穫は2つ。一つはエアルの泉を見つけた事」

「エアルの泉?」

「ええ、世界のどこかに点在しているという、エアルを生み出す場所よ。そこはいつもエアルが湧いているのだけど、私たちが見つけた場所のエアルは数値が異常に高かった」

「何か原因が分かったのか」

「見つけたエアルの泉は海底にあったの。岸壁の側の海底で岩礁が多くて船で近づく事は出来ないけど、海底は水深5メートルほどだから潜って行く事は出来る。そこに人が踏み入った痕跡があった」


 そう言ってユウキはカイの手に自分が握っていた物を渡した。


「これは……」

「収穫その2。帝都の紋章が入ったブラスティア。その形はアレクセイ隊が好んで使うタイプ」

「ーーーお前、まさか」


 そこで丁度広場に到着し、ユウキは後ろを着いて来ていたミゲルとアシュレイに声をかける。


「急いで原因を調べるわ。ミゲル、念のために防御壁を展開させて。今、エアルの放出は落ち着いているから、ブラスティアが暴走する事もないわ。アシュレイは術式を開いて原因を調べて。すぐに術式の再構築にかかるわ」

「はい」

「はいっ」

「カイ、これを復旧させたら後でまた話しましょう。それと、明日一番で帝都へ発つ。その準備をお願い。フレンを同行させるから伝えておいて。後、町の人たちは避難所にいるはずだから、念のためしばらくそこに留まるようにと」

「分かった」















 ユウキが急いで対処したおかげで町のシルトブラスティアの復旧作業も無事終わり、皆ほっと一息吐く事が出来た。町の人々もそれぞれの家に戻り、日常を取り戻した。

 見張りや港の片付けなど一通り終えると、気づけば時間は夜になっていた。

 そして今、ユウキの部屋にはユウキとカイがテーブルを挟んで膝を突き合わせて座っている。


「カイ、この事は他言無用よ。恐らく、シドンタリアの遺跡で起きたブラスティアの事件は人為的なもの。誰かが何らかの目的でエアルを暴走させようとしている……それだけじゃない、何か、嫌な予感がする。エアルが妙に騒いでいるのを感じるのーーー」

「シドンタリアでの報告書にそれが記載されていなかった事や、お前が今日見つけてきたブラスティアから『誰か』は簡単に推察出来るが、目的がさっぱりだな。俺達はエアルの恩恵がなければ生活もままならないが、もしエアルが枯渇でもすれば世界中が大変なことになるぞ」

「そうねーーー。でもまあ、ここで考えても仕方ないし、取りあえず危険には変わりないのだから帝都へ報告に行く」

「フレンにはさっき伝えておいた。あいつと2人で大丈夫か?」

「町をこれ以上手薄には出来ないし、フレンの事は私が守るから心配ないわ」

「お前、随分あいつを可愛がってるよな。ーーー惚れたか?」

「バカ言わないで。ーーーフレンには、何か特別なものを感じるのよ」

「ーーーああ。それは俺も感じてる」


 2人は少し沈黙し、それぞれ何かを考えているようだった。

 ふと窓の外を見てユウキが言う。


「カイ。私はもう、ここへ戻って来れないかもしれない」

「そうか……」

「町の事、皆の事、頼むわ」

「まあ、俺で出来る事なら精一杯やるさ……無茶するんじゃねえぞ。お前に何かあったら、あいつらが悲しむ」


 そこでカイの目を見つめると、困ったように笑った。


「悲しませたくはないけれど……まあ、善処はするわ」

「アレクセイ閣下から帝都に戻るよう打診されているんだろ?」

「ええ」

「お前じゃないが、嫌な予感がするな」

「シドンタリアにいた頃から何度も帝都に戻るように言われて断っていたけど、もう、そうも言っていられない状況みたいだしね」

「お前を手元に戻すにはもってこいの状況だからな。シドンタリアやここでの事も、何か目的があっての事だとするなら、お前が欲しい理由の一つはそれだけ危険を伴う仕事があるって事だーーー」


 ふうとカイは息を吐いてテーブルに視線を落とした。


「とにかく、今のままではどうすることも出来ないし、ただでは引き下がらないから。エアルの放出を押さえる事だけはなんとしてでもやる」


 明るく言うユウキに、カイはしごく真剣な表情で頷いた。


「お前の事は信じているさ。ーーー死ぬな、ユウキ」

「分かってる」




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