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act.8(白波瀬)

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就職難民 黙って俺についてこい!










 先ほどと同じように一社ずつマスコミや来場者に向けて、新商品をPRしていく。美星堂は最後なので、私が壇上に上がるにはまだ少しだけ時間があった。少しでもいい。僅かでもいいから気持ちを落ち着かせたかった。


『秀麗では今回のリップグロスを製作するに辺り――――』


 動揺は収まることなく、時間だけがただ過ぎていく。壇上には既に秀麗の代表が上がっていて、今は社長である白波瀬さんが来場者に向って微笑んでいる。

 白波瀬さん、本当に社長さんなんだ……。

 事実を実感として理解すると、思わず肩が震えた。ダメ、泣いている場合じゃない。ぐっと堪えようとして、眉間に力を込めた。そんな顔を見られたくなくて目を伏せると、私の手に握られた冊子が目に入った。

 私が今からこの大勢の人たちの前で、その魅力をアピールする精神誠意込めて作り上げたもの。ぐっと指に力を込めると、その優しい質感の紙が少しだけ擦れた。


 ……そうだ、この紙は白波瀬さんが――――。


『罪滅ぼし、かな』


 脳裏であの日の白波瀬さんの言葉が蘇る。

 そうだよ、この紙を与えてくれたのは白波瀬さんだ。ただ潰したいだけなら、こんな事する必要がない。あのまま私を見捨ててしまえば良かったじゃない! やっぱり白波瀬さんには何かわけがあるんだ。ちゃんと知りたい! 白波瀬さんの口から、全ての理由が聞きたい! それを聞くまでは、落ち込んでなんていられない。


「よしっ」


 小さく私は意気込むと、ぐっと壇上を睨みつけた。大丈夫、私なら出来る。

 そう言い聞かせて―――。


『秀麗の皆さん有難うございました。では最後に美成堂―――』


 拍手とともに壇上へと上がる。社長からの挨拶の後、開発部の方たちの発表が済み、いよいよ私の番となった。

 マイクに入らないよう小さく咳払いをすると、私はぐっと背筋を伸ばし口を開いた。簡単な自己紹介を済ませた後、自分の思いを会場にいる全ての人に向って語りかける。


「……私は化粧品を買う時に、美容部員さんがいるようなお店で商品を選ぼうとすると、少し気後れしてしまいます。目的の物以外にもあれこれと進められてしまうんじゃないか、と戦々恐々と言いますか」


 ここで会場では僅かながら笑いが零れた。といっても馬鹿にしているようなものではなく、私のいかにも小娘といった迷いを微笑ましく受け止めてくれるような、そんな笑いだ。


「かといってドラッグストアなどで購入すると、たまに色味で失敗する事があるんです。ここにいらっしゃる皆様にとってはパーソナルカラーなどは当たり前の知識でしょうが、一般の方にはまだまだ浸透しているとは言い難いです。自分が気に入った色であっても、肌質や肌色などで似合わないという事は、よくある事だと思うのです。かといって試供品が目の前に出ていても、ゆっくり試せなかったり人の目があったりします。人前で化粧をするという行為、これもやっぱり少し恥ずかしいものです」


 また少し会場が微笑む。その穏やかな雰囲気に、私はこの場に圧倒されずに言葉を紡ぎ続ける事が出来る。


「そこで考えたのがこちらの冊子です。画面をご覧ください。このように冊子の中は様々な肌のサンプル写真が載っています。およそ日本人であればこれだけの肌色があれば、どれかは自分の肌に近い物が見つかるはずです。これを使い自分の肌と身比べ、考察し、試供品とともに本来合う色というのを探し出せるように―――これが美成堂が打ち出した販売プランです。美成堂はこの冊子を各販売店舗に無料で配布します」


 無料で配布すると告げると、会場内はざわめいた。こんなに完成度の高い物だもの、普通だったら大赤字だ。それもこれも白波瀬さんが――――

 心に再び引っかかりを覚えながらも、私はなんとか自分の役目を終える事が出来た。

 あとは最優秀賞の発表を待つばかりだ。




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