<"The pretender" 鳳凰の赤い棺> 中編
What if I say I'm not like the others? 私が他の人たちとは違うって言ったら、どうしますか?
What if I say I'm not just another one of your plays? 私があなたの玩具になった他の人たちとは違うって言ったら?
You're the pretender 貴方は、ニセモノです。
What if I say I will never surrender? 私が絶対に屈しないって言ったら、どうしますか?
What if I say I'm not just another one of your plays? 私があなたの玩具になった他の人たちとは違うって言ったら?
You're the pretender 貴方は、ニセモノです。
What if I say I will never surrender? 私が絶対に屈しないって言ったら、どうしますか?
We are not permanent 私たちは永遠じゃない。
We're temporary, temporary 私たちは儚い、儚いモノ。
We're temporary, temporary 私たちは儚い、儚いモノ。
平瀬村分校校舎内保健室、13時35分。カーテン越しに冬の陽が差し込む保
健室には三人の姿があった。一人はベッドに寝かされた満身創痍の矮躯の少年、
一人は伸ばした髪を背に垂らした長身の少女、一人は短く髪を切りそろえた短身
痩躯の少女。それぞれの名は、栄花段十郎、桑原鞘子、川添珠姫という。三人全
員が室江高校剣道部のメンバーであった。
健室には三人の姿があった。一人はベッドに寝かされた満身創痍の矮躯の少年、
一人は伸ばした髪を背に垂らした長身の少女、一人は短く髪を切りそろえた短身
痩躯の少女。それぞれの名は、栄花段十郎、桑原鞘子、川添珠姫という。三人全
員が室江高校剣道部のメンバーであった。
先ほど襲いかかってきた桂を退けたばかりの川添と、彼女たちと合流するため
にかなりの距離を走ってきた桑原はどちらも疲労しており、栄花の様子を見なが
ら自分たちも休息をとるべくこの保健室に戻ってきている。とり忘れていた食事
をしようと、川添は自分の、桑原は桂の置いていったデイパックに手をかけたと
ころで、桑原が桂から逃げる途中で転んだせいで泥まみれの自分の手を見て言っ
た。
にかなりの距離を走ってきた桑原はどちらも疲労しており、栄花の様子を見なが
ら自分たちも休息をとるべくこの保健室に戻ってきている。とり忘れていた食事
をしようと、川添は自分の、桑原は桂の置いていったデイパックに手をかけたと
ころで、桑原が桂から逃げる途中で転んだせいで泥まみれの自分の手を見て言っ
た。
「……うわっ! 何か今まで忘れてたけど、さっきので手とか服とかドロドロー。
洗ってこよっかな」
「あ、水道、止まってます」
「えーっ、そっかあ」
「なので、ダン先輩も血とかあまり拭いてあげられなかったんです」
「あー……」
「最初はペットボトルの水を使おうとしたんですけど、この先のことを考えると
足りなくなったらって思ってしまって……」
洗ってこよっかな」
「あ、水道、止まってます」
「えーっ、そっかあ」
「なので、ダン先輩も血とかあまり拭いてあげられなかったんです」
「あー……」
「最初はペットボトルの水を使おうとしたんですけど、この先のことを考えると
足りなくなったらって思ってしまって……」
そう言いながら川添は、自分の飲み水を栄花の傷の手当に優先してしまった自
分がひどく嫌な人間になったような気がして少し俯いた。が、返ってきた桑原の
返事は明るい。
分がひどく嫌な人間になったような気がして少し俯いた。が、返ってきた桑原の
返事は明るい。
「そーだよね、飲む水はもったいないもん。しょうがないよ」
「……はい」
「……はい」
その言葉に少し救われた気がして、ほっ、と川添は息を吐く。桑原の明るさは、
こんな酷い状況でも失われていない。桑原自身は知る由もないが、その事実はと
もすれば不安に苛まれて沈みそうな川添を、優しく勇気づける。
こんな酷い状況でも失われていない。桑原自身は知る由もないが、その事実はと
もすれば不安に苛まれて沈みそうな川添を、優しく勇気づける。
「あ、でもさあ、あの人……桂さんが荷物置いてっちゃったじゃん? この水を
使っちゃうのはどうかな? ああー、けどやっぱりせっかくだからとっといた
ほうがいいかな、あたしの神社に置いてきちゃったし、飲める水だし……」
「そうですよね……」
「……あっ! そうだ! ここちっさいけど学校でしょ? もしかして貯水タン
クとかあるかも!」
「……あ」
「学校って地震の時とか人集まったりするじゃん。そういうのありそうな感じじ
ゃない?」
「はい」
使っちゃうのはどうかな? ああー、けどやっぱりせっかくだからとっといた
ほうがいいかな、あたしの神社に置いてきちゃったし、飲める水だし……」
「そうですよね……」
「……あっ! そうだ! ここちっさいけど学校でしょ? もしかして貯水タン
クとかあるかも!」
「……あ」
「学校って地震の時とか人集まったりするじゃん。そういうのありそうな感じじ
ゃない?」
「はい」
桑原に言われるまでそのことにまるで思い至らなかった川添は、自分よりひと
つ年上の彼女を頼もしく思う。この、少しだけ素っ頓狂なところのある、明るく
て強い先輩を守ると決めたけれど、自分のほうが支えられているところもたくさ
んあるのだ、と川添は胸の内で言葉をこぼす。桑原は何かを考えるようにしてし
ばらく黙ったあと、もう一度口を開いた。
「……よーし、あたしちょっと探してくるよ! ダンくんの怪我、ばい菌とか入
ったらやばいしね」
「それは、ダメです! 一人は危ないです、サヤ先輩」
「うん、けどダンくん一人にしとけないじゃん?」
「それは……」
つ年上の彼女を頼もしく思う。この、少しだけ素っ頓狂なところのある、明るく
て強い先輩を守ると決めたけれど、自分のほうが支えられているところもたくさ
んあるのだ、と川添は胸の内で言葉をこぼす。桑原は何かを考えるようにしてし
ばらく黙ったあと、もう一度口を開いた。
「……よーし、あたしちょっと探してくるよ! ダンくんの怪我、ばい菌とか入
ったらやばいしね」
「それは、ダメです! 一人は危ないです、サヤ先輩」
「うん、けどダンくん一人にしとけないじゃん?」
「それは……」
桑原の言葉を間髪入れず否定し、一人で行こうとした彼女を止めようとした川
添だったが、冷静な桑原の返答に言葉を呑む。
添だったが、冷静な桑原の返答に言葉を呑む。
「だからさ、タマちゃん、ついててあげてよ」
「……それなら私が行きます、サヤ先輩が残って下さい」
「ううん、タマちゃんがここに残ったほうがいい。だってもし保健室に誰か悪い
やつ来たらさ、あたしよりタマちゃんのほうがダンくんのこと守れるでしょ?
さっきだってタマちゃん、私のこと守ってくれたじゃん。今度はダンくんのこ
と、守ってあげてよ」
「……でも」
「だーいじょーぶ! 心配しないで。ちょっと探してみて見つかんなかったらす
ぐ戻るからさ。ホントになかったら、さっきの桂さんの水使っちゃお。あたし
おなかすいちゃったし、そんなに長くガマンできないもん。ぜったい早く帰っ
てくるからさ!」
「サヤ先輩……」
「タマちゃん、私なら何かあっても絶対逃げ切れるからさ、ホントだいじょぶだ
よ。足には自信アリだし! ……ね、だからここに残っててよ」
「……」
「……それなら私が行きます、サヤ先輩が残って下さい」
「ううん、タマちゃんがここに残ったほうがいい。だってもし保健室に誰か悪い
やつ来たらさ、あたしよりタマちゃんのほうがダンくんのこと守れるでしょ?
さっきだってタマちゃん、私のこと守ってくれたじゃん。今度はダンくんのこ
と、守ってあげてよ」
「……でも」
「だーいじょーぶ! 心配しないで。ちょっと探してみて見つかんなかったらす
ぐ戻るからさ。ホントになかったら、さっきの桂さんの水使っちゃお。あたし
おなかすいちゃったし、そんなに長くガマンできないもん。ぜったい早く帰っ
てくるからさ!」
「サヤ先輩……」
「タマちゃん、私なら何かあっても絶対逃げ切れるからさ、ホントだいじょぶだ
よ。足には自信アリだし! ……ね、だからここに残っててよ」
「……」
真剣な顔でそう言った桑原に、川添は口をつぐんだ。おどけた口調ではあった
が、今の桑原からは絶対に譲らないという強い意志が感じられて、川添はそれ以
上反対する言葉を続けることができなかった。それに……桑原の言うとおり、自
分は栄花も守る必要があるのだ。自分で動けない状態である彼を一人にはできな
い。仕方なく川添は、肯定の言葉を返した。
が、今の桑原からは絶対に譲らないという強い意志が感じられて、川添はそれ以
上反対する言葉を続けることができなかった。それに……桑原の言うとおり、自
分は栄花も守る必要があるのだ。自分で動けない状態である彼を一人にはできな
い。仕方なく川添は、肯定の言葉を返した。
「……わかり、ました。気をつけて、下さい」
「うん! じゃあタマちゃん、ダンくんをよろしくね!」
「うん! じゃあタマちゃん、ダンくんをよろしくね!」
そう言って桑原は、川添と栄花を置いて保健室を出た。残された川添は、何か
胸がざわざわと鳴るのを感じながら、その背を見送る。桑原の右手に握られた真
剣が、鈍く光った。
胸がざわざわと鳴るのを感じながら、その背を見送る。桑原の右手に握られた真
剣が、鈍く光った。
一人で保健室を出た桑原鞘子は、ほう、とひとつ息を吐いた。身軽なほうがい
いだろうと荷物は全部置いてきてある。唯一、身を守るための武器としてあの桂
が置いて逃げていった刀を右手に、彼女は歩く。
いだろうと荷物は全部置いてきてある。唯一、身を守るための武器としてあの桂
が置いて逃げていった刀を右手に、彼女は歩く。
(タマちゃん、心配してたなあ……)
先ほどの川添との会話を思い出し、桑原は少しだけ唇の端を持ち上げた。桑原
が川添の静止にも関わらずわざわざ一人で出てきたのには、川添に彼女が言った
内容以外にも理由があったからだ……つまるところ桑原鞘子は、少しの時間だけ
独りになりたかったのである。川添にはいつも通りの明るい態度で接したつもり
だが、本来傷つきやすいところのある彼女だ。人に見せたくない顔や、人に知ら
れたくない思いというものがある。胸の内にぐるぐると渦巻く複雑な感情にけり
をつけてから、あの保健室に戻りたいと桑原は思っていた。
が川添の静止にも関わらずわざわざ一人で出てきたのには、川添に彼女が言った
内容以外にも理由があったからだ……つまるところ桑原鞘子は、少しの時間だけ
独りになりたかったのである。川添にはいつも通りの明るい態度で接したつもり
だが、本来傷つきやすいところのある彼女だ。人に見せたくない顔や、人に知ら
れたくない思いというものがある。胸の内にぐるぐると渦巻く複雑な感情にけり
をつけてから、あの保健室に戻りたいと桑原は思っていた。
「なんか……くやしーなあ……」
誰もいない廊下で、俯きがちに桑原はぽつりと呟く。その声は板張りの床に吸
い込まれるように消えていった。
い込まれるように消えていった。
……川添は、桂に襲われかかった自分を守るために戦ってくれた。使ってはい
けないと言い含められていたあの突きを使ってまで。あのとき、転んだのが自分
ではなく川添だったら、自分は桂と戦って勝てていただろうか……そんなことを
桑原は考える。
けないと言い含められていたあの突きを使ってまで。あのとき、転んだのが自分
ではなく川添だったら、自分は桂と戦って勝てていただろうか……そんなことを
桑原は考える。
川添は、一人で出ていこうとする桑原を止めた。それなら自分が行く、とまで
言った。それはつまり、自分が一人で行くほうが、桑原が一人で行くよりも危な
くないと思っているということだ。川添は無意識であるが、桑原よりも自分の実
力が高いことを確信しているし、桑原を自分が守るのだと思っている。もちろん
桑原に自分が支えられている部分もあると川添は気づけていたが、それは戦いの
中のことではない。あくまで精神的な部分だった。
言った。それはつまり、自分が一人で行くほうが、桑原が一人で行くよりも危な
くないと思っているということだ。川添は無意識であるが、桑原よりも自分の実
力が高いことを確信しているし、桑原を自分が守るのだと思っている。もちろん
桑原に自分が支えられている部分もあると川添は気づけていたが、それは戦いの
中のことではない。あくまで精神的な部分だった。
そんな川添の気持ちを、桑原は敏感に感じとっている。もちろん、そういう川
添に対して悪感情があるというわけではない。自分より川添のほうが剣の腕にお
いて勝るという紛れもない事実を、ちゃんと桑原は認めている。初めは思ったほ
どすぐにはうまくならないもどかしさに、癇癪を起こして剣道部を辞めようとし
たこともあった彼女だが、やっていくと決めてからは自分なりに懸命に皆ととも
に戦ってきたし、少しずつでも実力を伸ばしてきたつもりでいた。
添に対して悪感情があるというわけではない。自分より川添のほうが剣の腕にお
いて勝るという紛れもない事実を、ちゃんと桑原は認めている。初めは思ったほ
どすぐにはうまくならないもどかしさに、癇癪を起こして剣道部を辞めようとし
たこともあった彼女だが、やっていくと決めてからは自分なりに懸命に皆ととも
に戦ってきたし、少しずつでも実力を伸ばしてきたつもりでいた。
だが……ここにいる限り、「少しずつ」の成長では間に合わない。今、この瞬
間の実力が必要だった。襲ってくる相手は、彼女が強くなるのを待ってはくれな
い。ひとつの大会で負けて、その次の大会までに練習して強くなり、以前に負け
た相手に勝つ……そういう世界とはまるで違う。だからこそ川添は桑原を守り、
桑原を一人にしないようにと心配する。ここはゆっくり一緒に成長していける世
界ではないから。川添に守られなければならない自分が、桑原は悔しかった。
間の実力が必要だった。襲ってくる相手は、彼女が強くなるのを待ってはくれな
い。ひとつの大会で負けて、その次の大会までに練習して強くなり、以前に負け
た相手に勝つ……そういう世界とはまるで違う。だからこそ川添は桑原を守り、
桑原を一人にしないようにと心配する。ここはゆっくり一緒に成長していける世
界ではないから。川添に守られなければならない自分が、桑原は悔しかった。
しかし、それでも桑原は川添に守られてばかりではいられない、と思う。自分
は川添より弱いかもしれないが、いくら川添でも一人では勝てない相手だってい
るはずだ。そういうときに自分が力になれるはず、そう桑原は考える。彼女の右
手に握られた刀が、窓からの淡い光を反射して光った。真剣を持つことは怖い。
それでも、自分はこれで戦えるようにしなければならない。
は川添より弱いかもしれないが、いくら川添でも一人では勝てない相手だってい
るはずだ。そういうときに自分が力になれるはず、そう桑原は考える。彼女の右
手に握られた刀が、窓からの淡い光を反射して光った。真剣を持つことは怖い。
それでも、自分はこれで戦えるようにしなければならない。
「……だいじょーぶ、あたしはやれる!」
しっかりと顔をあげ、窓の外の校庭を見つめながら彼女の発した言葉は、ガラ
スの窓を柔らかく震わせ、響いた。
スの窓を柔らかく震わせ、響いた。
(えーと、水って言ったら屋上だと思うんだけど……でもなあ、ここって……)
水の貯めてある場所といえば、で最初に桑原が思い出したのは、屋上だった。
一般的に都市部の学校の屋上には防災用の貯水タンクが備えつけられているので、
彼女のようにこの場所を最初に思い出す者は決して少なくないだろう。
一般的に都市部の学校の屋上には防災用の貯水タンクが備えつけられているので、
彼女のようにこの場所を最初に思い出す者は決して少なくないだろう。
ところがこの分校は施設としてかなり小規模であった。建物も彼女たちが通っ
ていた室江高校のような鉄筋コンクリート造りではなく、横に長い平屋のような
形をしている。小さな島の学校施設、それも本校ではなく分校とくればそうした
形式も珍しいものではない。桑原も先ほど校舎外に出たときに建物全体を目にし
ているので、この分校に屋上と呼べる場所がないことをすぐ思い出して、他に水
の貯めてありそうな場所はないかと考えはじめる。
ていた室江高校のような鉄筋コンクリート造りではなく、横に長い平屋のような
形をしている。小さな島の学校施設、それも本校ではなく分校とくればそうした
形式も珍しいものではない。桑原も先ほど校舎外に出たときに建物全体を目にし
ているので、この分校に屋上と呼べる場所がないことをすぐ思い出して、他に水
の貯めてありそうな場所はないかと考えはじめる。
(うーん、ああいう屋上にあるやつみたいなのがあるとしたら校舎の裏かなあ。
ああいうんじゃなくて、家に置いてある防災グッズみたいな感じでペットボト
ルとかだったら、倉庫とか? どっちにしろ外に出たほうがいいかも)
ああいうんじゃなくて、家に置いてある防災グッズみたいな感じでペットボト
ルとかだったら、倉庫とか? どっちにしろ外に出たほうがいいかも)
そう的外れでもない推理から、桑原はいったん校舎の外に出て、裏手を探して
みることにした。保健室から近い表の出入口から外に出ると、建物の壁に沿って
歩き、裏へと向かう。途中、古びた倉庫を見つけた。幸い扉の鍵は開いていて中
に入ることができたので、彼女はその中に足を踏み入れる。
みることにした。保健室から近い表の出入口から外に出ると、建物の壁に沿って
歩き、裏へと向かう。途中、古びた倉庫を見つけた。幸い扉の鍵は開いていて中
に入ることができたので、彼女はその中に足を踏み入れる。
(うわっ、ごっちゃごちゃだなー……)
長らく使われていない倉庫は、中身が全く整頓されていない。きょろきょろと
見回しているうちに、桑原は妙なものを見つけた。倉庫の右奥の壁の端、銀色の
古びたバケツに放り込まれたらしい、茶色っぽいような、黒っぽいような長いも
の。
見回しているうちに、桑原は妙なものを見つけた。倉庫の右奥の壁の端、銀色の
古びたバケツに放り込まれたらしい、茶色っぽいような、黒っぽいような長いも
の。
(なんだろアレ、モップには見えないし……)
当初の目的だった水のことを一瞬忘れて、床の細々したものを踏みつけ、大き
いものをまたいで桑原はそれがある場所に進んでいった。そうして目の前に立っ
た彼女が見つけたのは……一丁のボルトアクションライフル。
いものをまたいで桑原はそれがある場所に進んでいった。そうして目の前に立っ
た彼女が見つけたのは……一丁のボルトアクションライフル。
「これ……!」
ボディが木製の厳つい姿をしたそれは、栄花が隠したモシン・ナガンM189
1/30だった。もっとも、桑原はそれが誰のものであったかなど知らないのだ
が。彼女はそれにおそるおそる手を伸ばした。よく見れば、バケツの底には予備
の銃弾まである。まさかこんなものがあるとは想像もしなかった桑原は、しばし
の間、小銃の前で惚けていた。
1/30だった。もっとも、桑原はそれが誰のものであったかなど知らないのだ
が。彼女はそれにおそるおそる手を伸ばした。よく見れば、バケツの底には予備
の銃弾まである。まさかこんなものがあるとは想像もしなかった桑原は、しばし
の間、小銃の前で惚けていた。
「……よし、行こう! 水、水!」
数分が経って、やっと銃身から手を離した桑原は、急に声をはりあげた。非常
に物騒なものとご対面しなければならなかった彼女は、沈んでいく気分をどうに
か上向かせようと、声を出すことで自分を鼓舞したのである。一瞬、自分の持つ
刀より強力な小銃を武器として持っていくことも考えた桑原だったが、とりあえ
ずは水のほうが先だ、と思い直す。水が見つかってから、これを持って保健室に
戻っても構わないはずだ、と考えた彼女は結局何もかもそのままにして倉庫を出
ると、さらに歩いて裏手へと回った。そして……そこで桑原は探していた貯水タ
ンクに出会うことになる。
に物騒なものとご対面しなければならなかった彼女は、沈んでいく気分をどうに
か上向かせようと、声を出すことで自分を鼓舞したのである。一瞬、自分の持つ
刀より強力な小銃を武器として持っていくことも考えた桑原だったが、とりあえ
ずは水のほうが先だ、と思い直す。水が見つかってから、これを持って保健室に
戻っても構わないはずだ、と考えた彼女は結局何もかもそのままにして倉庫を出
ると、さらに歩いて裏手へと回った。そして……そこで桑原は探していた貯水タ
ンクに出会うことになる。
「うーん……」
貯水タンクの周りをグルグルと回ってみて、下のほうにあるバルブらしきもの
を見つけた桑原だったが、そのバルブには針金が巻き付けてあったため、手を出
せずにしばし考え込む。おそらく非常時以外に勝手に開けられては困るというこ
とで巻いてあるのだろう、手でそれをとり去ってバルブを回すのには苦労しそう
だったが、ペンチか何かの道具があれば簡単に外せそうではあった。
を見つけた桑原だったが、そのバルブには針金が巻き付けてあったため、手を出
せずにしばし考え込む。おそらく非常時以外に勝手に開けられては困るというこ
とで巻いてあるのだろう、手でそれをとり去ってバルブを回すのには苦労しそう
だったが、ペンチか何かの道具があれば簡単に外せそうではあった。
(あ……! そっか、さっきの倉庫に何かあるかも!)
じっとバルブ部分を見つめていた桑原は、先ほどライフルを見つけたあの倉庫
のことを思い出す。かなり色々なものが雑多に詰め込まれていたあの倉庫内なら
工具もどこかにしまってありそうだ、と考えた彼女は、すぐに来た道を引き返し
た。もともとそれほどの距離でもないので、彼女ならば走れば10分とかからな
い。もう一回踏み込んだ倉庫の中で工具箱らしきものを見つけた彼女は、そのフ
タを開けるとお目当てのペンチをとり出し、先ほどのライフルが放り込まれてい
たバケツに手を伸ばす。バルブを開けて水を出したら、それを運ばなければなら
ないので、ちょうどいいと思ったのだ。かなり汚れているようなので、洗うのに
いいものは何かないかとあたりを見回すと、ちょうどタワシが転がっていた。そ
れを拾った桑原はバケツから小銃と銃弾を出して壁に立てかけ、タワシとペンチ
をバケツに放り込んで引っ掴み、倉庫の入口から出る。
のことを思い出す。かなり色々なものが雑多に詰め込まれていたあの倉庫内なら
工具もどこかにしまってありそうだ、と考えた彼女は、すぐに来た道を引き返し
た。もともとそれほどの距離でもないので、彼女ならば走れば10分とかからな
い。もう一回踏み込んだ倉庫の中で工具箱らしきものを見つけた彼女は、そのフ
タを開けるとお目当てのペンチをとり出し、先ほどのライフルが放り込まれてい
たバケツに手を伸ばす。バルブを開けて水を出したら、それを運ばなければなら
ないので、ちょうどいいと思ったのだ。かなり汚れているようなので、洗うのに
いいものは何かないかとあたりを見回すと、ちょうどタワシが転がっていた。そ
れを拾った桑原はバケツから小銃と銃弾を出して壁に立てかけ、タワシとペンチ
をバケツに放り込んで引っ掴み、倉庫の入口から出る。
……その時だった。何かが破裂するような、パパパパパパパ……という音が響
く。桑原はすぐにそれが、銃の音だと気づいた。もともと自分に支給された武器
も銃だったし、今も倉庫の中で見てきたばかりだ。それに先ほど桂に襲われても
いる彼女は、何ものかの襲撃だということを瞬間的に理解し、その素晴らしい反
射神経で身体を捻ると、倉庫の中に身を隠そうとした。
く。桑原はすぐにそれが、銃の音だと気づいた。もともと自分に支給された武器
も銃だったし、今も倉庫の中で見てきたばかりだ。それに先ほど桂に襲われても
いる彼女は、何ものかの襲撃だということを瞬間的に理解し、その素晴らしい反
射神経で身体を捻ると、倉庫の中に身を隠そうとした。
「ぐっ……!」
が、わずかに遅い。連射された弾のひとつが彼女の左脇腹を抉った。痛みに耐
えながら倉庫内に戻った桑原だが、このままでは袋の鼠だ。手にしていた真剣を
打ち捨て、急いで奥の壁に立てかけた銃のところまで戻ると、それを持ち上げる。
銃を手にすることも撃つことも恐ろしかったが、そんなことを言っている場合で
ないのも彼女は重々承知だった。すぐさまモシン・ナガンを構えてはみたものの、
傷を負った身体で4キロの重みのある銃を持ち上げて撃つのはかなり難しい。そ
こで彼女は近くにあった大きな木箱に銃身を預け、その箱の陰に座った状態で入
口にむけて照準を合わせた。脇腹の痛みがもたらした咄嗟の行動だったが、結果
的にそれが正解となる。
えながら倉庫内に戻った桑原だが、このままでは袋の鼠だ。手にしていた真剣を
打ち捨て、急いで奥の壁に立てかけた銃のところまで戻ると、それを持ち上げる。
銃を手にすることも撃つことも恐ろしかったが、そんなことを言っている場合で
ないのも彼女は重々承知だった。すぐさまモシン・ナガンを構えてはみたものの、
傷を負った身体で4キロの重みのある銃を持ち上げて撃つのはかなり難しい。そ
こで彼女は近くにあった大きな木箱に銃身を預け、その箱の陰に座った状態で入
口にむけて照準を合わせた。脇腹の痛みがもたらした咄嗟の行動だったが、結果
的にそれが正解となる。
数秒後、戸口に立った陰はマシンガンを構えており、その銃口を倉庫の中に向
けて闇雲に撃ちまくろうとした。しかし、数発が倉庫の壁に撃ち込まれたところ
で、その銃撃が止まる。陰になって桑原の側からは顔の見えない敵が持っていた
マシンガンはイングラムM10。発射速度の速さに定評のあるその銃は、ほんの
1秒半で装弾を撃ち尽くしてしまう。撃った陰の男はそのことを失念していた。
けて闇雲に撃ちまくろうとした。しかし、数発が倉庫の壁に撃ち込まれたところ
で、その銃撃が止まる。陰になって桑原の側からは顔の見えない敵が持っていた
マシンガンはイングラムM10。発射速度の速さに定評のあるその銃は、ほんの
1秒半で装弾を撃ち尽くしてしまう。撃った陰の男はそのことを失念していた。
そして、それは桑原にとっての僥倖だ。動きの止まったおかしな形の陰に向か
って、彼女は思いっきり引き金を引いた。その弾丸は陰の男の左肩に命中する。
男のうめき声を聞いてすぐ、彼女は傍らに置いていたバケツの中からとり出した
タワシを自慢の強肩で男の顔めがけて力いっぱい投げつける。男がひるんだその
隙に彼女は身ひとつで飛び出し、戸口を塞いでいた男に体当たりして外に出た。
って、彼女は思いっきり引き金を引いた。その弾丸は陰の男の左肩に命中する。
男のうめき声を聞いてすぐ、彼女は傍らに置いていたバケツの中からとり出した
タワシを自慢の強肩で男の顔めがけて力いっぱい投げつける。男がひるんだその
隙に彼女は身ひとつで飛び出し、戸口を塞いでいた男に体当たりして外に出た。
(っ、いた、い……! タマちゃん、ダンくん……!)
左脇腹から止めどなく流れ落ちる血液は、彼女の走るあとに小さな染みを作っ
ていく。傷口を押さえてその出血量を見た桑原は、一瞬ゾッとする。他人の身体
からも、そしてもちろん自分の身体からも、これほど沢山の血液が流れるところ
など見たことがなかった。痛いを通り越してもはや熱いような、異様な感覚の傷
は、彼女に「死」が近づいていることを告げていた。
ていく。傷口を押さえてその出血量を見た桑原は、一瞬ゾッとする。他人の身体
からも、そしてもちろん自分の身体からも、これほど沢山の血液が流れるところ
など見たことがなかった。痛いを通り越してもはや熱いような、異様な感覚の傷
は、彼女に「死」が近づいていることを告げていた。
(ダメだ……これであたしが戻ったら、タマちゃんたちが……!)
自分が走ったあとに落ちる血で逃げた方角が分かってしまう今の状況で川添た
ちのいる保健室に戻れば、次に襲われるのは彼らだ、と気づいた桑原は、校舎と
はまるで別の方向に逃げることを選んだ。それは彼女なりの精一杯の抵抗だった。
ちのいる保健室に戻れば、次に襲われるのは彼らだ、と気づいた桑原は、校舎と
はまるで別の方向に逃げることを選んだ。それは彼女なりの精一杯の抵抗だった。
……男がひるんだとき、もう一発撃っていればよかったかもしれない。桑原は
思う。彼女には二度引き金を引くことはできなかった。次に撃てば本当に殺して
しまうかもしれなかったから。一発目は無我夢中で撃った。それが当たってしま
って、よかったと思うと同時に傷のせいばかりでなく血の気が引いた。自分は人
を殺しかけたのだ。戦わなければ、自分も川添たちを助けなければ、そう思って
いた彼女だったが、人を殺す覚悟まではまだ持てていなかった。だから倉庫から
逃げ出したとき、銃をどうしても持ってこられなかった。重すぎる銃を持って走
ればすぐに追いつかれてしまうだろうという理由もあったが、一番の理由は……
自分にはもう絶対にそれが撃てない、という確信だった。
思う。彼女には二度引き金を引くことはできなかった。次に撃てば本当に殺して
しまうかもしれなかったから。一発目は無我夢中で撃った。それが当たってしま
って、よかったと思うと同時に傷のせいばかりでなく血の気が引いた。自分は人
を殺しかけたのだ。戦わなければ、自分も川添たちを助けなければ、そう思って
いた彼女だったが、人を殺す覚悟まではまだ持てていなかった。だから倉庫から
逃げ出したとき、銃をどうしても持ってこられなかった。重すぎる銃を持って走
ればすぐに追いつかれてしまうだろうという理由もあったが、一番の理由は……
自分にはもう絶対にそれが撃てない、という確信だった。
(ゴメン、タマちゃん、ダンくん……! 逃げて、お願いだから……!)
桑原は必死で走った。傷を負っているとは思えない速さで。その背中を、桑原
が捨てた銃を持ったあのおかしな……だが見覚えのある姿の男が追ってきている
のを知って、男を引きつけるようにわざと振り返りながら。
が捨てた銃を持ったあのおかしな……だが見覚えのある姿の男が追ってきている
のを知って、男を引きつけるようにわざと振り返りながら。
鳳鏡夜は左肩からこぼれ落ちる血を忌々しく思いながら、凄まじいスピードで
分校の敷地外へと走り出ていく女を、こちらも走って追っていた。まったく、こ
このところ彼は失策続きだ。苛々と唇を噛みながら足を前へと動かす鳳の右手に
は、倉庫の中に置きっぱなしになっていた、女の撃った小銃がある。まさかあん
なタイミングで自分のマシンガンが弾切れになるとは、鳳にとってもまったく予
想外だった。先にあの不良の男を撃っていたのもあって、気づかぬうちに弾数が
だいぶ減っていたのだろう。弾の無駄遣いにはゆめゆめ気をつけなければ、と自
分に言いきかせながら、彼は走った。
分校の敷地外へと走り出ていく女を、こちらも走って追っていた。まったく、こ
このところ彼は失策続きだ。苛々と唇を噛みながら足を前へと動かす鳳の右手に
は、倉庫の中に置きっぱなしになっていた、女の撃った小銃がある。まさかあん
なタイミングで自分のマシンガンが弾切れになるとは、鳳にとってもまったく予
想外だった。先にあの不良の男を撃っていたのもあって、気づかぬうちに弾数が
だいぶ減っていたのだろう。弾の無駄遣いにはゆめゆめ気をつけなければ、と自
分に言いきかせながら、彼は走った。
宝積寺たちとの合流に失敗したあと、分校の敷地に入るか入らないかのところ
まで来たとき、鳳は長い髪をした背の高い女が走っているのを見た。彼女はその
まま倉庫らしき建物の中に入っていく。女が刀らしきものだけ持って走っている
様子だったので、銃があれば戦闘になっても大丈夫と判断した鳳は、敷地内に踏
み込んだあと、物陰に隠れながら少しずつ倉庫に近づいてマシンガンを構えると
出入口の様子をうかがった。
まで来たとき、鳳は長い髪をした背の高い女が走っているのを見た。彼女はその
まま倉庫らしき建物の中に入っていく。女が刀らしきものだけ持って走っている
様子だったので、銃があれば戦闘になっても大丈夫と判断した鳳は、敷地内に踏
み込んだあと、物陰に隠れながら少しずつ倉庫に近づいてマシンガンを構えると
出入口の様子をうかがった。
しばらく待っていると、女が刀以外にも何か持って出てきた。鳳の目には特に
武器のようには見えなかったので、躊躇うことなく引き金を引く。目にもとまら
ぬ速さで連射された弾が女に牙をむいた。蜂の巣にできるかと思ったが、彼の予
測よりも女の反応が早く、一発当たっただけに終わる。手負いで倉庫に逃げ込ん
だ女をさらに追いつめようと、鳳が倉庫の入口から中に弾を撃ち込もうとしたと
ころで、あの弾切れだ。しかも、まさかあの中に銃があったとは思わなかった彼
は、女が撃った一発を右肩にまともに受けてしまった。その痛みと衝撃に呻く鳳
の仮面をかぶった頭部に、渾身の力で投げられたタワシがぶつかり、ひるんでい
るその隙に女は彼に体当たりをかまして走り出ていった、というわけだ。
武器のようには見えなかったので、躊躇うことなく引き金を引く。目にもとまら
ぬ速さで連射された弾が女に牙をむいた。蜂の巣にできるかと思ったが、彼の予
測よりも女の反応が早く、一発当たっただけに終わる。手負いで倉庫に逃げ込ん
だ女をさらに追いつめようと、鳳が倉庫の入口から中に弾を撃ち込もうとしたと
ころで、あの弾切れだ。しかも、まさかあの中に銃があったとは思わなかった彼
は、女が撃った一発を右肩にまともに受けてしまった。その痛みと衝撃に呻く鳳
の仮面をかぶった頭部に、渾身の力で投げられたタワシがぶつかり、ひるんでい
るその隙に女は彼に体当たりをかまして走り出ていった、というわけだ。
そのまま女を逃がして校舎内を調べることも考えた鳳だったが、あの「東亜く
ん」の位置情報が表示されてから随分時間が経っていることを思うと、他の二人
が中にいる可能性は依然として高いといえども確実ではない。それに、自分に手
傷を負わせた女に対する強い怒りもあって、彼は倉庫の木箱の上に置かれた小銃
と横に落ちていた予備弾を引っ掴んで彼は彼女を追った。
ん」の位置情報が表示されてから随分時間が経っていることを思うと、他の二人
が中にいる可能性は依然として高いといえども確実ではない。それに、自分に手
傷を負わせた女に対する強い怒りもあって、彼は倉庫の木箱の上に置かれた小銃
と横に落ちていた予備弾を引っ掴んで彼は彼女を追った。
女は鳳を気にするようにちらちらと時折後ろをふりむく。地面に点々と続く血
のあとを見る限りかなりの重傷だというのに、それを感じさせない足の速さだっ
た。それでも僅かずつ、女の足が鈍っているのはわかる。傷を負い、銃という余
計な重りを抱えたまま、若干の足枷となる衣装を身に着けた鳳と、身ひとつで血
を流しながら走る彼女の距離は次第に縮まっていた。
のあとを見る限りかなりの重傷だというのに、それを感じさせない足の速さだっ
た。それでも僅かずつ、女の足が鈍っているのはわかる。傷を負い、銃という余
計な重りを抱えたまま、若干の足枷となる衣装を身に着けた鳳と、身ひとつで血
を流しながら走る彼女の距離は次第に縮まっていた。
(……追いつくのは時間の問題だな)
鳳は仮面の中で嫌らしい笑みを浮かべ、踏み出す足に力を入れる。枯れ木の連
なる中を前へ前へと進む彼は、獲物を追う獰猛な獣のようだった。
なる中を前へ前へと進む彼は、獲物を追う獰猛な獣のようだった。
「サヤ先輩……!」
保健室で桑原の帰りを待っていた川添は、校舎裏のほうから聞こえてくるパパ
パパパ……という連続的な銃声に驚いて立ちあがったものの、栄花を一人置いて
出ていくことを躊躇って一瞬、足が止まった。桑原に何かあったらという思いと、
ここを空けている間にもし誰かが栄花を襲ったらという思いとが交錯する。そう
やって彼女が迷っているうちに、今度は短い銃声が響いた。二度目のそれを聞い
た川添は、そこで決断する。
パパパ……という連続的な銃声に驚いて立ちあがったものの、栄花を一人置いて
出ていくことを躊躇って一瞬、足が止まった。桑原に何かあったらという思いと、
ここを空けている間にもし誰かが栄花を襲ったらという思いとが交錯する。そう
やって彼女が迷っているうちに、今度は短い銃声が響いた。二度目のそれを聞い
た川添は、そこで決断する。
(今危ないのはサヤ先輩だ……!)
しっかりと手に刀を握った彼女は、一度だけ寝台で眠ったままの栄花のほうを
振り向いた。
振り向いた。
「……ごめん、栄花くん」
そう呟いた川添は、キッ、と顔を引き締めると、保健室を飛び出して校舎裏へ
と走る。その表情と足取りには、仲間を守るという強い意志が滲んでいた。
と走る。その表情と足取りには、仲間を守るという強い意志が滲んでいた。
数分後、校舎裏にたどり着いた川添が見たのは、学校の敷地の外へと風のよう
に駆けていく桑原の背中と、それを追う者の姿だった。すでにずいぶん遠くなっ
ていた2つの背中だったが、川添の目にはきちんと背格好を判別できる大きさで
あり、そのことが余計に彼女を混乱させた。桑原を追って走っていた人間は、彼
女がよく知る正義の味方の姿をしていたから。
に駆けていく桑原の背中と、それを追う者の姿だった。すでにずいぶん遠くなっ
ていた2つの背中だったが、川添の目にはきちんと背格好を判別できる大きさで
あり、そのことが余計に彼女を混乱させた。桑原を追って走っていた人間は、彼
女がよく知る正義の味方の姿をしていたから。
「レッド……ブレイバー……?」
見間違えるはずもないあの姿。赤と黒のコントラストも美しいあの衣装に、背
中に背負った竹刀。彼女が愛してやまないレッドブレイバーが、今桑原の背を追
って走っていた。正義の味方のレッドブレイバーが桑原を襲うだなんて、そんな
馬鹿なことがあるだろうか? 予想もしないものの登場によって、川添は目の前
の光景を正しく飲みこむことができなくなっていた。
中に背負った竹刀。彼女が愛してやまないレッドブレイバーが、今桑原の背を追
って走っていた。正義の味方のレッドブレイバーが桑原を襲うだなんて、そんな
馬鹿なことがあるだろうか? 予想もしないものの登場によって、川添は目の前
の光景を正しく飲みこむことができなくなっていた。
(なんで……レッドブレイバーがサヤ先輩を……? 違う、大体なんでここにレ
ッドブレイバーが……そんなことって、)
ッドブレイバーが……そんなことって、)
そもそも特撮ヒーローのレッドブレイバーがこんな場所にいること自体おかし
いし、レッドブレイバーというキャラクター自体が作り物である以上、本物であ
るはずもないのだが、あまりにも突然の異様な光景に川添の思考は混乱をきたす。
とはいえ、このまま校舎裏に突っ立っているだけではどうにもならないことも理
解している川添は、ともかく後を追わねばと走り出した。
いし、レッドブレイバーというキャラクター自体が作り物である以上、本物であ
るはずもないのだが、あまりにも突然の異様な光景に川添の思考は混乱をきたす。
とはいえ、このまま校舎裏に突っ立っているだけではどうにもならないことも理
解している川添は、ともかく後を追わねばと走り出した。
(わからない、けど、とにかく……サヤ先輩、無事でいてください……!)
【栄花段十朗@BAMBOO BLADE】
【状態】:重症 後頭部に強い打撲(手当て済み)
【装備】:
【所持品】、デイパック、筆記用具、時計、コンパス、地図、狙撃用スコープ
【思考・行動】
0:………
1:分校やその近くで争いが起きた場合、なんとかしてそれを止める
そしてその方法を考える。それ以外での接触はなるべく避ける
2:室江高のメンバーと合流する。
【状態】:重症 後頭部に強い打撲(手当て済み)
【装備】:
【所持品】、デイパック、筆記用具、時計、コンパス、地図、狙撃用スコープ
【思考・行動】
0:………
1:分校やその近くで争いが起きた場合、なんとかしてそれを止める
そしてその方法を考える。それ以外での接触はなるべく避ける
2:室江高のメンバーと合流する。
※栄花のその他の支給品は用務員室に隠されています
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