<月に砕ける花の音> ◆.b1wT4WgWk
一間流造の小ぶりな本殿の縁の下、並ぶ縁束の陰に身を隠すようにして放送を待つひとりの女がいた。
彼女の名前は桂言葉という。黒い長い髪が風にさらりと流れる。狂気をはらんだ美が静かにそこにうずく
まり、緩やかな笑みを浮かべていた。少し前に金髪の二人組と別れたときよりも、機嫌は随分とよいよう
に見える。それもそのはず。桂は先ほど、この神社で面白いものを見つけたのだ。
彼女の名前は桂言葉という。黒い長い髪が風にさらりと流れる。狂気をはらんだ美が静かにそこにうずく
まり、緩やかな笑みを浮かべていた。少し前に金髪の二人組と別れたときよりも、機嫌は随分とよいよう
に見える。それもそのはず。桂は先ほど、この神社で面白いものを見つけたのだ。
彼女が歩き続けてたどり着いたその神社は、神のおわすところとして尊ばれるに相応しいだけの年月を
重ねてきたのだろう、という風情であった。鳥居をくぐって足を踏みいれたそこに人の気配はなかったが、
それでも用心して隠れるところを探した桂は、本殿の階の裏側に隠された黒いデイパックを目にする。彼
女にそれが誰の持ち物なのか知る術はなかった。実際のところ、それは室江高校の桑原鞘子のものであっ
たのだが、彼女にとっては全くもってどうでもいいことだ。問題は中に何が入っているか、である。
重ねてきたのだろう、という風情であった。鳥居をくぐって足を踏みいれたそこに人の気配はなかったが、
それでも用心して隠れるところを探した桂は、本殿の階の裏側に隠された黒いデイパックを目にする。彼
女にそれが誰の持ち物なのか知る術はなかった。実際のところ、それは室江高校の桑原鞘子のものであっ
たのだが、彼女にとっては全くもってどうでもいいことだ。問題は中に何が入っているか、である。
ためらうことなくそれに手を伸ばした桂は、袋の口を開けてみて驚く。中には立派なライフルと二十も
の予備弾丸、そして食料や水といった支給品のほとんどが手つかずでおさめられていたのだ。
の予備弾丸、そして食料や水といった支給品のほとんどが手つかずでおさめられていたのだ。
――こんなところに荷物を置いていく人がいるなんて、幸運です……。
微笑みながら桂はデイパックの中からライフルをとり出してみる。3~4キロはあるだろうか、彼女に
はずしりと重く感じられた。持って歩くのには少々邪魔だが、荷物と一緒に背負うのなら何とかなりそう
だ、と判断した桂はそれを自分のデイパックにしまうと、中にあった桑原の食料と水に手をつける。放送
のある午後六時までに少しばかり腹ごしらえをする必要を感じたのだ。ごく簡単に食事を終えると、彼女
は腕にはめた時計を確認しながら地図と名簿をとり出した。時計の針が午後六時をさす。ジジッ、という
耳障りな音。桂言葉は開始された雑音まじりの放送に耳を傾けた。
はずしりと重く感じられた。持って歩くのには少々邪魔だが、荷物と一緒に背負うのなら何とかなりそう
だ、と判断した桂はそれを自分のデイパックにしまうと、中にあった桑原の食料と水に手をつける。放送
のある午後六時までに少しばかり腹ごしらえをする必要を感じたのだ。ごく簡単に食事を終えると、彼女
は腕にはめた時計を確認しながら地図と名簿をとり出した。時計の針が午後六時をさす。ジジッ、という
耳障りな音。桂言葉は開始された雑音まじりの放送に耳を傾けた。
* *
――は……ぃ、皆さんこ……んは~。調子はどうだー? 担任の坂持です。今ちょうど午後の六時にな
りましたー。そろそろ日も暮れたしなぁ、だいぶ暗くなってきただろー。夜襲にはちょうどいい時間帯が
やってくるぞー。各自油断しないようになー。
りましたー。そろそろ日も暮れたしなぁ、だいぶ暗くなってきただろー。夜襲にはちょうどいい時間帯が
やってくるぞー。各自油断しないようになー。
よーし、それじ……あ、まずは禁止エリアからいっちゃうぞー。先生、二度は言わないからな、注意し
ろー。
ろー。
まず、今から一時間後。午後七時はFの2だ。
次……、三時間後、午後九時はEの8な。
最後に、五時間後の午後十一時。これはIの4。
次……、三時間後、午後九時はEの8な。
最後に、五時間後の午後十一時。これはIの4。
――以上! ちゃ……とメモしたかー? 忘れてうっかり首輪が爆発! なんてことになるとみっ……
もないぞー。死ぬんだったらちゃーんと、華々しく戦って死ぬように!
もないぞー。死ぬんだったらちゃーんと、華々しく戦って死ぬように!
はーい、次はこれまでに死んだ人の名前を読みあ……まーす。一回目の放送と同じように、名簿の上か
ら順に学校ごとに読んでくからなー。自分の学校のお友達が減ってないかちゃんと確認しろー? 減って
たらその分他の学校の生徒を殺せばいいからなー。
ら順に学校ごとに読んでくからなー。自分の学校のお友達が減ってないかちゃんと確認しろー? 減って
たらその分他の学校の生徒を殺せばいいからなー。
室江高校、川添珠姫さん、桑原鞘子さん、
矢神学院……う校、一条かれん……ん、
…………高校、榊……さん、神楽…………ん、
……かき野学園高校、伊藤誠くん、清浦刹那さん、
軟葉高校、赤坂理子さん、
鈴蘭高校、加東秀吉くん、
桜蘭高校、鳳鏡夜くん、銛之塚崇くん。
矢神学院……う校、一条かれん……ん、
…………高校、榊……さん、神楽…………ん、
……かき野学園高校、伊藤誠くん、清浦刹那さん、
軟葉高校、赤坂理子さん、
鈴蘭高校、加東秀吉くん、
桜蘭高校、鳳鏡夜くん、銛之塚崇くん。
……ん、ちょ……とマイクの調子イマイチだけどな、我慢してくれよー。先生もできる限りの努力はし
てるんだぞー。今回は合計で十一人と。ペースが落ちてないようで何より。優秀……子たちばっかりで先
生は嬉しいぞー。このままどんどん、他校の生徒を殺すようにー。君たちが生き残りを目指すにはそれし
かないからなー。殺られる前に殺るんだぞー。別の学校の生徒と動いてる子も多いみたいだが、お互いが
敵同士だってことをくれぐ……も忘れないようにー。
てるんだぞー。今回は合計で十一人と。ペースが落ちてないようで何より。優秀……子たちばっかりで先
生は嬉しいぞー。このままどんどん、他校の生徒を殺すようにー。君たちが生き残りを目指すにはそれし
かないからなー。殺られる前に殺るんだぞー。別の学校の生徒と動いてる子も多いみたいだが、お互いが
敵同士だってことをくれぐ……も忘れないようにー。
……いやー、皆が頑張っているのを見て先生はすっ……くいい気分だー。この調子で最後までやり遂げ
るんだぞー。先生は心からお前たちを応援してるからなー。それじゃあ皆、元気でなー!
るんだぞー。先生は心からお前たちを応援してるからなー。それじゃあ皆、元気でなー!
* *
「……ふ、ふふふ、ふふふふふ」
桂言葉は笑った。おかしな形に唇をつり上げたまま、ただ、息を漏らすように。黒く長い睫毛に縁どら
れた、その大きく美しい瞳は光を映さず漆黒に沈む。瞳と同じ色をした髪が月明かりを映して艶やかに光
った。もとより白い肌はいっそう抜けるように白く……制服の胸元を強くおさえる華奢な指は震えている。
れた、その大きく美しい瞳は光を映さず漆黒に沈む。瞳と同じ色をした髪が月明かりを映して艶やかに光
った。もとより白い肌はいっそう抜けるように白く……制服の胸元を強くおさえる華奢な指は震えている。
迫る夜の帳の中、神社の境内で浮かび上がる桂の姿は花のように美しい。その艶やかな花はしかし、薄
い硝子でできた壊れやすいものだった。すでにどこかが欠けはじめていた大輪の花は、ぱりん、と透明な
音をたてて散ってゆく。瞬きひとつせぬままに、桂はずいぶんと長い間、ひとりで笑い続けた。
い硝子でできた壊れやすいものだった。すでにどこかが欠けはじめていた大輪の花は、ぱりん、と透明な
音をたてて散ってゆく。瞬きひとつせぬままに、桂はずいぶんと長い間、ひとりで笑い続けた。
* *
――ねえ、あなたいま、なんておっしゃったんですか? とてもおかしなことを私、聞いた気がするん
です。ねえ、ねえ、おかしいですよね、誠くん、すごく、すごく、すごく、おかしいです、よね。
です。ねえ、ねえ、おかしいですよね、誠くん、すごく、すごく、すごく、おかしいです、よね。
「ねえ、誠くん、おかしいですよね……」
なんなんでしょういまのは。ああ、おかしい、ほんとにほんとにおかしい。ふふふふふふふふふふふふ、
ねえ、いまなんておっしゃったんですきこえませんでした、もういっかいいえやっぱりけっこうですきき
たくありませんそんなこともう、にどとぜったいになんておかしなことをおっしゃるんでしょうしんじら
れませんどうしてなんでなんですかそんなことがあるわけないでしょうなにかのまちがいにきまっていま
すだってそんなのありえないじゃないですかそうでしょうまことくんがわたしをおいていくはずがないの
にだからきっとこんなのはぜんぶうそでうそでうそでうそうそうそ、
ねえ、いまなんておっしゃったんですきこえませんでした、もういっかいいえやっぱりけっこうですきき
たくありませんそんなこともう、にどとぜったいになんておかしなことをおっしゃるんでしょうしんじら
れませんどうしてなんでなんですかそんなことがあるわけないでしょうなにかのまちがいにきまっていま
すだってそんなのありえないじゃないですかそうでしょうまことくんがわたしをおいていくはずがないの
にだからきっとこんなのはぜんぶうそでうそでうそでうそうそうそ、
――うそ。そう、嘘。
「ああ……そうですよね、ぜんぶ、嘘なんですよ、だって誠くんが私をおいていくなんてありえません、」
私のことを愛してくださっているあの誠くんが。どこかで私のことを待ってらっしゃるんですよね。ふ
ふ、大丈夫です誠くん、私が絶対に見つけてさしあげますから……。それにしても、ずいぶんと質の悪い
冗談ですね。誠くんが亡くなっただなんて。坂持さん、でしたっけ。こんなことをするなんて少しおかし
いんじゃないでしょうか。政府の方がこんな嘘をつくなんて、一体どういうおつもりなんでしょう。
ふ、大丈夫です誠くん、私が絶対に見つけてさしあげますから……。それにしても、ずいぶんと質の悪い
冗談ですね。誠くんが亡くなっただなんて。坂持さん、でしたっけ。こんなことをするなんて少しおかし
いんじゃないでしょうか。政府の方がこんな嘘をつくなんて、一体どういうおつもりなんでしょう。
そういえば、清浦さんも名前を呼ばれていたような気がします。ああ、そうでした、だとすると、誠く
んのことは嘘だとして、うちの学校の私以外の方はもういらっしゃらないということでしょうか。それな
らそれでいいのかもしれませんね。誠くんは私を愛してくださっているけれど、とても素敵な方ですから、
他の女どもがおかしなことを言い出さないとも限りませんし。誠くんは私だけ見て下さればいいんです。
誠くんは私のものなんです。だって私と誠くんは相思相愛ですもの。私がいれば誠くんは大丈夫なんです
もの。他の女なんていらないです。そうでしょう?
んのことは嘘だとして、うちの学校の私以外の方はもういらっしゃらないということでしょうか。それな
らそれでいいのかもしれませんね。誠くんは私を愛してくださっているけれど、とても素敵な方ですから、
他の女どもがおかしなことを言い出さないとも限りませんし。誠くんは私だけ見て下さればいいんです。
誠くんは私のものなんです。だって私と誠くんは相思相愛ですもの。私がいれば誠くんは大丈夫なんです
もの。他の女なんていらないです。そうでしょう?
……あ、なあんだ、そういうことなんですね。誠くんが他の誰かにとられたりしないように嘘をついて
くださったんです、あの坂持さんという方は。亡くなったということにしてしまえばみんな、誠くんに近
づこうなんて考えは捨てますもの。ふふ、いいですね、これなら私しか気づきませんもの。誠くんをこの
世で一番愛している私しか。おかげで誠くんを探すのが少し楽になります。それにうちの学校の方達はも
ういなくなって下さったんですし、残りは――他の学校の女の方ですね。
くださったんです、あの坂持さんという方は。亡くなったということにしてしまえばみんな、誠くんに近
づこうなんて考えは捨てますもの。ふふ、いいですね、これなら私しか気づきませんもの。誠くんをこの
世で一番愛している私しか。おかげで誠くんを探すのが少し楽になります。それにうちの学校の方達はも
ういなくなって下さったんですし、残りは――他の学校の女の方ですね。
他の学校の女が誠くんを見つけて興味を持ってしまったりしたら少し厄介かもしれません。殺してしま
いましょう。そうですよね、誠くん。私は誠くんだけいれば幸せですし、私だけいれば誠くんも幸せです
もの。目障りなもののない、素敵な世界。きっと誠くんも褒めてくれます。残りの男の方は誠くんに訊い
てみなくては。だって……きっと誠くんはそんなこと言ったりしないとは思いますけど、もしも男の方に
手をかけたことで乱暴で可愛らしさのない女だと思われてしまったら辛いですし。私が誠くん以外の方に
心を動かすなんてありえませんし、そんなことは誠くんもちゃんとご存知なんですもの。そうでしょう?
いましょう。そうですよね、誠くん。私は誠くんだけいれば幸せですし、私だけいれば誠くんも幸せです
もの。目障りなもののない、素敵な世界。きっと誠くんも褒めてくれます。残りの男の方は誠くんに訊い
てみなくては。だって……きっと誠くんはそんなこと言ったりしないとは思いますけど、もしも男の方に
手をかけたことで乱暴で可愛らしさのない女だと思われてしまったら辛いですし。私が誠くん以外の方に
心を動かすなんてありえませんし、そんなことは誠くんもちゃんとご存知なんですもの。そうでしょう?
……誠くん、どこにいらっしゃるんですか? かくれんぼにしては長過ぎます。そろそろ出てきてくれ
たら嬉しいのですけど、でも、きっと私に見つけて欲しいから隠れてらっしゃるんですよね。うふふ。私、
ちゃんと探します。待っていてくださいね。私が見つけたら、誠くんは絶対、私にあの少し照れたような、
優しい笑顔を見せてくれるんですよね。そして私の名前を呼んで、抱きしめてそっとキスしてくれて……
ふふ、……あら。
たら嬉しいのですけど、でも、きっと私に見つけて欲しいから隠れてらっしゃるんですよね。うふふ。私、
ちゃんと探します。待っていてくださいね。私が見つけたら、誠くんは絶対、私にあの少し照れたような、
優しい笑顔を見せてくれるんですよね。そして私の名前を呼んで、抱きしめてそっとキスしてくれて……
ふふ、……あら。
あっちの、林の中……。誰か、いますね。遠くてよく見えませんけど、女、だった気がするんです。殺
してしまわなければいけませんね、誠くん。もうすぐ迎えにいきますから、少しだけ待っていてください。
してしまわなければいけませんね、誠くん。もうすぐ迎えにいきますから、少しだけ待っていてください。
【G-6 鷹野神社境内/1日目 夜】
【桂言葉@School Days】
[状態]:喉に軽いダメージ(治癒しつつあります)
[装備]:ワルサーP38(9/8+1)、ワルサーP38の予備マガジン×5、鉈、レミントンM700(5/5)予備弾丸20
[道具]:相馬光子のデイパック、支給品一式、相馬光子の首輪
[思考の基本]:全ては誠くんのために。優勝狙いだが最終的にどうするかは誠次第
1:伊藤誠との合流。
2:女は殺す。誠の無事と意思を確認するまでは男は殺さない。ただし誠を害する可能性がある者は何をしてでも殺す。
[状態]:喉に軽いダメージ(治癒しつつあります)
[装備]:ワルサーP38(9/8+1)、ワルサーP38の予備マガジン×5、鉈、レミントンM700(5/5)予備弾丸20
[道具]:相馬光子のデイパック、支給品一式、相馬光子の首輪
[思考の基本]:全ては誠くんのために。優勝狙いだが最終的にどうするかは誠次第
1:伊藤誠との合流。
2:女は殺す。誠の無事と意思を確認するまでは男は殺さない。ただし誠を害する可能性がある者は何をしてでも殺す。
※誠の死を嘘だと思っています。普通に会話はできます。すでに狂人の世界に足を踏みいれています。
※何か彼女にとって衝撃的な出来事があれば元に戻るかもしれません。
※桑原鞘子のデイパックは、武器と食料と水一食分の抜かれた状態で神社の本殿の階の下に隠されたままです。
※何か彼女にとって衝撃的な出来事があれば元に戻るかもしれません。
※桑原鞘子のデイパックは、武器と食料と水一食分の抜かれた状態で神社の本殿の階の下に隠されたままです。
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