第二放送 ◆.b1wT4WgWk
百舌が一声、高く鳴く。吹きすさぶ風に巻き上げられた朽葉の踊る校庭。元は白茶けた色をしていただろう乾いた土に、
夜の帳の近づく空で主張を始めた月がまだ弱い光を投げかける午後六時少し前。打ち捨てられた学舎の歪んだ影はまるで
化物のように見えた。
夜の帳の近づく空で主張を始めた月がまだ弱い光を投げかける午後六時少し前。打ち捨てられた学舎の歪んだ影はまるで
化物のように見えた。
校舎の一室、そこだけ神経質なほどに掃除の行き届いた空間に男はいる。建物の様子にはそぐわない最新鋭の機器が並
ぶその部屋。それなりに立派な椅子の上で足を組む男は軍服を身につけ、どこから持ち込んだのかわからないフライドチ
キンの最後に残った皮と肉とを骨から毟りとるように齧り、ご丁寧にべろりと人さし指と親指を舐めてから、嫌気のさす
ような純白のナプキンで指先と口許を拭きとった。品のない笑みを浮かべながら男は放送用のマイクをまだ少し油染みた
指でひと撫でする。彼の腕にはまった時計の秒針は退屈なリズムで、しかし順調に時の進みを告げていた。
ぶその部屋。それなりに立派な椅子の上で足を組む男は軍服を身につけ、どこから持ち込んだのかわからないフライドチ
キンの最後に残った皮と肉とを骨から毟りとるように齧り、ご丁寧にべろりと人さし指と親指を舐めてから、嫌気のさす
ような純白のナプキンで指先と口許を拭きとった。品のない笑みを浮かべながら男は放送用のマイクをまだ少し油染みた
指でひと撫でする。彼の腕にはまった時計の秒針は退屈なリズムで、しかし順調に時の進みを告げていた。
午後六時。きっかりその時間にマイクの電源は入れられ、男は口を開く。鶏を食べるのには使わなかった左手に、白い
紙束。全島に流れる放送の最初の一声は、型通りの挨拶だった。
紙束。全島に流れる放送の最初の一声は、型通りの挨拶だった。
「――はーい、皆さんこんばんは~。」
* *
――はーい、皆さんこんばんは~。調子はどうだー? 担任の坂持です。今ちょうど午後の六時になりましたー。そろ
そろ日も暮れたしなぁ、だいぶ暗くなってきただろー。夜襲にはちょうどいい時間帯がやってくるぞー。各自油断しない
ようになー。よーし、それじゃあ、まずは禁止エリアからいっちゃうぞー。先生、二度は言わないからな、注意しろー。
そろ日も暮れたしなぁ、だいぶ暗くなってきただろー。夜襲にはちょうどいい時間帯がやってくるぞー。各自油断しない
ようになー。よーし、それじゃあ、まずは禁止エリアからいっちゃうぞー。先生、二度は言わないからな、注意しろー。
まず、今から一時間後。午後七時はFの2だ。
次は三時間後、午後九時はEの8な。
最後に、五時間後の午後十一時。これはIの4。
次は三時間後、午後九時はEの8な。
最後に、五時間後の午後十一時。これはIの4。
――以上! ちゃーんとメモしたかー? 忘れてうっかり首輪が爆発! なんてことになるとみっともないぞー。死ぬ
んだったらちゃーんと、華々しく戦って死ぬように!
んだったらちゃーんと、華々しく戦って死ぬように!
はーい、次はこれまでに死んだ人の名前を読みあげまーす。一回目の放送と同じように、名簿の上から順に学校ごとに
読んでくからなー。自分の学校のお友達が減ってないかちゃんと確認しろー? 減ってたらその分他の学校の生徒を殺せ
ばいいからなー。
読んでくからなー。自分の学校のお友達が減ってないかちゃんと確認しろー? 減ってたらその分他の学校の生徒を殺せ
ばいいからなー。
室江高校、川添珠姫さん、桑原鞘子さん、
矢神学院高校、一条かれんさん、
…………高校、榊……さん、神楽……さん、
榊野学園高校、伊藤誠くん、清浦刹那さん、
軟葉高校、赤坂理子さん、
鈴蘭高校、加東秀吉くん、
桜蘭高校、鳳鏡夜くん、銛之塚崇くん。
矢神学院高校、一条かれんさん、
…………高校、榊……さん、神楽……さん、
榊野学園高校、伊藤誠くん、清浦刹那さん、
軟葉高校、赤坂理子さん、
鈴蘭高校、加東秀吉くん、
桜蘭高校、鳳鏡夜くん、銛之塚崇くん。
うーん、ちょーっとマイクの調子イマイチだけどな、我慢してくれよー。先生もできる限りの努力はしてるんだぞー。
今回は合計で十一人と。ペースが落ちてないようで何より。優秀な子たちばっかりで先生は嬉しいぞー。このままどんど
ん他校の生徒を殺すようにー。君たちが生き残りを目指すにはそれしかないからなー。殺られる前に殺るんだぞー。別の
学校の生徒と動いてる子も多いみたいだが、お互いが敵同士だってことをくれぐれも忘れないようにー。
今回は合計で十一人と。ペースが落ちてないようで何より。優秀な子たちばっかりで先生は嬉しいぞー。このままどんど
ん他校の生徒を殺すようにー。君たちが生き残りを目指すにはそれしかないからなー。殺られる前に殺るんだぞー。別の
学校の生徒と動いてる子も多いみたいだが、お互いが敵同士だってことをくれぐれも忘れないようにー。
……いやー、皆が頑張っているのを見て先生はすっごくいい気分だー。この調子で最後までやり遂げるんだぞー。先生
は心からお前たちを応援してるからなー。それじゃあ皆、元気でなー!
は心からお前たちを応援してるからなー。それじゃあ皆、元気でなー!
* *
――ブツリ、という不愉快な音とともに放送は終わりを告げる。マイクのスイッチをオフにした坂持は、作業を続ける
部下の兵士たちにちらりと目をやったあと、ニタニタと笑いながら適当に選んだ生徒の盗聴器の音源に耳を傾けた。
部下の兵士たちにちらりと目をやったあと、ニタニタと笑いながら適当に選んだ生徒の盗聴器の音源に耳を傾けた。
『……ふ、ふふふ、ふふふふふ』
壊れた女の笑い声がヘッドホンから漏れてくるのを聴きながら、水のコップに口をつけて坂持はふう、と満足の溜息を
吐く。
吐く。
『ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……』
耳を侵す声に坂持は唇を舐める。寒風の窓を叩く音が上機嫌の男の耳に入ることはなく……殺伐とした島の中、この部
屋にだけ、歪んだ平和が満ちていた。
屋にだけ、歪んだ平和が満ちていた。
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