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ゲェムを作る側から見た場合 - (2012/06/01 (金) 03:23:19) のソース
**ゲェムを作る側から見た場合 ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 『――次の放送は正午に行われるので、覚えておくんだな』 その宣言をもって、辺りに静けさが戻る。 足を止めて放送に耳を傾けていたフェイスレスは、ふうと大きく息を吐く。 「いやあ、二人とも無事みたいでよかったよ。 ようやく掴みかけた夢を、こんな形で手放せないからね」 言葉の内容に反して、口調に安堵の色はない。 当たり前のことである。 フェイスレスの記憶を持つ才賀勝は強いし、エレオノールも人形破壊者(しろがね)として修羅場をくぐっている。 彼らに限って、こうも早い段階で命を落としたりはしないだろう。 このように分かり切っていた事実を知らされたにすぎないのだから、いちいち胸を撫で下ろすはずもない。 軽薄な笑みを浮かべて、フェイスレスは頬に手を伸ばす。 そのまま思い切り手を引っ張ると、通常ありえぬ勢いで頬が伸びていく。 ギャラリーもいないというのに、奇妙な表情を作っていく。 (まあでも、そうのんきに構えてもられないんだけどね。 どうも『おもしろい』連中ばかり呼ばれてるようだし…… なにより、勝くんもエレオノールも面倒なことに率先して首を突っ込みそうなタチだしねェ) ふざけた行動を取りながらも、フェイスレスの思考は落ち着いていた。 これまでに出会った参加者たちは、誰も一般人とは言い難い。 支給品にしたって、フェイスレスがかつて学んだ錬金術の結晶に匹敵する逸品ばかり。 いかに勝とエレオノールと言えど、必ずしも死なないとは言い切れない。 やはり、早急に合流して捕らえておきたいところである。 (それに、あの放送――) 新宮隼人によると、キース・ブラックの束ねる組織・エグリゴリはかなりの科学技術を有しているという。 それは聞いていたのだが、先ほどの放送は優れた科学技術程度では説明ができない。 充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。 そんな言葉があるし、実際にARMSも科学技術の結晶とは思えない代物であった。 とはいえ一流の科学者でもあるフェイスレスは、隼人の拙い説明からもARMSについて理解することができた。 フェイスレス自身による解釈の補完がかなりあるので、細かくはキース・バイオレットから聞きださねばならないが。 それでも、アレはたしかに科学の結晶と言えよう。 だが―― どこから聞こえてきたのかさえ分からない。 辺りに散らばっている参加者全員に、等しく向けられただろう。 そんな――先ほどの放送。 こちらは、納得できない。 百パーセント不可能だ。 現代の技術においては、という話ではない。 根本的にできるはずがない、のだ。 『音』とは、すなわち『波』だ。 ゆえに、障害物の影響を受けるのである。 ときに跳ね返り、変質し、遮られてしまう。 にもかかわらず、殺し合いの会場全体に等しく音を届けるなど――到底できない。 たとえば、上空や地面から大音量で放送を流すとする。 技術的に可能かはさておき、やってみたとする。 確実に、聞けたものではないだろう。 一部地帯では問題ないかもしれないが、会場全体で屋外屋内の差がなく等しく聞くことができる――とはいかない。 ゆえにフェイスレスは、会場のいたるところから放送を流すものと思い込んでいた。 だというのに、これははたしてどういうことか。 しろがねの聴覚をもってしても、音源の位置を特定できない。 だというのに、音源は一つだということだけははっきりしている。 (……ま、『呪文』だとか『霊力』だとかが関わっているなか、マジメに考えるのもバカらしいっちゃバカらしいんだけど) 少しばかりやるせなくなり、フェイスレスは頬から手を離す。 パチンと軽快な音を立てて、三十センチほど左右に伸びていた頬の肉が勢いよく戻った。 いかなる仕組みか、渦巻いていた白いヒゲもその衝撃で元の形状に直る。 (ようは、いまのエグリゴリ……いや、その組織が関わっているとは断言できないか。 正確には……いまのキース・ブラックは、単なる優れた科学の持ち主ではないってこと) 『錬金術』。 『魔道具』。 『呪文』。 『霊力』。 そして、現時点でフェイスレスが知らない技術。 ――それらのうちのどれか、あるいはすべてを掌握しているのだろう。 (そして、それをわざわざこちらに示しいる、と) 参加者同士が言葉を交わせば、参加者はすぐに自身の知らぬ超常的な技術に気付く。 そんなことせずとも、武器としてわざわざ支給されている。 また、勘のいい参加者ならば放送で勘付くだろう。 (どーもねー。 なんていうか、こう、壊れた自動人形(オートマータ)みたいなんだよねェ。 どうも、歯車が噛み合わないというか) 隼人によると、キース・ブラックは高槻涼を絶望させるつもりらしい。 それにしては、この殺し合いは規模が大きすぎる。 またその場合、最初に彼の思い人と思われる赤木カツミを殺害したのは失策だ。 思い人を失った際の絶望を知っているからこそ、フェイスレスはそう思う。 高槻涼の絶望が目的ならば、『赤木カツミの死』は切り札だ。 最初の一手には相応しくない。どうせならば最後の一手に用いるべきだ。 もしフェイスレスならば、高槻涼自身に赤木カツミを殺害させるだろう。 それこそがもっとも彼を絶望させる展開なのは、明らかだ。 なのに、しなかった。 そこから推測できることは―― 天才的な頭脳を回転させ、フェイスレスはついに結論を導き出す。 えらく神妙な面持ちで顔を上げ、ハッとしたように目を見開く。 小刻みに震えた右手を口元に持っていく。 「こーーーりゃダメダメ。全ッ然、分っかんねえわ」 びよーんと顎を引っ張りながら、わざわざ口に出して言う。 「やっぱし、キース・バイオレットに会わなきゃねー。 そもそも現時点じゃ情報足らなすぎて、なんとも言えんわ」 びょーん、びょーん。 フェイスレスは、顎をゴムのように引っ張っていく。 次第に唇まで引っ張られて、さらには歯茎まで露になる。 しかし、いくらフェイスレスでも歯まで伸縮可能とはいかないらしい。 顎と唇と歯茎がやたらと伸びているなか、歯だけそのままというのはそれはそれで気味が悪かった。 「ふぁ、しょうしょう(あ、そうそう)」 顎が引っ張られているので、上手く言葉になっていない。 だがそんなことを気にせず、フェイスレスは続ける。 「ふぉふぉ、あふぉりおんほんふぇるひょね(ここ、アポリオン飛んでるよね)。 ほふっふぇひゃいだから、ふぉうひゅうのひゃめふぇふぉしぃふぁぁ(僕ってシャイだから、そういうのやめて欲しいなァ)」 右手で顎を掴んだまま、フェイスレスは空いている左手を振るう。 なにもないはずの空間に触れると、金属が擦れるような音が響く。 顔の下半分が伸びた状態で、上半分だけ真剣な表情となる。 「ふぉー、ふぉないだほふぉぞきみふんひょりふぃふぃふぉふふふふぇ(ほー、こないだの覗き見くんよりいいの作るね)」 ちぇっと舌打ちを鳴らすと、フェイスレスは喫茶店へと歩み出した。 【D-5 路上/一日目 朝】 【フェイスレス】 [時間軸]:28巻、勝にゲームを申し込んだ後。 [状態]:健康 [装備]:エネルギー結晶@GS美神(体内)、クピラ(肩)@GS美神、言霊@烈火の炎(体内) [道具]:式神十二神将の札×9(マコラ、ショウトラ、アジラ、サンチラ、シンダラ、ハイラ、インドラ、他は空)@GS美神 ガッシュの魔本@金色のガッシュ、基本支給品一式×2 [基本方針]:愛しの人を手に入れるべく、エレオノールと才賀勝の捜索。才賀正二の悪評を広めるのも忘れない。喫茶店に向かう。 *投下順で読む 前へ:[[既知との遭遇]] [[戻る>第二放送までの本編SS(投下順)]] 次へ:[[思索――自分達の現在位置]] *時系列順で読む 前へ:[[既知との遭遇]] [[戻る>第二放送までの本編SS(時系列順)]] 次へ:[[思索――自分達の現在位置]] *キャラを追って読む |069:[[モーニングティーを飲みに行こう]]|フェイスレス| :[[ ]]| #right(){&link_up(▲)}