溢れた感情は単純に ◆c8fjjCyRkM
加藤鳴海は、考え込んでいた。
トイレにいた少しの時間を狙い澄ましたかのように、丁度高槻涼が起きたのだ。
遠からず起きるだろうと思ってはいたが、まさかまさかのタイミング。
聞かければならないことは沢山あったはずなのに、あまりに突然すぎて考えが纏まらない。
大体、鳴海はもともと頭を動かすのが得意なタイプではない。
なので、第一声を高槻に譲ることになった。
トイレにいた少しの時間を狙い澄ましたかのように、丁度高槻涼が起きたのだ。
遠からず起きるだろうと思ってはいたが、まさかまさかのタイミング。
聞かければならないことは沢山あったはずなのに、あまりに突然すぎて考えが纏まらない。
大体、鳴海はもともと頭を動かすのが得意なタイプではない。
なので、第一声を高槻に譲ることになった。
「ええと……。あの……、あなたが俺をここまで動かしてくれたのか? あと服も用意してくれたり……」
そう言われて、鳴海は気付く。
高槻は、今、全裸なのだ。
暴れ出さないかばかり考えていたので、目前にしながら全く気にかけていなかった。
目が覚めたと思ったら全裸で、いきなり見知らぬ男に体をじっくりと眺められている。
……余計な誤解をされかねなかった。
高槻は、今、全裸なのだ。
暴れ出さないかばかり考えていたので、目前にしながら全く気にかけていなかった。
目が覚めたと思ったら全裸で、いきなり見知らぬ男に体をじっくりと眺められている。
……余計な誤解をされかねなかった。
「あ、そ、そそそ、そうだ! いいから、早くそれ着ろよ! サイズ合うだろ、多分! 裸のままにしといたのは、寝てる奴に服着せるのが難しかったからであって、他意はねえからなっ!」
「え? は、はあ……」
左腕がないというのに、高槻は器用に袖を通していく。
かくしてほんの数分で、全裸の男とそれを見ている男という図は片付けられた。
妙な空気を換えるべく、鳴海はコホンと一息。
鳴海は再び高槻を鋭く睨んで、相手を観察する。
とにかく暴れ出す気がないのは分かった。
いきなり魔獣になったりもしないようだ。
さて、まずは何を聞くべきか。
あの魔獣のことか。どうして暴れたのか。暴れていた時のことを覚えているのか。これからどうするつもりなのか。また暴れる気はあるのか。
山ほど浮かんだ。
考え続ければ、もっと浮かぶだろう。
しかしこれらをいきなり聞いてしまっていいものか。
高槻涼と言えば、最初の会場でカツミという少女(おそらく恋人か何かだろう)を殺された青年だ。
その事実といきなり直面させていいのだろうか。
かくしてほんの数分で、全裸の男とそれを見ている男という図は片付けられた。
妙な空気を換えるべく、鳴海はコホンと一息。
鳴海は再び高槻を鋭く睨んで、相手を観察する。
とにかく暴れ出す気がないのは分かった。
いきなり魔獣になったりもしないようだ。
さて、まずは何を聞くべきか。
あの魔獣のことか。どうして暴れたのか。暴れていた時のことを覚えているのか。これからどうするつもりなのか。また暴れる気はあるのか。
山ほど浮かんだ。
考え続ければ、もっと浮かぶだろう。
しかしこれらをいきなり聞いてしまっていいものか。
高槻涼と言えば、最初の会場でカツミという少女(おそらく恋人か何かだろう)を殺された青年だ。
その事実といきなり直面させていいのだろうか。
「……へっ」
一部だけ銀色だが大部分がまだ黒い髪を掻き毟る鳴海。
らしくもなく考え込んでいる自分が、何だかおかしかった。
そんなことはそれが得意な仲間に任せるべきであって、加藤鳴海の仕事じゃない。
らしくもなく考え込んでいる自分が、何だかおかしかった。
そんなことはそれが得意な仲間に任せるべきであって、加藤鳴海の仕事じゃない。
「覚えてるのかどうかは分かんねーけど、暴走してたお前を助けようとした御神苗優は死んだぜ」
「……っ」
驚愕する高槻。
しかし驚愕するということは……
しかし驚愕するということは……
「暴れてた時のこと、覚えてるんだな」
リビング内に静寂が広がる。
それを鳴海は破ろうとしない。
相手の返答を待つ。
しばらくして、ついに……
それを鳴海は破ろうとしない。
相手の返答を待つ。
しばらくして、ついに……
「意識まで飲み込まれていたが、それでも御神苗優の言葉は俺まで届いていた」
「そうか」
「殆ど覚えていないが、御神苗優の言葉は確かに聞こえていた」
「そうか」
「人間を……『俺』を、『高槻涼』をやめるなと、必死で呼びかけてくれていた」
「そう……か」
かつて、鳴海は生命の水に溶け込んだ白銀の意思に飲み込まれたことがある。
その時、彼の中国拳法の師匠が教えてくれた。
お前はお前だ、加藤鳴海は加藤鳴海で白銀ではないのだ、と。
そう言って、渾身の気を叩き込んでくれた。
その経験が、鳴海の中に思い出された。
御神苗優もきっと同じことをしようとしたのではないだろうか。
そして、だからこそ。
鳴海は、死に行く彼に生命の水を与えなかったのではないか。
彼が人間として、御神苗優として、本当の生を生きたと分かっていたからこそ。
その時、彼の中国拳法の師匠が教えてくれた。
お前はお前だ、加藤鳴海は加藤鳴海で白銀ではないのだ、と。
そう言って、渾身の気を叩き込んでくれた。
その経験が、鳴海の中に思い出された。
御神苗優もきっと同じことをしようとしたのではないだろうか。
そして、だからこそ。
鳴海は、死に行く彼に生命の水を与えなかったのではないか。
彼が人間として、御神苗優として、本当の生を生きたと分かっていたからこそ。
「俺は……、人間として生きたい。もう、二度とジャバウォックに飲み込まれたりなんかしないッ! 御神苗優に許してくれとはいえないし、他の人を守ったって御神苗優を殺した罪から逃れられるとは思っていない。それでも……もう拒まないッ! 御神苗優の言っていたように、背負うことから逃げずに生きていきたいッ!」
「そう…………か」
再び、静寂。
今度それを破ったのは、鳴海の方だった。
今度それを破ったのは、鳴海の方だった。
「一つだけ聞かせてくれ」
浮かぶのは、笑いながら殺されるしろがねの姿。
自分の意思でなく、白銀の遺志に従っている。
もはや人間ではなく、人形に成り果てた者達。
自分の意思でなく、白銀の遺志に従っている。
もはや人間ではなく、人形に成り果てた者達。
「お前は……御神苗優が望んだから、その選択をしたのか? あいつがそうしろと言ったから、それに黙って従おうと……」
「それは違う」
質問の途中で、高槻が言葉を被せてきた。
その力強い視線を見て、鳴海の脳内から『しろがねという名の人形達』の姿は吹き飛んだ。
その代わりに浮かんだのは、共にフランシーヌ人形のすぐ近くまで到達した仲間。
人形などではない、己の意思を持ったしろがねやしろがねO達であった。
その力強い視線を見て、鳴海の脳内から『しろがねという名の人形達』の姿は吹き飛んだ。
その代わりに浮かんだのは、共にフランシーヌ人形のすぐ近くまで到達した仲間。
人形などではない、己の意思を持ったしろがねやしろがねO達であった。
「彼の言っていたように生きようと決めたのは、俺だ。言われるがままな訳じゃなく、俺の……高槻涼の意思で進みたい」
「へっ、そうかよ」
警戒を解き、鳴海は高槻の元まで歩み寄る。
自分も自動人形を滅ぼそうと決めたが、それは白銀の遺志に従う操り人形としてじゃない。
人間、加藤鳴海が決めたのだ。
そして、高槻もそうなのだろう。
人間、高槻涼が決断したのだ。
御神苗優は、その後押しをしたにすぎない。
自分も自動人形を滅ぼそうと決めたが、それは白銀の遺志に従う操り人形としてじゃない。
人間、加藤鳴海が決めたのだ。
そして、高槻もそうなのだろう。
人間、高槻涼が決断したのだ。
御神苗優は、その後押しをしたにすぎない。
「んじゃ、俺はお前を信じるぜ。御神苗にも助けてやれって言われてたしな」
「……! 御神苗優が……」
「よく分かんねーけど、あいつも自分の中にいる魔獣と戦ってたらしいぜ。だからやり直せる、人として全うできる、起きたらそう伝えとけってよ。死ぬ寸前まで人のこと考えてたんだぜ、あいつ」
「そう……ですか。ありがとうございます、えっと……」
「鳴海、加藤鳴海ってんだよ。ああ、あと、その敬語やめてくれよ。同い年くらいだろ」
「…………?」
信じられないといった表情の高槻。
この殺し合いに巻き込まれる少し前に、大幅に年上に見られていたことを思い出す鳴海。
この殺し合いに巻き込まれる少し前に、大幅に年上に見られていたことを思い出す鳴海。
「俺は、19歳、だ」
年齢のところを強調して言うと、高槻は丸くしていた目をさらに丸くする。
かなりショックで、鳴海は肩を落とす。
気を取り直すまで5分を要してから、鳴海は大きな右手を前に出す。
意図を理解したらしい高槻も残された右手を出し、互いに固く握手を交わす。
かなりショックで、鳴海は肩を落とす。
気を取り直すまで5分を要してから、鳴海は大きな右手を前に出す。
意図を理解したらしい高槻も残された右手を出し、互いに固く握手を交わす。
「このふざけた殺し合い、絶対に止めてやろうぜ、高槻」
「ああ鳴海。カツミや御神苗優の為にも、ブラックの思い通りになんてさせない」
そしてすぐに表に出ようとしたのだが、玄関を出る寸前で鳴海がまだ動けないことに気付く。
紅麗と阿紫花英良の2人が、こちらに向かってきているはずなのだ。
慌てて高槻を止めて、鳴海はその旨を話す。
2人の詳細や暴走したジャバウォックを止めるまでの経緯を話したところで、辺りにキース・ブラックの声が響いた。
死者を告げる放送の時間が、やって来たのだった。
紅麗と阿紫花英良の2人が、こちらに向かってきているはずなのだ。
慌てて高槻を止めて、鳴海はその旨を話す。
2人の詳細や暴走したジャバウォックを止めるまでの経緯を話したところで、辺りにキース・ブラックの声が響いた。
死者を告げる放送の時間が、やって来たのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
16人も死んだ。
その中に加藤鳴海の知る名はなかったが、だからといって安堵できるような男ではない。
怒りに体を震わせ、握り締めた拳を壁に叩き付けようとした。
しかし今にも壁に拳が触れんとするところで、どうにか堪える。
衝動的に壁を壊しても、何にもならない。
この拳を叩き付けてやるべき相手は、他に沢山いるはずだ。
怒りを内に閉じ込めて、そして鳴海は気付く。
高槻もまた体を震わせ、拳を握り締めているのだ。
脳裏を過るのは、最初に会った時の姿。
背筋が凍るが、高槻を信じたいという気持ちの方が勝った。
その中に加藤鳴海の知る名はなかったが、だからといって安堵できるような男ではない。
怒りに体を震わせ、握り締めた拳を壁に叩き付けようとした。
しかし今にも壁に拳が触れんとするところで、どうにか堪える。
衝動的に壁を壊しても、何にもならない。
この拳を叩き付けてやるべき相手は、他に沢山いるはずだ。
怒りを内に閉じ込めて、そして鳴海は気付く。
高槻もまた体を震わせ、拳を握り締めているのだ。
脳裏を過るのは、最初に会った時の姿。
背筋が凍るが、高槻を信じたいという気持ちの方が勝った。
「おい高槻……」
「大丈夫だ」
鳴海が声をかけてみると、高槻は間を置かずに答えた。
「武士が死んだ。俺達と同じ、ARMSを埋め込まれた兄弟の、武士が……」
鳴海はまだARMSの説明を受けていない。
頭の回りそうな紅麗が来てからのほうがいいだろうと考えたのだ。
それでも、ARMSという物の仕業であの魔獣の姿になっただろうと推測するのは難しくなかった。
頭の回りそうな紅麗が来てからのほうがいいだろうと考えたのだ。
それでも、ARMSという物の仕業であの魔獣の姿になっただろうと推測するのは難しくなかった。
「でも、大丈夫だ。もう、逃げない」
見るからに取り繕っていると分かる笑みを浮かべて、高槻は言い切った。
強い言葉だと、鳴海は思う。
テレビの中のヒーローみたいだ。
とても理想的だ。
そう思っていながら、鳴海は高槻の頬を叩いていた。
強い言葉だと、鳴海は思う。
テレビの中のヒーローみたいだ。
とても理想的だ。
そう思っていながら、鳴海は高槻の頬を叩いていた。
「この馬鹿野郎が」
呆けている高槻に向かって、吐き捨てるように言ってやる。
「大人しくかっこつけてんじゃねえ」
その昔。
これは、鳴海が自分を見失うよりも、しろがねになるよりも、片腕を失うよりも、ずっとずっと昔。
鳴海には、弟がいた。
お母さんのお腹から生まれてくることはなかったが、確かに弟がいたのだ。
その弟が0歳の誕生日すら待たず命を失った時、鳴海は一体どうしたのか。
まだ小学生の時のことだが、鳴海は今でも鮮明に覚えている。
なのに、今の高槻はどうだ。
彼の言った『兄弟』は喩えであり、実際に血が繋がっている訳ではない。
そんなことを鳴海は知らないが、もし知っていても同じことを言っただろう。
これは、鳴海が自分を見失うよりも、しろがねになるよりも、片腕を失うよりも、ずっとずっと昔。
鳴海には、弟がいた。
お母さんのお腹から生まれてくることはなかったが、確かに弟がいたのだ。
その弟が0歳の誕生日すら待たず命を失った時、鳴海は一体どうしたのか。
まだ小学生の時のことだが、鳴海は今でも鮮明に覚えている。
なのに、今の高槻はどうだ。
彼の言った『兄弟』は喩えであり、実際に血が繋がっている訳ではない。
そんなことを鳴海は知らないが、もし知っていても同じことを言っただろう。
「泣くべき時は、笑うべきじゃないんだぜ」
呆然としていた高槻は、すぐに表情をくしゃりと歪めた。
力なく倒れ込んだところを、鳴海の太い腕に抱えられる。
それに礼を言うことすらせずに、言葉にならない呻き声をあげる。
彼が向き合っているのは、武士一人を失った悲しみではないのだろう。
一度向き合うことから逃げたカツミの分まで、今ようやく対面しているのだ。
高槻を抱える腕が湿り気を帯びていることに気付きながらも、鳴海は彼をどかす気にはならなかった。
今の高槻のように悲しんでいる人が、きっと他にも沢山いるはずなのだ。
鳴海は何も言わず、ただ拳をぎゅっと握った。
力なく倒れ込んだところを、鳴海の太い腕に抱えられる。
それに礼を言うことすらせずに、言葉にならない呻き声をあげる。
彼が向き合っているのは、武士一人を失った悲しみではないのだろう。
一度向き合うことから逃げたカツミの分まで、今ようやく対面しているのだ。
高槻を抱える腕が湿り気を帯びていることに気付きながらも、鳴海は彼をどかす気にはならなかった。
今の高槻のように悲しんでいる人が、きっと他にも沢山いるはずなのだ。
鳴海は何も言わず、ただ拳をぎゅっと握った。
【F-4 民家/一日目 朝】
【高槻涼】
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(止血済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認)、手ぬぐい(左腕の止血に使われている)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。
[時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。
[状態]:左二の腕から先を喪失(止血済)、スーツ@現地調達
[装備]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認)、手ぬぐい(左腕の止血に使われている)
[道具]:なし
[基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。
※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。
【加藤鳴海】
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。
[時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、支給品1~3(確認済み)
[基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。
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063:人間――Side_B | 高槻涼 | 093:思索――自分達の現在位置 |
加藤鳴海 |