交錯する覚悟(後編)
そして、互いに決め手を欠いたままの戦いがどれだけ続いただろうか。
殺し合いの場にはあまりに似つかわしくない軽快な音が鳴った。
シ゛ャカシ゛ャカシ゛ャンシ゛ャン!シ゛ャシ゛ャン!
「…ぅ」
どこかで聞いたような音に反応し、リュウセイの意識は覚醒した。
「・・・私はこの様な音を流せとは言っていないが」
その後に続く、聞き覚えのある声に目を開く。
目に映る光景に、見覚えは無かった。ロボットのコクピットであることは分かったが、
それは慣れ親しんだ自分の機体、R-1の物ではない。
「コ゛ホン、まぁ良い、聞こえているかな参加者の諸君。まぁ、聞こえないのは既に死した者だけだが」
再び、聞き覚えのある声が聞こえた。誰の声だったか。…そうだ、ユーゼスだ―――ユーゼス!?
声の主がユーゼスだと気付いて、即座にリュウセイは飛び起きた。
そして、今自分の置かれている状況を思い出す。
気がつけば大きな部屋の中にいて、突然現れたユーゼスに、理不尽な殺し合いを強要されている、この現実を。
モニターには、先程遭遇したかつての上官―――イングラム・プリスケンが乗るスーパーロボットを彷彿される作りの機体と、
突然襲い掛かってきた灰色の小さな機体が戦いを始めていた。
「くそ…ッ!」
誰に言うとも無く毒づき、リュウセイは機体の損傷をチェックし始めた。
「なんでだよ…!なんで、殺し合いなんかしようとするんだ!!」
言いながら、素早く計器を確認していく。
目の前で誰かが死ぬのなんか見たくない。自分の知る人物は勿論、例えそれが、このゲームに乗ってしまった相手だとしてもだ。
「ああ・・・耳さえ貸してもらえればよいから、殺し合いながらでも結構だよ」
「…ユーゼスッ!!」
再び聞こえてきた仮面の主催者の声に、リュウセイはその名を呼んで空を睨んだ。
遥か上空の彼方に、奴のいるヘルモーズが見える。
空に鎮座するその戦艦の中で、けして参加者の手の届かない安全な場所から、
見下すようにこの殺し合いを楽しんでいるあの男への怒りが腹の底から沸きあがるのをリュウセイは感じた。
そして、ヤツの言うように今まさに殺し合いをしている、目の前の二機に対しても。
「くそ…!あの野郎の言う通りの事してて、悔しくねぇのかよ…ッ!!」
怒りと苛立ちに耐えながら、リュウセイは機体のチェックを続けていく。
「では、これより死亡者と禁止エリアの発表を行う。心して聞きたまえ」
その声に、リュウセイの動きが止まった。
「まずは、皆が待ち望むこれまでの死亡者発表と行こうか…アラド・バランガ、アルマナ・ティクヴァー、一色 真… 」
名前が読み上げられる。
死亡者の、名前が。
既にこの世にいない、呼んだとしても、決して答えの声って来る事の無い名前が。
「以上、12名だ。・・・なかなかの結果じゃないか。 その調子で、快適な殺し合いを楽しんでくれ」
12人。
12人もの人間が、死んだ。
開始から六時間。たったそれだけの時間で、10を超える数の命が失われた。
その中には、あの全員が集められた部屋で目の合った人間も居たかもしれない。
隣にいたあの男が、近くで震えていたあの少年が、部屋から出されるとき、自分の前にいたあの少女が、居たのかもしれない。
「…ちっ…くしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」
気がつけば、リュウセイは叫んでいた。
「続いては禁止エリアだ。今から二時間後…」
ユーゼスが続けて禁止エリアを宣言しようとしているが、最早リュウセイの耳には聞こえていなかった。
何も出来なかった。
自分のあずかり知らぬ所とは言えど、人の命が失われている時に、自分は何も出来なかった。
その無力さが歯痒い。
軍に勧誘され、憧れだったロボットのコクピットに座り、戦争を続けようとする者を倒して平和をこの手で勝ち取った。
なのに。
なのに何故、こんな事になった?
もう平和が訪れたんじゃなかったのか?
なのに何故、俺達はこんな見ず知らずの土地で、こんな馬鹿げた殺し合いを強要されている?
「くそ…くそ…くっそぉぉぉぉぉぉ!!!!」
コンソールへ何度も拳を叩きつけ、リュウセイは無念さを声に換えもう一度叫びを上げた。
収まらない―――収め方の知らない怒りを抱えたまま、中断していた機体チェックを再開する。
もうたくさんだ。
もうこんな思いはしたくない。
もうこれ以上、誰かが死ぬのは耐えられない。
こんな馬鹿げたゲームは―――俺がこの手で、絶対に止めてやる!!
倒れたまま停止していたフェアリオンが、ゆっくりとその身体を起こす。
頼りない足取りで立ち上がり、その機械の両目が、いまだ殺し合いを続ける二つの機体を見据えた。
そして、燻り続ける怒りをぶつけるかのように、無力さを突き付けられた無念さを晴らすかのように。
無益な争いを続けるメガデウスとアーバレストへ向け、リュウセイは感情の全てをぶちまけるように叫んだ。
「やめろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
リュウセイの叫びに、メガデウスとアーバレストは争いの手を止めた。
「リュウセイ!?気が付いたのか!?」
「そこの貴方!生きていたなら、早く逃げなさい!」
そして、互いの言葉に顔を見合わせる。
「なによ、貴方たち知り合いなの!?なのに殺そうとするなんて!」
「何を言う!先に仕掛けてきたのは貴様だろう!」
「ふざけないで!私は貴方があの機体に攻撃しようとしてたから止めに入っただけよ!実際、殴り飛ばしてたじゃない!」
「それは…ッ!」
争いの手は止まったものの、互いにまだ相手がゲームに乗っていると思っている二人は言い争いに形を変えて戦いを続行した。
放っておけば、再度殺し合いを始めるのに長い時間は必要ないだろう。
それを止めるべく、リュウセイはもう一度言い争う二人に感情を叩き付けた。
「いいから!もう戦いなんて止めろ!!目の前で誰かが死ぬのなんて、俺は絶対に見たくないんだ!!」
その声に言い争いを止め、二人はフェアリオンへと視線を向ける。
「リュウセイ…」
「…」
フェアリオンのスピーカーからは、ただリュウセイの荒い息遣いだけが響いていた。
「成る程、私の早とちりだったってわけか…」
その後、とりあえず争いを止めた二人は、リュウセイを交えて事情を話し合っていた。
「ああ、俺と教官は敵じゃない。
確かに、あの時教官は俺に拳を向けたけど…それは、なにか考えがあったんだと思う。そうだろ、教官?」
フェアリオンの頭部が、メガデウスの方を向く。だが、メガデウスからの返事は返ってこない。
話し合いが始まってから、イングラムは一言たりとて口を開いていなかった。
話を振っても反応しないイングラムにリュウセイはため息をつくと、リュウセイは仕方なくセレーナに視線を戻す。
「とにかく、そういうわけだから、無駄な争いは止めて欲しいんだ」
「…だ、そうですけど。どうします、セレーナさん?」
エルマの問いかけに、セレーナは唇に人差し指を当て、ちらりとメガデウスに視線を向けて何かを考えた後、口を開いた。
「そうね…」
そこで言葉を区切り、セレーナはアーバレストをメガデウスへと向き直らせた。
そして、無言を貫くイングラムに語りかける。
「さっき戦ってて、貴方の覚悟が伝わってきたわ。そして、同時に違和感も」
「………」
反応は無い。だが、セレーナは構わず続けた。
「その違和感が何なのか、今分かった。貴方の覚悟には、迷いがある。
そして、迷いを抱えた貴方は、遠からず誰かを殺すわ。その迷いを消すために…違うわね、誤魔化すために、よ」
イングラムは答えない。それでも、セレーナの言葉は続く。
「哀れよね、そんな理由で殺される相手も、そして、人を殺し、自分を追い詰める事で覚悟を保とうとする貴方も。
そうやって覚悟を保とうとするなら、貴方は更に多くの人を殺す。そうじゃなきゃ、覚悟に押し潰されるもの。
悪いけど―――私はそんな貴方を、野放しには出来ない」
そして単分子カッターを抜くアーバレストを見て、リュウセイは慌てて止めに入った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!教官はそんな人間じゃない!殺し合いなんか止めてくれ!」
「貴方の言いたい事はわかるわ。だけどね、彼は貴方の思っている程まともな状態じゃないの。
このまま放っておけば、彼は間違いなく人を殺すわ」
「そんな…。教官!教官からもなんか言ってやってくれ!」
イングラムは答えない。
「教官!!」
その様子に苛立ちを覚えたリュウセイが語気を強めるが、それでもイングラムは無言だった。
なおも詰め寄ろうとするリュウセイを制し、今度はセレーナがイングラムに向かって言う。
「レディからのお誘いよ。当然、受けるわよね?」
「―――断る理由は無い」
「な…!?教官!?」
「下がっていろ、リュウセイ」
そういって、メガデウスは踵を返す。
リュウセイを巻き込まないためだろうか、フェアリオンから離れようと歩いていくメガデウスに、アーバレストが続いた。
「なんでだよ!なんで…ッ!なんでまだ、殺し合おうとするんだ、あんたらは!!」
リュウセイの叫びを背中で聞きつつも、二機の歩みに躊躇いは無かった。
夕日が辺りを照らす中、しばしの時間を経て、メガデウスとアーバレストは再び対峙していた。
「アル、ECSを使うわよ」
アーバレストのコクピットの中で、セレーナがアルに向けて言う。
<警告、戦闘時のECS使用は、エネルギーを大量に消費します>
「少しの間だけよ。どの道、まともに戦ったら泥試合になるのはさっき嫌って程分かったからね。
無茶をしてでも、一気にケリをつけるわ!」
<ラージャ>
アルが答えるのと同時、アーバレストがECSを展開し、その姿を消した。
「何!?」
メガデウスのスピーカーから、驚きの声が聞こえる。
目の前の機体が唐突に見えなくなったのだ、無理も無いだろう。
その隙を逃すはずも無く、セレーナはアーバレストをメガデウス目掛け疾走させる。
手持ちの武装であの装甲を貫く事は難しい。先程までの戦いで、その事は十分すぎるほど学習した。
ならば、どうするか。
簡単だ。ECSで姿を消して肉薄し、コクピット―――首の付け根を、零距離からショットガンで撃ち抜く。
というより、あの装甲を鑑みればこれくらいしか勝つ方法は無いだろう。
(あの子には悪いけど…今の貴方は、見過ごせない!!)
アーバレストがショットガンを構え、メガデウスへと跳躍しようとした、その時だった。
「く…!舐めるなッ!」
メガデウスの腰部にある突起―――モビーディック・アンカーが、周囲に向けて発射された。
「―――!?」
予想だにしなかった全方位攻撃。しかし、セレーナは咄嗟に引き抜いた単分子カッターで迫り来るアンカーを辛うじて弾く。
だが―――。
「捉えた…!そこかッ!!」
―――それが、不可視であるアーバレストの位置を特定される事に繋がった。
即座に射出したアンカーを切り離し、新しいアンカーをアーバレストが居ると思われる位置目掛けてイングラムは打ち出した。
「あ…ッ!?きゃぁぁぁぁぁぁ!」
予想外の攻撃をなんとか弾いたものの、不安定な体勢に陥っていたアーバレストに、そのアンカーを回避する事は出来なかった。
鎖がその身体を絡め取り、そして鋼鉄の縛めに囚われたアーバレストはECSが解除され、その姿を現す。
必死に引き戻される鎖に抗おうとするも、それも長くは続きそうにない。
元来のパワーが違うのだ、今は抗えても、すぐにその力は尽きる。
「もらったぞ…!」
操縦桿のスイッチを押し、イングラムはレールの限界まで操縦桿を引いた。
その動きに呼応してメガデウスも肘のシリンダー、ストライク・パイルをせり上げ、腕を引いてパンチの体勢へと移行する。
引き戻されるアンカーに囚われたアーバレストへ、その一撃を叩き込むために。
その様子を、リュウセイはただ呆然と眺めていた。
あの鎖が戻され、そしてあの拳が炸裂すれば、あの灰色の機体は―――それに乗っている、あの女の人は、どうなるのか。
決まっている。死ぬのだ。
イングラムの、手にかかって。
「…ダメだ」
かつて、イングラムはリュウセイの敵だった。
イングラムがリュウセイをSRXチームへと推薦したのは、この念動力の才能に目をつけ、それを利用しようとしたからに他ならない。
だが、それは。
それは、この殺し合いの主催者―――ユーゼスに操られていたが故の行動。
事実、ユーゼスとの最終決戦において、彼は自我を取り戻し、共に戦ってくれた。
確かに、彼の所為でその尊い命を奪われた人間は多い。
だが、それも全てはユーゼスに操られていたから。
「…そんなのは」
彼に全く罪が無いとは、言わない。
だが、自分の意思でやったのではない罪を突きつけて、それを無理に背負わせる事が、果たして正しい事なのか。
その罪に押し潰され、どれだけやっても終わる事のない償いを押し付ける事が、果たして道に反する事なのか。
それを悔いている人間が新たな罪を犯すのを、ただ見ている事が、果たして許される事なのか。
「…絶対に、ダメだ!!」
そして何よりも。
彼は―――リュウセイ・ダテは、イングラム・プリスケンに、感謝しているのだ。
覚えていますか、教官。
教官が、俺をSRXチームに入れてくれて、初めてR-1に乗せてくれた時。
あの時、俺、言いましたよね。教官には、感謝してます、って。
教官は、ただ実際にロボットに乗れた事を嬉しがってるんだと思って、適当にあしらってましたけど。
あれ、本当は違うんです。
本当は、ただの高校生だった俺に、戦う力を―――平和を、この手で守る事の出来る力を与えてくれた事。
それを、感謝してたんです。
教官が、本当はエアロゲイターのスパイで、俺の力を利用するためだけにSRXチームに入れたって分かった時。
恨みました。憎みもしました。
だけど―――。
―――だけど、俺に力をくれた事。
それだけは、ずっと―――ずっと、感謝してたんです。
ユーゼスとの戦いの後、俺、教官は死んだものと思ってました。
だから、言えなかったけど。
ずっと俺、謝りたかったんです。
教官の境遇も知らず、身勝手に憎んでしまった事。
あの時、教官を助ける事が出来なかった事。
そして、お礼を言いたかったんです。
俺に、力をくれた事。
その事を改めて。
だから。
だから俺は。
今度こそ―――今度こそ、教官を助けます。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
操縦桿を握り締め、リュウセイはフェアリオンのバーニアを噴かし、メガデウスとアーバレストへ向けて疾走する。
モニターの向こうで、灰色の機体がついに力尽き、鎖が引き戻されるのが見えた。
あの灰色の機体に乗っている女の人は言った。
人を殺す覚悟、と。
ふざけるな。
そんな覚悟なんか、あったってどうなるって言うんだ。
そんなものは、要らない。
そんな覚悟を決める事。
それを決めなきゃいけないということ。
それが、どれだけ不幸な事かわかって言ってるのか。
そんなもの、俺には必要ない。
だから、見せてやる。
俺の決めた、覚悟を。
人を救う―――覚悟を!!
「これが俺の―――覚悟だッ!!!」
そして、リュウセイはEフィールドを張り巡らせてフェアリオンを空へ躍らせる。
メガデウスとアーバレスト。
人を殺す覚悟を背負った二人の駆る、その二体の間へと。
突如として視界に飛び込んできた可憐な機体に、イングラムは目を見開いた。
(―――リュウセイ!?)
アーバレストに止めを刺すべく、既に拳を振るっていた彼は、慌ててそれを止めようとする。
だが、遅い。
振りぬかれた拳は、当初の目標であるアーバレストではなく、
彼が守ろうとした―――リュウセイの乗る、フェアリオンへと叩き込まれた。
「リュウセイィィィィィィィィィィィッ!!!」
拳を振りぬいた体勢のまま。
イングラムは背後に居たアーバレストもろとも吹き飛ぶフェアリオンに向けて絶叫した。
「っつぅ…この子、なんて無茶を…!エルマ!この子の生体反応、感知できる!?」
フェアリオンもろともに吹き飛んだアーバレストのコクピットの中。
激しく揺さぶられ、打ち付けた頭を抑えながら、セレーナはエルマに指示を飛ばした。
「は、はい!」
同じように身体を打ちつけたのだろう、フラフラと頼りなく浮きながら、エルマがリュウセイの生体反応を調べ始める。
「…大丈夫です、あの人、生きてます!」
そして、返ってきた答えは彼の生存を示すものだった。
「そう…良かった」
メガデウスの放とうとした技―――サドン・インパクトは、本来ならば拳を当てた後、
肘のシリンダー、ストライク・パイルを叩きつける事によって発生した衝撃で相手を砕くというもの。
それの無い今の一撃は、いわばただのパンチとなんら変わらない。
何かしらバリアのような物を張っていたようだが、それでも相当の衝撃だった事だろう。
フェアリオンがクッションになったとはいえ、アーバレストは勿論、
そのコクピットに座るセレーナもそれなりのダメージを受けていた。
しかし、そのダメージをおしてセレーナはメガデウスへと呼びかける。
「ねぇ、聞こえる!?安心して!この子生きてるわ!」
それを聞き、こちらへと向かってきていたメガデウスの決して変わる事のない鋼鉄の表情が安堵に緩んだように感じたのは、
セレーナの錯覚だったのだろうか。
「…もうかかって来ないのか?俺を野放しには出来んのだろう?」
再び気絶したリュウセイの乗るフェアリオンを担ぎ上げたまま、
夕日を背にしたメガデウスの中でイングラムはアーバレストへ呼びかけた。
「止めとくわ。その子の覚悟、見ちゃった後じゃね。流石にもうやりあう気にはならないわよ。
それに、今の貴方なら大丈夫。放っておいても馬鹿な事はしないと思えるし。その子に感謝する事ね」
「感謝ならば、もうしている。いくらしても、足りない程にな」
そう言って、イングラムは自らの機体に抱かれたフェアリオンへと視線を落とした。
しばし、無言の時が流れる。
「貴方、これからどうするの?」
しばらくの後、セレーナが問いかけた。
「わからん。だが―――」
フェアリオンに視線を向けたまま、イングラムが静かに答える。
「―――こいつの意思は、汲んでやりたい」
「そう。それで…その子、どうするつもり?」
「埋める」
「う、埋めるって、ちょっとあんた!?」
「…砂を被せてカモフラージュする。平地にただ置いておくよりはマシなはずだ」
「あ、埋めるって、そういう…。たくもう、紛らわしい言い方しないでよ、驚いたじゃない」
そして漸くフェアリオンを見下ろしていた顔を上げ、今度はイングラムがセレーナに問いかける。
「名を、聞いておこう」
「―――セレーナよ。セレーナ・レシタール。…貴方は?」
「…イングラム・プリスケンだ」
「覚えておくわ。それじゃ、また会いましょう、イングラムさん。お互い、生き残れるといいわね」
「―――ああ」
そう言って、イングラムはおもむろにメガデウスの踵を返した。
夕日に照らされながら、ズシン、ズシンと言う音を立て、ゆっくりと遠ざかっていくメガデウスの背中をセレーナは見送る。
そして、その姿が遠くに霞んだ頃、セレーナはぽつり、と呟いた。
「私の近くにもあんな子がいたら…もう少し、違った生き方が出来たかもね」
「セレーナさん・・・」
その呟きに、エルマが心配そうな声を上げる。
「心配しないで、エルマ。別に、今の自分を後悔してるわけじゃない。
ただ…あの子のまっすぐな生き方に、少し憧れただけよ」
未練を断ち切るように、アーバレストはメガデウスに背を向けた。
「さて、それじゃまず例の高エネルギー体を拾って、そしたらまたゲームに乗った奴を探しましょ」
いつもの陽気な調子で、セレーナはアーバレストを発進させる。
だが、その隣に浮遊するエルマの心は、晴れないでいた。
(それを…後悔って言うんじゃないんですか、セレーナさん…)
その思いを声には出さず、エルマはただじっと、セレーナの横顔を見つめていた。
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン・S(バンプレオリジナル)
パイロット状態:気絶
機体状態:装甲を大幅に破損。動く分には問題ないが、戦闘は厳しい
現在位置:G-2
第1行動方針:戦闘している人間を探し、止める
第2行動方針:仲間を探す
最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく】
【イングラム・プリスケン 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
パイロット状態:健康
機体状態:装甲に無数の傷。だが、活動に支障はなし
現在位置:G-2
第1行動方針:フェアリオンを砂で隠し、カムフラージュする
第2行動方針:出来うる限り争いを止める
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:ダメージはあるものの、活動に支障はなし
現在位置:G-1から遠ざかる
第一行動方針:ゲームに乗っている人間をあと二人殺す
最終行動方針:チーム・ジェルバの仇を討つ
特機事項:捨てたトロニウムエンジンは回収。グレネード残り一発】
【初日 18:30】
最終更新:2008年05月30日 04:41