今、出来るコト


 狭いコクピットの中、リョウトは目を開けた。
右手を自分の正面に掲げて拳を握ると、きちんと力が入る。少し頭が重いが、さほど問題ではない。
どうやら自分は生きているし、ほとんど怪我もないようだ。
リョウトは記憶を顧みる。アラドが逃げ、ヴァルシオン改と戦い、負けそうになって。
そのとき、この機体に組み込まれたゼロシステムが起動し、ヴァルシオン改を倒して……
 そこで記憶は途切れていた。どうやら気を失っていたらしい。
モニターを覗き込み、外を窺う。山肌に倒れこんだウイングゼロが映す風景は、随分明るさを失っていた。
 リョウトは焦りを感じる。どれくらい時間が経ったのだろう。アラドは逃げ切れただろうか。リオは、無事だろうか。
 考えても答えなど出ない。とりあえず、アラドを追おう。
そう思い、ウイングゼロの身を起こす。
 そのとき、レーダーが何者かの接近を告げた。
ミノフスキー粒子濃度が高いこの場所において、レーダーが反応する。
それはつまり、彼我距離はかなり短いということを意味している。
二時方向からの反応。急いでリョウトはその方向を目視する。接近する機体の姿を認めると、リョウトは目を見開いた。
「何、あれ……」
飛来する機体はかなり大きい。戦艦クラスと言っていいだろう。その周りをいくつかの戦闘機が取り巻いている。
 そして何より。その機体は恐竜のような容貌をしていたのだ。
奇妙な外観に圧倒されたリョウトの行動は遅れてしまう。その間、どんどん距離は近づいていく。
当然ながら互いに射程内。リョウトがそのことに気付くのは遅れたが、その機体が攻撃を仕掛けてくるような様子はない。
『そこの機動兵器のパイロット。こちらに攻撃の意思はない。応答を願う』
代わりに聞こえてきた声に、リョウトは胸を撫で下ろす。戦いを回避できるならそれに越したことはない。
「はい、聞こえます。こちらにも戦意はありません」
答えると、戦闘機が次々と戦艦へ戻っていく。そして、戦艦はゆっくりと地上へと降下を始めた。

 自分の目の前に着地した戦艦は、予想以上に巨大で迫力のあるものだった。まるで映画か何かのようだと思う。
 リョウトはコクピットを開けると、外に出て伸びをする。するとちょうど、戦艦から一人の男が身を現した。
「僕はリョウト=ヒカワと言います。あなたは?」
尋ねると、男は少し視線を下げ、考える。どうしたのだろうと思いながら答えを待つ。そして返ってきた答えは
「そうですね。副長、とでも呼んでください」
リョウトを呆然とさせるものだった。
「副長、さんですか?」
思わずそう聞き返すと、男――副長は微笑を浮かべる。
「ええ。それが慣れ親しんだ呼称なので」
「はぁ、そうですか……」
リョウトは僅かに困惑するが、副長は気にせず口を開く。
「とりあえず、食事でも取りながら情報交換といきませんか?」
副長の言葉に、リョウトは初めて自分が空腹だということに気が付く。そして、可能な限り情報は欲しい。
だから、リョウトは副長の言葉に頷いた。

「もう、12人も死者が出たんですか……」
携帯食料を握る手が震える。空腹だったはずなのに、リョウトの食欲がなくなっていく。
そのうちの1人を、自分がやったと思うと食事という気分にはなれなかった。 
 まず最初に話したのはリョウトだった。
内容は自分が遭遇した敵と、アラドのこと。そして、ずっと気を失っていたことを付け加えた。。
 続いては、副長の話だった。彼の乗った戦艦は、それ以上の大きさを誇る巨大な戦艦と遭遇した。
攻撃を仕掛けてきたため応戦したが、不利を感じた副長は撤退した。それ以降、自分以外の誰とも遭遇していないという。
 そして、その撤退する途中。時間にすると三十分ほど前のことらしい。主催者から、放送が入った。
リョウトは気を失っていたため、その内容を副長の口から聞いていた。
「ええ。そして、言いにくい事ですが」
そう前置きすると、副長はリョウトの顔を見ないで話を続ける。
「死亡者の中に、アラド・バランガという名前がありました」
その言葉に、リョウトは息を飲む。喉がカラカラに渇いてくるが、とても水を飲む気にはなれない。
リョウトは強く歯噛みする。自分の選択が間違っていたのではないか。他の選択を取れば、アラドは死なずにすんだのではないか。
後悔の念がリョウトを苛む。強い後悔は抑えきれない衝動となる。リョウトは思い切り、左手を足元に打ちつける。
痛みが手に走る。だが衝動は止まらず、もう一度手を振り上げ、勢いよく振り下ろそうとして
「……そのようなことをしても、何にもなりませんよ」
副長の声がストッパーとなる。リョウトは手の勢いを止めるが、それでも衝動は抑えられずに強く手を握り締める。
爪が皮膚に食い込んでも、その力を緩めない。
「あなたは自分で、最善と思われる選択をした。その結果が悪いようになったとしても、あなたを責めることはできません。
そして、 我々は立ち止まるわけには行かないのです。
 生き残るために」
リョウトは黙って副長の言葉を聞く。落ち着き払った彼の言葉に耳を傾ける。
「私は死ぬつもりはありません。出来るだけ多くの同士を集め、脱出を試みたいと思っています。
 あなたは、どうするつもりなのですか?」

 聞かれるまでもなかった。リョウトには、明確な目的がある。
 リョウトはしっかりと副長の顔を見ると、力強く答える。
「僕の大切な人も、ゲームに参加しているんです。彼女に会って、そして、生き残ります」
その言葉に、副長は頷く。そして確認を取る。
「その人の、名前は?」
「……リオ。リオ・メイロン」
リョウトは、その名前を告げる。大丈夫、と心の中で言い聞かせながら。祈るように。
副長は、リョウトの声に笑顔で答えた。
「安心してください。その人は生きています」
「そう、ですか。よかった……」
リョウトは深い息を吐く。同時に体からゆっくりと緊張が解けていくのを感じる。
アラドに対する申し訳なさが消えたわけではないが、まだ自分は生きていられると思った。
「私にも探し人がいましてね。信頼できる方です。よかったら、一緒に行動しませんか?」
副長の申し出に、リョウトは首を縦に振る。今度はもう、誰も死なないで欲しいと思いながら。
「ありがとうございます。副長さん。よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
お互い微笑み、握手を交わす。
「とりあえずの目的は、互いの探し人を探すということにしましょう」
副長の提案に、リョウトは頷く。
 ふとそのとき、リョウトは思い至る。
「あの」
「どうしました?」
「もう1人、探したい人がいるんです」
「もちろん構いませんが、どなたです?」
「名前は分からないんですけど。アラドくんの大切な人、です。きっとその人は、不安でいっぱいでしょうから」
自己満足かもしれない。でもそれが、自分がアラドのために出来るたった一つのことだと思った。
「そうですか。分かりました。見つかるといいですね。リオさんも、その人も」
副長は答えると、ずっと持ちっぱなしだった携帯食料をかじる。
リョウトはそれを見て、食事を再開した。



【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
 パイロット状態:健康
 機体状態:小破
 現在位置:B-8
 第1行動方針:リオ、タシロ、アラドの大切な人(ゼオラ)の捜索
 最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出】

【副長 搭乗機体:メカザウルス・グダ(ゲッターロボ!)
 パイロット状況:健康
 機体状況:外壁一部損傷、砲塔一門損傷、恐竜ジェット機1/4損失
 現在位置:B-8
 第一行動方針:リオ、タシロ、アラドの大切な人(ゼオラ)の捜索
 第二行動方針:首輪の解除ができる人物を探す
 最終行動方針:ゲーム脱出】

【初日 18:30】





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第104話「車上の戦い、そしてヘタレ 投下順 第106話「歪み
第99話「交錯する覚悟 時系列順 第106話「歪み

前回 登場人物追跡 次回
第52話「大切な人 リョウト・ヒカワ 第130話「不敵さを胸の奥に
第34話「怪獣VS怪獣 副長 第130話「不敵さを胸の奥に


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最終更新:2008年05月30日 04:58