漢の約束


「そろそろ、休んだらどうだ?」
 それは、食事を終えた直後の事だった。
相棒――イキマの突然の言葉に、ジョシュアは肩をすくめる。
「いや、俺ももう少し起きてる・・・まだ十時前だしな」
「休めるときに、休んだ方がいいだろう?」
「その言葉、そのまま返すよ・・・
 ・・・寝なくても大丈夫って、わけでもないだろ?」
 ジョシュアがそう言うと、彼は軽く笑みを浮かべながら、言葉を返した。
「それなら、十一時まで俺が起きてるから、お前はその間に・・・」
「わかった。じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
「待て・・・」
 突如、イキマが言葉を遮る。
何事かという顔をするジョシュアに、イキマは小声で呟いた。
「・・・白いのが一機、道のこちら側だ」
 指し示された方向を見ると・・・確かに、白い物体が上空を飛んでいる。
「よくみつけたな、あんな遠いの・・・」
「まあな・・・で、どうする?・・・声を、かけるか?」
 その言葉に、ジョシュアは僅かに躊躇する・・・
だが、すぐに顔を上げ、頼れる相棒にこう言った。
「声をかけよう・・・仲間は多いほうが良いし・・・
 それにもしかすると、あんたの探し人かも知れないしな」
 ジョシュアがそう言うと、イキマは軽く頷きかえす。
そして、彼はそのまま蒼い機体に乗り込んだ。
念のため、ジョシュアも試作2号機に乗り込み・・・
彼らは、上空を行く機体に通信を試みた。


「で・・・お前は、リョウトっていう男を探してるわけだな?」
 イキマのその言葉に、上空の機体から肯定の返事が返される。
 白銀の機体に通信を試みて数分後・・・
ジョシュア達は、その機体に乗っていた少女・・・ゼオラと情報を交換していた。
「悪いけど、俺達は知らないな・・・」
「そうですか・・・」
 ジョシュアの言葉に、少女は残念そうに呟き、黙り込んでしまう。
そのまま、居心地の悪い沈黙が続く・・・
ジョシュアは、その空気を破るべく少女に声をかけた。
「なあ、よかったら俺達と・・・」
 そう言いかけた時だった。突然、後方から爆発音が聞こえた。
見ると、森を挟んで反対側で煙があがっているようだった・・・
「誰かが戦っているみたいだ、皆で様子を見に・・・」
 言いながら目を戻すと・・・そこには光があった。


「な・・・」
イキマは、目の前の光景に動揺した。
突如、鳴り響いた爆発音。
それに気をとられた一瞬、上空の機体が腕から光を放ったのだ。

突然の出来事に混乱しながら・・・体は自然に動いていた。
自らの機体・・・蒼く、儚いといった風体のそれを、ジョシュアの機体に全力でぶつける。
次の瞬間、激しい衝撃がノルス=レイを揺すった。
「くっ・・・!おい、無事か!」
 衝撃に顔をしかめつつ、ジョシュアに声をかける。
「な、何が・・・攻撃なのか?」
「ああ、そうだ!逃げるぞ!」
 今だ混乱する相棒を叱咤し、イキマ達は森の中へと機体を潜り込ませた。

「だ、大丈夫なのか?」
 森の中を駆け抜けながら、ジョシュアは問う。
背後では上空から放たれた光が、次々と森林を破壊していた。
「・・・五分五分だな・・・逃げられんかもしれん」
「そうじゃなくて、お前の機体だ!」
 ジョシュアの叫びに、薄く笑いながら返す。
「右腕を持っていかれた」
「な・・・お、おい!」
「心配するな・・・それよりもだ・・・」
 相方にみなまで言わさず・・・イキマは言った。
「このまま、中心部へ突っ切れ!俺は奴を足止めする!」
「ば・・・馬鹿やろう!死ぬ気か!」
「その方が効率的だろ?」
「・・・それなら無傷の俺のほうが・・・」
「その、飛べない機体でか?それに・・・」
 なおも食い下がるジョシュアに、苦笑しつつイキマが答える。
「それに、お前は主催者を倒すんだろう?」
「・・・待ち合わせ場所は、北の廃墟だ!かならず来いよ!」
 その言葉に応と返し、イキマは機体を上空へと躍らせた。


「・・・逃がさないんだから・・・絶対・・・逃がさないんだから・・・」
 誰に言うでもなく、ゼオラはそう呟きながら、眼下の森を破壊し続けていた。
両腕からの光弾が地面を抉る度に、森林が姿を変貌させていく。
そして、森の半分程度を破壊したところで・・・背後から攻撃を受ける。
「まだ生きてたんだ・・・もう一機はどうしたの?」
 ゼオラは呟くのとほぼ同時に、敵機にむけて光弾を放つ。
それを危なげに交わすと・・・その脆そうな機体は、北西へ向けて逃走を始めた。
「そう、死んだんだ。なら貴方も殺してあげる!」
 蒼い機体を追いつつ、ゼオラは叫ぶ。
そしてそのまま、前方の獲物を目掛けて攻撃を放ちはじめた・・・


 闇の中を無数の光帯が走り、その合間を縫って、蒼い機体が逃走を続けていた。
「いつまで逃げる気?いい加減に死になさいよ・・・」
 と、ゼオラの呟きが聞こえたかのように、目前の機体がこちらを向いて停止する。
南北を貫く道を挟むように・・・狩人と獲物は向かい合った。
「やっと観念したんだ・・・すぐ楽に・・・」
「おい、なぜ攻撃をしてきた?」
 突然の通信。聞こえてきた問い掛けに、少女は答える。
「アラドが死んだから・・・アラドが死ぬのを止めなかったから!」
「・・・ばかやろう・・・」
 男の小さな呟き・・・それと同時に、目前の機体に異変が起こる。
その機体の背中に、白い翼が生えたのだ。
まるで天使のようなその姿に、一瞬気おされる・・・
次の瞬間、その翼から大量の羽が乱れ飛び、ゼオラの視界は白一色に包まれた。
同時に幾度もの衝撃が機体を襲い、コクピットが激しく揺すられる。
(目眩まし?違う、羽自体が攻撃なの?)
「けど、逃がしは・・・しない!」
 その言葉と同時に、両腕の光球を胸の光球の前で合わせる。
そして、眩い光が冥府の王より放たれた・・・しかし・・・

「・・・エネルギー切れ!?」
 ゼオラの予想に反し、光はすぐに薄れていく・・・
白い羽と眩い光が、ゼオラの視界から完全に消えた時、
蒼い機体は、既にその姿を消していた・・・



【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:試作2号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
 パイロット状況:健康、不安
 機体状況:良好
 現在位置:G-3森の中
 第一行動方針:イキマと合流するため、北の廃墟へ向う
 第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第三行動方針:イキマの探し人(バラン、ジーグ)を探す
 最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】

【イキマ 搭乗機体:ノルス=レイ(魔装機神サイバスター)
 パイロット状況:健康、不機嫌
 機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし)
 現在位置:E-3廃墟地帯
 第一行動方針:ジョシュアと合流するため、北の廃墟へ向う
 第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第三行動方針:バラン、ジーグを探す
 最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】

【ゼオラ・シュバイツァー 搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
 パイロット状況:精神崩壊(ラトとタシロ、リオは死んだと思っている)
 機体状況:左腕損傷、エネルギー切れ(徐々に回復)
 現在位置:E-4上空
 第一行動方針:休める場所を探す
 最終行動方針:リョウトを殺す】

【初日 23:20】





前回 第114話「漢の約束」 次回
第113話「狩る者、狩られる者、死に行く者、生き抜く者 投下順 第115話「あずけられない背中
第115話「あずけられない背中 時系列順 第113話「狩る者、狩られる者、死に行く者、生き抜く者

前回 登場人物追跡 次回
第95話「信頼という意味 ジョシュア・ラドクリフ 第124話「すーぱーふぁんたじー大戦
第95話「信頼という意味 イキマ 第136話「戦友
第102話「対なす少女 ゼオラ・シュバイツァー 第121話「移動・攻撃・[説得]・待機


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年05月30日 05:23