魔神開放
ゼンガー・ゾンボルトが気絶してから、どれだけの時が流れただろう。
月明かりの下で、碇シンジが大雷凰に乗ったまま、森の北東端で木にもたれて休んでいる。
放送の後、湧き上がる恐怖心からゼンガー(とサーバイン)を近くの森へ隠したのだ。
「お腹、空いたな・・・ウルベさん、遅いな・・・・」
シンジは東の空を見つめながら、十数回目の溜息をついた。
まだ哨戒に出たウルベは戻ってこない。勝手に森へ移動してしまったが、森の端からなら
簡単に戻ってくるウイングランダーを発見できるはずだった。
「・・・ミサトさん・・・アスカ・・・綾波・・・カヲル君・・・・・・・・・・・父さん」
じっとしていると元の世界の事を思い出す。楽しい事もあったが辛い事の方が多かった。
そして、ふと最初の部屋いたアスカの事を思い出す。顔を見た訳ではないが特徴的な髪飾りに
見間違えはない。元気になったのだろうか? 夕方の放送から判断すれば、一応無事だろう。
真っ先に死ぬと思っていた自分がまだ生きてる事も考慮して、シンジは少し安心した。
「・・・・・・アスカ・・・・」
沈み込むシンジに合わせ、体育座りで親指を噛む仕草の大雷凰は何気に可愛らしい。
それから、シンジは脳内電車で自分自身と悲観的な未来について延々と語り合った挙句、
停車駅で乗り込んできたゼンガーに「甘えるなッ!」と一喝されて我に返った。
ふと見れば、東の空に小さな機影が見えていた。
「ウルベさん?! こっちですよー!」
大雷凰が無邪気に手を振る。しかし、その影は待ち焦がれてていた協力者ではなかった。
大雷凰を見つけたのか、高速で接近してくる機体。その悪魔の如き姿形は、シンジの抱える
一欠けらの希望を奪う為に舞い降りた。ラッセル・バーグマン、魔神皇帝マジンカイザー。
(悪魔? 殺される? ここで? まだゼンガーさんは戦えない。ウルベさんもいない。
ダメだ。だれも助けてくれない。僕はココで死ぬんだ、何も成せないまま・・・・・違う!)
「なんだぁ、そのダッセェ、マフラーは?!ヒーローにでも、なったつもりかぁぁ!!」
ラッセルが言い終わる前に大雷凰が動いた。前にではなく、大きく横へと走る。
「逃げてんじゃねぇ!このヒーロー気取りがよぉ!」
追う様に無数のギガントミサイルが発射されるが、それを大雷凰は辛うじて避け切った。
初動の差が功を成したか、ラッセルが手を抜いたか。
(違う! 決めたんだ! ゼンガーさんを守るって! 決めたんだ!)
意を決した大雷凰のハーケン・インパルスがマジンカイザーを捉える。しかし皇帝自慢の
重装甲にはカスリ傷を付けただけに過ぎなかった。
「カッコイイねぇ、ヒーローさんよぉ? ぜぇーんぜん、効いぃてないけーどねぇー!」
舞い上がった埃の中から姿を現し、マジンカイザーは悠々と歩を進める。
(良し、そのまま森から離れろ、ついて来い・・・)
まずはゼンガーさんのいる森から引き離す。十分に引き離してから、隙を付いて逃げよう。
運が良ければウルベさんが戻ってくる。悪くても自分が死ぬだけだ。ゼンガーさんは守れる。
シンジはそう考えた。まさか地中潜伏中のウルベを置き去りにして来たなど考えもしなかった。
マジンカイザーから次々と繰り出されるターボスマッシャーパンチ、ギガントミサイル、
ルストトルネード、そしてファイアーブラスター。それらを辛うじて回避しながら大雷凰は
マジンカイザーを誘き寄せる。シンジにしては奇跡的な戦果であるといえた。
「そらぁそらぁ! もっと精一杯、抵抗しろぉよぉ! 威勢が良いのはカッコだけかよ!」
ラッセルは、シンジを明らかな素人と見抜いていた。ワザと大振りな攻撃で疲労を誘い、
弄ぼうと考えていたのだ。軍人たる自分と無力な素人の実力の差に、優越感に浸る為に。
「オイオイオイ飽きちまったぞぉ、ん? テメェが向かってこねぇなら、あっちだなぁ」
ラッセルはシンジをからかう様な大げさなターンをクルリと決めると森へと進みだした。
全てバレていた。腐っても鯛、狂っても軍人である。大雷凰に背を向け悠々と森へと向かう。
「行かせない! 行かせないんだぁぁぁ!!」
必死に駆け込み、殴りかかる大雷凰を「待ってました」とばかりにマジンカイザーの鉄拳が
捉えた。無様に転がる大雷凰。それを見たラッセルは「最高の気分だね」と満面の笑みをこぼす。
それでも大雷凰は立ち上がり、再び歩き始めたマジンカイザーに追いすがり殴りかかる。
「おまえぇ、バカァ?」
今度は一本背負いの要領で大きく投げ飛ばされ、樹木に叩きつけられ、呼吸が出来ない程の
衝撃がシンジを襲った。装甲各所に大小の亀裂が見えるが、この程度で済んでいるのは、無論
ラッセルのサディスティックな手抜きのお陰である。
(痛い・・・苦しい・・・やっぱり、ボクは・・・)
シンジは空ろな瞳でファイアーブラスターの発射プロセスを見つめていた。
「一意専心!!!」
眼前でファイアーブラスターが二つに割れる光景で、シンジの意識は現実に引き戻された。
サーバインが、ゼンガーが大雷凰の前に立ちはだかっていた。オーラソードでファイアー
ブラスターを断ち防ぎ、押し返そうとまでしている。まるでデタラメな光景だった。
ゼンガーは、本来ならば動く事さえままならぬ精神疲労の中にいた。一瞬でも気を抜けば
再び意識を失うだろう。そして今、彼の精神・魂は剣に限界を超えて注ぎ込まれて行く。
「その声、隊長さんかよぉ! 元気だったかいぃ? ココで死んどけぇ!」
ラッセルが、マジンカイザーが咆哮し、更に出力を上げる。そして暫しの膠着の後、巨大な
斬艦刀にの様に変貌したオーラソードによってファイアブラスターは断ち斬られた。
まるで十戒を持つモーゼの如く、迫り来る爆炎を断ち斬ったのだ。
「我が斬艦刀に・・・断てぬもの無し!」
「なぁぁなぁんぁんぁなんなぁぁ!」
ゼンガーの勇姿に、ラッセル狂気に満ちた顔が更に歪んでゆく。しかし・・・
「・・・・シンジ・・・・今を生きろよ」
大雷凰の眼前で、サーバインは爆散した。当に機体の限界など超えていたのだ。
爆発した機体の破片が振り散る。シンジには、その光景がひどくゆっくり見えた。
結局、ゼンガーを守る事が出来なかったばかりか、守られた結果、彼を犠牲とした。
「動いてよ大雷凰・・・動けよ・・・あいつを・・・あいつを殺すんだよぉぉ!!!」
システムLIOHがシンジの絶叫に答えるかのように起動する。
主を失った剣が地面に突き刺さるのと、咆哮を揚げた大雷凰が大地を蹴るのは同時だった。
「ざまぁねぇな隊長さんよぉ!」
自分より常に上に存在していた知人(?)を葬ったラッセルの余韻が終わらぬうちに、
懐に飛び込んだ大雷凰が殴りかかっていた。魔神はその拳に向かって鉄拳を繰り出す。
拳と拳のぶつかり合い。一瞬の均衡、魔神の右拳が大雷凰の右腕を打ち砕いた。
しかし大雷凰は止まらない。腕を砕かれ、その反動を利用し放った上段廻し蹴りが魔神の
体勢を僅かにだが崩した。逆上した魔神が、闇雲に両腕を飛ばし大雷凰を着け狙い、それを
素早い後方回転を繰り返し回避しする大雷凰。大地に突き刺さった剣を引き抜き、投げつける。
「甘ぇぇぇぇんだよぉぉ!ファイアァァァブラスタァァァ!!!!」
高速で飛来する剣、両腕が戻ってなくとも魔神には幾らでも迎撃方法は残っていた。
ラッセルに誤算があったとすれば、シンジが「純粋な素人」ではなかったという事だった。
たちまち主を持たない聖剣は爆炎に消えた。しかし爆炎の向こうに大雷凰の姿はない。
標的を見失ったラッセルが次の瞬間見たものは、頭上から飛来する足の裏。それが彼の見た
最後の光景。頭頂部を破壊された魔神は数歩よろめくと大きな音を立てて仰向けに倒れた。
ここへ来て、初めての出会った尊敬できる人。初めての別れ。初めて出会った殺意。
初めて持った殺意。少年のヒビ割れた心に、現実は辛すぎた。
(とりあえず、森に身を隠そう・・・それから・・・アスカを探そう・・・)
会いたい。同じ世界を共有する少女に会いたい。守りたい。馬鹿にされるだけかもしれない。
第一声は「あんた、バカァ?」かもしれない。それでもいい。今は少しでも目的が欲しかった。
強引にでも生きる目的を持たなければ、この場で座り込み、朽ち果てそうだった。
シンジは既に心身疲労共に限界を超えているはずなのだが、システムLIOHの関与なのだろうか、
消え去りそうな意識をかろうじて保ちつつ、大雷凰と共に森の中へ消えていった。
優しく照らす月明かりの下、魔神の胸に輝く『Z』の印が、『魔』に変わった事を誰も知らない。
【碇シンジ 搭乗機体:大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:心身ともに疲労の限界(LIOH補正で無理やり行動中)
機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷。背面装甲に亀裂あり。
現在位置:H-3の森からH-4へ移動中
第1行動方針:アスカと合流し守る
最終行動方針:生き抜く】
【ゼンガー・ソンボルト 搭乗機体:サーバイン(OVA聖戦士ダンバイン)
パイロット状態:死亡
機体状態:粉々】
【ラッセル・バーグマン 搭乗機体:マジンカイザー(サルファ準拠)
パイロット状態:死亡
機体状態:カイザーパイルダー大破。他はほぼ無傷。
現在位置:H-3の平地に横たわっている
備考:マジンカイザーのモードが『Z』から『魔』に変更。
最終行動方針:???】
【初日 22:30】
最終更新:2008年05月30日 05:16