『鍵』


「そっか、マシュマーさん、私を助けるために……それに、剣鉄也さんも……」
俯いて呟くミオ。
ミオ=サスガは、デビルガンダムから解放されて1時間ほどで目を覚まし、
こうしてヴィンデルと情報を交換している。
もちろん盗聴に備え、核心部分は筆談を交えて、である。
ちなみに、彼女が目を覚ました際、やれ痴漢だの変態だの誘拐犯だの、毎度馬鹿馬鹿しいお話があったことを付け加えておく。
「……酷なようだが、落ち込んでいる暇は無い」
「うん、わかってる。……じゃないと、マシュマーさんにブンちゃん、アクセルさんにも会わせる顔が無いしね」
そう言ってミオは口を真一文字に引き締める。

強い娘だ。
ヴィンデルは内心舌を巻いた。
この世界で出会った多くの仲間を失いながら、心が折れるどころかなおも力強く輝き続ける。
決して折れず、砕けることのない、強い魂。
ただの少女ではない、気高い戦士のありようを、ヴィンデルはミオの中に見た。

さて、互いのもといた世界、自分たちの歩んだ道のり、状況の説明を経て、このバトルロワイアルにおける最も重要な情報がもたらされる。
すなわち、デビルガンダムに取り込まれたミオが、ゲッター線を通じて得た情報。
この世界で死を迎えた者たちから得た、ユーゼスの真の目的─────バトルロワイアルの本質である。

『……俄かには信じられん話だな。いかんせんスケールが大きすぎる』
おおまかな解説を聞き終え、ヴィンデルが一つ大きくため息をつく。

因果律の改変。
アカシック・レコードへの干渉。
自らの都合のいいように宇宙の真理を捻じ曲げる。
そして、『超神』。

世界の変革のために世界の境界を飛び越えた自分が言うのも何だが、あまりのスケールの大きさに頭が痒くなりそうだ。
『でも、間違いない。理屈じゃなくて……そう、魂で理解するってやつ?』
感覚が伝わらないもどかしさに、頭を掻きながら文章を続けるミオ。

無論、ヴィンデルとてミオの言葉を疑うつもりは微塵も無い。
アクセルとマシュマーがあれだけ入れあげた少女だ。下らん策を弄するような輩ではあるまい。
兎に角、彼女の言うことを事実として認識するしかない。


「……あれ?」
「どうかしたのか?」
不意に、ミオが素っ頓狂な声をあげる。
「いや、何か違和感が……」
そう言いつつ、手が頭頂部から後頭部へ、そして首へと移動し……

「──────────ッ!」
理由に気付き、大声をあげかけたミオの口を、ほぼ同時に気付いたヴィンデルがとっさにミオの口を塞ぐ。
(落ち着け、落ち着け! 大声をあげれば感付かれる!)
唇の動きと必死の形相で意思を伝えるヴィンデル。
そのメッセージを確実に受け取り、必死にブンブンと首を縦に振るミオ。


そう。
ミオの首輪が外れていたのだ。

『ふう、死ぬかと思ったぜ』
ゼェゼェと荒い息を吐きながら筆談を続けるミオ。
『デビルガンダムに取り込まれたときに、弾みで外れちゃったのかな?』
『或いは、機体に首輪そのものが取り込まれた可能性もあるな』
互いに推論を述べるが、そんなことに意味は無い。
大事なことは、ミオの首輪が外れているということ。その現実のみである。
口頭で話さないのは、ヴィンデルの首輪から盗聴されることを恐れたためだ。
ヴィンデルもその意を汲み、やはり筆談で応える。

『それで、これからどうする?』
『とりあえず、あたしの情報を出来る限り多くの人に伝えなきゃいけないと思う。
 生き残りがどうとか、元の世界がどうとか言ってる場合じゃない。
 このゲームは、最初からユーゼス以外が勝者になれないように出来てるんだから』
ミオの指摘に、ヴィンデルは大きく頷く。

成る程、確かにあの仮面は「責任を持って元の場所に送り届けよう」と言った。
だが、彼女の言うことが事実ならば、元の世界に帰ったところで、その世界すらもユーゼスの手に落ちることになる。
どう転んだところで、笑うのはユーゼス一人というわけだ。
実にうまく出来たシステムではないか。反吐が出る。
『つまるところ、このふざけたゲームを根底から破壊する以外に、我々の生き残る手段は無い。
 そのための戦力を結集する必要があるということか』
ヴィンデルの指摘に、ミオが大きく頷く。

そして、提案があるんだけど、と前置きして文章を続ける。
『実は、あのマシン……ディストラちゃんなんだけど、アレが切り札になるかもしれない』
『どういうことだ?』

ミオの説明は続く。
ゲッター線を通じて得た数々の世界の記憶。
その中で、幾多の世界で戦う『番人』をミオは知った。
それこそが、ディス・アストラナガンであることを。
そして、本来の操者もまた、この世界に召還されていることを。

『あたしも魔装機神の操者だったからわかるんだけど、あの機体は魂を持ってる。
 その魂が、本来の器を……ディストラちゃんが本来の操者を求めてるの。
 そして、その操者はこの世界で、まだ生きている。
 あたしにはわかるんだ、ザムジードのときと同じだから。
 多分、乗りこんだらもっと明確に解ると思う』
『だが、乗り換えルール制限はどうする。
 該当する人物を見つけたところで、それがこのマシンに乗れなければ意味が無かろう』
『ところがどっこい、そうでもないんだな、これが』

ミオの口元がにいぃっ、と緩む。

さて、思い出して頂きたい。
乗り換えが許可されるケースは、以下の通りである。

  • 機体の持ち主を殺害後、その機体を使う場合
  • 機体の持ち主が既にほかの機体に乗り換えていた場合。
  • 機体の持ち主が死亡済みで、機体の損傷が運用に支障が無い場合。

1つ目と3つ目はミオが死ぬ必要がある。
つまり、原則としてルール2を利用するのが現実的だろう。
だが、ここに一つ大きな抜け穴がある。
『首輪が外れているミオは、このルールに拘束されない』ということだ。

『あたしがディストラちゃんに乗って、本来の操者を探す。
 本来の操者なら、自分の機体を見間違えるわけがない。
 そして、彼……なのか彼女なのかまでは解らないけど、とりあえず彼でいいや。
 彼の本来の目的からして、このゲームに乗っている可能性は皆無のはず。
 『番人』にしてみれば、ユーゼスの行為を見過ごせるはずがないからね。

 さて、本題はここから。
 まず、私の首輪が外れていることを相手に伝えて、まず私が向こうの機体に乗り換えさせてもらうの。
 ルールに則るなら自殺行為にあたることだから、相手も信用してくれると思う。
 私が相手の機体に乗り換えた時点で、ディストラちゃんは任意に乗換えが出来るようになる。
 あとは、本来の操者にディストラちゃんを託す……ってな寸法。どうよ?』

「……」

話を聞く限り、論理に破綻は見られない。
と言うより、理屈の上では完璧に近い作戦だ。
想像以上にこの娘、出来る。

『いけるか、ミオ?』
「OK、無問題だよー」
 ディス・アストラナガンのコクピットで、ビッと親指を立てるミオ。
 その胸には、一輪の薔薇。
 今は亡き友が遺したもの。
 彼がここにいたという証拠。

 操縦感覚はどうやら魔装機神とさほど変わらないらしい。
 負の感情を動力源にしているらしく、多少の不快感は感じるものの、
 デビルガンダムの中で味わった生き地獄に比べればどうと言うことはない。
 ヴォルクルスの力を一部で用いているグランゾン、及びネオ・グランゾンもこのような感覚だったのかもしれない。


 マシュマーさん。
 ブンちゃん。
 アクセルさん。
 そして、因果地平の彼方で出会ったみんな。

 あたし、頑張るから。
 見守っていて。


 待っててね、ディストラちゃん。
 必ず、ご主人様に逢わせてあげるから。


 そして、あンの変態仮面。
 ケ〇の穴から手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わしちゃるけんのう、首洗ぅて待っちょけや。


 あ、そう言えば、
 森の中にあったマニュアル……ブライガーだっけ。
 あのマシンは随分強力みたいだし、手伝ってくれると助かるんだけどなあ。


【ヴィンデル・マウザー 搭乗機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
         マジンカイザー操縦の反動によるダメージは回復 、全身に刺し傷あり。
 機体状況:オーバーヒート解除
 現在位置:E-4
 第一行動方針:ミオの護衛
 第二行動方針:同士を探す
 最終行動方針:バトルロワイアルの破壊 】
備考:ミオがゲッター線を通じて得た情報を聞きました。

【ミオ・サスガ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状況:良好 首輪が外れている ディス・レヴがちょっとヤな感じ
 機体状況:両腕、および左足大腿部以下消滅 少しずつ再生中
 現在位置:E-4
 第一行動方針:ディストラちゃんを持ち主に返す
 第二行動方針:戦力を結集する
 第三行動方針:ブライガーさん、助けてぇ~! ……なんちゃって
 最終行動方針:ユーゼスの打倒 】
備考1:ヴィンデルから自分がDGに取り込まれた後の一連のあらましを聞きました。
備考2:ディス・アストラナガンの意思(らしきもの?)を、ある程度知覚できます。

※DG戦後にユーゼスは激しく取り乱していたため、ミオの首輪が外れていることを見落としている可能性があります。
※さらにその場合、ミオが死亡したと誤認して放送で名が呼ばれる可能性があります。
※どのみち、遅かれ早かれバレるのは間違いないと思われます。


【三日目5:59】





終局は近づき、混沌が迫る。
最後に笑うのは、誰だ。


第四回放送まで、あと僅か─────





前回 第237話「『鍵』」 次回
第236話「BIG-O ! Show time ! Last stage! 投下順 第238話「冥王計画
第242話「ライアーゲーム 時系列順 第243話「それでも一体この俺に何ができるっていうんだ

前回 登場人物追跡 次回
第223話「全ての人の魂の戦い ヴィンデル・マウザー 第247話「草は枯れ、花は散る
第223話「全ての人の魂の戦い ミオ・サスガ 第247話「草は枯れ、花は散る


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最終更新:2008年06月02日 18:20