ハロと愉快な仲間達


「ハロ、ハロ!ミトメタクナーイ!」
B-4の大地を、跳ね回り、転がりながら進む……一体のハロ。
ピンク色をしたそれは元々はアスラン=ザラが作り、ラクス=クラインの所有していたものであった。
しかし気付けば、どういう経緯か他のたくさんのハロと一緒に、ジャスティスガンダムのコクピットにぶち込まれていた。
そして搭乗者であるヴィンデル=マウザーをおちょくりながら行動を共にしていた。
その後、B-3でのマジンカイザーとの戦いの後、ジャスティスは自爆。仲間の大半は散っていった。
ヴィンデルはマジンカイザーに乗り換え、無事だったハロと共にその場を離れていった。
その際ヴィンデルに気付かれず、その場に取り残されていたのがこのピンクハロだったりする。
「ハロ!ハロ!オレハドコカラキテ、ソシテ、ドコヘユクノダロォカ、時ノメイズ~♪」
ラクスのもとにいた時に比べ、やたら雄弁に歌うピンクハロ。
他のハロ軍団達といい、ユーゼス辺りに変なプログラムでも組み込まれたのだろうか。
とにかく、行く当てもなく、ただひたすら跳ね回り……

「何だ?あの丸いのは?」

通りすがりの、海賊のようなガンダムに発見された。

(熱源反応からして、爆弾物などの可能性はなさそうだが……)
クロスボーンガンダムは跪き、ハロに向かって右手を差し伸べる。
その手に元気よく飛び乗ってくるハロ。その姿にアクセル=アルマーは些か毒気を抜かれた。
(見る限り、ただの玩具らしいな……しかし何故こんな所に……)
その時、彼の考察を遮るかのように、不意にレーダーが反応した。
捉えた反応は兵器にしては妙に微弱だが、間違いなく他の参加者の機体である。
コクピット内に緊張が走る。
(好戦的な相手でなければよいのだがな……)
接近する敵影の存在に気を取られ、アクセルのハロへの注意は逸れていた。
それが思わぬ事態を引き起こすことになるとは……
「なっ!?ハッチが!?故障か!?」
突然コクピットのハッチが開き始める。外側から開けられたというのか?
その開いたハッチの隙間から、丸い物体が飛び込んでくる。
「カミューラ=ランバンノ、カタキィィィィィィィィ!!!!」」
「な、何ぃぃぃっ!?」
このハロは軍艦の電子ロックすら解除出来る高度な開錠能力を何故か所有している。
コクピットを外側から開けたハロは弾丸のごとく飛び掛り、アクセルの顔面にクリティカルヒットした。
「ぶっ!?な、何だこいつは……くっ、今はこんなことをしている場合では……」
「ハニワ幻人、死ネェ!!!」
振り払うものの、ハロは親の仇のごとく何度も何度もアクセルに向けて体当たりしてくるではないか。
そうこうしているうちにも敵は確実に迫ってきている。
こんな状況で、もし相手が好戦的だったならば……
「ちっ、下がってろ!」
「ハロハロ!一方的ニ殴ラレル痛サト怖サヲ教エテヤロウカ~~~!!」
「ぐっ!?やめろ!少し黙って……うわっあいたたたっ!やめろと言ってるだろうがっっ!!」
コクピットに間抜けな悲鳴が響く。
そこには元シャドウミラー幹部の面影は微塵もなく、記憶を失った時と同じ間抜けな男の姿があるのみだった。
そして、そんな彼に冷たいツッコミが入る。
「あんた、何やってんの?」
振り向くと、スクラップ製の変なロボット……ボスボロットが、白い目でこちらを見ていた。

「そうだったのか……」
ボスボロットに乗っていたのは、ミオ=サスガという年端も行かない少女であった。
幸い、彼女にはには戦闘の意思はなかったため、大した諍いもなく話し合いに持ち込むことができた。
ボスボロットの見た目に、変な丸い物体に振り回されるパイロットに、お互い戦意を抜かれたというのも大きいのだが。
アクセルとミオは機体を降り、生身でそれぞれの素性を明かし合っていた。
ミオの目的。まず仲間であるプレシア=ゼノキサスという少女と、
このゲームで出会ったというマシュマー=セロという男を探し出すこと。
そして、共に戦える仲間を探すこと。このゲームに徹底抗戦するために。
「というわけで、どう?あの変態仮面を倒すために、一緒に青春を燃やしてみない?」
「何かの勧誘か……しかし奴に立ち向かうにしても、機体がこんなスクラップでは……」
「もう、だからこうして仲間探してんじゃない」
「ソウダ!MSノ性能ノ差ガ戦力ノ決定的ナ差デハ……」
「お前は黙っていろ」
いちいち突っかかってくるハロを黙らせて、アクセルは考える。どうしたものか……
自分の当面の目的はヴィンデルの捜索とその野望の阻止。だが最終的な目的はミオと変わりない。
とはいえ、正直彼女は戦力としては心もとない。むしろ足手まといになる可能性が高いだろう。
かといって、こんなガラクタに乗せられた、それも年端も行かぬ少女を置いていけるだろうか。
(見捨てることもできん、か)
俺も甘くなったかな……もし記憶をなくす以前の自分だったらどうだっただろうか――などと、ふと考える。
「ナニ感傷ニ浸ッテル!!」
浸る間もなく、アクセルの後頭部にハロの体当たりがヒットする。
「ぐっ!頼むから黙っててくれ!」
「あははっ、あんた達面白いねぇ~」
「ホメラレタ!ナンデヤネン!」

ハロは嬉しそうにミオの周りを跳ね回っている。まるで彼女になついたかのように。
「この子かわい~。ねぇねぇ、この子なんていうの?」
「いや……今しがたそこで拾ったばかりなんだが……」
「ハロ、ハロ!ハロガコイツヲ拾ッテヤッタンダ!」
「おい……」
「へぇ~、言うじゃない。ハロっていうんだ、いい子いい子」
「ミオ、見ル目アル!コイツヤヴィンデルノヨウナヘタレトハ違ウ!」
「誰がヘタ……ヴィンデルだと!?」
まさかこいつの口からその名が出てくるとは。アクセルは思わずハロを問い詰める。
「おい、お前奴を知っているのか!?答えろ!!」
「…………(゜Д゜)ハァ?」
あまりにも徹底的に相手をなめている態度に、さすがのアクセルも切れかけていた。
「このまま跡形なく破壊してやろうか……」
「ヤメロ。ヴィンデルノ情報持ッテルノ、ハロダケ」
「ぐっ!!」
このハロは何故アクセルをこうまで目の仇にしているのだろうか。
……今でこそヴィンデルの思想を否定しているとはいえ、アクセルも元はシャドウミラーの一員である。
自分を置いてけぼりにしたヴィンデルと、少なからず同じ匂いがしたからなのかもしれない。根拠は無いが。
「ハロちゃん、そんじゃあたしにだけ詳しく話してくんない?」
「話ス!ヴィンデル、今朝マデハロ達ト一緒ニイタ!」
「俺の時とはえらく態度が違うじゃないか……」
「ボウヤダカラサ!」
「ふーん……ところでハロ達ってことは、他にも誰かいたの?」
「ハロ!ハロ、仲間イッパイイタ!デモヴィンデルニ仲間イッパイ殺サレタ!!オンドゥルルラギッタンディスカー、ヴィンデルザァーン!」
こうは言っているが、ジャスティスを自爆させたのは他ならぬハロ達の意思であることを再確認しておく。
「そうか……それで奴のいb」
「ウルサイ、イッテヨシ!オマエもヴィンデルモケダモノ以下ダ!ケダモノ以下ダ!」
(なんでこうまで言われなきゃならない……)
こんな玩具ごときにこの言われよう、アクセルは無意識に凹んできていた。
ヴィンデル、ひょっとしてお前も同じような目にあっていたのか……などと考えてしまう。
実は彼の場合、アクセルより遥かに酷い目に合わされていたりするのだが……
ハロとシャドウミラーの人間は何か相性が悪かったりするのだろうか。

「ハロちゃん、そのヴィンデルってのとどこで別れたか、わかる?」
「ハロ!バッチリ!」
「よし、そんじゃあたし達をそこまで案内してちょうだい!」
「ガッテンダ!」
アクセルは驚いた。彼女の言葉から察するに、自分のヴィンデル捜索に協力してくれると言っているようなものだが……?
「おい、そんな勝手に……」
「いいじゃん、ヴィンデルってのを探してるんでしょ?せっかく手掛かり見つけたんだし、行かなきゃ」
「それはそうだが……しかしいいのか?お前も探し人がいるのだろう?」
「そうだけど……こっちは何のアテもないしね」
マシュマーがミオとブンタのもとを離れたのは朝の7時。もう既に8時間が経過しようとしている。
このまま大した手掛かりもなくこのままマシュマーを追ったところで、追いつけるとは思えない。
マシュマーが心配ではあったが、今は彼の無事を信じるしかない。
プレシアもそうだ。ゲームが始まって今まで、何の情報も無い。
もっとも、既に彼女が死んでいることなど今のミオには知る由も無いが。
とにかく、今は手掛かりのあったヴィンデルという男を捜したほうが、まだ見つけられる可能性はある。
話した限り、このアクセルという男は信頼できると直感的に思えた。
「せっかく仲間になってくれたし、それくらい協力しなきゃね~」
(まだ誰も仲間になるとは……いや、それも構わんか)
「サスガ師匠!ソノ寛大サ、惚レ直シマッセ!!」
「何だ?師匠ってのは……」
「ワテラノ世界デ最上級ノ敬称ダ。師匠ガ否ト言エバタトエソレガ正解トシテモ間違イニナル!
 ソレガコノ世界デノ掟ナンヤ!」
「どこの世界だ……」
「この子わかってるじゃない!よっしゃ、とにかくこのハロちゃんの情報からそのヴィンデルって奴を探しに行くわよ!」
「マカセトクンナハレ、師匠!」
言動がいつの間にか関西弁になっている。しかも微妙に胡散臭い。
誰だこんな歪んだプログラムを組み込んだ奴は。ユーゼスか?あるいは元から組み込まれて……
いややめとこう、それを考察したところで意味はない。

ハロの案内に従って、クロスボーンガンダムとボスボロットは北上する。
「やれやれ……突然変な連中に遭遇するようになったな……」
コクピットの中で、アクセルは一人呟く。
あのミオという娘、おちゃらけてはいるようだが、どこか無理して振舞っていたようにも思えた。
彼女はこのゲームで知り合い、あるいは知り合った仲間を失ったのだろうか。
あるいは、望まずして誰かを手にかけてしまったのかもしれない。
いや、もしかするとこの場に呼ばれる以前からも……この子は人の死を身近で何度も目の当たりにしてきたのではないか?
それも、戦士として。命のやり取りを肌で感じてきていたのではないか?
彼女の瞳からは強い意志が、使命感にも似たような確固たる意志が感じられた。
それは一朝一夕でできるような瞳じゃない。少なからず、死という壁を乗り越えてきた者でなければできないだろう。
(そうか……この子の元いた世界も、戦争が起こっていたのかもしれんな……)
「ほらほら、アクセルさん!早くしないと置いてっちゃうよ~」
「わかったわかった……」
こうして見ると普通の女の子だ。いや、この極限状況で正常を保てるのは、むしろ普通とは呼べないだろうが。
(強いな……この歳の女の子にしては、精神的に強すぎる。
 こんな女の子にこれだけの覚悟を強いるような、戦争……ましてやそれが日常的に起こる世界など……
 やはり間違っているのさ、ヴィンデル……たぶん、な……)

「ハロハロ!ホナ行キマヒョカ、師匠!」
「よっしゃ!首洗って待ってなさいよ、怪人変態仮面!」
気合一発、ライフル振り回しつつ機体を進めるミオ。
いつまでも泣いてばかりはいられない。ブンタの死を無駄にしないためにも。
生き残る。そしてこのゲームをぶっ潰し、あの変態仮面もぶっ倒す。
自分ひとりでは無理でも、マシュマーやプレシア、そして彼に抗おうとする仲間を集めてみんなで協力すれば……
今までも自分達はそうやって危機を切り抜けてきた。だから今度だって。
そうすることが彼へのせめてもの手向けであり、同時に――自分の義務でもある。
そう、魔装機神操者としての義務。それは世界存続の危機に際しては、全てを捨てて立ち向かう事。
このゲームが世界の存続に関わるかどうかは知らない。だが、魔装機神はこういう悲劇を食い止めるために
造られたのではなかったか。ここにザムジードはないが、その使命は変わらない。
だからもう逃げずに戦う、この悪夢を終わらせるために。魔装機神操者の、名にかけて。
(だから……見ててね、ブンちゃん!)



【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
 現在位置:B-4
 パイロット状況:記憶回復、良好
 機体状況:右腕の肘から下を切断されている
      シザー・アンカー破損、弾薬残り僅か
 第一行動方針:ヴィンデル・マウザーをこの手で止める
 第二行動方針:ハロからヴィンデルの情報を手に入れる
 最終行動方針:ゲームから脱出 】

【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
 現在位置:B-4
 パイロット状態:良好
 機体状況:良好 ビームショットライフル装備(エネルギー残少)
 第一行動方針:アクセルと行動、ハロの案内に従い北上
 第二行動方針:マシュマー、プレシアの捜索。主催者打倒のための仲間を探す
 最終行動方針:主催者を打倒する
 備考1:ブライガーのマニュアルを所持(軽く目を通した)
 備考2:居住空間のTVを失った
 備考3:ピンクハロを所持(人格プログラムが矯正されている……らしい?)】



同時刻。
ハロがミオ達を導く先、ジャスティスとマジンカイザーの戦ったあの場所。
そこで突如、新たな異変が生じていた。

墓標代わりに置かれたジャスティスの残骸。それが地面へと沈んでいく……
いや、地面の下の「彼ら」に取り込まれているのだ。
「彼ら」は機能を停止したはずだった。しかし、どういうわけか活動を始めている。
それも、本来「彼ら」が行うはずのない動きを。
一体「彼ら」に何が起きたのか。何故このような異変が起きているのか。
「彼ら」本体に何らかの仕掛けがあったのかもしれない。でなければ、他に考えられる要素は……
……いや、一つだけあった。

ゲッター線の発現。

異変が始まった時間帯、それはまさしく流竜馬がゲッターと共に消えた時とほぼ同時刻であった。
これを偶然と片付けてよいものだろうか。「彼ら」はゲッター線に反応して、このような異変を引き起こしているのではないか。
しかし何故、本来ただのマスコットでしかない「彼ら」が?
いや、そもそもなぜ「彼ら」は、何のためにジャスティスのコクピットに配置されていたのだろうか?
何故このゲームに「彼ら」はいたのだろうか。それには何らかの意味があったのではないか?
それを知る術は、今は無い。

今、ジャスティスは……地面の下に眠る「彼ら」に、完全に「食らい尽くされた」。
そして再び、その場を沈黙が支配する。嵐の前の静けさとも呼べるような、沈黙が。

この場で何かが起きようとしている。
ユーゼスすらも……いや、あるいは無限力―アカシックレコードすらも想定していないかもしれない、何かが。
それが何であるか、今は知る由もない……

「アツクルシイナア、ココ……オーイ、出シテクダサイヨ、ネェ……」


【二日目 16:00】





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第179話「ゲッター線 投下順 第181話「友への決意
第181話「友への決意 時系列順 第183話「奇跡

前回 登場人物追跡 次回
第169話「闘う者達 アクセル・アルマー 第187話「そして偶然が連鎖する
第160話「戦う力VS闘う力 ミオ・サスガ 第187話「そして偶然が連鎖する


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最終更新:2008年05月31日 19:08