そして偶然が連鎖する


バトルロワイアルの海に投げ込まれた、ゲッター線という名の石。
それによって波紋が広がるかのように、ゲッターの種子は広がっていく。
それが偶然を引き起こし、新たな戦いを呼ぶ……

今、ここでもゲッター線発現による影響があった。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
響き渡る、魔神皇帝の咆哮。
光子力反応炉の出力が急激に上昇し、暴走を促す。
「ぐっ、何だ!?この機体、一体何が起きている!?」
そのあまりのパワーに、ヴィンデルは機体を制御するだけで精一杯だった。
その周りで、ハロ達がけたたましく騒ぎ立てる。コクピット内を所狭しと跳ねまくる。
『ゲッターダ!!』『ゲッターゲッターゲッター!!』『オーオゲッター、ゲッターゲッター♪』『ガッツ!ガッツ!ゲッターガッツ!!』
「ええい、黙っていろ!!」
その騒ぎ方は、それまでと違い明らかに尋常ではなかった。
高すぎるテンションで狂ったように暴れまわる。そして連呼される「ゲッター」という謎の言葉。
しかしヴィンデルにとって今はそれどころではなかった。
(何だこの機体は……!?マニュアルにない力を秘めているとでも言うのか!?)
咆哮はさらに激しさを増す。まるで、機体が意思を持っているかのように……
『タタカウタメニ、トビダセゲッター!!』『ホエロリュウノセンシヨ~♪』『オレハボインチャンガスキナンデナ』
「ええい、やめろ!騒ぐなっ!!」
必死に制御してる中、小さなハロが顔やら操縦桿の周りを飛び回られるのは鬱陶しい以外の何者でもない。
ヴィンデルの注意がそれた、その瞬間――
「いかん、コントロールが!?」
マジンカイザーは、ついにヴィンデルの手を離れ勝手に動き始めた。
方向を変えると、そのまま今来た道を戻り走り始めた。
『走リダセ、フリムクコトナク!!』『今ガソノ時ダ!!』『インドウヲワタシテヤルゼエエエエ!!!』
ハロ達はさらに激しく暴れ始める。まるでカイザーとハロ達の意思が同調しているかのように。
さすがにヴィンデルにもその異常に気がついた。
「お前達、さっきから何を……」
『黙レ!!!ソシテ聞ケ!!!』『イイカラボクノイウトオリニスルンダ!!!!』
「は、はい……」
普通ではない鬼気迫る勢いに、ヴィンデルはまたしても怖気づいてしまった。
どうやら植えつけられた負け犬根性は簡単に消え去るものではなかったようだ。
そんな彼らを他所に、カイザーは大地を爆走する。何かに呼ばれているかのように。
(どこへ連れて行くつもりだというのだ……?とにかく、何とかして止めなくては……)


『師匠!ココヤ、ココデンガナ!』
「案内ありがとね~、ハロちゃん。にしてもすごいね……何があったんだろ、これ」
ミオとアクセルの目前には、数十mにも及ぶであろう巨大なクレーターが広がっていた。
「爆発……いや、自爆の跡、か……」
呟くアクセル。それまでに得られた情報からすると、その可能性が高いだろう。

ヴィンデルの情報を知るというピンクハロが案内した場所、それはジャスティスの自爆跡。
ジャスティスが謎の黒いロボットと戦い、そして機能停止したハロ達の埋められている場所でもあった。
しかしヴィンデルがそこに墓標代わり(?)に立てたはずのジャスティスの残骸は綺麗さっぱりなくなっている。
無論、そんなことをミオとアクセルは知る由もない。

――アクセルは、ハロから聞き出した……いやミオに聞き出してもらった情報を整理する。
クレーターの周囲は激しい戦闘の後が見て取れた。大きく抉られた地面、焼き尽くされ焦土と化した草原。
ヴィンデルの乗っていた機体にここまでのパワーがあるとは思えない。
(ヴィンデルの戦った敵というのは相当な怪物だったようだな。
 そして今、奴はその怪物に乗っている……ということか)
舌打ちする。ヴィンデルを止めるべく行動する彼にとって、厄介な事態ではある。
だが、彼は今一度考え直す。このままヴィンデルと無理に戦う必要があるかどうか、だ。
(奴ならばゲームからの脱出を最優先……いや、あのユーゼスの持っている未知の技術を奪取することを考えるかもしれん。
 そのためにユーゼスの打倒を目指して、策謀を張り巡らすだろうな……
 いくら力を手にしたとしても、あの男が積極的にゲームに乗るような直接的手段を選ぶとは思えん)
ヴィンデルの考えそうなことは大体予想できる。皮肉なものだが。
いずれにせよ、ゲームを脱出するにはやはりユーゼスを出し抜くしかない。
ヴィンデルの野望を阻止する意志は変わらない。最終的には決着を付けることになるだろう。
だが、アクセルはヴィンデルとの一時的共闘もやむを得ないのではないか……そう思い始めていた。
「アクセルさん、なにぶつぶつ言ってんの?」
「……いや、何でもない。考えるのは後だ……そろそろ放送の時間だからな」
時計を見ると、第三回の放送まであと2,3分という時間になっていた。
(もうこんな時間か……マシュマーさんやプレシアは無事かな……)
仲間の身を案じるミオ。その時、抱えているハロが突然喚き立てる。
『ハロ!ハロ!ナニカガセッキンチュウ!!師匠、テキガキマッセ!!』
「えっ!?わかるの!?」
「ミオ、レーダーに反応がある!物凄いスピードで一直線に向かってくるぞ!」
二人は反応のした方向に振り返る。何かがこちらに向かって、凄まじい勢いで爆走してくる。
「何か来るよ!?」
『ヴィンデルヤ!!』
「何ッ!!」
ハロの口走った言葉に、アクセルの目が見開かれた。


「く、くそっ!何故止まらん!!!」
『我ヲハバムモノナシ!!』『ダッシュ!!ダッシュ!!ダンダンダダン♪』
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!」
猛烈な勢いで走るマジンカイザー。パイルダーの中にヴィンデルの絶叫が響く。
二人の機体の位置は、ちょうどカイザーの進行線上にある。
あの巨体とスピードで突っ込んで来られては、装甲の薄いこちらの機体は……
「いきなり仕掛けてくるつもりか!?まずい、かわせミオ!!」
「うわわわっ!?」
考える間もなく、カイザーが突っ込んでくる。
紙一重で回避するガンダム……しかし、ボロットの反応速度ではそれに対応しきれない。
「ダメ、よけられな……」
超合金ニューZαの弾丸が直撃する。脆いスクラップは容易に砕け散った。
バラバラになったボロットの残骸が、辺りに散らばる。
「ミ……ミオォォ―――ッ!!!」

衝突により勢いが削がれ、カイザーはそのまま転倒した。
「はぁ……はぁ……止まった、か……あのガラクタに感謝、だな」
そのガラクタが実は人が乗っていたロボットだとは、制御に必死だった彼は気付いていなかった。
結果的に爆走は止まった。転倒のショックか、制御はかろうじてヴィンデルの手に戻ったようだ。
とはいえ光子力反応炉の出力は依然上昇したままであるが。
ハロ達も今の衝撃か、はたまた暴れすぎてオーバーヒートでもしたのか、一時的に機能を停止していた。
おかげでパイルダー内は先程までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。
「落ち着いた、ようだな……」
ハロに付きまとわれた彼がこれだけ静かな時間を過ごせたのは、このゲームが始まって以来かもしれない……
が、状況はそんな静寂を長くは許してくれなかった。
「ヴィンデル……それに乗っているのはヴィンデル=マウザーか!!」
(フフフ……それにしても、また出会うことになるとはな)
倒れたカイザーの前に立ちふさがる、クロスボーンガンダム。
その声に、彼はあくまで平静を保ち受け答える。
「フ、アクセル=アルマーか……まだ生きていたようだな」
だが、カイザーの突進でミオを殺された今のアクセルに、その対応は適切とはいえなかった。
「ヴィンデル……お前はもう少し賢い男だと思っていた……」
「何?」
アクセルは完全に誤解していた。しかしそれも無理もない。
いきなりの不意打ちを食らい、味方を問答無用で殺されたのだ。
言い訳のしようがない……いやそれ以前に、ヴィンデルにはその自覚すらないのだが。
「やはりお前を放置するわけにはいかん……お前の殺戮も野望も、俺が止める……!!」
「何だと……!?まさかお前、記憶が……?」
クロスボーンガンダムが戦闘態勢に入る。
(確かにとんでもない怪物だ……だが、あのむき出しの目立つコクピットさえ狙えば……)


マジンカイザーのタックルで破壊されたボスボロット。しかし、完全に破壊されたわけではなかった。
タックルの衝撃で頭部が外れ、宙を舞う。そしてクレーターに落下し、そのまま中心部へと転がり落ちていった。
そして……
『師匠!シッカリ!師匠!シッカリ!」
「い……たぁ……あぁ、死ぬかと……思った……」
とりあえず、お約束のセリフを呟くミオ。
あれだけの攻撃でしっかり生き残るのはお笑いロボットの特権、という奴だろうか……
しかしパイロットまではそうはいかない。吹っ飛んだ衝撃で身体をあちこちぶつけている。
(効いたなぁ、あの体当たり……さしずめ、ダイナマイトタックル、ってとこ?いたた……)
幸い軽傷ではあったものの、その衝撃のせいで意識が朦朧とする。
『師匠!!師ィィィィィ匠ォォォォォォォォ!!!』
「いや、死んでない……って……」
ハロの絶叫に突っ込みを一つ入れると、そのまま彼女は気を失った。



【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
 現在位置:B-3
 パイロット状況:記憶回復、ヴィンデルへの怒り
 機体状況:右腕の肘から下を切断されている
      シザー・アンカー破損、弾薬残り僅か
 第一行動方針:ヴィンデルを倒す
 最終行動方針:ゲームから脱出
 備考:ミオは死んだと思っている】

【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザーwithハロ軍団
 パイロット状況:パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
         やや気力低下したものの回復中
 機体状況:良好
 現在位置:B-3
 第一行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
 第二行動方針:戦闘はなるべく避けるが、相手から向かってくる場合は容赦しない
 最終行動方針:主催者を打倒し、その技術を手にする
 備考1:コクピットのハロの数は一桁、現在一時的に機能停止中
 備考2:暴走時のマジンカイザーは真ゲッターの現れたC-1に向かっていたと思われる
 備考3:実はボロットを破壊したことにまだ気付いていない】

【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
 現在位置:B-3
 パイロット状態:気絶
 機体状況:頭部のみ、それ以外は大破
 第一行動方針:マシュマー、プレシアの捜索。主催者打倒のための仲間を探す
 最終行動方針:主催者を打倒する
 備考1:ブライガーのマニュアル(軽く目を通した)、 ピンクハロを所持
 備考2:大破したボディの残骸及び無傷のビームショットライフル(エネルギー少)がカイザー・X1の周りに派手に散らばっている
 備考3:ボロットの頭はクレーターの中心部に転がった】


ゲッター線の発現によって二つの偶然が起こり、その二つが交錯して、因縁の二人を引き合わせた。
そしてその接触は、新たな偶然を引き起こす。

「何機か集まっているようだな……ならば……!」
狂気を秘めた薔薇の騎士が、アクセル達の存在を感知した。
今、漆黒の悪魔王が飛び立つ。彼らの抹殺に――そして全てを滅ぼすために。

そこで破壊されたボスボロットの残骸を見た時、果たして彼は何を思うだろうか――?



【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 機体状況:Z・Oサイズ紛失 少し損傷
 パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発
 現在位置:B-3
 第一行動方針:ハマーンの仇討ちのため、皆殺し(ミオ、ブンタを除く)
 最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】

【二日目 17:59】

今、魔神と魔王が邂逅しようとしている。丸い悪魔が眠っている、この地で。
第三回放送よりわずか1分前。
この土壇場にきて、B-3の地に嵐が荒れ狂おうとしていた。





前回 第187話「そして偶然が連鎖する」 次回
第186話「艦長のお仕事 投下順 第188話「5分前
第191話「リョウト 時系列順 第192話「放送(第三回)

前回 登場人物追跡 次回
第180話「ハロと愉快な仲間達 アクセル・アルマー 第193話「変わる心 ~戦いの果てに~
第173話「Last Boss ヴィンデル・マウザー 第193話「変わる心 ~戦いの果てに~
第180話「ハロと愉快な仲間達 ミオ・サスガ 第193話「変わる心 ~戦いの果てに~
第182話「悼みの情景 マシュマー・セロ 第193話「変わる心 ~戦いの果てに~


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最終更新:2008年06月02日 03:01