謀-Project-
――ベターマン。
それは自分が置かれている状態に最も適した(ベターな)形態に変化する能力を持った生命体である。
彼らは様々な実を食する事で各形態に変異を行い、それぞれ異なった能力を発揮する。
アニムスの実によって変化を果たした彼ら“ベターマン”の戦闘能力は、人知の領域を超越する。
あるいは重力を支配し、あるいは気圧を変化させ、あるいは光や電磁波を操り、あるいは不死の生命力を発揮する。
それが、ベターマン。
あらゆる状況に応じて自らの肉体を変化させる生命体である。
だが、彼らの変異能力は“実”あっての事。
自らの耐性に合致した実を食する事が出来なければ、その力を発揮する事は出来ない。
……ベターマン・ラミア。彼が現在保有する実の数は、5。
ネブラの実が2つ、アクアの実が1つ、そしてフォルテの実が2つ。
そして、フォルテは使えない。フォルテ3つで精製される、ラミアの最強形態――オルトス。
その力を必要としている現在、ただでさえ入手困難なフォルテの実を使う事は出来ない。
だが、彼が現在追跡している相手――東方不敗の実力は、恐ろしく強い。
フォルテの力無くしては、勝つ事は出来ないだろうと思えるほどに。
<だが……それでも勝つしかない……>
……現在、アルジャーノンの気配は止まっている。恐らく、自分を待っているのだろう。
彼方の気配に追いつくべくして、ラミアは岩山を駆けて行った。
「……ウルベは死んだか。どうやら、ワシが手を下す必要は無かったようだな」
流れる雲を見上げながら、東方不敗は一人呟く。
倒すべき敵の死を知ったと言うのに、その表情は重く暗い。
流竜馬、そしてリオ・メイロン。
このようなふざけた戯れに巻き込まれる事さえなければ、無残な死を遂げる事もなかったのであろう前途ある若者たち。
このような地で死んでも良い者たちではなかった。この
バトルロワイアルを抜け出して、元の日常に戻るべき者たちだった。
惜しい者たちを失くしてしまった……。
死者の安らぎを願いながら、東方不敗は掌を合わせた。
……このゲームに巻き込まれた時から感じ続けている精神の乱れ。
ともすれば呑み込まれそうになる破滅的な衝動は、今も東方不敗を襲い続けていた。
アルジャーノン――
ユーゼスによって植え付けられた破壊の衝動は、今も彼の精神を蝕んでいる。
だが、長年に渡り鍛え続けた彼の精神は――そう、明鏡止水の心得は、常人ならば耐えられない破壊の衝動を今も抑え続けていた。
かつてデビルガンダムの元に身を置きながら、しかしDG細胞に最後まで感染する事無く人の意思を保ち続けた東方不敗である。
武術家の――そしてキング・オブ・ハートの誇りに賭けても、破壊の衝動に流される訳にはいかなかった。
「来たか……」
そうして、どれだけ待ち続けていたのだろうか。永らく待ち続けていた東方不敗の前に、一人の男が姿を現す。
各参加者に支給されているはずの機動兵器に乗り込んでいない、どこかしら異様な雰囲気を持つ青年。
常人の身体能力では踏み越える事の出来ないだろう岩山の頂点に、生身で辿り着いたとでも言うのだろうか。
呼吸一つも乱さずに、その青年は真っ直ぐに自分を見据えていた……。
ゲッター線。
それは宇宙から降り注ぐ無限のエネルギー。
恐竜を絶滅させ、哺乳類の進化を促し、そして人ならざる機械でさえも進化させる未知の超エネルギー。
それは独自の意思を持ち、自らの意思でもって力を振るう。
そしてゲッターの意思に認められないものは――ゲッターの力を、決して味方にする事は出来ない。
……それは神にも等しい力を得ようとしている、ユーゼス・ゴッツォとて例外ではない。
ゲッターの意思に選ばれていない彼では、ゲッターの力を得る事は出来ない。
いや、それどころかゲッターの力によって我が身を滅ぼされかねない。
そう、ゲッター線の力によって滅ぼされた、ハ虫人類と同様に。
だが……。
「……ベターマン。彼らの適応能力ならば、ゲッターの力にも抗う事の出来る肉体を得られるのではないか?」
デビルガンダムは、決して不滅の存在ではない。それは過去のデータから、既に導き出された結論である。
自己進化、自己再生、自己増殖。それら三大理論によって、通常を遙かに越える超生命力を有してはいるが、それでも決して不滅ではないのだ。
ゲッターの意思と真っ向からぶつかり合えば――デビルガンダムは、滅ぼされる。
いや、デビルガンダムだけではない。
ゲッターの力を制する事が出来るのは、ゲッターに認められし者しか居ないのだ。
……だが、それならば。
あらゆる状況に応じて自らの肉体を変化させる彼らならば――
そう、ベターマンならば――
ゲッター線に適応した肉体を作り出すことも、いずれは不可能でなくなるのでは?
ならば彼らの力をデビルガンダムに取り込ませ――
さらに彼らが持つ適応能力を、デビルガンダムの力によって進化させ――
それを己が物にすれば――
「そう……私は、ゲッターを越える存在となる……」
その為に必要なのが、オルトスの肉体。
ゲッターの力に逆らいながらも、なお生き続ける事が可能であろう不死の肉体。
ベターマンの適応能力が、ゲッター線への対抗策を身に付けるまでの、いわば繋ぎ。
「オルトス化したベターマンをデビルガンダムに取り込ませた上で、ゲッター線の暴走を引き起こす……」
すると、どうなる?
どのような結果が導き出される?
「クク……私の予想が正しければ、我が新たなる神の肉体が……クッ、ハハッ、クハハハハハハハハハハハッ…………!」
……予想される計画の結果に湧き上がる哄笑を抑えられず、ユーゼスは子供のように笑い声を上げる。
ああ、計画は順調だ。
全ては我が掌の中にある……。
【ベターマン・ラミア 搭乗機体:無し
パイロット状況:良好
機体状況:無し
現在位置:D-6(岩山)
第一行動方針:アルジャーノンが発症したものを滅ぼす
第二行動方針:他の参加者に接触し情報を得る
第三行動方針:リンカージェル、フォルテの実を得、オルトスの実を精製する
最終行動方針:元の世界に戻ってカンケルを滅ぼす
備考:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネブラの実 残り2個】
【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
パイロット状況:良好。アルジャーノンの因子を保有(殺戮衝動は気合で押さえ込んでいる)
機体状況:良好(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
現在位置:D-6(岩山)
第一行動方針:ベターマン・ラミアへの対処
第二行動方針:ゲームに乗った者を倒す
最終行動方針:必ずユーゼスを倒す】
【二日目 18:30】
最終更新:2008年06月02日 03:55