ある野望の遺産
デビルガンダムは、既に次の段階への進化を始めていた。
その進化のスピードは、元々のデビルガンダムのそれに比べ、異常なまでに速い。
生体ユニットが女性であることも当然だが、やはり
ゲッター線の効果が大きい。
ミオ・サスガの持つ高いプラーナが、生体ユニットとして効果的に作用しているのかもしれない。
(素晴らしい……まさか、これほどまでとはな)
その様子を見ながら、ユーゼスは感嘆の溜息をつく。
これなら、最終形態に辿り着くまで、そう時間はかかるまい。
さらに、アニムスの実をその身に取り込んだことで、デビルガンダムの自己進化機能が働き……
実の遺伝子情報から、少しずつ、しかし確実に、デビルガンダムにベターマンの特性が備わっていく。
この上でベターマンを取り込むことができれば……
神の身体は、ひとまずの完成を見ることになるだろう。
あまりに上手く事が運ぶため、全身に震えすら走る。
だが、順調だからこそ、ここで油断してはならない。
次の計画が動き出そうとしている、今だからこそだ。
デビルガンダムが一定段階以上に成長した今、“システム”が動き出す。
そして、デビルガンダムにまた新たな力が宿る。
新たな……最悪の、力が。
(ここ、どこだろ……何も見えない……)
目前に広がるのは、果てしない暗闇。
その奥底に、少女の意識はあった。
自分はどうなってしまったのか――
上下の感覚も、時間の感覚も何もない。
生きているのか、死んでいるのかすらも分からない。
あるのは、ただ一つ。目の前の暗闇から感じられる感覚のみ。
恐怖―――
絶望―――
(誰かここから出してよ……もうやだ、帰りたい……)
その弱気は、普段の彼女からは想像もつかない。
それほどまでに、少女の精神は打ちひしがれていた。
もはや冗談を飛ばす余裕などない。そこにあるのは、ただ底知れぬ恐怖に怯える、哀れな姿のみ。
(……なんで……こんなことになっちゃったんだろ……)
思い出そうにも、思い出せない。
自分の記憶が、いや自分の意識そのものが、目の前の闇に侵食されていくような感覚。
味わったこともないような深い絶望がのしかかり、彼女が考えることを邪魔する。
どうして、こんなにも不安になるのだろう――?
まるで、絶望が直接自分の心に流れ込んできているような……
直接……
(え……?)
その闇は次第に勢いを増し、周囲をさらに黒く染め……直接、少女を包み込んでくる。
(何、この感じ……あたしの中に……何かが、入ってくる……?)
怒り。悲しみ。憎しみ。疑い。嫉妬。恐怖。絶望。狂気。
ありとあらゆるさまざまな負の感情が、大波となって少女に押し寄せてくる。
(やだっ、何よこれ!?いやああああああああああっ!!!)
ユーゼスが
バトルロワイアルを始めた、一番の理由。
それは、人間の持つ心の闇……いわゆる「負の心」を集めること。
(人間とは愚かな生き物だ。
苦しい状況に追い込まれると怯え、もがき、妬み、憎み合い……そして心に闇を抱くようになる。
この狂気に満ちた殺し合いの世界で生まれた、計り知れない闇……
それをエネルギーに変換すれば……ククク……)
そう……ユーゼスがこのゲームを通じて集めていたという、超神の力とは。
人の心の闇……人間の負の感情。
負の心によって生まれるエネルギーが、超神の新たな力の源。
そして、ユーゼスの設定した“システム”として……
DG細胞が一定段階以上に進化を遂げた時、
負の心によるエネルギーに耐え、そしてそれを行使できる段階まで成長したと思われる時、
収集した負の心のエネルギーは、負の波動となって、この会場のDG細胞へと送られるようになっている。
デビルガンダムは、力を満たすための、いわば容器。
「ふ……ふはははは……!
成功だ……予測どおり、いや……それを凌駕する成果だ……!!」
この上、さらに活性化を始めるDG細胞。
デビルガンダムは、負の波動を吸収したことで……さらなるパワーを得た。
その進化は、留まる所を知らない。
(うああああああああああああああああああっ!!!!)
負の波動が、デビルガンダムへと一気に流れ込んでくる。
それはDG細胞を通じて、生体ユニットの少女にも直接伝わってきた。
(怖い!!苦しい!!痛い!!気持ち悪い!!
やだ、助けて!!誰か助けて!!)
殺し合いの中で生まれた闇の全てが、鮮明に少女の脳に流れ込む。
その感情が生まれた瞬間の状況までもが、吐き気がするほどに鮮明に。
殺される恐怖。傷つけられる痛み。
大切な人を失った悲しみ。生きている相手への嫉妬。そこから生まれる憎悪。
壊れゆく精神。それを埋めあわせる狂気。
肥大化する疑心。それらが連鎖し、生まれる敵意。
そうした感情のもたらす、殺意。
バトルロワイアルによって曝け出された、人の心の闇。
それらが、ご丁寧な状況付きで少女の頭を駆け巡る。
まるで、疑似体験をさせられているかのように。
(あああああああああああああああああ!!!!
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてお願いだからあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
この狂った殺し合いの世界で生まれた、巨大すぎる闇。
本来ならば平和のために正義を貫く強き戦士達すらも、狂気に走らせるほどの闇。
そんな強力な闇の全てを、たった一人の少女の心で受け止めるなど……
耐えられるはずがない。
(うああ……が……がぁ……ぁ……ぎゃぁああああああああああああ!!!!)
ただでさえ衰弱しきっていたその心が、正気を失っていく。
(もう嫌、こんな想いなんてしたくない!!!これなら死んだほうがいい!!!
死にたい、死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死なせて!!!
あたしを助けて、誰かあたしを殺してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)
その悲痛な叫びは誰にも届かない。今の彼女には死すらも許されない。
ただ、悪魔の心臓として、その場に存在するだけ。
(誰も助けてくれない……誰もあたしを殺してくれない……あたしに構ってくれない!!
誰か構ってよ!!あたしを一人にしないで!!なんで誰もあたしに構ってくれないの!!
なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!!なんでなのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)
壊れゆく心。
そしてそれは、次第に……他者への殺意にすら変貌していく。
(誰もあたしを助けてくれない
みんな、あたしが苦しむのを嘲笑ってるんじゃないの?そうだ、そうに違いない
みんないなくなっちゃえばいい、そうすれば、こんな思いしなくていいのに!
いなくなれば、死んじゃえばいい、そうだみんな死んじゃえば、
殺しちゃえばみんな死んでいなくなる
そうだ殺せばいい殺せば殺せば殺せば殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……)
あらゆる負の感情に徹底的に陵辱され、その心は狂気に染まり……
それはやがて狂気すら通り越し、崩壊の一途を辿りだす。
そこにまともな理屈などもはや存在しない。
彼女の心は、深い闇に堕ちていった。
今でこそ、こうして外部の“システム”を介しなければ負の心を集め、取り込むことはできない。
だが、今のスピードで無限の進化を続けるデビルガンダムならば……
そう遠くないうちに、外部からの干渉を要せずとも、自ら闇を取り込める段階まで進化することだろう。
それは、霊帝ケイサル・エフェスや破滅の王ペルフェクティオに等しい存在といえる。
「いや違う……私は、神を超えるのだ」
人の心の闇を糧にし、ゲッター線の力で無限の進化を続ける、究極の生命体。
彼の目指す所は、目前まで迫っている。
「さあ、どうするラミア・ラヴレス?」
誰とも無く呟く。ラミア……己の手駒。
デビルガンダムは、殺し合いを扇動する彼女にとって、障害となりえるだろう。
このままデビルガンダムが肥大化すれば、いずれ全ての参加者達の目に付く。
そしてその存在は、「共通の敵」として、参加者同士の結束を促す可能性を生む。
それは彼女の任務遂行にあたって好ましい展開ではない。
ひいては、彼女自身の危機を導く結果にもなるだろう。
しかし、その結束に、彼女がどれだけ亀裂を入れられるか……それを期待するのも、また一興。
「今後、生存者達がゲームを壊し、私に牙を剥いてくるか……
ゲームを完遂し、さらなる多大な負の心のエネルギーを提供してくれるか……
全ては、お前の働き次第かもしれんぞ。ククク……」
このゲームを娯楽として心底楽しんでいるような嘲笑。
参加者の負の感情を煽り立てるために、ラミア・ラヴレスはジョーカーとして投入された。
彼女の役割は、確かに重要ではある。だが大局的に見れば……
彼女もまた、ユーゼスにとって、余興を楽しむための駒のひとつに過ぎないのだ。
【二日目:20:10】
【二日目:???】
それはほんの、偶然だった。
進化を続けながら地中を進むデビルガンダム。
その通り道に、たまたま――マシンが一機乗り捨てられていた。
デビルガンダムは、その機体をまるでもののついでのように取り込んでいく。
それが大局に影響することなど何もない。
果てしない進化の階段を登るデビルガンダムにとって、そしてユーゼスにとって。
今となっては、この機体を取り込む程度のことは、取るに足らない些細な出来事でしかなかった。
……それでも。
その偶然は、小さな、しかし確実なきっかけになった。
(ア……レ…………ハ…………?)
ほんの僅か、彼女が我を取り戻すきっかけに。
取り込まれたのは、マシュマーの乗っていた機体。そして本来なら、ブンタの搭乗していた機体。
――魚竜ネッサー。
(マシュマーサン……ブンチャン……)
ネッサーの吸収でわずかに戻った、ミオ・サスガの理性。
(―――――――――!?)
そのほんのわずかな切り口から……
少女の中に、何か別のものが流れ込んできた。
負の波動とは違う、何かが。
(え……?)
ミオの目の前に、世界が広がる。
それは進化の記憶の一部であり。
世界の成り立ちの一部でもある。
生まれる地球。恐竜の誕生と、滅亡。サルから進化する人類。
人類の歴史。そこから生まれる、無数の並行世界。その行き着く果て。
(何、これ……?)
そして――――――命。
「どうなってんの……」
ミオはしばし呆然とし……そして、改めて気付いた。
自分を覆い尽くしていた闇が、心を埋め尽くしていた闇が晴れていることに。
先程までの地獄の苦しみが、嘘のように消えている。
「なんで?どうして……?」
その心も、先程までとはうって変わって、安定を見せていた。
(大丈夫、恐れないでミオさん)
誰かが、ミオに語りかけてくる。
その声に気付き、面を上げると……そこには。
「プレシア!?」
ミオのよく知っている仲間。プレシア・ゼノサキスの姿があった。
「よかった、無事だったんだ……って、どうしてここに!?」
ミオの問いかけに、プレシアは語り始めた。
(私は、死を迎えて……そして魂が、この地に蔓延したゲッター線に導かれて……ここに来たの)
「……は?死んだ?魂?ゲッター?何言ってんの?」
いきなり意味不明の言葉を告げられ、困惑する。
するとまた新たに別の声が聞こえ、その主が姿を現してきた。
(ゲッター線、それは宇宙の意思のひとつ……
私達の魂はそれに導かれ、あるべき所に還っただけなのです)
「ブンちゃん!?」
その主は、ハヤミブンタ。ミオの目前で確かに死んだはずのブンタが、そこにいた。
いや、彼だけではない。
(そうだ……全ては同じ次元、同じエネルギーから発生したものなのだからな……)
「アクセルさん!?」
死んだと聞かされた、アクセル・アルマーも。
「何よこれ……ここってひょっとして死後の世界!?あたし死んだの?」
(いいえ。あなたはデビルガンダムを通じて、ゲッター線に触れているだけです。
死んだわけではありません……今の状況では、生きているとも言い難いですがね)
今度はシュウ・シラカワが現れ、ミオに語りかける。
「あ……シュウ!それに……?」
それだけではない……このゲームで散っていった40の魂が、そこに存在した。
それは別の言い方をすれば……このゲームによって生まれた、「まつろわぬ霊」達。
(全ては同じ次元から発生しているのだ)
(そして、みんな同じ次元に存在する)
(そう……みんな、ここにいる)
(生物も物質も、天国も地獄も)
(時間も空間も、そして命も。同じエネルギーでバランスを保つパラドックス……)
霊達のメッセージが、ミオの脳裏に流れ込む。それは、まるで何かの意思のもとにあるかのようだった。
「あのー……話についていけないんだけど……」
(だが、その宇宙の理を崩そうとしている者がいる)
新たな声が響いてくる。
それはゲッターの意思そのもののようでもあり……目の前の霊達全ての声のようでもあった。
(――ユーゼス・ゴッツォ。
彼はこのバトルロワイアルを通じて、神をも超える存在になろうとしている。
人の心の闇を、負の感情を糧とする、超神に……
それは無限力と対極をなす、霊帝や破滅の王と呼ばれる者達と同質の存在。
ユーゼスがその目的を達成すれば、ここにいる者達は皆、まつろわぬ霊のひとつとして……
彼に取り込まれることになる。それは、宇宙の真理を乱す行為……)
とりあえず、ミオは黙ってそれを聞く。内容は相変わらず意味不明だ。
だがこのゲームを通じて、ユーゼスは負の感情を集めて神を超えようとしてるらしい。
よくわからないけど、何かのアニメみたいだ……ミオはそう思った。
(ミオ・サスガ……時間がない。アニムスの実を取り込んだことがきっかけで、
デビルガンダムはゲッター線に適合し始めている。
そうなれば、我々の声を君に届けることもできなくなるだろう。
だから、君に今分かっていることを伝える……)
その言葉と共に、ミオの頭に新たな情報が流れ込んできた――
(この会場のある場所に、“ゲート”が存在する。
デビルガンダムに供給される負の波動は、そこから放出されている。
それは、会場を構成する、このバトルロワイアルの“核”……
それを壊せば、ゲームの破壊のための大きな切り口となるだろう)
「ゲート……?それって、どこに……」
(生体コアである今の君ならば感じ取れる。
DG細胞に流れ込む負の波動、それを遡ればいい)
「そ、そんなこと言われてもさ。第一、今のあたしの状態じゃ……」
そうだ。例え、打開する術を見つけたとしても、今のミオの身体は死んだも同然の状態。
ゲートを壊すために行動することも、ゲートの情報を誰かに伝えることすらもできない。
(……今は、心を強く持つがいい)
「え?」
(そうだ。DG細胞に飲まれないよう、心を強く持て。
強い精神力を備えれば、DG細胞を跳ね除けることは可能だ
デビルガンダムの進化を遅らせることも、君自身が元の身体に戻る可能性も出てくるだろう)
「そ、そうかなぁ」
(大丈夫よ、ミオさん)
プレシアが言った。
いつの間にか、彼女の身体はうっすらと透け始めていた。
プレシアだけではない、ミオを囲む霊達全てが。
(みんな、ここで見守ってるから)
その言葉を最後に、彼女はミオの前から消えていく。
その瞬間、ミオの中に彼女の記憶が流れ込んできた。
(大丈夫です。マシュマーさんを信じていてください)
(今のヴィンデルなら……やってくれるさ)
続いて、ブンタ。アクセル。次々と、魂達はミオの前から姿を消す。
そのたびに、ミオの中に、いろんな記憶が流れ込んでくる。
それは、犠牲者達の想い。
負の感情だけではない、彼らがこのゲームを通じて感じてきたこと。
彼らがもがき、足掻いてきた確かな痕跡。
その中で、信じて想いを託してきた生存者達の存在も。
彼らの想いが、伝わってくる。
ゲッター線の意思とは違う、彼らの確かな願いが。
やがて全ての霊達は消え……そして、最後に流竜馬が残った。
(君と話せるのもここまで……あとは君の心次第だ)
その声は、語りかけてきたゲッターの意思と同じようにも思えた。
「……うん」
ミオの瞳からは、怯えや絶望は消えていた。
死んでいった者達の想いを、確かに感じ取ったから。
そんな彼女に、竜馬は語りかける。
(最後に一つ、頼みがある。ゲッターの意思ではない、俺の、流竜馬としての頼みだ)
「え?」
(鉄也君を……剣鉄也を、助けてあげてくれ。
彼は闇の力に取り込まれ……そして、自ら受け入れた)
「それって……自分の意思で、あたしと同じようになってるってわけ?」
(そうだ。彼はゲッターの見せる運命を否定し、全てを捨てて悪鬼になった。
しかし、彼は全てを捨て切ってはいないと思う。
彼の行為の原動力には、間違いなく仲間への想いがあるはずなんだ)
「……なんで、あたしに?」
(今、おそらく彼の一番近くにいるのは君だからだ。DG細胞で繋がっていることで……
君なら、彼の心に触れることもできるかもしれない)
彼と話したことも、逢ったこともない人間に、それを頼むのは無茶であるかもしれない。
竜馬自身、それはわかっていただろう。
だが、彼をこのまま闇に堕ちたままにしておくのは。ユーゼスの野望の道具として使われるのは。
それは、あまりにも哀しい。
(できれば、で構わない……彼がただの殺人鬼ではない、それを心に留めておいてくれるだけでも……)
「……わかった。頑張ってみる」
(そうか。ありがとう……)
竜馬は遥かな時空の彼方へと消えていった。
ゲッターロボと共に……
そしてミオの意識も、現実へと引き戻されていく。
【二日目 21:00】
会場のほぼ中心部。
そこを震源として、激しい地響きが鳴り渡り、地面が割れていく。
その地割れの中から、巨大な怪物の如き物体が姿を現した。
新たな形態へと進化を遂げた、デビルガンダム――
DG細胞が、周囲の大地を汚染していく。
汚染された地面から、ガンダムヘッドが姿を現し……
程なくして、デビルガンダムを中心に巨大な「要塞」が形作られた。
依然として、デビルガンダムは進化を続けている。
このまま肥大化を続ければ、いずれ会場全土を覆いつくしてしまうかもしれない。
そこに、止め処なく流れ込んでくる負の波動。
デビルガンダムに更なる力を与え、どんどん手が付けられなくなっていく。
その負の波動の出所、それは―――
丸いドーム状のオブジェクト。
それこそが、ゲートと呼ばれた……バトルロワイアルの核。
“ダイダルゲート”
かつて、ある世界に、新帝国ダイダルと呼ばれる悪の組織が存在した。
その首領・帝王ダイダスは、このダイダルゲートを地球の各地に設置。
ゲートからワームホールを発生させ、そこからダイダル兵と呼ばれる戦闘員を地球各地に送り出し侵略を行ったという。
ユーゼスは、このダイダルゲートに目をつけた。
ワームホールを生み出すこのゲートを、自分の持てる技術を注ぎ込んで改造する。
そしてその機能をさらに発展させ、会場全体の空間操作・制御のための基点としての機能を持たせることに成功した。
……だが、ダイダルゲートの機能はこれだけではない。
ゲートには、もう一つの……真の機能とも呼べるシステムがある。
むしろそれこそが、ユーゼスにとって最も目を引いた要因。
それは……人の心の闇、人の持つ負の心、それを感知・収集し、エネルギーに変換するシステム。
これが、イングラムの探していた空間操作装置であり、
今、デビルガンダムに負の波動を供給し続けているものの正体である。
負の波動は、このゲーム会場に存在する全てのDG細胞に送られている。
そう、全てのDG細胞に。
「デビルガンダムか……さらに力を増したようだな」
水中から飛び出し、剣鉄也が最初に見たもの。
それは、巨大なデビルガンダムの影。
E-2のこの場所からでもうっすらと目視できるほどに、巨大な姿に進化を遂げていた。
「俺も、あれと同じ……か」
呟く鉄也。
あのデビルガンダムも、外部から流れ込む闇の力で、パワーアップしたのだろう。
……自分と、同じように。
剣鉄也の身体に、力が漲ってくる。
それはガイキングも同様。自己修復能力が急激に上昇し、戦闘力が回復していく。
この修復スピードならば、デビルガンダムの元に辿り着くころには傷は完治していることだろう。
流れ込んでくる、どす黒い心の闇。強烈な悪意が、彼の心身を包み込む。
不快感は感じない。むしろ心地よさすら感じる。
その感覚は、彼の心が闇に染まりきっている証。
このまま、この感覚に身を委ねたくなる。
「ふん……冗談じゃない」
だが鉄也はそれを拒んだ。
悪魔の手先に堕ちようとも。
俺の心まで、どうにかできると思うな。
これは、俺の選んだ選択だ。
確かに、俺はデビルガンダムの力を受け入れた。
この力を使い、これからまた暴虐の限りを尽くすことだろう。
だがそれは悪魔の意志によるものではない。
俺の意志だ。
ユーゼスの手の上で、ただ踊らされているだけだとしても。
これは間違いなく、俺の選んだ道。俺自身の罪だ。
それは、誰にも否定させはしない。
鉄也は闇を受け入れる。ただし、それに全てを委ねることなく、あくまで自我を選んだ。
その強靭な意志を持ったまま、彼は悪魔の道を歩み始める。
全ての罪を、全ての業を背負うのは、他の誰でもない。
この剣鉄也、俺自身だ。
この人が、剣鉄也っていうんだ――
朦朧とする意識の中、ミオは接近してくるガイキングの、そして鉄也の存在を感じ取った。
流れ込む彼の負の波動、そしてDG細胞を通じて、彼の心が見えたような気がした。
彼の行いは許されるものじゃない。しかし確かに、その心は哀しすぎた。
ダメだ。彼を、デビルガンダムの……ユーゼスのいいようにさせちゃ。
逢ったこともない人だが、それでもできることなら彼をこの闇から救い出したい。
もっとも……今は自分自身のことで精一杯なわけであるが。
ミオの意識は、再び闇の中に戻っていた。
負の波動は、今もなお彼女の心を蝕んでくる。
それは瞬く間に、平常を取り戻していたミオの精神を破壊していった。
だが、それでも……
(ダメだ……負けちゃ……!!)
その心が壊れる一歩手前で、踏みとどまる。心を強く持ち、自我を崩壊させまいと。
いかに抗った所で、デビルガンダムの動きを止められるわけではない。
しかし、絶対に、負けられない理由がある。
死んでいったみんなの想いを、託された。
そして、マシュマーが……自分を助けようとしている者達がいる。
だから、安易に死を選ぶような真似は、できない。
最後の最後まで、絶望なんかに負けるもんか――
ユーゼスは見落としていた。大局を見据えすぎたが故に。
デビルガンダムに取り込まれたネッサーが見せた効果。
それがきっかけで、生体コアの少女がゲッター線に触れたということ。
そこで得た知識で、少女が真実の片鱗を知ったこと。
何より少女は、まだ希望の光を失っていないこと。
そして……帝王ダイダスは、その「希望の光」そのものに敗れたこと。
ダイダスだけではない。まつろわぬ霊の王も、破滅の王も。
皆、そうした想いの前に敗れていったこと。
ゲームは続く。
そして、少女の孤独な戦いも。
【ミオ・サスガ 搭乗機体:デビルガンダム第二形態(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状態:デビルガンダムの生体ユニット化(精神崩壊寸前)
機体状況:超活性化。ゲッター線及び負の波動による能力強化。胸部装甲、ほぼ修復。
現在位置:E-4(一帯がDG化。汚染はさらに広がる恐れあり)
第一行動方針:???(心を強く持ち、DGに完全に取り込まれないようにする)
第二行動方針:???(マシュマー達を信じて助けを待つ)
第三行動方針:???(ダイダルゲートの破壊)
第四行動方針:???(剣鉄也を助けたい)
最終行動方針:???(主催者を倒しゲームを潰す・可能な限りの生存者と生還)
備考1:コアを失えば、とりあえずその機体の機能のほとんどが無力化すると思われる
備考2:ハロを失ったため、DG細胞でカイザースクランダーのような新たな別個の存在を生み出すことは不可能
備考3:ダイダルゲートを介し、負の波動が供給されている
備考4:ダイダルゲートの機能、及び位置を把握】
※ネッサーはデビルガンダムに吸収されました
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:DG細胞感染。ダメージ回復中。強い意志。
負の波動による戦意高揚(ただし取り込まれていない)
機体状態:DG細胞感染。ダメージ修復中。負の波動による強化・活性化。
現在位置:E-2南部
第一行動方針:DGの元に一旦帰還する
第二行動指針:DG細胞に自我を完全に取り込まれないようにする
第三行動指針:皆殺し
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考1:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている
備考2:ダイダルゲートを介し、負の波動が供給されている】
○本ロワにおけるダイダルゲートについての説明(暫定版)
- 登場作品「スーパーヒーロー作戦 ダイダルの野望」
- ドーム状の建造物。大きさは家屋一軒分くらいか?
- 本ロワにおいては、ユーゼスの改造により空間操作装置として機能
- ゲートのさらに地下深くに、人の負の心を収集しエネルギーに変換するシステムがある
- 変換されたエネルギーは、現在会場内のDG細胞に供給されている
- なおこのシステムは、負の心だけでなく、人の持つ希望の光も収集することが確認されている
(原作において帝王ダイダスはそれによりダメージを受け、倒された)
【二日目 21:00】
最終更新:2008年06月02日 15:40