追悼


目の前で、トウマが死んでいる。
ほんの少し前、隣の助手席に座っていた時からは想像もできないほど、変わり果てた姿となって。
すぐ傍で、大破したワルキューレが燃え続けている。全身に残る火傷の跡は、バイクの爆発に巻き込まれたせいだろうか。
「馬鹿な……」
クォヴレーは力無く呟き、その場に膝をついた。
炎の中には他にも影が見えたが、それが何であるかを判別できるだけの余裕は、今の彼には存在しなかった。

G-6に進入してから、胸騒ぎがしていた。
破壊された基地。傷つき倒れたロボット達。未だ消えることなく燃え続ける、残り火。
それら殺し合いの跡を目の当たりにした時、クォヴレーの中に言いようのない不安が生まれた。
アルテリオンの残骸を、さらにヒイロ・ユイの乗っていたM9の無惨な姿を目にして、
この殺し合いの凄惨な現実を改めて思い知らされ、その不安は風船のように膨れ上がった。
そして、燃えるワルキューレを発見した瞬間、風船は一気に限界まで膨れ……トウマの死を目の当たりにした時、破裂した。
その破裂の衝撃が、クォヴレーの心に穴を開ける。
言いようのない喪失感、それはアラドとゼオラの二人の死を認識した時の感覚と似ていた。
いや……未だ記憶の戻らない彼らの時と比べて、それは遥かにリアルで鮮明だった。
それは次第に後悔へと変わり、やがて自責の念となってクォヴレーに圧し掛かっていく。

俺のミスだ。
バイク一台での単独行動が危険であることなど、十分わかっていたはずだ。
あの時、トウマを引き止めていれば。ワルキューレでの先行など許さなければ。
トウマは死ぬことはなかった。それなのに。
自分の迂闊な判断が、トウマを死へと導いてしまった。

俺が――トウマを殺した。

強く握り締めた拳に爪が食い込み、血が滲んだ。


 * * * * * * * * * * *


荒れ果てたG-6の地を徘徊する、大小二つの蒼い影――グルンガストとレイズナー。
イキマはマサキを連れ、基地周辺の見張り、及び探索を行っていた。
ガルドはエステバリスで基地内の調査を行っている。
クォヴレーは……トウマの死のショックが大きかったのか、未だ塞ぎ込んだままだ。

(もうこんな時間か……)
時刻は午前4時30分にさしかかろうとしていた。
基地に到着してから早一時間、トウマの遺体を発見してから30分以上が経過していた。
イキマは溜息をひとつ漏らし、再度、周囲を見回す。
酷い有様だ……その光景を前にして、改めてイキマはそう感じた。
破壊と殺戮の跡。それは、彼にしてみれば見慣れた光景。だが……
(ちっ……今さら、俺は何を考えているのだ)
らしくもない感傷を抱いている自分が、妙に苛ついた。
その感傷の原因は、イキマ自身もわかっている。
傷つき力尽きた鋼鉄の巨人達――そのうちの一つ、眼下に散らばるアルテリオンの残骸に、イキマは視線を下ろした。
(……どいつもこいつも……つまらん死に方ばかりしおって)
心の中で毒づく。
これに誰が乗っていたのかは、今となっては問題ではない。
この基地に、彼の探していた人物がいたことは、既に確認が取れている。
アルテリオンの残骸を発見した際に、マサキに全てを問い詰めたのだ。

――木原マサキ……ここに司馬遷次郎という男がいた。そうだな?
――……だったら、どうする。
――奴はどうした……?
――ふん……言ったはずだ。この基地の生き残りは俺だけだ、とな。
――貴様……奴を殺して、首輪の情報を奪いおったのか!
――やめろ、イキマ!


「ふん……いつまでそうやって感傷に浸っているつもりだ」
マサキが口を開き、場を支配していた重い沈黙を破った。
「あの機械が壊れたことが、そんなに悲しいか」
「悲しい、か……さて、な」
ふてぶてしいその言葉に怒るわけでもなく、イキマは投げやり気味に返した。
事実、司馬遷次郎、そして司馬宙の死に、彼は確かに喪失感のようなものを感じている。
それが「悲しみ」と呼べるものであるかどうか、それはどちらでもいい。
ただ、憎むべき宿敵だったはずの人間どもに、そんな感情を抱く自分が。
けじめをつけられぬまま、揺れ動く自分自身が。
イキマには酷く滑稽に思え、また同時に不愉快でもあった。


ブライガーに視線を移す。
その足元には、未だトウマの亡骸の前で跪いたままのクォヴレーの姿があった。
(まだ立ち直れていないのか……)
その姿は、少し前までの冷静沈着な彼からは考えられないものだった。
だが、それも無理はない。トウマの死は、全くの予想外の事態だったのだから。
イキマ自身、今でこそこうして落ち着きを取り戻してはいるものの、トウマの死を知った時は激しい動揺に見舞われたものだった。
この世界に召還された当初から、ずっとトウマと共に行動していたクォヴレーは、それ以上のショックを受けているはずだ。
何より、彼は――
「ちっ、少しは感情を制御できる類の人間だと思っていたが……
  クォヴレー・ゴードン……とんだ見込み違いだったようだな」
マサキが吐き捨てる。その言葉には、明らかな侮蔑が込められていた。
その自分本位な発言が、イキマには酷く耳障りだった。
「……お前のような、おめでたい思考の人間には、わからんだろうな」
「何?」
明らかな毒を含んだイキマの言葉に、マサキは些か意表を突かれる。

「お前には言っていなかったな。クォヴレーには記憶がない。
  この世界に呼び出される前の記憶を、ユーゼスに奪われたそうだ」
「記憶を……奪われただと?どういうことだ?」
その言葉に、マサキは興味を示した。だが、イキマは気にせず続ける。
「……わからんか。この世界での出来事だけが、今の奴にとっての全てだ。
  その中で出会った仲間が、奴にとって……」
「貴様らのくだらん感情論など、聞いてはいない!」
イキマの言葉をマサキは苛立たしげに一蹴した。
彼の興味はただ一点。「クォヴレーが記憶を奪われた」という事実の詳細についてのみ。
クォヴレー本人の精神状況など、マサキの知ったことではない。
それに気付いた時、イキマはこの男のことが僅かながら理解できたような気がした。
そして自分とは絶対に相容れない存在であろうことを感じた。
「……ユーゼスの思惑など、俺がわかるはずもあるまい」
「ちっ……だろうな」
通信機から舌打ちがひとつ聞こえ、そのままマサキは口を閉ざした。
本当に、おめでたい奴だ。イキマは心の底からそう思う。
この男は、本当に自分以外の者を信じていないのだろう。ある意味、潔いほどに。
信じられるのは自分のみ。それ以外の人間は、損得勘定のみで価値を判断する。
(これくらいの思考を持っていれば、俺もこんなに悩むことなどないのかもしれんな)
レイズナーを見据える彼の眼差しには、もはや怒りは消え失せていた。
そこに込められていたのは……哀れみ、だろうか。



「……今、戻った」
通信機越しに、ガルドの声が耳に入ってきた。
「ガルドか。……む?」
基地の中からから調査を終えたエステバリスが出てくる。
その手には、何やら大きな荷物を抱え込んでいた。





「収穫はこれだけだ。他は、大破した機体が一機……生存者はいなかった」
調査の報告を行うガルドは妙に事務的で、その表情は随分と重い。
違和感を感じたイキマが、ガルドに問いかけた。
「どうした?顔色が悪いようだが」
「いや……何でもない、気にするな」
(元から悪いような気もするがな……大体、貴様の顔色も大して変わらん悪さだろうが)
マサキの内心の突っ込みなど知る由もなく、イキマとガルドは話を続ける。
「で、やはりトウマを殺した犯人は、既にここにはいないようだな。
  そして……リョウト・ヒカワも」
リョウト・ヒカワ――結局、彼とジャイアント・ロボの姿は、G-6のどこにも見当たらなかった。
G-6に向かったのであれば、この時間になって到着していないはずがない。
(奴はどこに行った……道中、何かあったのか?あるいは――)
元々、彼の憎悪に危険を感じていたイキマである。
様々な憶測を巡らすが、思い浮かぶのは、不吉な可能性ばかりだった。
(やはり、奴は信用できなかったということなのか……
  それとも……俺達が出発した後、ジョシュア達の身に何かあったのか……?)
「俺の仲間が、リョウトを追ってE-1の島へと向かっている。
  おそらく、あんたの仲間とも接触しているだろう。滅多なことはないと思うが……」
最悪の可能性に転がりつつあるイキマの思考を察してか、ガルドがそこにストップをかけた。
「心配する気持ちはわかるが、今ここで考えていても仕方あるまい」
「……そうだな」
イキマはリョウトのことを一旦思考から除外し、今後の身の振り方について考えることにした。
既に、この基地を訪れたイキマ達の一番の目的――首輪の解析情報の入手は達成された。
もっとも、それはイキマ達が当初想定していた状態からは程遠い、手放しでは到底喜べない形ではあったが。
いずれにせよ、情報が手に入った今、とりあえずこの基地には用はない。
「これからのことだが……5時に、E-5で仲間との合流を約束している。
  今後の行動の検討のためにも、そこへ向かおうと思う。
  連中と合流すれば、リョウトの動向についても何かわかるだろう」
「……了解した。ならば、もうここを発たねば時間に間に合わんな……」




(あいつは、あんなに弱々しい背中だっただろうか……)
クォヴレーの後ろ姿にそんな危さを見つつ、イキマは彼に声をかける。
「クォヴレー。俺達はそろそろ……」
「ああ……わかっている。いつまでも、立ち止まっているわけにはいかない」
一言答えると、座り込んでいたクォヴレーは腰を上げる。
「すまない。余計な心配をかけてしまった」
「……気にすることはない」
普段と変わらぬ口調。落ち着いたのだろうか?
イキマの心配をよそに、トウマの亡骸をその腕に抱えあげた。
「クォヴレー……」
「トウマをこのまま、ここに置いていくわけにもいかないだろう」
「ああ……そうだな。どこかで弔ってやらねばなるまい」
クォヴレーはトウマの亡骸を抱えて、ブライガーへと戻っていく。
その姿は――危うい。
ほんの僅かなショックで、その心は脆くも壊れてしまうのではないかと思えるほどに。

そもそも、記憶を失うとはどういうことだろうか。
何も思い出せない。自分のことすら何もわからない。それは本人にどれほどの不安を抱かせるのか。
ましてや、そんな状態で殺し合いの中に放り込まれたとなれば……
そんな不安定な彼の心を支えていたのが、仲間という存在だったのだろう。
特に、殺し合いが始まってすぐ出会ったというトウマは、クォヴレーにとって相棒のような存在だったに違いない。
だが、そのトウマも今はもういない。

(ならば……今は俺が、トウマの分まで奴を支えねばなるまい)
イキマは決意する。その目に、先程までの迷いはなかった。
(何を迷う必要がある。仲間を助けることに、理由など要らぬわ)
半ば強引に、吹っ切る。今は、そんな場合ではないから。
司馬遷次郎の死が、大切な仲間の死が、そして今にも壊れそうな仲間の姿が。
皮肉にも、迷っていた彼に決意を固めさせる結果となった。

トウマ。クォヴレーは、俺がお前の分まで面倒を見てやる。
お前の仇も、必ず討つ。だから――安らかに眠れ。

司馬遷次郎、そして鋼鉄ジーグよ。
お前達の無念の分まで、俺が戦う。お前達がどう思おうが、俺はこの道を突き進む。
笑いながらでもいい、あの世で見ているがいい――

そして、ヒミカ様。
この戦いの間だけ、邪魔大王国幹部としてのイキマを捨てることを、お許し願いたい。
ユーゼスに一矢報いるため、この地で得た仲間を守るために。
暫しの間の寄り道と我侭を――どうか、お許しを。



 * * * * * * * * * * *


(くだらん……クズどもの生温い感情論になど、付き合う気にもなれん)
クォヴレー達に向けるマサキの視線は、実に冷ややかだった。
仲間だの絆だの、くだらない感情に流される彼らは、マサキにしてみれば侮蔑の対象でしかない。
(まあいい。それよりも……ユーゼスに記憶を奪われた、か)
イキマの口から出たその一言に、マサキは深く興味を示していた。
(それが本当ならば……何故だ?何故、ユーゼスは奴から記憶を消した?)
わざわざ記憶を奪った、その理由。マサキの着眼点が、そこに置かれた。
(あのクズの記憶に、何か秘密があるのか?
  それも、ユーゼスにとって……このゲームにとって、何か不都合な秘密が。
  このゲームを破綻させかねないほどの秘密が……だから、奴から記憶を消した……?
  だが、そうだとしたら……そんな人間を、何故わざわざ記憶を消してまで参加させる必要がある?)
黙々と考察を続ける。全ては、彼の憶測でしかない。
だが、マサキは直感的に感じていた。これが、ユーゼスにとってのアキレス腱ではないか、と。
(クォヴレー・ゴードンか……奴の正体が、このゲームの鍵を握っているかもしれんな)

「そろそろ出発するぞ。逃げ出そうなどと思わんことだな」
ガルドからの通信がレイズナーのコクピットに響く。
毒を含んだその言葉に、マサキは相変わらずの横柄な態度で返した。
「その心配は無用だ。貴様らこそ、首輪を外しておかなくてもいいのか?」
「今まで渋っておきながら、よく言う……」
その理由は、まだ3人の首輪を外していない。
何せ、今の彼らは仲間に死なれて精神状態が不安定。外した後に先走った行動に出られる可能性も十分にある。
だから、首輪の情報はしばらく握り続ける。そうしておけば、彼らはマサキに手出しはできない。
現状では、彼ら3人にとって、首輪の解除のためにマサキの存在は必要不可欠なのだから。
もっとも、裏を返せば、首輪さえ外せればマサキはその場で用済み……ということでもあるのだが。
「いつまでも逃げ切れると思わんことだな。今は時間の都合で発たねばならんが……
  向こうに着いたら、今度こそ首輪を外してもらうぞ」
「俺に命令するなと言ったぞ、ガルド!首輪の情報を握っているのは、この俺だけだということを忘れるな。
  ……だが、あのユーゼスに対抗するという目的を見失わないのであれば……いずれは外してやらんでもない」
マサキは嘘は言っていない。彼らを利用する以上、彼らの首輪も外さねばならない時は来るだろう。
だが、今はまだその時ではない。
最低でも自分の態勢がある程度整うまでは、機を伺わねばならない。
「心配するな。同じ対主催を目的とする“仲間”だろう?……悪いようにはせんよ。ククク……」
「……」
ガルドからの返事はない。
エステバリスはレイズナーをしばらく一瞥すると、そのまま背を向け、クォヴレーが乗り起動したブライガーのほうへと歩いていった。

(そう……悪いようにはせん。
  だから、今しばらくはこの俺の盾として、お前達にはしばらく働いてもらうぞ。ククク……)

さて――
マサキははっきりと知らされていなかった。
彼が殺害したイサムが、探していた仲間の詳しい情報を。
だから、マサキは知らなかった。
ここにいるガルドが、イサムの知り合いであるということを。
故に、マサキはさして気にしていなかった。
イサムの遺体の放置している基地内部に、ガルドが向かうことを。
そして――マサキは見落としていた。
ガルドが自分に向けていた視線――そこに込められていた感情の正体を。


 * * * * * * * * * * *


「待っていろ、トウマ。お前の仇は必ず討つ」
後部座席に寝かせたトウマから、聞き慣れた返事は返ってこない。
コクピットの中に圧し掛かる、これまで感じたことのないような沈黙が、現実をクォヴレーに突きつけてくる。
(いつまでも落ち込んでいる場合ではないな)
クォヴレーはブライガーを起動させた。
モニターに映しだされのは、ロボット達の墓場の光景。
そのうちの一つ、潰れたM9の無惨な姿が視界に入る。
(ヒイロ・ユイ……)
会ったのは一度、ほんの僅かに会話を交わしただけ。
だが、その時のやり取りだけでも、彼はその胸に強い意志を秘めていることが見て取れた。
もし生きて再会できていたならば、共に戦う仲間となってくれていたであろう。
できることなら彼もトウマと共に弔いたいところだが、コクピットが原型すら留めていないほど潰れており、
もはや中の様子の確認すらままならない。
「すまない……だが、お前の仇も必ず取る……!」

「クォヴレー……こいつに心当たりはないか」
ガルドの通信を受け、クォヴレーは機体をエステバリスのほうへと向ける。
そこでクォヴレーの目に入ったのは、エステバリスの抱える大きな荷物――二門の大砲。
「それは……!?ガルド、それを一体どこで!?」
「……格納庫の中で発見した。特別な機体専用の武器らしい。
  サイズから、おそらくブライガーと同サイズの機体のものだと思うが……」
クォヴレーは、その大砲に目を疑った。何故なら、その大砲は――
「ブライカノン……!」

エステバリスからブライカノンを受け渡されるブライガー。
特に大きな損傷もなく、問題なく使用できるようだった。
ガルドの話によると、格納庫の中には他にも特殊武器や予備パーツなどが、いくつか散乱していたという。
もっとも、少なからず戦闘の余波を受けていたせいか、無事だったものはほとんどなく、
満足に使えそうなものはこのブライカノンだけだったそうだ。
(そういうことか……ユーゼス、どこまでもふざけた真似を……!)
ユーゼスの嘲笑う姿が目に浮かぶようだ。
いちいち手の込んだ嫌がらせに、改めて怒りが込みあがってくる。
「クォヴレー……気持ちはわかるが、仲間を失ったのはお前だけじゃない」
「ああ……心配はいらない。短絡的に先走るような真似はしないさ」
それは、普段の彼と同じく、比較的理性的な返事だった。
クォヴレーは怒りや憎しみに任せて暴走するような感情的な人間ではない。
しかし……
だからといって仲間を殺されて平然としていられるほど、冷血漢でもなかった。
(これ以上、絶対に仲間を死なせない。トウマやヒイロの悲劇は、繰り返させない。
  それが、トウマを殺してしまった俺の……せめてもの償いだ)
クォヴレーは決意する。
こんなふざけた殺し合いを行うユーゼスを、必ず打ち倒すと。
この地で出会った、かけがえのない仲間達を、必ず守り抜くと。
そのためには、手段は選ばない。甘さを捨て、慎重かつ冷徹な判断と行動を徹底する。
もう、トウマを死なせた時と同じ過ちを繰り返すのは御免だ。
トウマを殺した犯人を始め、この馬鹿げた殺し合いに乗った愚かな殺人者達。
特に警戒すべきは、あの剣鉄也。司馬博士達を襲っていた、あの黒く禍々しい悪魔の機体。
当然、ここにいる木原マサキも、例外ではない。
さらに、ユーゼスのスパイ――ラミア・ラヴレス。
そして、ガルドの言っていた怪物――デビルガンダム。
危険分子は未だこの地に溢れかえっている。彼らに対しては、絶対に油断はしない。
もし彼らが是が非でも殺し合いに乗るというのなら――容赦はしない。

「よし……行くぞ。ジョシュア達と合流しよう」
バーニアを吹かし、新たな力を得たブライガーが、空へと舞い上がった。

クォヴレー・ゴードン。
彼の記憶は、未だ戻る気配を見せない。
ゲームが始まって、まだ実際には二日と経っていない。彼の心が安定を見せるには、あまりに短すぎた。
だが、彼は強かった。
仲間を殺されても――不安定な心を支える柱が一本崩れ落ちても、その冷静さを失わなかった。
冷静に――その心を、憎悪に委ね始めようとしていた。

崩れる柱は、一本ではない。
これから、他の柱も一気に崩れ落ちる。
その時、彼は――


 * * * * * * * * * * *


「む……?」
基地を発とうとしたその時、ふと、ガルドは気付く。
視界に入ったのは倉庫の前の広場。先ほど、東方不敗が戦いを繰り広げた場所。
そこには、何もなかった。そう――あったはずのものが、なかった。

仁王立ちして力尽きたはずの、東方不敗の姿が。

(どういうことだ?遺体はどこに消えた……?)
何者かが彼の死体を持ち去ったのだろうか。それはトウマを殺した人物と同一なのか。
それとも……
一瞬、あまりにも突飛な憶測がガルドの脳裏を過ぎる。
(まさか……いや、まさか、な)
いくらなんでも失礼だろう……ガルドは馬鹿げた自分の発想を振り払った。

「どうした、ガルド?行くぞ」
「ああ……わかっている」
イキマからの通信に応答して、ガルドはG-6を一瞥する。
凄惨な殺戮の跡をその目に焼きつけ、怒りを忘れないように。
目を閉じ、暫し黙祷を捧げる。
東方不敗に。この地で息絶えた犠牲者達に。
何より――

(――すまなかった)

――沈黙の後、エステバリスは3機の後を追い、飛び立っていった。

崩れた基地を前に、彼は何をその胸に抱いたのか。

確かなことはただ一つ。
ダイダルゲートは今もなお休むことなく、彼らの中に蔓延する「負の感情」を、順調に収集し続けている。
ただ、それだけ。


【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
  パイロット状態:精神不安定。ユーゼス及びマーダーに対し憎悪。マサキを警戒。
  機体状況:良好。ブライカノン装着。
  現在位置:G-6
  第一行動方針:E-5橋へと向かう
  第二行動指針:主催者打倒の為の仲間を探す。ただし今後遭遇した相手には十分な警戒を持ってあたる。
  第三行動方針:マーダー(特にトウマ殺害犯)に対しては一切容赦しない。
  第四行動指針:なんとか記憶を取り戻したい(ディス・アストラナガンとの接触)
  最終行動方針:ユーゼスを倒す。これ以上、仲間を絶対に失わせない。
  備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
  備考2:ブライシンクロンのタイムリミット、あと12時間前後
  備考3:ブライスター及びブライガーは最高マッハ25で飛行可能。
      ただしマッハ5以上で首輪に警告メッセージ。30秒後に爆発。スピードを落とせば元に戻ります】

【イキマ 搭乗機体:グルンガスト(バンプレストオリジナル)
  パイロット状況:強い決意。戦闘でのダメージあり、応急手当済み。リョウトの憎悪に対し危惧。マサキを警戒。
  機体状況:小破、メインカメラ破損。コックピットの血は宗介のものです。
  現在位置:G-6
  第一行動方針:E-5橋へと向かう
  第二行動方針:トウマに代わり、クォヴレーを支える
  第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
  最終行動方針:仲間と共に主催者を打倒する】

【反逆の牙組・共通思考】
○剣鉄也、ディス・アストラナガン、ラミア・ラヴレスを特に警戒
○ガイキングの持つ力(DG細胞)が空間操作と関係があると推測
○ディス・アストラナガンがガイキングの力(DG細胞)と同種のものと推測
○剣鉄也らの背後の力(デビルガンダム)が空間操作装置と関係があると推測
○空間操作装置の存在を認識。D-3、E-7の地下に設置されていると推測
○C-4、C-7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測
○ラミア・ラヴレスがジョーカーであることを認識
○再合流の予定時間は翌朝5時、場所はE-5橋付近

【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
  パイロット状況:良好。強い決意。???
  機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り。左腕欠損。
  現在位置:G-6
  第一行動方針:E-5橋へと向かう
  第二行動方針:空間操作装置の発見及び破壊。デビルガンダムへの対処
  最終行動方針:ゲームの阻止。仲間と共に生還する(決して無闇に死に急ぐような道は選ばない)
  備考:イサムの死を知ったようです。ただ、それに関する詳細はまだ不明。
     ただ、今のところは自分を抑えられるだけの理性は保っているようです】

【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
  パイロット状態:睡眠不足
  機体状態:左腕断裂。背面部スラスター大破。背面装甲にさらなるダメージ。
       機体は機能停止中だがいつでも再起動可能。
  現在位置:G-6
  第一行動方針:反逆の牙組をユーゼスにぶつける。ただし、彼らの首輪の解除は機を見てから。
  第二行動方針:クォヴレーの記憶について考察。
  第二行動方針:誰かの機体を奪って離脱する機会をうかがう。
  第三行動方針:少し眠りたい。
  第四行動方針:ユーゼスを欺きつつ、対抗手段を練る
  最終行動方針:ユーゼスを殺す
  備考:首輪を取り外しました。マシンファーザーのボディ、首輪4つ保有。首輪100%解析済み。
     スパイの存在を認識。それがラミアであることには気付いていない。
     イサムとガルドの関係を知りません。クォヴレーの失われた記憶に興味を抱いています】

【三日目4:35】





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第240話「”W”スパイ 投下順 第242話「ライアーゲーム
第223話「全ての人の魂の戦い 時系列順 第226話「この拳に誓いて

前回 登場人物追跡 次回
第238話「冥王計画 クォヴレー・ゴードン 第243話「それでも一体この俺に何ができるっていうんだ
第238話「冥王計画 イキマ 第243話「それでも一体この俺に何ができるっていうんだ
第238話「冥王計画 ガルド・ゴア・ボーマン 第243話「それでも一体この俺に何ができるっていうんだ
第238話「冥王計画 木原マサキ 第243話「それでも一体この俺に何ができるっていうんだ


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最終更新:2008年06月02日 18:37