遥か広がる戦いの荒野へ


 補給地点に辿り着き、エネルギーと弾薬を補充する。
 その間、“彼等”に会話は無い。互いの存在を気に掛けはしていたようだが、気まずい沈黙を保ち続けるばかりだった。
 ……彼等の置かれた状況を考えれば、無理もない事だとは思う。
 仕えるべき主人を救えず、共に過ごした仲間を失い、守るべき少女を“化け物”に連れ去られたマシュマー・セロ。
 自らの無力から片腕であった部下を殺され、そして部下の仇に対する復讐心を今この瞬間も抑え続けているヴィンデル・マウザー。
 いつ殺し合いを始めてもおかしくない二人だ。
 それがこうして行動を共にしている事は、むしろ考え難い事であった。
「…………」
 機体の自己修復を待ちながら、マシュマーとヴィンデルの二人には休息を取ってもらっている。
 精神的な均衡を欠いていたマシュマーに、負傷を受けて体力を消耗させていたヴィンデル。
 機体の自己修復を待つしかない現在の状況で、出来る事は何も無い。ならば今は身体を休め、不測の事態に備えるべきだ。
 そう二人を説き伏せて、タシロと副長は今の状況を作り上げていた。

「……静かだな」
「はい。とても、殺し合いが行われている真っ最中だとは思えないほどに……」
 幸いにも、と言うべきか。今の所、敵性機体の反応は周囲に無い。
 ディス・アストラナガンとマジンカイザーの戦闘力が失われている現在、もし敵機と遭遇すれば苦戦は免れない。
 いや、それどころか一網打尽にされてしまう可能性すら考えられるだろう。
 このヒュッケバインMK3が弱い機体だとは思わない。
 だが、パイロットの操縦技能には不安が残り、また機体の状況も万全とは言えない。
 この状況下で強力な機体に襲われでもしたら、とても無事では済まないだろう。
 そう。たとえば、あの悪魔のような機体に襲われでもしたら――

「っ…………!」
 思わず、身体に震えが走る。
 あの機体……あれは、異常だ。
 バトルロワイアルのルールを根底から否定しかねないほどの、あからさまな異常性を持っている。
 仮面の主催者、ユーゼス・ゴッツォは確かに言った。諸君らには殺し合いをしてもらう、と。
 そう、殺し合いだ。
 主催者側の目論見としては、それぞれの参加者が各自の意思で殺し合いを始める事を望んでいるはずだ。
 だが、あの悪魔はなんだ。あらゆる意味で、このゲームの主題を外れている。
 マシュマー達の話によれば、あの機体はミオ・サスガと言う名の少女を自らの中に取り込んだという。
 機体が参加者を取り込んでしまい、参加者の意思を外れて動き出す。
 これでは、わざわざ参加者を集めて殺し合いを始めさせた意味が無いのではないか?
 いや、それだけではない。あの他を圧倒する強大な力と、そしてガンダムヘッドによる無差別な攻撃範囲。
 その気になりさえすればだが、一つのエリアを丸々壊滅させる事も可能なのではないか?
 それだけの力を持った機体であれば、ゲームのバランスは容易く崩壊する。
 ゲームとは、全ての参加者に等しく勝機が与えられてこそ成り立つのだ。
 あまりにも突出した力の存在は、ゲームの進行を阻害する要因となってしまう。
 そういった側面から考えても、あの機体は異常だった。

「……副長。率直に聞くが、あの“悪魔”と戦う事になったとして、我々に勝ち目はあると思うか?」
「それは……難しいと言わざるを得ないでしょう。
 あの圧倒的な戦闘力もそうですが、あの悪魔には不可解な点が多過ぎます。
 情報を集めて有効な攻略方法を見出さない限りは、手に負えるものではないと思います」
「やはり、そうか……」
 力が、足りない。
 そして、あの悪魔に関する情報も。
 だが、それでもあの悪魔を放置しておくわけにはいかない。
 悪魔に取り込まれた少女の救出もそうだが、これから悪魔が及ぼすであろう被害を食い止めなければならない。
 あの悪魔を放置しておけば、自分達を含めた全ての参加者は死に絶えてしまう……。
 そうなる前に、止めなければならないのだ。
 この命、賭しても。

 だが、どうすれば。
 どのようにすれば、あの悪魔を倒す事が出来る……?



「タシロ艦長。世話になった、私は行く」
 まだ機体に傷が残ってはいるが、戦闘を行える程度には回復を遂げたディス・アストラナガン。
 ある程度は落ち着きを取り戻したらしいマシュマーから、ヒュッケバインに向けて通信が入る。
「待ちたまえ、マシュマー君! 君の機体は、まだ万全の状態とは……」
「それでも、私は行かねばならないのだ。こうしている間にも、ミオは……!」
「確かに、な……」
 マジンカイザー。やはりまだ万全とは言えない状態の機体から、ヴィンデルが通信を行ってくる。
「貴様一人では心許無い。私も行こう」
「ヴィンデル・マウザー……」
「貴様の為、ではない。あの娘を救う事は、アクセルの願いでもあった。
 ……今となっては遺言だ。奴の上司として、叶えん訳にはいくまい」

 止めても無駄だ。
 二人の決意が揺るがない事は、もはや誰の目にも明らかだった。
 ならば……。
「……我々も同行しよう。あの悪魔の如き機体をどうにかしなければ、どのみち我々にも未来は無い。
 異存は無いか、副長?」
「はい、艦長」



 遙か彼方、東の空に視線を向ける。
 あの空の下に、悪魔が居るのだ。
 ……救いを求める、少女と共に。



【タシロ・タツミ 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレストオリジナル)
 パイロット状況:上半身打撲
 機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
 現在位置:B-4
 第一行動方針:デビルガンダムへの対抗策を考える
 第二行動方針:デビルガンダムをどうにかする
 第三行動方針:リョウトの捜索、シロッコをどうにかする
 最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
 備考:AMガンナーに搭乗した副長が管制制御をサポート】

【副長 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレストオリジナル) 
 パイロット状況:左足骨折(応急手当済み)
 機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
 現在位置:B-4
 第一行動指針:タシロを可能な限りサポートする
 最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
 備考:AMガンナーへ乗換。AMガンナーはサポートのみ、本体操作は出来ません】

【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:強化による精神不安定の徴候
 機体状況:Z・Oサイズ紛失、装甲全体に亀裂(修復中)
 現在位置:B-4
 第一行動方針:ミオの救助
 最終行動方針:ユーゼスを殺し、ハマーンに殉じる】

【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
         マジンカイザー操縦の反動によるダメージ有
 機体状況:装甲全体に亀裂(修復中)
 現在位置:B-4
 第一行動方針:ミオの救助
 第二行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
 最終行動方針:バトルロワイアルの破壊
 備考:機体及びパイロットにDG細胞反応は無し】


【ハロ 搭乗機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 現在位置:B-4
 パイロット状況:機能を完全に停止】

【三日目 3:30】





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第238話「冥王計画 時系列順 第231話「目覚め

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第206話「悲しみの星空 タシロ・タツミ 第223話「全ての人の魂の戦い
第206話「悲しみの星空 副長 第223話「全ての人の魂の戦い
第206話「悲しみの星空 マシュマー・セロ 第223話「全ての人の魂の戦い
第206話「悲しみの星空 ヴィンデル・マウザー 第223話「全ての人の魂の戦い


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最終更新:2008年06月02日 16:25