冥王と木星帰りの男


清々しい青空と周りにある高層ビルの下、シロッコは機体のマニュアルに目を通していた。
「この機体は本来合体するメカを無理やり単座にした物なので、その分操縦が複雑になっている…か」
「基本的な武装は頭部に設置してあるビームと、
 腕を飛ばして攻撃する装置…要は子供向けアニメに出てくるような機体って事だな」
(剣もあると書いてはあるが…何処にも見当たらんしな、さてどうした物か)

「まぁ機体について考えるのは後にするか、まずはこれをどうするかだが…」
そう言ってシロッコは首…いや正確には首にはめられている"物"に手を当てた。
「どうもこれは単なる科学力だけで作られている訳では無いみたいだ」
シロッコは宙に向かって呟き続ける。
(まずこれを解除するには首輪のサンプルを入手しなければな、
 流石に首にはまっている物を解析する気にはなれん)
「それと私だけでは到底解除は不可能だろうから、様々な機器に精通した者が複数人要るか」
とは言ってもシロッコもMSの設計を自らする様な男なので、単に人手が要るだけなのかもしれないが。
「先の部屋には60人程の者が居たな…少なくとも一人はそういう事に詳しい者も居るはずだ」
(よくは見えなかったがハマーン・カーンと旧ジオンの総帥であるギレン・ザビも居たな、
 確かア・バオア・クーで戦死したと聞いたが…)
「とにかくまずは機体の馴らしをするか、動けなければ話にならん」
シロッコは目の前、MSとはかけ離れた姿をした機体に向かって歩いていった。
(しかしこの機体といいあの戦艦といい、どうも私の知らない兵器や技術がある様だ、
 情報を集めなければな…)

「マニュアルを見てはみたものの…流石に操縦系統が全く異なるとてこずるな」
そもそも、本来は四人必要なロボを一人で動かすのが無茶なのだが、
MSという合体なんて考えもしない物にのる男が知る由は無い。
「これで機体の操作…これを固定したままこちらを動かせば…よし」
しかし木星帰りの男はその名に恥じぬ才覚を活かし、瞬く間に機体を我が物にしていった。
「これぐらい動かせれば戦闘にも支障は無いな、武装の少なさが心残りだが―――」
突如後方からけたたましい轟音が響く。
「ん!?今の音は一体…」
音のした方角に向き直ると、遠方に微かだが二つの機影を確認出来た。
一つは宙に佇む機体、恐らくあれが仕掛けた側であろう事はもう一機、
煙を上げている方を見れば容易にわかった。

(まだこちらには気づいていない様だな、ゲームに乗っているのは確かだが…呼びかけてみるか…?)
そう思った時であった、宙に佇む機体がこちら側に向かって来た。
「気付かれたか?…よし、一か八かだが通信を試みてみるか、少なくとも何かしら反応があるはずだ」
余談だがシロッコはUC世界で屈指のカリスマ性を持つ男だ、戦闘狂のヤザンと馬が合ってしまうぐらいには。
それが今役にたつかは、あまり関係ないかもしれないが。

少女は"冥王"の中で一人呟いていた、誰かに語りかける様に。
「アラド…何処に居るの?早く会いたいの…アラドは私が必要なんだから」
人によっては少女は狂ってしまったと思うかもしれないが、彼女は至って冷静である。
ただし、愛するものへの気持ちが先走る余り、正常では無いかもしれないが。
と、その時、スピーカーから声が響いた。
『そちらの機体、聞こえるか』
「通信…何処から?」
機体を軽く旋回させると、一つの機影が見えた、恐らくあれだろう。

「私はティターンズ所属のパプテマス・シロッコ大尉だ、そちらに危害を加えるつもりは無い」
もっとも、今はまだ、だが。
『…ド以外は……さなきゃ…ラ…の…になるから…』
スピーカーからは小声でよく聞こえないが女の声がした、言っていることは聞こえなかったが。
「すまないがもう一度言ってくれないか?聞き取れなかったのでな」
不意にモニターに目をやるシロッコ、相手の機体が腕を挙げるのが見えた。
「なんのつもりだ…?いやこれは…!」
目の前が光で見えなくなる、とっさに握っていたレバーを動かした。

損傷確認をするが特に問題は無かった、少なくとも庇った腕は傷ついてるはずだとシロッコは首を傾げていた。
そしてモニターに映るのは自機の腕と…しっかり手に握られた武器…「破邪の剣」だった。
「あぁ…これがこの機体の剣か、しかし何処から…」
腕をどかし、モニターの先を見据えた。
「やはり攻撃を仕掛けて来たか…無益な殺生は控えたかったが、やむを得まい」
目標を確認して一気に距離を詰めるダンガイオー。
対する冥王も直ぐに衝撃波を放つ、当たれば一瞬で蹴りはつく程の威力だ。
…が当たらないダンガイオーが高性能なのもあるが、何より操縦者の腕が決定的に違った。
いくらスクール出のエリートと言えど「ニュータイプ」と対峙した事などあろうはずがないからだ。

そうこうしてる内に近接距離まで持ち込んだシロッコ、躊躇うことなくその剣を振るった。
その動きと反応の早さに対応仕切れずダイレクトに攻撃を受けるゼオライマー。
とっさに軸をずらしたものの左腕に受けた損傷はかなりのものだった。
『くっ!なんとかしなきゃ!!』
スピーカー越しに聞こえてくる声は焦燥感に包まれていた。
「落ちろっ!!」
今度は確実にコクピットに剣を振り下ろすダンガイオー、しかしその瞬間モニターが光で一杯になる。
ゼオライマーの腕から衝撃波が放たれたのだ、損傷しているので狙いわズレたがその攻撃はダンガイオーに十分な隙を作った。
モニターが回復した時には既に辺りに機影は確認出来なかった、あの一瞬でにげられたのだろう。
「損傷は腕丸々一本か…やられたな」
衝撃波で右腕が消し飛んだダンガイオー、廃墟に佇むその姿はやけに生々しかった。


【パプテマス・シロッコ】
【搭乗機体:ダンガイオー(破邪大星ダンガイオー)
 パイロット状況:多少の疲労感、身体には異常なし
 機体状況:右腕損失、全体に多少の損傷あり(運用面では支障なし)
 現在位置:A-1西部
 第一行動方針:とりあえず人探し
 第二行動方針:首輪の解析及び解除
 最終行動方針:どうにかして脱出
 備考:コクピットの作りは本物とは全く違います、
    またサイコドライバー等を乗せなければサイキック能力は使えません】

【ゼオラ・シュバイツァー】
【搭乗機体:ゼオライマー(冥王計画ゼオライマー)
 パイロット状況:かなり焦ってます、身体には異常なし
 機体状況:左腕損傷大、次元連結システムは問題無し
 現在位置:A-1東部
 第一行動方針:A-1から離れる
 第二行動方針:アラドを探す
 最終行動方針:アラド以外の排除】




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第35話「敵と味方と 時系列順 第38話「コックVSケモノ

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パプテマス・シロッコ 第97話「第二の出会い
第16話「邪神降臨 ゼオラ・シュバイツァー 第51話「無題


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最終更新:2008年05月29日 02:41