使徒と軍人と快男子 ◆dw7agDeNYQ
「ショォオオオオオオオオオオオオオオオウ!!!!」
爆風が起こり、巻き起こる砂埃。その中心に白を基調とした機体。
その姿はまるで天使のようで、美しいとさえいえる。それを、彩るのは悲しみ。
サウス・バニングはショウ・ザマの名を叫ぶ。
共にいた期間は決して長いものではなかった。仲良しということもなかった。だが、彼の死はサウス・バニングの心を強く揺らした。
「君たちは不思議だね。人は死ぬ、生と死は等価値な物なのに、他人の死に悲しみを抱く」
天使の姿を模した機械、ラーゼフォンを通して声が響く。渚カヲル、自らを使徒だと、人類に滅びをもたらす者だと言った存在。そして、ショウ・ザマを殺した存在。
「当たり前だ。死を恐れ、それに抗いながら生きるのが人間だ。そして人の希望はどんな場面だろうと悲しみに彩られてなどいない」
この場にいたもう一人の人物、万丈は力強くそう宣言する。彼と渚カヲルは正反対の存在であった。死を恐れ、メガノイドとなったものたちを許せぬように彼の怒りは渚カヲルに向いていた。
万丈はトライダーの視線を地面に向ける。そこには無残に散ったガンダムの機体。希望の象徴であった機体は既に鉄屑に変えられてしまっていた。もはやパイロットは生きてはいないだろう。その光景が万丈の怒りをさらに強いものに変える。
「破嵐万丈、君は特に面白いね。好意に値するよ」
「なに!?」
「好きってことさ」
「来るぞっ」
ゆっくりと空を飛び近づいてくるラーゼフォン。自身の障壁によっぽどの自信があるのか武器も構えずにまるで抱擁を求めるかのように両手を広げる。
バニングはラーゼフォンに向かいレールガンを放つがそれはラーゼフォンには届くことはない。バリアの表面でむなしく煙を散らすのみ。
それは既に分かっていたこと。だが、その光景にバニングはある違和感を感じた。
「トライダージャベリン」
裂帛の気合と共にトライダーが駆ける。ショウ・ザマが死んでしまったことには自分にも原因がある。万丈はその事実を受け止めていた、だがそれで思い悩んだりはしない。
自分にはやることがある。この戦いを止めなければいけない。メガノイドを倒さなくてはいけない。そして、
「君だけは許さない。渚カヲル」
トライダージャベリンは見えない障壁を破り、オレンジ色の光とぶつかる。
火花を散らし、ぶつかり合う両者。だが、渚カヲルは恐れを感じることなく、ラーゼフォンの掌をトライダーの頭に向けた。
「無駄だよ」
言葉と共に発せられる数発の光。万丈はそれを後ろに飛ぶことで避ける。トライダーは決してラーゼフォンに見劣りする機体ではない。
5700万馬力のパワーはこのバトルロワイアルでもトップクラスであろう。しかし、それでもATフィールドを貫くには及ばない。
「どうすればいいんだ……」
思わず、弱気な言葉が口から出てしまう。彼にとってはありえないことである。
だが、ダイターンもない。頼れる相棒もいない。そして、敵の防御を崩すことすらできない。
その事実は、重く万丈にのしかかる。
「聞け、破嵐万丈」
ストライク・ノワールよりの通信。画像はついていない音だけのものである。その声の主、バニングはトライダーが下がるのにあわせラーゼフォンに牽制でレールガンを撃ち込みながら話す。
「今、あいつの障壁は二つだ。目に見えない壁とオレンジの壁」
もともと、三重の鉄壁の防御を誇る機体のシールドはショウ・ザマの手によって砕け散った。
「それに一つの障壁の強度も下がっている」
「なんだって……」
「疑問に答えている時間はない。ショウのあの一撃でやつはダメージを受けたんだ」
ショウ・ザマの一撃、それはラーゼフォンには届かなかった。しかし、その一撃によってラーゼフォンはシールドを失い、障壁を一度は破られた。
それはラーゼフォンにとってはENの消費というダメージとなり、再び障壁を張る上での大きな問題点となっていた。
万丈は笑みを浮かべる。彼はいつだって快男子だ。バニングの言葉により道が示された。最早迷いや恐れなど不要だ。
「いくぞ、万丈。ショウの敵を討つ」
「もちろんだ」
トライダーが再び駆ける。ジャベリンを振り上げ、敵を討たんと。だが、それはラーゼフォンの剣によって防がれる。
「どうやら、バニングさんが言っていたことは間違いないようだね」
「何のことだい?」
「僕たちが勝つってことさ」
ラーゼフォンは剣でトラーダージャベリンを受け止めたのだ。いままで、障壁で全ての攻撃を受け止めてきたものがである。これはラーゼフォンの絶対的な障壁に歪が生じ始めているということ。
万丈はトライダージャベリンを全力で振り下ろす。元々、トライダーのパワーはラーゼフォンを上回っている。渚カヲルは力に逆らうことなく機体を後ろに下がらせる。もちろん万丈は追撃をかける。
それを防ぐように渚カヲルは掌を掲げる。ラーゼフォンの掌に光が生まれる。トライダーは既に攻撃の体勢に入っている。避けられない。
「さよならさ」
ドゥゥゥゥン
光は、放たれなかった。
「戦場において敵の数を間違えるとは。素人だな」
バニングの放ったレールガン、それがラーゼフォンの掌を直撃し、光を爆発させる。いままで、バニングの放った攻撃はどれもラーゼフォンの障壁を破ることが出来なかった。しかし、ショウや万丈によって障壁は破られ。既にそれは殆ど機能し得ない物になってしまっていた。
トライダージャベリンの二撃目が迫る。
しかし、
「まだATフィールドがある」
トライダーの攻撃はまたもオレンジ色の障壁に阻まれる。
この攻撃ではラーゼフォンには傷を負わせられない。万丈はトライダージャベリンを捨て後ろに下がる。
「諦めたのかい。破嵐万丈?」
「なぜ僕が諦めるんだい?」
「強がっても無駄さ、君には僕のATフィールドは貫けないさ」
「ほう、言ってくれるね。渚カヲルとやら。だが教えてやろう、人は幾度の死を積み重ね、そのたびに強くなってきた。生と死が等価値などと言うものに人が負けるはずがない」
万丈の意思に応え、トライダーが構える。
「日輪の力をかりて今、必殺の」
彼はATフィールドを破るためにもっともシンプルな方法を選択した。
つまり、圧倒的な力で貫く。
「トライダーバードアタック」
胸の黄色い鳥のマークが巨大化し、トライダーの全身を包む。
「なんだって……」
トライダーは輝く一羽の鳥となり、ラーゼフォンにぶつかる。これこそがトライダーの必殺技トライバードアタックである。その攻撃により、ラーゼフォンの前面に展開されたATフィールドにひびが入っていく。
「やれ、万丈」
バニングからの通信、万丈は彼に謝罪する。なかなかに頼れる相棒だ。そんな風にさえ思う。
「君たちは予想以上だったよ」
しかし、渚カヲルの声からは焦りを感じない。自身を守るシールドは砕けようとしているのに。自分の死が迫っているというのに。
「ずいぶん余裕だな、渚カヲル。もう観念したのかい?」
「君たちは本当に強かった。だけど、もう終わりさ」
万丈はその言葉に酷い寒気を感じた。それは今まであまり感じたことのない感情であった。
万丈は渚カヲルに、ラーゼフォンに『恐怖』した。
「さぁ、歌おうかラーゼフォン。君の歌を。禁じられた歌を」
ラーゼフォンの『瞳』が開かれた。
「ラァァァァァァァァァァァァァ―――――――」
トライダーをストライクノワールを不可視の衝撃が襲う。
トライダーの装甲にひびがはいっていくのが分かる。トライダーバードアタックのエネルギーによって守られているはずなのに、ラーゼフォンの攻撃はあまりにも圧倒的であった。
「だけど、僕は君に負けるわけにはいかない!」
「君はここで死ぬのさ」
「そんなことは断じて否だ。人は君達のような存在には絶対に屈しない」
「ラァァァァァァァァァァァァァ―――――――」
「トライダーアタァァァァァァァァァァァック」
「いったいどうなった?」
万丈の機体が光をまとってラーゼフォンにぶつかるのまでは見えた。だが、その後ラーゼフォンが今までに見たことの無い攻撃をして。
「万丈は無事なのか?俺達は勝ったのか?」
煙が晴れてくる。そこから現れたのは純白の機体。機械仕掛けの神、ラーゼフォン。
「くっ、万丈は負けたのか」
だが、バニングのそれは間違いであった。煙が完全に晴れて分かった。ラーゼフォンは上半分しかその機体を残していなかった。トライダーバードアタックによって真っ二つに切断されていたのだった。そしてかろうじて浮かんでいたそれは大きな音をたてて地面に落ちる。
「やったのか」
「あぁ、そうだよ。君達の勝ちさ」
通信、しかしこれは万丈の物ではない。
「渚カヲル…まだ生きていたのか…」
「まぁ、もうこの機体は動けないけどね。それと、ちなみに彼もまだ生きてるよ」
ラーゼフォンの機体の後ろを見るとそこにあるのは傷ついたトライダーの姿。損傷はそれほど深くは無いようだ。
それに喜びが無いとは言わない。だが、それ以上に見過ごせない存在がいる。
「渚カヲル、お前を見逃すわけにはいけない」
ストライクノワールのレールガンをラーゼフォンに向ける。機体は既に動けない。防ぐ手立てなど存在しない。
「最後に言っておきたいことはあるか」
「僕にとってはね。死の形だけが僕に許された自由だったんだ」
バニングは引き金を引いた。
一発
二発
三発
その弾丸はラーゼフォンの胴体に突き刺さる。
「敵はとったぞ。ショウ」
そういえば、万丈は怪我などしていないだろうか。通信を入れようと機器に手を伸ばす。
「この死の形を僕は望まないんだよ」
しかし、耳に入ってきたのは万丈のものではなく、渚カヲルの声。
「馬鹿な。生きていられるはずがない」
「言ったろ、死は僕にとっての唯一の自由なんだ」
カメラの画像を最大まで拡大する。そこに映っていたのは一人の少年。渚カヲル。
「僕の機体にはこんなものも置かれていたよ。簡易通信セット。機体が無くても通信はできるらしい。距離は限られるけどね」
どうやって、生き延びたのかはバニングには分からなかった。
だが、相手は機体を失った生身の人間である。もう一度レールガンを撃ち込む。だがそれはバニングの予想に反し、渚カヲルには届かなかった。体の前面に展開されたATフィールドによって防がれる弾丸。それはわずかに空気を揺らしたがそれだけだった。
「なんだと…」
「それじゃあ、破嵐万丈にもよろしく」
あっけにとられるバニングを尻目に渚カヲルは光の壁に触れ、その姿を消す。
奴の話が正しければ、その向こうは地図の反対側につながっているのだろう。追いかけたいが、地の利が向こうにある以上再び見つけることは難しいし万丈のこともある。
「だが、渚カヲル。貴様だけはゆるさんぞ」
バニングは唇をかみ締める。万丈は恐らく気絶しているのだろう。まずは彼を手当てし、そして探さなくてはいけない。渚カヲルを。
「あいつは生かしておけん」
【破嵐万丈 搭乗機体:トライダーG7(無敵ロボ トライダーG7)
パイロット状況:気絶
機体状況:装甲を損傷、行動に影響なし EN消費70%
現在位置:A-5 海岸
第一行動方針:渚カヲルに対処する。
第二行動方針:弱きを助け強きを挫く。ま、悪党がいたら成敗しときますかね。
最終行動方針:ヴィンデル・マウザーの野望を打ち砕く。】
※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。
【サウス・バニング 搭乗機体:ストライクノワール@機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER
パイロット状況:怒り
機体状況:良好 EN消費55%
位置:A-5 海岸
第1行動方針:万丈の様子を確人する
第2行動方針:コウ・ウラキを探す
第3行動方針:アナベル・ガトー、イネス・フレサンジュ、遠見真矢、渚カヲルを警戒
最終行動方針:シャドウミラーを打倒する】
※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。
「さてこれからどうしようか」
渚カヲルは海の波に流されながらそう呟いた。
【渚カヲル 搭乗機体:なし
パイロット状態:疲労
機体状態:なし
現在位置:F-7 海上
第一行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす
最終行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす】
※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。
※小型の通信機器を持っています。百メートルほどの範囲の者にしか通信できません。
【一日目 9:00】
最終更新:2010年02月21日 18:16