復讐するは我にあり ◆Ujakh5O.Yc
カナードはアルベルトと話したあたりから山を越えて西に飛んでいた。
アルベルトを追おうと思ったが、少し前に西側で起こった大爆発が気になったためだ。
空から見下ろすと激しい戦闘があったのがわかる。
そこに散らばっているのは自爆したステルバーの破片だ。
ジュドーとディアッカ、Dボゥイの戦いはここで行われていた。
「生き残ってるやつはいないか」
雪原に降りてカナードは呟いた。
戦闘が起きてもう結構な時間がたっているらしい。
死んだか、立ち去ったのかわからないがもう人はいないだろうと思った。
「藤原忍のガンダムも雪に埋もれてしまったか……」
ここは数時間前にカナードがガトーと戦った場所のすぐ近くだ。
ダブルゼータガンダムの残骸は雪に隠れてもうどこにも見えなかった。
「無駄足だったか。今から奴に追いつければいいが……ん?」
衝撃のアルベルトを追うために市街地に戻ろうとしたカナードだが、ガンダムXディバイダーのレーダーが反応した。
雪の中に何かの金属反応がある。
「なんだ……?」
カナードが近寄って掘り出してみるとそれは人だった。
正確にいえばパワースーツのようなものを着た人間の男だ。
「おい、生きているのか」
「う、うう……」
剣らしきものを持っていたのでカナードはガンダムXディバイダーから降りずに声をかけた。
気を失っていただけで特に怪我などなさそうな金髪の男はしばらく待つと目を覚ました。
「俺はカナード・パルスだ。お前は誰だ?」
「シリウス・ド・アリシアだ……」
「一体何があった?」
「急に雪崩が起きて、巻き込まれたらしい」
市街地に向かって移動していたシリウスはジュドーとディアッカが仕掛けた雪崩に遭遇したのだ。
高速振動をパワーライザーで増幅した衝撃波でなんとかやりすごしたのだが、そのまま疲労で気絶したのだという。
カナードはどう見ても弱そうに見えるシリウスに警戒を緩めてはいなかった。
衝撃のアルベルトのような人間がほかにいないとは限らない。
しかし情報は必要だ。
いつでもシリウスを攻撃できるようにしながらカナードは聞いた。
「それは災難だったな。ところでお前、この辺りでアポロという奴を見なかったか?」
「アポロだと!奴を知っているのか!?」
「それは俺が聞きたいんだが……知り合いなのか?」
「認めたくはないが、一応は仲間だ。だが奴は危険だ」
「ほう、詳しく教えろ」
「構わないが、君は何故アポロを探しているのだ?」
「仲間という訳ではないが、知り合いが襲われた。どうもそのアポロというやつは殺し合いに乗っているようだ」
「なんだと……!あの単細胞め、なんと愚かな!」
藤原忍から聞いた情報をカナードはシリウスに教えた。
シリウスもアポロの性格や言動を話す。シリウスは多少誇張したがおおまかには同じだった。
元々アポロに対していい感情を持っていないシリウスは、アポロが殺し合いに乗ったと言われてもまったくおかしいとは思わなかった。
むしろやはりか、と思ったくらいだ。
ウンブラに指摘されたアポロに嫉妬しているという感情もあったが、シリウスはそれには気付かなかった。
「アポロというやつ、想像以上に危険なようだな。急いだほうがいいか」
「待て、君はアポロをどうするつもりだ?」
「向こうの出方次第だが、まずは叩きのめす。藤原のダンクーガとやらを奪い返してやらねばならんからな」
「では、私も連れて行ってはくれないか?」
「……説得するつもりか?」
「いいや、私がこの手で奴を成敗するのだ!奴はやはりアクエリオンのエレメントには相応しくない!」
「…………」
カナードはこの申し出に悩んだ。
(いくら仲が悪いと言ってもこんなにあっさりと仲間を倒すと言えるものなのか?俺には仲間などいないからわからんな……)
地球連合にいる時も、傭兵稼業している今も、カナードには対等の仲間はいない。
プレアが生きていればそうなったかもしれないが……
しかしシリウスと話している限り、殺し合いに乗る気はないようだった。
そしてアポロを何とかするという目的は一致している。
連れて行っても損はないか、とカナードは考えた。
「いいだろう。だがアポロがどこにいるかはわからん」
「まずは南の市街地で他の参加者と接触して情報を集めるというのはどうだろうか?」
「ああ、それがいいな。よしガンダムの手に乗れ」
シリウスのパワーライザーを持ったガンダムXディバイダーは南の街に向かって飛び立った。
その行く手には再び吹雪が吹き荒れ始めていた。
「山の天気は変わりやすいというが……ついとらんな」
D-6の市街地近くにアルベルトはいた。
カナードと別れた後、生乾きの服を着こんで敵を探していたのだが、冷気が強くなったきたため街で暖を取ろうと思ったのだ。
「こういう時はあのおもちゃに乗っておればと、思わずにはいられんな……」
生身であるアルベルトは寒さまでは防げない。いかに十傑集といえども大自然の力には敵わないのだ。
市街地まで目前に迫ったアルベルトだが、その眼に来客が映った。
「ほう……二人か。大きいのと小さいのが二つ。ふむ、中々手応えがありそうだ」
青い巨大なロボと、小型の奇妙な怪物のようなロボだ。先に市街地に着いていたらしい。
暖をとる必要はなくなった。動いていれば体は自然に温まる。
まずは景気づけに一発と、アルベルトは青いロボ・ヴァルシオン改に衝撃波を放った。
ヴァルシオン改の巨体が揺れる。だが、それなりに力を込めたのに破壊できなかった。
「うわあ!?」
「ミスト!大丈夫か!」
ようやくアルベルトに気付いたもう一つのロボ、ジンバがヴァルシオン改を守るようにアルベルトの前に立った。
「ふん、頑丈な奴だ」
「ちょっとあんた、いきなり何するんだ!」
「何を、とは戯けたことを。この場にいる以上出会えば戦うのが自然の摂理というものだ!」
アルベルトはジンバに向かってジャンプしながら次々に衝撃波を放った。
「うわっと……!」
ジンバは小型の機体を生かして衝撃波を避ける。避けきれない分はフォトンマットを全開にして防いだ。
だが元々ジンバはオーバースキルに特化しているので素の戦闘力は高くない。
何発も衝撃波を受け続けるうちにフォトンマットは破られ、ついにジンバは吹き飛んだ。
「うわああっ!」
「とどめだ!」
両手を振り回し一際強烈な衝撃波を放ったアルベルト。
衝撃波がジンバを破壊する寸前でヴァルシオン改が割って入った。
「クロスマッシャー……発射だ!」
赤と青の光線が螺旋を描いて発射された。
クロスマッシャーはアルベルトの撃った衝撃波と激突し相殺し合う。
やがてどちらも消えてなくなった。
「わしの衝撃波を打ち消すとは、な。シャドウミラーめ、BF団以上の技術力を持っているとでも言うのか……」
「待ってください、俺達には戦うつもりなんてありません!俺はミスト・レックスっていいます、攻撃を止めてください!」
「貴様になかろうとわしにはある。ミストとやら、貴様も男なら力で語ってみせるがよい!」
ミストの説得に耳をかさずアルベルトは再び攻撃を開始した。
次々に放たれる衝撃波を、ジンバは避けてヴァルシオン改はディバイン・アームで叩き切ったり装甲で受け止める。
「くっ、どうするミスト!向こうはやる気だぞ!」
「でも、生身の相手を攻撃するなんて……!」
「やらなきゃやられるんだぞ!」
「だからって、俺達の攻撃が一発でも当たればあの人は死んでしまいますよ!」
もしアルベルトが何かのロボットに乗っていればミストも反撃していたが、どう見ても生身の相手に攻撃するのは躊躇われた。
ディバイン・アームでもクロスマッシャーでも、あるいは殴っただけでもアルベルトは死ぬだろう。
ジンバの持つブレードや∀ガンダムの武装でもそれは同じだ。
(くそっ、暴徒鎮圧任務には機体に乗って生身の相手をとりおさえるなんてなかったぞ!)
ミストは焦る。生身でこれだけの力を持つ人間がいるとは思わなかったのだ。
(地球人にはこんな人間までいるのか……!?何でその力を平和のために使わないんだ!)
アルベルトの衝撃波とヴァルシオン改が動きまわる事により、市街地はあっという間に崩壊していく。
その間にも風は強まり視界が悪くなっていく。ますますアルベルトはミストの視界に収まり辛くなった。
だがヴァルシオン改は図体が大きいためいい的だ。
あらゆる方向から衝撃波が飛んでくる錯覚にミストは囚われた。
(まずい、このままだとまたあのシステムが発動しちまう!クルーゼさんがいないから誰も俺を止められなくなるぞ!)
ゲイム・システムが発動すればアルベルトは間違いなく死んでしまうだろう。
いやもしかしたらジロンまでもコウのように殺してしまうかもしれない。
(どうすれば……生身の相手をどうやったらすぐに取り押さえられるんだ!?)
衝撃波をジンバが避ける。地面の雪を衝撃波が蒸発させ、水蒸気となってたちこめた。
(水蒸気……雪……生身の人間……そうだ!)
これ以上ミストが戦闘に深入りせずアルベルトを無力化する方法が思い浮かんだ。
ミストはジロンにのみ通じる通信を繋いだ。
「ジロンさん、作戦を思いつきました!」
「作戦だって!?」
「ええ、ジロンさんの力がいるんです!」
「わかった、俺はどうすればいい?」
「ジンバのオーバースキルってやつです!」
「『窃盗』かい?でもあいつはロボットに乗ってないんだぞ、意味がないじゃないか!」
「違います、盗むのはあいつの服です!」
「服だって……!?」
対峙するアルベルトは手に何も持っていない。
盗めるものといえば見に付けている服だけなのは間違いないが……
「そんなもん盗んでどうするんだよ?」
「ジロンさん考えてみてください、相手は生身です。生身の人間が裸でこんな雪原に放り出されたら……!」
「そうか!なるほど、寒くて動けなくなるって訳かい!」
「そういうことです!俺が今からアイツの目を眩ませますからその間に!」
「あいよ!」
ジンバを守るようにヴァルシオン改が前に出た。巨体でジンバの動作を隠すためでもあった。
アルベルトは衝撃波を放つ手を止めミストを睨んだ。
「覚悟を決めたか?」
「ええ、あなたを取り押さえる覚悟はね!」
「抜かせ若造!」
アルベルトが衝撃波を放つ。
ミストは避けずあえて衝撃波を受け止めた。
「ぐうう……クロスマッシャー!」
「むっ、なんのつもりだ!?」
ヴァルシオン改はアルベルトにではなく、足元の雪に向かって弱めのクロスマッシャーを連射し始めた。
雪が蒸発し白い霧になってアルベルトの視界を埋め尽くした。
「眼つぶしか、小賢しい!この程度でわしから逃げられるとでも思っているのか!」
「逃げるつもりなんてないぜ!」
霧の向こうからジロンは叫んだ。
そしてジンバのオーバースキル『窃盗』が発動した。
「……へへっ、いっちょあがりだぜ!」
「き、貴様ら!何をした!?」
霧が収まったときそこにいたのは下着姿のアルベルトと、彼が着ていた服を掴んだジンバの姿だった。
アルベルトの服はフォトンマットに触れて一瞬で燃え尽きた。
「さあ、まだやるか!?外気温はますます下がっていくぞ!」
「こ、小僧ども……!」
アルベルトは水蒸気に包まれたため全身がびしょ濡れだ。
そしてますます風は強まっていく。
「……は、は……ぶわーーっくしょん!!!」
当然アルベルトの体温は一気に下がってしまった。温泉に入る前、までとは言わないが明らかに危険な温度だ。
暖を取ろうにも市街地は戦闘で完全に破壊されていた。
このままではミストとジロンを倒しても、アルベルトも凍死してしまう。
「き、き、貴様、ら、ら……!ゆ、ゆ、ゆる……許さ、さ、ん、んぞ……!」
「お、おいミスト……大丈夫か?あいつかなり怒ってるぞ?」
「えっと……」
アルベルトは逃げようにもこの状態ではすぐに追いつかれてしまう。逃げるためには全力で衝撃波を逃走のために使わなければならない。
もたもたしていては寒さで意識を失ってしまう……
「かくなる上は、貴様らだけでも!」
「うわ、来るぞ!?」
ヴァルシオン改とジンバを破壊して、爆発の熱で暖まろうとアルベルトは思った。
身構えるミストとジロンだが、そこに新たな人物が現れた。
アルベルトとミスト達の間にビームが割って入った。
「見つけたぞ、衝撃のアルベルト!」
現れたのはガンダムXディバイダーとパワーライザー、カナードとシリウスだった。
アルベルトとミスト達の両方を狙える位置でカナードは止まった。
「俺はカナード・パルス。青い機体のパイロット、お前達は戦いに乗っているのか!?」
「違います!俺達は襲われたから自衛しただけです!」
「そうだぜ、先に攻撃してきたのはあのおっさんだ!」
カナードの問いにミストとジロンは答えた。アルベルトは厄介なやつがきたと顔をしかめた。
「ああ、そうだろうとは思っていた。俺も奴は知っている」
シリウスを地面に下ろしカナードは言った。
「また会ったな、アルベルト。まもう一度温泉に入れてやろうか?」
「あ、ああ、それも、い、いい、かも、しれ、んな」
絶体絶命の状況にありながらアルベルトは諦めていなかった。
もはや戦闘で勝つことは不可能と思われたのでどうにか逃げる隙を探していたが、
近付いて来たのは生身の……ではなくパワーライザーを着てシシオウブレードを構えたシリウスだった。
「事情は知らぬが、チェックメイトだ。大人しく降伏したまえ」
「ふ、ふふ、じょ、冗談、に、ししては、笑え、ぬな。この、衝撃の、アル、ベルトに、こ、降伏は、なな、い」
「そうか……その意気やよし。せめて私が介錯を務めよう」
うまく回らない舌を動かしてアルベルトは答える。
すでにカナードからアルベルトの危険性を知っていたシリウスはやむをえないと思いアルベルトを切り捨てようとした。
シシオウブレードが光り、アルベルトの首をはねるべく放たれた。
「おい、そこのお前達!私の話を聞け!」
だがシリウスは腕を止めた。
ミストでもジロンでもカナードでもアルベルトでもない、6人目の人物が現れたからだ。
みんながいっせいに振り返る。そこにいたのは巨大な女だった。
「待て、言いたいことは良くわかる!だがこのような機体を支給されたことは私に責任がない!だから落ち付け、攻撃するな!」
その女、ではなくヴァルシオーネRから必死になって叫んでいるのはイスペイルだ。
レーベンとの遭遇からますますヴァルシオーネRに乗っているのが嫌になったイスペイルはまず誤解を与えないようにこう言ったのだった。
再び会場の南に飛ばされたイスペイルは補給のために市街地を目指していた。
街で集団でいたジロン達を発見し、また戦闘している様子がなかったため接触したのだった。
呆気にとられたように誰もが動きを止めた中、イスペイルは信用を得ようと話し始める。
「私はイスペイルという。もちろん私に戦うつもりはない。できるならば君達と協力したいと思っている。どうだろう、悪い話ではないと」
「見つけたぞイスペイルウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!」
イスペイルの話の途中でクロスマッシャーが発射された。
誰から……もちろんミストからだった。
「ぬおおお!?な、何をする!私に戦うつもりはないと言っただろう!」
「黙れ!お前の言う事なんて信じられるか!」
「き、貴様……ミスト・レックスか!?」
「そうだ!お前たちに故郷を、アトリームとべザードを滅ぼされた恨みをここで晴らす!」
「待て、落ち付け!今はそういう場合ではない!」
「黙れえええええええええええっ!」
ヴァルシオーネRのディバイン・アームをヴァルシオン改のディバイン・アームが弾き飛ばした。
ミスト・レックスとイスペイルは、元の世界では敵同士だ。
ミストの故郷アトリームはイスペイル達『イディクス』によって滅ぼされ、ミストが逃げ伸びたべザードもまた滅んでしまった。
そしてミストが辿り着いた地球までもイディクスに攻撃されている。
ミストに取ってイスペイルは絶対に許せない敵なのだった。
人が変わったようにイスペイルに攻撃をかけるミストに、ジロンやカナードは呆気にとられて見ていた。
その隙をアルベルトは見逃さなかった。
「カナード・パルス、そしてミスト・レックスよ!また会おうぞ!」
衝撃波が煙幕を作り、近くにいたシリウスを吹き飛ばす。
カナードが気付いた時にはアルベルトはもうどこにもいなくなっていた。
「アルベルトめ……逃がすか!」
「待て、カナード!今はこちらだ!」
アルベルトを追おうとしたカナードだが、シリウスによって止められた。
「止めるな、今奴を逃がせばまた誰かが襲われるぞ!」
「それはわかるが、あのミストなる者を放っていくわけにはいかんだろう!」
ミストは停戦を訴えるイスペイルを執拗に攻撃していた。
パワーでは断然ヴァルシオン改が勝つが、スピードはヴァルシオーネRが上だ。
加えて怒りに燃えるミストの狙いはあまり良くなく、流れ弾があちこちに飛んでいっていた。
「ミスト、落ち付け!ミスト!」
「止めないでくださいジロンさん!こいつは故郷の、仲間の、家族の仇なんだ!」
「なんだって……?」
ジロンも親をティンプに殺されて三日ルールを破ってまで追いかけ続けたからミストの気持ちはよくわかった。
ジロンだってティンプと決着を付けるつもりではいる。
だが今は話は別だ。イスペイルはあくまで今は戦うつもりはないと言っているのに対し、ミストは周囲に構わず全力で攻撃をしていた。
ミストは明らかに様子がおかしかった。
それは「ゲイム・システム」の効果だ。
ゲイム・システムはパイロットの感覚を拡張し、情報把握能力を増幅して戦闘力を向上させる。
だが副作用として戦闘の高揚感を無制限に増幅してしまい、最終的には暴走状態におちいることすらある。
甲洋と戦った時は、子供を殺したくないミストはシステムに逆らった。
だが今、イスペイルを倒すという思いでいっぱいのミストはシステムに逆らうどころか受け入れていた。
「もっと、もっとだ!あいつを倒す力を……!」
あの頭痛は今はない。ミストの感覚は冴えわたり、代わりに仲間の存在はどんどん小さくなっていった。
このヴァルシオン改ならイスペイルを倒せる。ミストの頭の中にあるのは今やそれだけだった。
段々その狙いは正確になっていく。ゲイム・システムが本格的に稼働し、ミストの操作をサポートし始めたのだ。
だがヴァルシオン改のコックピットに警報が響く。それはエネルギーが残り少ないという警告だった。
アルベルトとの戦いで大分消耗し、、そしてイスペイルとの戦いでミストは後のことを考えずクロスマッシャーを撃ちちまくっていた。
ヴァルシオン改のエネルギーはどんどん擦り減っていき、もう少しでなくなりそうだった。
(補給している時間はない……!)
ミストの頭の中で補給をすればイスペイルに逃げられるという思考が働いた。
そもそもこの市街地の補給ポイントはすでに戦闘で破壊されていたのだが。
とにかくこのままではヴァルシオン改は動けなくなる、ならどうするか。
(これを使えばいいんだ!)
ミストはその武器の引き金を引いた。
撃ち込んだ敵のエネルギーを自分の物にする弾丸、エナジードレイン。
「うおおっ、エネルギーが!?」
ヴァルシオーネRからエネルギーが流れ込んでくる。だが元々ヴァルシオーネRに残っていたエネルギーは少なかったため大した量ではなかった。
膨大な容量を持つヴァルシオン改のエネルギーを満たすためにはイスペイルのヴァルシオーネRだけでは足りない。
(なら……!)
ミストが次に目を付けたのは、近くにいたガンダムXディバイダーだった。
ゲイム・システムによって選択された最適の方法だ。
ジロンのジンバを狙わなかったのは、まだ少しだけミストに理性が残っていたからだ。
だがカナードはまだミストにとっては仲間ではなかった。
だから少しくらいエネルギーを奪ってもいい……システムによって冷静さを失くしたミストはそう思ったのだ。
「なっ……貴様、何をする!?」
「ミスト、どうしちまったんだよ!?」
カナードの怒りの声にミストは答えなかった。これでイスペイルを倒せる……ミストはそれしか考えていなかった。
とにかく、ガンダムXディバイダーから奪ったエネルギーでヴァルシオン改のエネルギーは大分戻った。
再びイスペイルに向かってミストは突撃していく。
「貴様も敵という訳か……!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
ジロンの止める声も聞かずカナードはミストにビームライフルを連射した。
元々カナードは短気だ。一方的に攻撃されエネルギーを奪われ、カナードが黙っていられるはずもなかった。
ヴァルシオン改の背中にビームが当たるがアンチビームフィールドによって防がれた。
だが、その行為はミストにカナードは敵だと認識させることになってしまった。
(地球を侵略するイスペイルを倒そうとしている俺を邪魔するなんて……やっぱり地球人は愚かだ!)
ゲイム・システムの効果に毒されているミストはその思考をおかしいとは思わない。
クロスマッシャーをカナードに向かって発射したミスト。
回避したガンダムXディバイダーだが、追いうちのディバイン・アームが当たって吹き飛んだ。
「がはっ……!?」
「カナード!大丈夫か!?」
シリウスが駆け寄ったがパワーライザーでは何もできない。
ジロンはその行動を見て、ミストがおかしくなってしまったのだと思った。
「おいあんた達、済まないけどここは逃げてくれ!ミストは俺が何とかする!」
「ふざけ……るな!ここまでされて……逃げられるか!」
「あいつは本当にあんな奴じゃないんだ!少し、何かおかしくなっちまってるけど……!
頼む、後であいつと一緒に謝りに行く!だから頼む!今は逃げてくれ!」
「くっ……」
ジロンの言葉にカナードは悩んだ。
もうガンダムXディバイダーのエネルギーは少ない。まともに戦っても勝ち目はなかった。
もしカナードが負ければ、シリウスも無事では済まないだろう。当然アポロも倒せない。
カナードはここは撤退する時だと自分に言い聞かせた。
「ここを動くなよ……!補給が済めば俺は戻って来る!」
シリウスを拾い上げてカナードは撤退した。
アルベルトが向かった方角とは違う方向だ。今の状態で出会えば何もできず殺されるだろう。
「済まないな、カナードさん。さて……!」
カナードとシリウスを見送ったジロンはミストとイスペイルの戦いに集中した。
オーバースキル『窃盗』によって、ヴァルシオン改の手元からディバイン・アームが消える。
なんとかミストを落ち着かせようとジロンはミストとイスペイルの間に割って入った。
イスペイルは今まで一度も攻撃してきていない。より危険なのは今はミストの方だ。
だが、それがいけなかった。
「ミスト、落ち付けよ!」
「ジロンさん……イスペイルを庇うんですか!?」
「ミスト、お前なんかおかしいぞ!冷静になれ!」
「やっぱりジロンさん、あなたも地球人と一緒なんだ……!法も何もない星の出身だから侵略者イスペイルを助けるんだな!?」
「何言ってんだよミスト!俺の話を聞けったら!」
「うるさい!俺は、俺は……イスペイルを倒すんだああああっ!」
ジンバに奪われたディバイン・アームの代わりに、落ちていたヴァルシオーネRの剣を拾って、一気にヴァルシオーネRに向かって突撃していくヴァルシオン改。
途中にいたジロンのジンバはフォトンマットを全開にしてミストを止めようとした。
「ミストオオオオオっ!」
「どけええええええええええええええええっ!」
ジンバがオーバースキルを発動させるのと、ヴァルシオン改がディバイン・アームを突き出すのは同時だった。
ミストの視界が真っ白に染まって、鈍い音がしたのと同時に意識は途切れた。
最終更新:2010年04月13日 15:59